今度(正確には明日)、結婚する大学の後輩のKのエピソードを考えていたら、ある日のことを思い出した。
ある日といっても、我々が世間の荒波に揉まれる前のダラケタ学生時代の始まりに精神収入棒でカツをいれるために、採用されたシステム、それが新入生歓迎合宿である。ほんの2泊3日で精神を昇華させ、高校生の甘い意識を打ち砕くのである。
参加費用は強制の5000円で、2泊3日、ほとんどが、漁船の送り迎え費用である。8食分×人数分と、娯楽品、ラジカセ、そして大量の酒、水、それで、一人当たりの荷物は思い人で50キロに達するのであった。いくつかの無人島には行ったが、大抵は、家島諸島にある加島という島である。加島の中心には底なし沼という
谷崎潤一郎の小説にも出てくる沼があるのである。しかし実際は、そこから大群の蚊が発生し、うかうかと、酔っ払って外で寝てしまうと、刺されまくりとなり、楽しい合宿がカイカイの合宿になるのである。ある隊員は、まぶたを刺され、お岩さんになったぐらいである。そのとき以来、あだ名は、ボッコンとなったのである。
姫路港から家島に渡り、そこから漁船を出してもらい、3日後に迎えに来てもらうのである。迎えに来てもらえなかったら結構えらい目にあいうので、支払いは後払いだ、それインドかよ!おまけに、港はないので、船は底をするので、早く降りてくれ、のそのそするなと漁師の方はご立腹するのであるが、そこは愛嬌であり、船旅に慣れていない我々である。
とにかく、無人島に着いた、さて、どうするか、テントを張る、島に流れ着いたゴミや薪を集める、1時間ほどかけて島を渡る、まあそんな感じで、もうすることはなくなる。することなくなったらどうする。新入生には、ちゃんと、更に、薪集めを命じ、飯炊きを命じ、そして、幹部(2回生以上のこと)は、寝るか酒を飲む。そして、新入生に叱咤激励しながらキャンプ用品の使い方を説明するふりをして激と唾を唾す。或いは罵る。
メインイベントはキャンプファイヤーである。無人島である。どんなに大声を出したところで島の向こうまで聞こえるはずもなく、しんみりとした中、新入生はそのフレッシュさで、立たされる。キャンプファイヤーの炎で顔が火照る。極悪人の先輩たちは、質問をするが、答えは大声で叫ばなければならない。しかし、大声で叫んだところで、先輩は、言う。耳が遠いから聞こえないと。関西3文字とか関東4文字卑猥語をそのうち大声で連呼させられたりしながらも、そのプライドを打ち砕かれながらも、新人は叫ぶ、叫び連呼し、そして、精神が、やがて、解放され始める。屈辱が消え、自分が大声そのものになって行く瞬間である。
人は、炎で逆上する。誰かがラジカセのボリュームを最大にし、ジョニーBグッドがかかり、着ている衣服を脱ぎさり、踊り出す。半狂乱になり、炎を中心に回りながら踊り尽くす。
翌朝、料理はできない。楽器と化した鍋は穴が開き、体中傷だらけの栄光となり、そして、新人の服は燃やされて、なくなっている。新人は、来年、復讐を誓うのであった。