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カテゴリ:第8話 青年インカ
リノは、日中の非番の時間帯を見計らって、牢からそう遠くはないクスコ市内の指定された酒場へと向かった。 酒場の入り口の扉の前に立って、リノは、ハッと目を見張る。 インカ族が出入りしている酒場にしては、あまりに豪奢で重厚な扉が目の前にあった。 にわかに、リノの緊張が高まっていく。
己が為そうとしていることは、紛れも無く、脱獄に加担する行為なのだ!! 脱獄幇助(ほうじょ)――トゥパク・アマルほどの「大罪人」の脱獄に手を貸したなどと露見すれば、死罪も免れないかもしれない…!
あの男が、今、トゥパク・アマルに与えているような酷い拷問や…果ては、処刑を、今度は俺の身に容赦なく加えてくるに違いない…!!) どれほどトゥパク・アマルにのぼせていようとも、少し理性と冷静さを取り戻せば、さすがのリノにも、それくらいは分かった。
(ああ…俺は、い…一体、何を……!!) 酒場の入り口まで来ていながらも、その扉の前で、リノは書状を握り締めたまま、ゾクゾクと震え上がった。 だが、今も深夜の牢獄で夜毎に繰り返される「逢瀬」の悦楽感――冷たい鉄格子を隔てて、己を抱き締めるトゥパク・アマルの熱く逞しい肉体の感触、そして、痺れるほどに甘美な囁(ささや)き――それらは既に拭(ぬぐ)い去りようもないほどに刷り込まれ、絶え間無くリノの脳裏に甦っては、今、この瞬間も、魔術のように彼の現実的な判断力や恐れを麻痺させていく。
≪トゥパク・アマル≫ ≪リノ≫
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