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analog純文

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2012.04.19
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  『虚構のクレーン』井上光晴(新潮文庫)

 えー、この作家は、とりあえずわたくし、「第二次戦後派」のカテゴリに入れたんですが、まー、もともとさほど意味があったり、学術的な裏付けがあったりしてのカテゴリではありませんから、いろんなところでぼろぼろと無理が出たりしています。

 でも、今回読んだ小説なんかはいかにも「戦後派」的な作品です。
 主人公の青年・仲代庫男を中心に、昭和二十年の春あたりから初冬くらいまでの頃という、昭和史の中で最も「濃いー」半年を時代背景に、友人や地域、さらにはひと時すれ違った程度の群像も巻き込んで描いていきます。
 その描き方は、例えばこんな感じです。

 なにか不思議に恐怖感はなく、はね上がる火焔とまきこむような音をたてはじめた煙の下で、東京の空襲はひどかったからなという気持がどこかにうかび、この街はあまり爆弾の音もしないで燃えはじめたなと彼は思った。立上がった時、また意味のわからぬ叫び声と悲鳴がたてつづけに起り、その悲鳴にさからうようにして彼は走った。自分の神経がまるで現実の空襲の外側のところをまわっている感じで、足だけがぴくぴくと前にでた。

 どうでしょう。こういう描き方は、どの様に考えるべきなんでしょうね。
 なんかとっても「素っ気ない」様な感じがするんですが、そんなことないですか。
 例えば坂口安吾の『白痴』に、主人公が空襲に合って逃げ回るシーンがありましたが、あの「情念」的な描写に比べると、とてもクールな気がします。

 でも、現実の場面としては、こっちの方がきっと「リアリズム」なんでしょうね。
 実際、人間って、ほとんどどんな状況下にあっても、いつの間にかそれを日常にしてしまいますものね。例えばこんな描写。

 「死なんでもよかったのにね」津川工治はいった。
 「うん」鹿島明彦は声だけの返事をした。
 「どうなるかね、これから」
 「何が……」
 「いや、日本さ、朝鮮も台湾も失くしたらどうもならんやろう」
 「なんとかやっていくさ、なんとか生きていけるよ。空襲でやられたと思えばどんなことでもできるけんね」
 「死んだものは損だな」
 「死んだらいかんよ、折角生き残ったのに、いま死んだらいままで何のために生きてきたかわからんけんね。天皇陛下だって生きとられるんだから。……天皇陛下が戦争で死なれたら一緒に死ぬ意味もわかるけど、いまさら自殺してもどうにもならんよ」


 主人公が聞く、敗戦を告げる玉音放送のシーンも、何かちっともドラマティックでなく(もちろん作者がそういう風に書いているんですね)、上記引用文の、会話をしている二人の青年は仲代庫男の友人ですが、彼らは敗戦後いち早く、軍の建物や市役所に忍び込んで物資を盗み回ります。実に「あっけらかん」としております。

 結局の所、この小説は、登場人物の内面に深く食い込んで描いていくタイプのものではなく、個人の行動、人間同士の関係が、次の個人の行動を生みだして、次々に展開していくという形のものではないか、と。

 ただ描かれているのが、貧しい人々であったり、炭坑で働かされている朝鮮人であったりしているので、それをがちがちに書いてしまうと、とっても「重苦しく」なってしまうのかも知れません。(とはいえ、「戦後派」の人々は、そんなことをがちがちに描いている人が、結構いるような気はしますが。例えば、野間宏とか。)

 で、さて、ここからなんですがー、上記のように感じる本作を、私の好みは、はっきり言ってあまり可としないところに、何といいますか、少し困ったことだなーと、思っているわけであります。

 いえ、それは、お前の知性のなさ、視野の狭さ、社会的問題意識の低さが原因だろうといわれると、はい全くその通りでございますと、ほぼ100%賛同致しますんで御座いますがね、いかんせん、わたくし、いい年をしていまだにピーマン嫌いですから……。

 ちょっと後半、悪ふざけが過ぎたような文章になってしまい、誠に申し訳ありません。
 しかし実のところ、私は本作を読みながら、描かれている事柄の重さは理解しつつも、それらが自分の「肌合い」と一向に合わないことに、苦痛、……ではありません、一抹の寂しさを感じつつ、最後まで読んでいたのでありました。


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Last updated  2012.04.19 06:16:08
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