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カテゴリ:鬱病の世界に生きる
今から5年前、2001年春、私はそれまで週に2~3回、抗鬱剤トリプタノールの点滴を受けていたのですが、突然ある日を境にして点滴を受けに病院へ行必要がなくなりました。主治医に診察の中で「最近妙に調子が良い。躁になったのかもしれない」と言ったら、主治医はニコニコ笑いながらカルテを開き、処方箋に書いてあるパキシルを指差しました。
1ヶ月位前に、私は主治医からSSRI(選択的セロトニン再吸収阻害剤)、抗鬱剤のパキシルが新しく開発されたことを紹介されました。副作用として眠気を伴うことなどの説明を受けましたが、不眠に悩まされていたので就眠前に飲むように処方してもらいました。私はそれまでパキシルと同じSSRIのルボックスを飲んでいたので、新薬だからといって特に期待はしていませんでした。ジュースの材料がミカンからオレンジに変わったぐらいにしか考えていなかったのです。 ところが、私はそれまで寝たり起きたりの生活を続け、週に2~3回、点滴を受け続けていたのですが、パキシルを飲み続けることにより健康な人に近い生活を送ることが出来るように変えられたのです。私の脳の機能がパキシルを飲み続けることにより回復してきたのです。 SSRIは脳の神経伝達物質であるセロトニンが脳細胞のシナプスにある受容体に再吸収されるのを防ぎ、セロトニンの濃度を上げることにより脳を鬱状態から解放させる薬だそうです。私の躁鬱病、脳の機能の一部の欠損がパキシルを飲み続けることにより回復してきたのです。 35年前、私の最初の主治医は患者から見ても分かるほど重症な躁鬱病でした。彼は私に「足の不自由な人は車椅子や松葉杖を使うだろう。あなたは薬を杖代わりに利用することを考えなさい。薬を飲み続けることにより健康な人に近い生活が送られれば良いのだから。私は何を忘れても薬だけは持ち歩くようにしている」と言い、ベルトに取り付けてあるポーチの中の薬を見せてくれました。 私は35年間、薬を飲み続けてきましたが、私の人生は寝たり起きたりで終わることしか想定していませんでした。その想定が突然覆されたのです。足の機能を失った人が性能の良い義足を手に入たように、パキシルを飲み続ければ健康な人と変わらない生活が送られるようになったのです。 私が最初に抱いたのはむしろ違和感、あるいは恐怖感でした。私はそれまで鬱病の世界の中で生きてきました。暗闇の中でしゃがみ込み、足元しか見つめることができなかったのです。突然、暗闇の中に光が差し込み、目の前に未知な世界、自由な天地が広がりました。いきなり広がった世界を前にして私の足は竦みました。そーっと足を踏み出し、足下を確かめ、一歩一歩足を進み出し始めたのです。私は発病前、青春時代の感覚を思い出しました。何でもできると信じ込んでいた思春期の感覚を取り戻したのです。 しかし、現実の世界では私の脳は30年間正常に機能してこなかったのです。例え脳の機能が回復しても、脳はリハビリを必要としました。私は脳を活性化させるために読書をすることを選びました。近くの図書館に行けばオンラインシステムで本を取り寄せることができます。4年間の間に7~800冊近い本を読みました。読書を重ねる中で脳の機能は少しずつ甦ってきました。日常生活も規則正しいものへと変わってきました。私は5年間、一度も鬱状態に陥ったことはありません。 私はそれまで寝たり起きたりの生活を続け、一日に一回は布団に潜り込んでいたのですが、寝られず、眠剤を乱用したこともありました。家内に眠剤を取り上げられたくらいでしたが、今では一日一時間ぐらいは自然に昼寝ができるようになりました。眠剤の量も半減しましたが、睡眠は十分にとれるようになりました。早朝覚醒が続き、日の出前からインターネットをしていたこともありましたが、今はゆっくりと目覚めることができるようになりました。 それだけではなく、肉体も脳の機能が回復するにつれて回復してきました。インスリン、甲状腺ホルモンを補いながら生活をしていますが、体の隅々の細胞までが活性化されてきたのを実感することができます。単に脳の機能が回復しただけではなく、肉体の機能も回復してきました。QOL、生活の質そのものも高まってきたのです。 現代の精神医学の進歩は私たちの予想を遙かに超えています。私のように薬を飲み続けることにより、健康な人と変わらない生活を送られるようになる人はまだ少ないかもしれませんが、そう遠くない未来には新しい薬が開発され、脳の機能が回復してくる人も増えてくるでしょう。精神病は不治の病ではなく、治る病気になってきたのです。私たち精神障害者も未来に希望を持って生きることができるのです。 瀬戸キリスト教会 HP お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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