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2021年03月03日
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カテゴリ:国内「な」の著者
凪良ゆう『流浪の月』(東京創元社/kindle)



あなたと共にいることを、世界中の誰もが反対し、批判するはずだ。わたしを心配するからこそ、誰もがわたしの話に耳を傾けないだろう。それでも文、わたしはあなたのそばにいたい―。再会すべきではなかったかもしれない男女がもう一度出会ったとき、運命は周囲の人を巻き込みながら疾走を始める。新しい人間関係への旅立ちを描き、実力派作家が遺憾なく本領を発揮した、息をのむ傑作小説。(「BOOK」データベースより)

◎2人と長い旅をしてほしい

本屋大賞を受賞した『流浪の月』の著者・凪良(なぎら)ゆうは、まったく未知の作家でした。本屋大賞にはハズレなし。そんな気持ちで、kindle版を買い求めました。。もちろん事前に、どんなプロフィールなのか、調べてみました。長年ボーイズラブの世界を描いてきた、日本の女性作家とありました。この紹介で興味を失ったのですが、雑誌「本屋大賞」(本の雑誌社)を読んで気が変わりました。推薦者の多くが、すこぶる高い評価をしていたのです。

著者のプロフィールについては、本人の言葉を追記しておきます。

――受賞の言葉:はじめまして、凪良ゆうです。――という非常にオーソドックスな挨拶からはじめたのは、多くの読者さんにとって、わたしは本当に「はじめまして」の作家だと思うから。今年でデビュー十二年なので、もう新人ではないけれど、長らくボーイズラブというジャンルでひっそり書いてきたので、そこに興味のない方にとっては初耳なはず。(「本屋大賞2020」本の雑誌社)

おそらくほとんどの読者は、未知なるまま「本屋大賞」に推されて本書を手にしているはずです。そんなわけで本書を推薦した書店員さんたちに感謝しなければなりません。想像以上に質の高い小説でした。

本書の執筆について凪良ゆうは、BL(ボーイズラブ)小説には決まった型があるけれど、との断りをいれて、次のように語っています。

――『流浪の月』では、家に帰れない少女が、公園で青年に出会う。二人はひょんなことから「被害者」と「加害者」とされてしまう。BLで一度書いたものの、未消化だった題材をたっぷりと書いた。「当時は完全なハッピーエンドという終着点があったから、どうしても書き込みきれなかった。今回はがつっと書きたいところを書けると思った」(「好書好日」2019.12.04より)

『流浪の月』には小さな池で泳いでいた魚が、いきなり大海に飛び出したような喜びに満ちあふれていました。水を得た魚という印象から、そんなことが頭に浮かびました。すごい筆力に圧倒されました。東京創元社には、本書の特設サイトが設置されています。そこには、全国の書店員さんの感動の言葉があふれています。そして最後に、著者のこんな言葉がそえられていました。

――『流浪の月』は主人公であるふたり、更紗と文が長い時間をかけて紡いでいく関係に、どんな名前をつければいいのか、ずっと探していく物語なのかなと思います。どこもなにも尖ってないのに人を刺せる刃物が確かにあって、それらに常識や正義感や善意という名前がついているとき、一体どうすればいいのか。ふたりと一緒に長い旅をするように読んでいただけると嬉しいです。

この言葉のように本書は、世間の色眼鏡に翻弄される2人の物語です。

◎真逆な2つが融合

主人公の家内更紗(さら)は小学四年生の女児。公務員でやさしい父と面倒くさがり屋の母に囲まれ、幸せな毎日を過ごしています。世間の常識からちょっぴり逸脱した、三人家族の日常描写から物語は動き始めます。
しかしこの平穏な日常は、あっという間に崩壊してしまいます。父が急死し、母は失意のもとで失踪してしまうのです。

更紗は、母の姉家族に引き取られます。そこには思春期の男の子がいて、夜な夜な更紗にちょっかいを出します。更紗は次第に、そこでの生活が息苦しくなってゆきます。

そんなとき雨の夕暮れの公園で、更紗は一人の男に「帰らないの?」と声をかけられます。更紗は男に「帰りたくないの」と答え、男は「うちにくる」と傘をかざしてくれます。仲間がロリコンと呼んでいる大学生は、雨のなかの更紗を自室へと招きます。この男がもう一人の主人公で、佐伯文(ふみ)です。

こうして、家内更紗と佐伯文との共同生活が始まります。このあたりの展開は非常に抑制された筆致となります。

文のマンションの一室には余計なものがありません。そのあたりの描写を本文から引いておきます。
――最低限の家具しかかない。あと観葉植物がひとつ。多分、トネリコ――。(kindle進捗率10%の画面)

