「スタンプを押してくれるカードを貰ってくるのよ」
と私は、夏休みの初日、母に言われ、近くの公園に妹を連れて、ラジオ体操に出かけた。
公園に着くと、朝礼台のような台の所に子供たちが集まっていた。遠巻きにぼやっと見ていると、何かカードを配っている模様。何かに記帳しながら、せわしく大人の係りの人が、子供達に渡していく。
しかしそのうち、係りの人は、せわしくしたままで、撤収
の準備を始めたので、ぼさっと見ていた私は、思い切って
聞いてみた。
「それ、なに?」
文法も言葉遣いも知らない私はこう答えが返ってくると
思っていた。
「君もラジオ体操カードの登録だね。ハイ、これカード」
と優しい元気な言葉を。
しかし、係員は私を一瞥しただけだった。
ラジオ体操は終わった。子供達は、何故か得意気にカードにヒモを通して首にかけて家路につく。
とても誇らしげに見えた。私は家に帰るまで、いかにもカードを脇に挟んでいるような仕草をして早足で家に向かう。早く家に帰りたい。
妹は「おにいちゃん、何でそんなに早く歩くのよ」といった。
三歳の妹は訳も分からず、私の後ろをついてきた。
家に戻ると母はこういった。
「なんや、カードもらってこんかったん?」
翌日、玄関に新しいラジオ体操カードが二枚置いてあった。
昨日の日付のところにスタンプは押されてなかった。
しばらくして、ラジオ体操には行かなくなった。
それっきりずっと行かなくなった。
建前なんか信じない。
本音なんか信じない。
その狭間にあるズレしか信じない。
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最終更新日
2003.10.29 19:26:34
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