福岡市職員ひき逃げ事件に見る、技能労務職員天国の実態
元福岡市職員に懲役25年求刑 福岡・3児死亡飲酒事故福岡市で06年8月、3児が水死した飲酒事故で、危険運転致死傷罪と道交法違反(ひき逃げ)の罪に問われている元福岡市職員、今林大被告(23)の論告求刑公判が6日、福岡地裁(川口宰護(しょうご)裁判長)であった。検察側は「他に類を見ない悪質犯罪で、法が許す限りの最高刑で臨むほかない」と述べ、両罪の併合罪で最も重い懲役25年を求刑した。今月20日に弁護側の最終弁論があり、来年1月8日に判決が言い渡される。(asahi.com)今林被告のこの事件によって、各自治体で飲酒運転に対する即時懲戒免職などの厳罰条例が次々と定められたのは周知の通り。被告人の今林大は、福岡市動物センターに勤務する野犬捕獲員で、一般職員と異なる技能労務職員である。公務員による飲酒運転が多発しているが、多くが技能職員によるものであることが多くの新聞記事より推測される。(あくまで私感である)なぜ技能職員のモラルに問題があるのか??「技能労務職員(現業職員ともいう)」といえば、いかにも専門技術をつかう仕事のように思われるが、実際は「技能職員」とは、一般職に属する職員で次に掲げるもののうち、技術者、監督者及び行政事務を担当する者以外の者をいう。(1) 自動車運転、庁務、看護補助、土木作業、清掃作業、下水作業、給食調理、葬祭用務等の業務に従事する職員(2) (略)(千葉市条例)という、要は簡易または単純な作業に携わる職員のことである。「単純な労務に雇用される職員」→「単純労務職員」(千葉市)という名称の方が適切かもしれない。実は、この技能労務職員こそ「公務員=楽業で高収入」の典型なのだ。たとえば、今林被告は技能労務職員の職務の一つ「野犬捕獲員」である。野犬を捕獲するのは狂犬病予防法にもとづく措置で、野犬捕獲員を指揮・監督するのは「狂犬病予防員」たる獣医師である。獣医師と野犬捕獲員の関係は、医師と看護師に例えられるだろう。野犬捕獲員はあくまでその補助であり、獣医師の命令がなくてはなにもできない。つまり、保健所や動物センターで働く場合、たとえ新人25歳の獣医師とベテラン係長級50歳の技能労務職員でも、指揮系統の上では 獣医師(狂犬病予防員)>技能労務職員(野犬捕獲員)と法律で決まっているのだ。これも、医師と看護師長の関係を思い出せば分かりやすい。たとえ新人の医師でも、看護師長は医師の指示に従わなければならない。どんなに優れた看護師でも、医師の代わりに診療したり、投薬したり、手術したりできないし、医師法でも固く禁じている。民間の意識なら、これほど職責と技能が違えば、当然給与に差が付けられる。たとえば、35歳の医師の基本給が60万円なら、35歳の看護師の基本給は30万円とだいたい倍ぐらいの違いがある。では、福岡市の獣医師と技能労務職員の給与はどうか?・福岡市〔初任給〕技能職(24歳)・・・¥187,600獣医師(24歳)・・・¥189,400(+¥1800)〔課長級〕技能職課長級(6級)・・・最高¥459,200獣医師課長級(6級)・・・最高¥465,700(+¥6500)なんと、初任給はほぼ同額。課長になっても1万円の差もつかないのだ。民間の感覚ではわけが分からない、理解できないこの給料基準は以下のような公務員独特の基準による。(技能労務)職員の給与の額は,福岡市職員の給与に関する条例及び退職手当条例に規定する職員の給与の額を基準として定める。〔単純な労務に雇用される職員の給与の種類及び基準を定める条例(福岡市)〕つまり、職責や特性をほとんど考慮することなく、一般職員との悪平等をやろうというのだ。これはどの自治体でも同じようで、条例を調べると「技能労務職員天国」の実態が浮かび上がる。技能労務職員がいかに優遇されているか。首都圏4大都市を例に、医師や弁護士と並んで労働基準法第14条の5年特例職(=高度専門職)である獣医師と比較してみよう。参考:首都圏4政令指定都市の技能労務職員と獣医師の給与比較・横浜市〔初任給〕技能職(24歳)・・・¥194,400獣医師(24歳)・・・¥194,400(+0)〔係長級〕技能職係長級(3級)・・・最高¥422,600獣医師係長級(4級)・・・最高¥431,300(+8700)・川崎市〔初任給〕技能職(24歳)・・・¥193,900獣医師(24歳)・・・¥184,200(-¥9700)〔係長級〕技能職係長級(4級)・・・最高¥404,300獣医師係長級(4級)・・・最高¥425,600(+¥21300)・千葉市〔初任給〕技能職(24歳)・・・¥158,700獣医師(24歳)・・・¥196,400(+¥37700)〔係長級〕技能職係長級(4級)・・・最高¥421,600獣医師係長級(4級)・・・最高¥456,100(+¥34500)・さいたま市〔初任給〕技能職(24歳)・・・¥190,400獣医師(24歳)・・・¥194,900(+¥4500)〔係長級〕技能職係長級(3級)・・・最高¥426,500獣医師係長級(3級)・・・最高¥417,800(-¥8700)なんと、川崎市では技能労務職員が獣医師の初任給を上回り、さいたま市では係長級(主査)で技能労務職員が上回っている。