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カテゴリ:第6話 牙城クスコ
![]() しかし、アンドレスは、包み込むように優しく見つめ、今、コイユールは、こうして近くで彼を感じる時、あの絶対的なトゥパク・アマルの言葉さえも超越する程に、彼女にとって、眼前の青年は今でも全幅の信頼に値する、とても大きな存在であった。 やがて、コイユールは意を決したように頷いた。 「トゥパク・アマル様から、決して、誰にも言ってはいけない、と言われていたことなのだけど…」 そして、彼女は覚悟を決めた表情で、トゥパク・アマルの施術中に見た、あの震撼を伴う不吉なヴィジョン――神々しく黄金色に輝く太陽のような光が、突如、赤黒く変色し、その赤黒いものが溶岩のように宇宙に流れ出し、美しい宇宙を呑みこんでしまった――について説明していく。 アンドレスは固唾を呑んで、じっと話に聞き入った。
だけど、あんな状況で見てしまっただけに、とても、とても怖い…。 万一にも、天が知らせてきた…予言であったら…って…! トゥパク・アマル様に、何か恐ろしいことが起こるのではないかって…そんなこと、あるはずないって思おうとしても、どうしても拭(ぬぐ)えなくて…!! このまま、あの光景の通りになってしまったら、どうしようって…!!」
コイユールが見上げる瞳の中に、昔と変わらぬ優しい微笑みを湛えたアンドレスの姿が映った。
たとえ運命でさえも、あのお方は、ご自分の力で変えてしまうさ。 それに、このインカの天も大地も、いつだって、トゥパク・アマル様の味方をしてくださる。 だから、コイユール、君がそのことで、もう、そんなに苦しむのは、今すぐおやめ。 今、君は思い切って俺に話してくれたろう。 その瞬間に、コイユールが見たものは、全て俺の中に引き受けた。 君の言葉を忘れずに、俺は精一杯にトゥパク・アマル様を援護する。 だから、君は、そのことは、もう、忘れるんだ。 いいね」
だが、コイユールにとっては、まるで魔法の呪文のように、その胸に押し込めた氷の塊を瞬時に溶かし去ってしまうほどの威力を十分に持っていた。 まるで大きな海に包まれていくような感覚の中で、コイユールは、ただ素直に、深く頷き返す。 アンドレスも、また、己の言葉を無条件に信じようとしてくれているコイユールをとても愛しく、再び二人の距離が近づいていくことを感じて、彼の心は湧き立った。
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