わ が 老 い 伴 侶 の 老 い
文 庫 本 に す る に 当 た っ て
この本を最初に書いてから7年たった。
現在、82歳である。
担当してくれる女性に会って、あまりに若いのに驚いた。
どうやら孫の年である。
ああ、オレも孫の仲間と仕事をすることになったか、
感慨を覚えた。
この本を書いた時の気持ちでは、80を越えたら、
ただ生きているだけの老人になるはずだった。
しかし未だに背広を着て会議に出たり、オフィスで判を
押すだけの仕事が続いているし、減ったとは言いながら、
原稿を書き続けている。
歯はまだ27枚ある。
配偶者は私の耳が遠くなったというので、医師に
診断してもらったところ、まあ、普通の範囲内で、
補聴器はいらないそうだ。
視力は弱った。
英語の文庫本は紙も悪く、活字が小さいせいか、
56時間も続けて読んでいると、目がチラチラしてくる。
立ち居振る舞いは、若々しいと人さまは言ってくれるし、
車を運転していてあまり困らない。
無事故、無違反である。
もっとも捕まらないだけで、10キロ以内の速度違反は
日常的にやっている。
そうは言っても、後3年後、つまり最初にこの本を書いて
から10年たって、私はまだ生きているか、どんな老人に
なっているか、他人事のようであるが、興味がある。
とにかく今や日本人の平均寿命は男性で79、女性で
85歳ほどである。
現在、中年で生存競争の真っただ中で奮闘している
人たちも、後、数十年は生きなければならないのである。
中年の生き方が老年に与える影響は大きい。
毎日を力一杯生きている世代の人々が、10年後の
備えをするために、この本がいささかの参考になれば、
と願っている。
著者: 三 浦 朱 門( みうら しゅもん )
作家。1926( 大正15 )年 東京生まれ。
東京大学文学部言語学科卒。
日本大学芸術学部で教職を勤めながら第15次「新思潮」
に加わり、51年「冥府山水図」で文壇デビュー。
遠藤周作、安岡章太郎、吉行淳之介らとともに
第3の新人と呼ばれる。
67年「箱庭」で新潮文学賞受賞。
82年「武蔵野インディアン」で
芸術選奨文部大臣賞受賞。
85--86年文化庁長官に就任。
99年、第14回産経正論大賞、
文化功労者にも選ばれる。
現在、日本芸術文化振興会会長、日本芸術院院長、
日本文芸協会理事などを勤める。
父はイタリア文学者・編集者の三浦逸雄。
妻は作家の曽野綾子。
著書に、
「50歳からの人生力」「人生の終わり方」( 以上海竜社 )
「うつを文学的に解きほぐす」( 青萌堂 )などがある。
2017年2月3日 91歳 逝去。
2008年8月20日 初版第1刷 発行
発行所: 株式会社 ぶんか社
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最終更新日
2021年12月05日 17時53分28秒
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