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2015年01月22日
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カテゴリ:国内「な」の著者

誠と意地に生きる新橋の芸妓駒代は、一切の義理人情を弁えない男女の腕くらべに敗れ去る。この女性に共感を寄せる講釈師呉山や文人南山。長年の遊蕩生活に社会の勝利者への嫌悪を織りこみ、失われゆく古きものへの愛惜をこめて書かれた荷風中期の代表作。佐藤春夫は浮世絵風の様式描写があると絶賛した。(岩波文庫コピーより)

■永井荷風『腕くらべ』(岩波文庫)
なが永井荷風:腕くらべ.jpg

◎大正時代の代表的作家

 まずは永井荷風の時代を整理しておきます。大正時代の文豪といえば、真っ先に名前があがるのが永井荷風と谷崎潤一郎(推薦作『痴人の愛』新潮文庫)です。明治時代に隆盛をきわめた自然主義文学が読者にあきられて、登場したのが2人に代表される「耽美派」文学でした。

――自然主義文学が「作者の体験をリアルに」といった方法論に固執した結果、いずれも平板で陰うつな作風になってしまったのに対し、耽美派は、官能の世界を努めて繊細に描こうとした。(長尾剛『早わかり日本文学』日本実業出版より)

『腕くらべ』は1916年8月から翌年10月まで、13回にわたって「文明」に連載されました。「文明」は慶應義塾大学の教授を辞任し、三田文学の編集からも手を引いた、永井荷風が創刊した雑誌です。つまりなにを掲載するのも自由でしたし、「腕くらべ」のために創刊した雑誌ともいえます。

『腕くらべ』は、谷沢(たにざわ)永一『性愛文学』(KKロングセラーズ)に取りあげられています。そこには昔の検閲で削除された第3章「ほたる火」(これは誤植だと思います。第3章は「ほたる草」なのですから)の後半が転載されています。長くなるので引用は控えますが、高校時代に男子のあいだで回し読みされていました。

 永井荷風は知識人を両親にもち、上流の名家に生まれました。このことに永井荷風は一生反抗し、その感情が文学へ投影されています。ただし父親への恩を忘れることはありませんでした。放蕩、寄席への出入り、文学と、若いころの永井荷風は青春を謳歌しています。ゾラ(推薦作『居酒屋』新潮文庫)やモーパッサン(推薦作『女の一生』新潮文庫)の文学に刺激を受けた永井荷風は、しだいに創作へと集中しはじめます。

 そんなときに父の勧めで、アメリカに渡ります。ちょうど日露戦争のときでした。その後荷風は、念願のフランスへ渡ることになります。フランス滞在中の荷風は、歴史・文化の重さを体感しました。それがハイカラ思考を嫌悪し、江戸文化を礼賛する思考としてあらわれます。
 
 海外遊学の収穫としては、『あめりか物語』(岩波文庫)や『ふらんす物語』(新潮文庫)にいかんなく発揮されています。いっぽう永井荷風は、東京の作家でもありました。烏山で生まれ、向島と今戸を『すみだ川』(岩波文庫)に描き、新橋を『腕くらべ』に、玉の井を『墨東綺譚』(新潮文庫)に、そして『断腸亭日乗』(岩波文庫)は膨大な東京の地誌になっています。(『図解永井荷風』河出書房新社を参考にしました)

◎花柳界を描いた稀有な作品

『腕くらべ』は永井荷風の代表作であり、花柳界を描いた稀有な作品でもあります。しかし文壇上の同期(衰退する自然主義に変わってあらわれた耽美派作家)である谷崎潤一郎は、厳しい評価をくだしています。

 谷崎潤一郎は『腕くらべ』について、「円熟の美はあり、斉整の美はあるが、その題材が為永春水以来の花柳界という古めかしい世界に限られ、あまりにも粋になり過ぎたために現代離れのした気味合いがあって、これでは結局紅葉あたりの綺麗事の境地から一歩も進んでいない」と書いています。(『新潮日本文学5・永井荷風』解説・河盛好蔵を参考にしました)

