ホーラ「死都」、篠田節子著
妖艶な幻想エーゲ海の小島にあるホーラは、過酷な歴史を背景とする「死都」だ。そこで繰り広げられる事象は、まるで幽霊話の様であり、現実と非現実の間を行き交う。それは妖艶怪奇で、妖しい雰囲気に、引き込まれそうになる。主人公は、不倫関係にある日本人男女だ。これらは、果たして幻想なのか?本作品は、一本のヴァイオリンと、歴史や宗教を背景に、現実的な考察を行う。その考察は、知的に、人生の後半を見詰めている。特に、キリスト教や仏教そのものについても、深く言及する。そのスタンスは、儀式の時に利用する程度の、宗教との弱い関わりを基本とする。著者の人生を見詰める眼は、ことさら深い。それは、あたかも、生よりも死に重点が置かれている様だ。現在文壇の、最上位の一人に位置する著者の、知的エンターメント作品だ。