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見せしめとして縛り首となった亡骸。 随分と長きにわたり風に揺られ 腐敗することもなく、哀れな姿を晒していたのだけど ここ数日の黄梅の雨と、まとわりつく様な湿気を含んだ大気に じわりじわり蝕まれ 脆くも、とうとう腐り果て崩れ落ちた。 おぞましい光景だなぁ、と、ちらり。 あまりじろじろ見て、そこらを漂う怨霊に 「何見とんじゃい、ぼけ」 などと因縁を付けられてもかなわんので 気付かぬ素振りで目を背け通り過ぎる俺。 なにもわざわざ好き好んでそこを通過する必要も無いのだけれど そこは配送業務の合間、午時の休憩に俺が弁当を広げる場所に程近いわけで すなわち、その休憩場所に辿り着く為には“そこ”を通過せざるを得ない。 しかしながら、わざわざその休憩場所を選択する必要は全く無く その休憩場所を選択しなければ“そこ”を通過せずに済むわけなんだけど もはや日々の習慣となり果てたものに、変化を加えるのが億劫なわたしは 毎日の様に“そこ”を通過し、おぞましい光景をちらり。 直後に弁当を広げ食す。 そして決まって、口に運んだ白米やドロリとした納豆の味に首を傾げる。 なんだか味が変。 その休憩場所は、葡萄や柿、キャベツなどを栽培する畑に囲まれた 二トントラックが、優に切り返すに余りある程の広さの 広場のような場所で、人通り、交通量、共に少なく長閑。 休憩には最適の場所で ところが、畑では野菜や果物を栽培しているので 当然ながらその時期には野菜や果物が実るわけで それを目敏く狙うのが、盗賊のごとき招かれざる黒装束。烏。 追い払っても追い払っても 攻め来る悪漢に業を煮やした栽培主が 如何様にしてこれを捕らえたか分からんけれども 「うおりゃあ、観念せい!」と叫んだかどうか知らんけれども 兎に角、これを捕らえ絞首刑に処し、見せしめに吊るし晒した。 これが先述した“おぞましい光景”の全容。 荒縄で首をくくられ柿の木の枝に吊るされた五体の死体。 うち四体は既に真下の地面に全て崩れ落ちているのだけれど 残る一体、首から下は崩れ落ちたものの 取り残された頭のみが未だ風に揺られ、ゆらゆら。 さて、以前この畑で作業を行う人物を見かけたことがあるのだけれど 日に焼けた丸顔に麦わら帽、いかにもにこやかな挨拶が似合いそう 木訥な感じのするおばちゃんで このおぞましい凄惨な光景所業とは結びつけるに容易くない。 人は見かけによらぬ、ということなのだろうか? それとも余りの怒りに常軌を逸していたのだろうか? いずれにしても、はあはあと息を荒げ、その顔、般若のごとくに変化させ 残虐なる刑を執行したに違いない。 まさか、にこやかな笑みを湛えたまま、淡淡と事を進めてないよね? と、俄かにぞわっと視線を感じ、その方、見やって仰天。 人?生首? 微かに笑う乱れ髪のその顔は、案山子の代わりであろう 葡萄畑の程高きところに挿げられた、散髪練習用マネキンの頭部で 気が付くとそこいら中に多数あり、その数夥しい。 なんだ、この化け物屋敷の様相を呈した畑は。 どうもこの界隈の畑の持ち主は、猟奇的趣味を持ち合わせた人物らしい。 一見にしてそうと判る外観である。 その畑をより詳しく調べ上げてみたならば この上、如何なる恐ろしい事実が露呈するかも知れず、厭わしい。 このように黒い怨念の染み付いた土地にて栽培出荷された野菜、果物。 果たしてその味は? やはり口に運んでは首を傾げるのかなぁ。 なんだか味が変。 追記:「なに撮っとんじゃい、ぼけ」 などと怨霊に因縁を付けられると恐ろしいので 烏の亡骸は撮影していません。悪しからず。 ヲシテネ。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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