「青春の飯場・・・」の続き、その7・最終話(page 1)
はい、 『青春の臨時飯場労働者は電気ウナギの夢を見るか?』 やっと最後です^ ^ ■エピソード6 「相互監視の恐怖政治体制かよ!」編 その頃になると我々バイト仲間はかなり親しくなっていた。毎日寝食を共にしているのだから、互いを知るのは加速度的である。数年を共に過ごした仲間のように、タメ口、おい、お前口調となっていた。 (もっとも今となっては、彼らがどんな顔をしていたのか、さっぱり思い出せない。まあ、それほど特徴のあるタイプではなかったのだろう。) 集団で寝泊まり状態においては、アレをそっと済ませることもできない。(何を?って、え~と、察してください^^;) だから、溜まるのである、ザー◎ンが。(お金ならいくらでも貯まっていいんだけどね …)。 後に知ったのだが、あれはどんなに溜めこんでも意味がないそうである。いずれ老廃物として小便と一緒に体外に排泄されてしまうのだ、と某医者が言っていた。従って、溜ったらどんどん放出させてかまわないのである。そうしないと、次第に体の中心部に意識が集中し始め、それが疼き、異常に疼いてしまうと、犯罪行為に走る者まで出てしまう。例えばT本が犯罪に走らないのは、彼は毎日のように体外放出を実行しているからなのだ。ときには複数回も…。いや、たびたびだろう。 つまり、犯行以前に動機が失われてしまうのである(笑)。 そう、男の青春とはそんなに美しいものではない。森田公一が歌ったように、道に迷っているばかりなのだ。 ※「私は20歳だった。それが人生で最高の時だなんて、誰にも言わせない。」ポール・ニザン『アデン・アラビア』 ■飯場住人たちのある夜の会話。 「おーい、どこへ行く?」とT本が部屋を出て行こうとする端役Aにベッドの上から声をかけた。 「ちょっと外の空気を……」 「野外でマスなんて掻くなよな!」とT本。 全員が吹き出した。 「いや~、小便だよ^_^」 端役Aは言ったものの、内心の動揺が隠せない。 「トイレでやれよ」 「いや~、外のほうが気持ちいいじゃないの」 「帰ってきたら臭い嗅ぐからな」 「えっ?」 「ザー◎ンの臭いがしないか確かめる」 「うん、嗅ぐ、嗅ぐ」と脇役B 「嗅ぐぞ~」と私。 「マスしてたら仲間はずれだからな」 「そうだ、そうだ。罰として、道具洗いと片付けは全部やらせるからな」 「ええ~っ!」 「ほんとに小便なら心配することないだろ?」 「なんかさぁ、小便しただけでも、精 液の臭いがしそうで……」 また全員が大笑いした。K山だけがスヤスヤと眠っていた。 「とにかくトイレでやれ」 「そうだ、そうだ。ちゃんとするべきところでしなさい」 「まて、トイレでも油断はできない。時間も計ろう」とT本。こういう事になると、勘が働き、それが執拗でもある。 「うん、小便なら5分以内に済ませられるな」と私。 「5分か、タイム設定が絶妙だね」 「ぼく、ストップウォッチ持ってます」と今まで黙っていた青年Cが言う。 「へえ、きみ、なんでそんなもの持ってるの?」 「時計に付いてるです、その機能が」 「ほお、ほお、それはいいね。じゃ、きみが計測してね」 「はい!」と、なぜか青年Cの返事は元気がよい。初めて仕事を任された新人のように。 結局、端役Aはトイレの時間を計測されながら……用を済ませた。 以来、トイレへ行く者は事前に大か小かを宣言してから厳かに入室することになった。小ならば5分以内、大ならば大体15分位と定められた。もちろん、連れションの場合は省略される。 疑わしき者がいると、すぐに密告されるのであった。 自分の快楽には寛容で、他人の快楽には厳しい。他人の不幸は蜜の味。それが世の常である。 そういうわけで、我々は自ら慰めるというささやかな快楽まで奪われ、総員禁欲状態に陥ったのであった。これを自慰自爆……じゃない、自縄自縛という。 夜は暇でみんな退屈だったのである。金魚に会いに行くつもりは、もうない。こうして我らが愉快な仲間たちの虚しいから騒ぎは果てることなく続くのであった。 (page 2へ続く)