獣医師の給与があまりに低いのにも驚かせられるが(こんな給料で行政獣医師を目指す人がいるのだろうか?)、技能労務職員の給与水準が同等以上なのは、まさに悪平等の最たるものであろう。調べていて分かったことだが、獣医師の給与も、栄養士や検査技師と同じ給料で、これでは給料が安いのも当然だろう。ここにも大きな悪平等がある。狂犬病予防員というのは法律で獣医師しかなれない。(狂犬病予防法第3条)ひるがえって、獣医師はそれだけ高度な専門性を要求されるし、責任も重く、職責・専門性とも野犬捕獲員(技能労務職員)の比ではないが、待遇は同じというねじれ現象が生じているのである。考えるとこれは非常に非効率な人事である。例えば、現状では月給30万円の獣医師1人と、その指揮下に月給30万円の捕獲員が5人いるような状態だ。(→人件費180万円)それならば、優秀な獣医師1人を月給40万円にして、その指揮下に20万円の捕獲員を5人にしようというのが民間の(というか正常な)感覚だ。(→人件費140万円)なんと、給与水準を民間水準にするだけで、管理職一人分ほどの人件費が浮く。これをどうしてどこの自治体もやらないのか理解に苦しむところである。どうやら、公務員の労働組合「自治労(じちろう)」の構成員のほとんどが技能労務職員のようである。そして、自治労から特定政党・政治家に対して多大なバックアップがあるため、技能労務職員の給与適正化にメスを入れられないことが最大の原因のようである。(そう考えると、獣医師など高度専門職の給与が低いまま放置されているのは、絶対数が少なく発言力がないためだろう)また、技能労務職員はゴミ収集、給食、庁舎管理(用務員)、運転手など民間委託がしやすい職域に集中していることも見逃せない。そして、いまだ根強い「縁故採用」が多いのも、独自の採用枠である技能労務職員の特徴だ。(ネット情報で未確認だが、今井大被告も地元有力者の親戚とのこと。家庭も裕福で、今林被告が乗っていたクラウンマジェスタは時価200~250万円と当時21歳の若者の給料のみで手の届くものではない)縁故採用職員は「能力試験を受けず(仮に受けても出来レースで)採用された」「勤労意欲はなく、世間体のためにとりあえず公務員で仕事をしている」などの理由のため、仕事に対する熱意が低く、公務員の自覚に乏しい。これが、縁故採用の多い技能労務職員に特にモラルの低下がみられる原因ではないかと考えられる。いずれにしても、行政は正規の公開試験を通過していない(つまり縁故採用が起こりやすい)技能労務職員の採用実態と、給与水準と業務を、国民によく知らせるべきだろう。自治労も技能労務職員の給与が適正だと言い張るのならば、堂々と国民に示し、納得されればよい。断っておくが、私は「公務員」というのは、そもそもお役人、公的奉仕人なのだから、なんでもかんでも民託したり、民間の感覚(営利優先)を持ち込めばよいというものではないと考えている。"民"優越新興ともいえる現在の風潮は、早晩その足もとのあやうさを露呈するだろう。本来、警察や保健所などに代表される純粋な「お役人」仕事。民では採算がとれなくてとてもやれないが、社会相互扶助という観点から必要とされる高齢者・障害者サービスなどに代表される「非採算サービス」仕事はやはり「公」が責任をもって担当すべきだろう。(逆に言えば、それ以外の分野は民と連携・委託する余地があるのだが)しかし、業務はともかく、各地方自治体は人事ぐらいは「民間の感覚で」見直すべきだ。なにより、まずは悪平等の排除年功序列ではなく、勤務成績が優秀ならば、技能労務職員も(現在の異常な高待遇でなく)同種民間と同程度の枠内で、昇給も昇格もさせる。もちろん、危険な業務にあたるときは、基本給でなく危険手当でフォローする。(基本給は退職金の基準になるのであまり膨張させてはいけない)要は、あまりにも優遇されている技能労務職員の待遇を見直し、代わりがきかない高度専門職を民間レベルの待遇で民間レベルの能力を発揮させるべきだ。そのような、真に公平なシステムの上で、組織パフォーマンスを向上させることで、公務員の組織力向上と人件費は大幅削減ができるはずである。これが国益であることはいうまでもない。また、公務員側の利益として考えても、組織を適正化して「削るべきは削る、増やすべきは増やす」を徹底することで、民託や民営化による大リストラは回避できるだろう。さんざん甘い汁を吸ってきた技能労務職員でも、中年になってリストラの憂き目と失業生活よりは、適正給与を甘んじて受けた方が長い目で得なはずだ。