|
テーマ:試写会で観た映画の感想(679)
カテゴリ:邦画(あ行)
監督 : 根岸吉太郎 原作 : 太宰治 出演 : 松たか子 、 浅野忠信 、 室井滋 、 伊武雅刀 、 光石研 、 山本未來 、 鈴木卓爾 、 小林麻子 、 信太昌之 、 新井浩文 、 広末涼子 、 妻夫木聡 、 堤真一 試写会場 : ヤクルトホール 公式サイトはこちら。 <Story> 大酒飲みで浮気を繰り返す小説家・大谷(浅野忠信)とその貞操な妻・佐知(松たか子)。 夫の借金のために飲み屋・椿屋で働くことになった佐知は、持ち前の気立ての良さで人気者に。 佐知は、以前より活き活きとしている自分に気付き始める。 大谷に会うために椿屋へ通っていた青年・岡田(妻夫木聡)も、いつしか佐知に惹かれていく。 そのことを知った大谷は、自分の事は棚に上げ佐知に嫉妬し、二人の仲を疑うのだった。 さらに輝きを増す佐知。 そんな彼女の前にある日、かつて彼女が想いを寄せていた弁護士・辻(堤真一)が現れる。 辻は、美しくなった佐知を見て、忘れ得ぬ彼女への想いを募らせていく。 そんな中、生きることに苦悩する大谷は遂に死を選ぶために、愛人・秋子(広末涼子)と姿を消してしまう。 [ 2009年10月10日公開 ] ヴィヨンの妻~桜桃とタンポポ~ - goo 映画 <感想> 本年は、作家太宰治生誕100周年。 そしてこの映画、第33回モントリオール世界映画祭にて、つい先日最優秀監督賞を受賞。 それもあってなのか、ヤクルトホールは超満員。 こんなに混んでいるヤクルトホールは『レスラー』以来。 開映時間にはほぼ満席。 もともと太宰は女性に人気がある作家だし、この映画が描いている時代が時代だけに、試写会は年配層も多い。 かくいう私も太宰は少しかじっていて、この作品の原作は未読なんですが、彼は私小説が多いだけに、『人間失格』『斜陽』といった他の作品で彼の生涯がおおかたわかってさえいれば、この作品もそこそこついてはいける。
桜桃のように傷みやすいが故に、一瞬の甘美を持つ大谷と、 どこまでも素直に、まっすぐに愛されるタンポポのような佐知。 毒気のような言葉の魔法にかけられて、女たちは大谷の虜になるのに、 佐知の、今まで隠れて見えなかった魅力が増して行くにつれ、 不貞を働いているのではないかと疑う大谷。 傍から見ればあまりにも身勝手だし、そのことで佐知が幸福を感じているとは到底思えないのに、彼女は気がつくと大谷を助けている。 一体何が、そうさせているのだろうか。 試写会前日の朝、NHKのインタビューに根岸吉太郎監督が答えていた。 曰く、 「どうしてこの人といっしょにいるのかがわからない、 また、いつ結婚することを決めたのかもわからない、 そんな夫婦は珍しくはないと思う。 だが、どうしてそこにいるのか、と訊かれたとしたら、 それはきっと、そこにいる当人たちにしかわからない理由があるのだと思う。」 一身に愛を捧げられても、満たされない人がいるかもしれないし、 逆に自分の知らないことが山ほどあって、亭主に他所の女と心中されたとしても、生きていればそれだけでいいと思えてしまったり。 かくも人の心はわからぬもの。 わからないなかにも、説明できない理由があって、その人と共にいる。 定義など、できはしない。
松さんがとにかく綺麗だし、可愛らしいし、たくましい。 彼女の着物の着こなしも必見です。 ちょっとした襟足の抜き方、ほつれ毛、 それだけで劇的な変化を、無言のうちに雄弁に語っているのは凄まじい。 ひたすら大谷や息子のために生きてきた女が、だんだん自分の知らない世界を知っていくにつつれ、思いもよらない自分の姿も見つけていく。 仮面で今までの自分を演じつつも、新たな自分を密かにしまい込む。 だけど新たな自分の顔も、どうしようもなく隠せずにこぼれ出てしまう。 静かに生きる女にも、様々な側面があることを、佐知は見せてくれる。 そして、やはり松さんはやはりうまいな、と感じるのは、 無邪気な少女のような表情の次に一転して、澱んだ目をすることができるから。 その場に居合わせた男たちの心をとらえられる女優は、そうそう多くない。 男たちの心をとらえる、と簡単に書いているけど、それだけではなく実は、それは女たちから見ても共感が得られるキャラクターでないと難しい技なのである。 可憐さと女の業は背中合わせ。 そのことを、彼女の演技につくづく思う。 逆に大谷は少し綺麗にまとめすぎたかとも思う。 話言葉はほぼ、小説の書き言葉と重なっていて、こんなにも丁寧に話すのだろうかとも思う。 そして、彼の佐知に対しての目線がどことなく女々しい感じ(苦笑) もっと作家としての部分も観たかった。 秋子との場面も、佐知に対するものとそう変わらないトーンだったので、愛人に見せる別の顔というものもあるのではないかとも感じたり。 実際彼は放蕩な生活だったので、太宰のデカダンはここまでドラマチックで物静かだったのだろうか? などと疑問も出てくる。 ここのあたりは、今はもう語らない彼に訊いてみたい気もする。 愛人役だが、声のトーンが『おくりびと』などと全く変わっていないのが、この映画の中でとても違和感を持たせる要因なんだと思う。 それが地声なんですと言われてしまえばそれなのだけど、全て同じ調子でしゃべっていてはいけないのではないだろうか。 次には松本清張原作も控えているが、これも予告では同じものを感じてしまった。 濡れ場だけではもうやっていけない年齢に差しかかるだけに、彼女も転換期なのかもしれないけどがんばってほしいところ。 堤さん、妻夫木くんも佐知を取り巻く男たちなんだけど、それぞれのキャラがあてはまっていてよかった。 妻夫木くんはこういう、どこか自信なさ気な感じが似合う。 堤さんはどうしても『三丁目の夕日』シリーズとイメージがかぶるんですが、一途な昔の男の雰囲気はよく出ていました。
今日の評価 : ★★★★ お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
[邦画(あ行)] カテゴリの最新記事
|