 いっぽう佐藤春夫は「かって、『腕くらべ』の描法を評して浮世絵的技法と呼び、人物に配するに風韻豊かな情景をもってしていることを指摘し」ています。(奥野信太郎『荷風文学みちしるべ』岩波現代文庫P48)また『腕くらべ』の創作意図について、永井荷風は明確に述べています。


――時世の好みは追々芸者を離れて演劇女優に移りかけてゐたので、わたくしは芸者の流行を明治年間の遺習と見なして、其生活風俗を描写して置かうかと思ったのである。(「正宗・谷崎両氏の批評に答ふ」、『図解永井荷風』河出書房新社より)

 このあたりについて、湯川説子はつぎのように補足しています。
――新橋の花柳界は、江戸の文化を内在させた特別な土地であるとともに、新時代の紳士たちが羽振りをきかせたため、明治に入って柳橋に代わる隆盛をきわめた地域でもあった。新橋の二重性が、作品の舞台として格好の場であることに荷風は目を留めていた。(『図解永井荷風』河出書房新社より)

 つまり永井荷風は、江戸の文化が廃れるのが忍びなかったのです。それを文章に書きとどめたい、と思ったのでした。必然、描写は細やかになります。『腕くらべ』は、芸者同士の手練手管の争いをイメージしたタイトルです。

 主人公は、新橋尾花屋の芸者・駒代。江戸の伝統的な気質を備えた自我の強い芸者です。7年ぶりに以前なじみだった実業家・吉岡と出会います。吉岡は駒代の身受けを申し出ます。しかし「あなたには力次姐さんや浜町の内儀さんがいる」と駒代はちゅうちょします。
 
 そのうちに駒代は昔なじみだった女形の瀬川一糸とねんごろになります。うわさを耳にした吉岡は、同じ尾花屋の菊千代に入れこみはじめます。吉岡を奪われた力次は、瀬川一糸と駒代の仲を引き裂こうと画策します。結局瀬川一糸を、君龍という後輩芸者に奪われることになります。
 
 明治時代の権化みたいな吉岡の残酷さ。芸者同士の駆け引き。『腕くらべ』は明治のはざまでおぼれかける駒代の悲哀を、克明に活写しています。著者・永井荷風をほうふつさせる人物は、呉山という頑固老人として姿をみせます。尾花屋を切り盛りする妻が亡くなり、呉山は駒代にやさしい言葉をかけます。
 
 物語はそれだけのことなのですが、永井荷風はみごとに花柳界を描ききっています。高校時代に回し読みされた『腕くらべ』は、32の連作集になっていました。それぞれを単独で読んでも、りっぱに独立した掌編になっています。永井荷風ならではの流れるような美文が、全編をみごとに融合させています。

◎ちょっと寄り道

 永井荷風は丸谷才一が、もっとも尊敬している作家でした。その理由を孫引きになりますが、紹介させていただきます。
――私(補:丸谷才一)が一番尊敬している文学者は永井荷風です。永井荷風は近代の文学者の中で最も軍人、兵隊が嫌いな文学者でした。(菅野昭正編『書物の達人・丸谷才一』集英社新書P40)

「永井荷風」という冠のついた文庫・新書は意外にたくさんあります。紹介しておきます。
――秋庭太郎:考証・永井荷風(上下巻、岩波現代文庫)
――磯田光一:永井荷風(講談社文芸文庫)
――江藤淳:荷風散策・紅茶のあとさき(新潮文庫)
――奥野信太郎:荷風文学のみちしるべ(岩波現代文庫)
――川本三郎:荷風語録(岩波現代文庫)
――川本三郎:荷風好日(岩波現代文庫)
――菅野昭正:永井荷風巡歴(岩波現代文庫)
――小島政二郎:小説・永井荷風(ちくま文庫)
――佐藤春夫:小説永井荷風伝(岩波文庫)
――半藤一利:荷風さんの昭和(ちくま文庫)
――半藤一利:荷風さんの戦後(ちくま文庫)
――松本哉:永井荷風という生き方(集英社新書)

 まだあるはずですが、書棚から引き抜いた関連本です。永井荷風は小説で楽しませてくれ、関連本でも楽しませてくれています。
(山本藤光:2010.03.14初稿、2014.09.12改稿) 






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最終更新日  2017年10月11日 11時11分46秒
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