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カテゴリ:正法誌No41
浪花千栄子さんの文章の中から書くことにする
「私には三つ下の弟があり、五歳の時、母は急に亡くなってしまいました。 家はわずかの田畑も持たず、にわとりの行商を業とする貧しい生活でしたから、 母の死後は幼い弟のお守りをしながら、見よう見まねで、父の手伝いにトリのえ さずづくりなどをしておりましたが、子供心にむしょうに母が恋しくなると、小 さな弟の手を引っ張って母の墓の前に行き、そこで小半月も暮らすことがありま した。 父が商売物のニワトリを売りに出ると、私は弟の面倒を見ながら一日中留守番を しているというわけです。 今から考えるとどんなことをしていたやらと思いますが、ごはんの支度やら洗濯 やら、どうせ満足なことは出来なかったでしょうが、五歳の私は同じ年配の子供 よりずっと家の役にたっていたようです。 大人のいない私の家のねこの額ほどの前庭や縁側は、まだ学校に上がらない近所 の子供達のいい遊び場でした。 その子供達がある日からぷっつりと私の家へ寄り付かなくなりました。 たまに、一人、二人来る子があると、その親たちは血相を変えて飛んできて、嫌 がる子をむりやり引っ張って帰ってしまうのです。 「なんでやろか」 はじめ私は大人の行動が不可解に思われましたが、その原因は幼い私にもすぐわ かりました。 それは母が亡くなってから、ついぞ髪をとかしてもらったことも、まして洗って もらったこともない。 しり切れぞうりのわらのようにボサボサの私の髪に、おびただしいシラミがわい ていたからでした。 忘れもしません。 子供心にそのことがわかると、たいそう悪いことでもしたような、なんともいえ ない劣等感におそわれて、弟の手をとるが早いか、家からほど近い竹やぶの中へ 逃げ込むように走りました。 正法誌N041号 1982年 1月号より抜粋
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Last updated
2012.10.03 09:13:58
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