この観葉植物は、のちにある象徴として語られることになります。

文は教育熱心な母の教えを守り、生活のパターンを変えない律儀な男でした。更紗はそんな日常を、次々と破壊してゆきます。文は更紗のなすがままにされてゆきます。文は更紗の体に触れようとはしません。どこまでも寛容で愛情あふれる文に、更紗は少しずつ心を寄せてゆきます。

二人の生活は紋切り型だったものが、一変してしまいます。文は更紗の影響を受けて、出前をとったり、アイスクリームを食べたりするようになります。一方更紗も、床掃除をしたり洗濯をしたりするようになります。

凪良ゆうは、真反対だった二人の性格や日常を、実にみごとにマンションの一室に融和させました。読者は二人が過ごす半年の日常に、ほのぼのとしたものを感じ取ることになります。そこには「加害者」と「被害者」という影は存在しません。

◎別離そして再会

本書のストーリーを追うのは、ここまでにしておきます。完全にネタバレになってしまうからです。2人はその後、離ればなれになります。そして何年かを経て、再会することになります。世間は2人を「加害者」と「被害者」という構図でみています。果たして文は加害者なのでしょうか。更紗は被害者だったのでしょうか。

2人の心の機微を、凪良ゆうは繊細に描きあげています。

その点について触れている論評がありました。引用させていただきます。
──更紗を取り巻く世間の誤解が、善意の顔をしているのがすごくリアルでした。 「被害者」である彼女を気遣うようでいて、実は自分の価値観という名前の刃物で彼女を切りつけているだけ。でもその刃物に善意という名前がついている以上、相手は刃向かえないんですよね。自分が優しい、善い人間だと思っている人は強いですから。そういう、「相手とのズレ」から感じる「生きづらさ」は、もともと自分が昔から感じていたものです。(NikkeiLUXE2020.05.21)

本書の優れているのは、2人と世間の溝に切り込んだ点です。あるきっかけで、2人の絆は引きちぎられてしまいます。文は逮捕され、更紗は保護されます。文は幼い子を誘拐し、蹂躙した罪に問われます。更紗は狼のような男に手込めにされたと思われています。

引き離された2人は、こうした世間の近視眼的断定の嵐のなかに放りだされてしまいます。凪良ゆうはこの様子について巧みにも、いきなり作品の冒頭で読者に提供しています。大学生が少女を誘拐した事件は、ネット上で拡散されているのです。高校生たちは喫茶店で動画を見ながら、こんな話をしています。

(引用はじめ)
高校生たちは不穏な動画に見入っている。
『ふみいいい、ふみいい』
「ロリコンなんて病気だよな。全員死刑にしてやりゃいいのに」
誰かがぽつりとつぶやいた。
(引用おわり。第一章の最後)

叔母さんの家に戻った更紗を待っていたのは、ふたたび襲ってきた男の子の淫行でした。ここで事件が起きて、更紗は児童施設に送られます。

それから15年。更紗は24歳になっており、恋人と同棲しています。更紗はファミレスでアルバイトをしています。29歳の恋人の亮は、営業マンです。亮は更紗の過去を知っています。彼は表面的には誘拐された更紗が犯されていないことを理解しており、やさしく接してくれます。しかし更紗には、彼の愛が同情からきていると感じています。

そんなときに、更紗は文と再会することになります。ここから物語は、蛇行しながらも最終章へと進みます。凪良ゆうはここで、文のほんとうの病いをつまびらかにし、世間がいう更紗の病い(ストックホルム症候群)についても言及をしています。

――「ストックホルム症候群」とは、1973年8月に発生したストックホルムでの銀行強盗人質立てこもり事件で、犯人と人質のひとりが結婚する事態に至ったことから名づけられたものです。(ウィキペディア)

2人の「今」について書かれた文章を引用しておきます。更紗の視点で書かれた部分です。
――文は世間ではいまだに誘拐事件を起こした小児性愛者であり、わたしは呪縛からのがれられない哀れな被害者だ。それは一生ついてまわる。(kindle読書進捗率97%ページ)

世間では絶対に理解できない、更紗と文の心のヒダには何が隠れていたのでしょうか。凪良ゆうは圧倒的な心理描写で、二人と伴走し続けた読者に、長い旅の終わりを宣言してくれます。もう一度書きます。すばらしい作品でした。本書を選んでくれた、書店員さんたちにお礼を申し上げます。文庫になってから紹介しようと思っていました。でも待ちきれず、発信させていただきます。
山本藤光2021.03.03





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最終更新日  2021年03月03日 13時46分22秒
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