碁法の谷の庵にて

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• 被取材者の期待保護と編集の自由～最判平20・6・12

  某漫画の見開きの絵を見て、某ラピスラズリの歌を思い出してしまいました。この意味が全てわかるあなた、人生大丈夫ですか？さて、12日に取材の自由と番組編集について、最高裁判例が出されました。判決文はこちら。直接的には民法の解釈学ながら、おそらく憲法判例に属するとみられるのではないかと思いますが、この判例について多少検討してみようかと思います。この裁判については政治家が圧力で番組を変えさせたのではないか、という疑惑ありということで裁判外でも結構かまびすしったようですが、今回の裁判で示された重要な解釈は、取材をするときに抱いた、被取材者の番組の内容に対する期待は法的に保護しなければならないか、ということです。「こういう内容の番組を作るから、取材させてくれ」「わかりました」ところが後に出てきた番組は違う内容であった、という場合。こういう番組にするから取材に応じたのに…ということが起こりえます。勝手に番組の中身を変えたりするのは違法なんじゃないのか？というのが争点です。さて、最高裁判所は、この問題の解釈にあたって放送法を持ち出しました。放送法の条文を判決に沿って抜粋すると、 第一条 　この法律は、左に掲げる原則に従つて、放送を公共の福祉に適合するように規律し、その健全な発達を図ることを目的とする。 一 　放送が国民に最大限に普及されて、その効用をもたらすことを保障すること。 二 　放送の不偏不党、真実及び自律を保障することによつて、放送による表現の自由を確保すること。 三 　放送に携わる者の職責を明らかにすることによつて、放送が健全な民主主義の発達に資するようにすること。 第三条 　放送番組は、法律に定める権限に基く場合でなければ、何人からも干渉され、又は規律されることがない。 第三条の二 　放送事業者は、国内放送の放送番組の編集に当たつては、次の各号の定めるところによらなければならない。 一 　公安及び善良な風俗を害しないこと。 二 　政治的に公平であること。 三 　報道は事実をまげないですること。 四 　意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること。 （番組基準） 第三条の三 　放送事業者は、放送番組の種別及び放送の対象とする者に応じて放送番組の編集の基準（以下「番組基準」という。）を定め、これに従つて放送番組の編集をしなければならない。 そして、以下のように示しました。これらの放送法の条項は，放送事業者による放送は，国民の知る権利に奉仕するものとして表現の自由を規定した憲法２１条の保障の下にあることを法律上明らかにするとともに，放送事業者による放送が公共の福祉に適合するように番組の編集に当たって遵守すべき事項を定め，これに基づいて放送事業者が自ら定めた番組基準に従って番組の編集が行われるという番組編集の自律性について規定したものと解される。このように，法律上，放送事業者がどのような内容の放送をするか，すなわち，どのように番組の編集をするかは，表現の自由の保障の下，公共の福祉の適合性に配慮した放送事業者の自律的判断にゆだねられているこのようにとらえ、あくまでも放送事業者が、編集の内容を決定するという大原則を確認しました。そして、その上で編集の段階と放送の段階で番組の内容が異なる場合があるのも当然のことだろう、といったわけで、さらにそれは国民にも認識されている→被取材者としてもそれは認識していて当然と考えたものと思われます。したがって、取材をしてきた人間の言動によって、番組はこうなるもんだ、と言ったとしても、その一事をもって、それと違う番組だから駄目だ、法的に保護すべき利益を侵害したとは言えないという訳です。もっとも、それなら取材なんか最初から受けなかったということも当然あり得ます。詐欺的な手法で情報を騙し取るのが許されていいとはいえません。あんまりそのような手法を許せば、取材の自由が自縄自縛となる危険性もあるといえるでしょう。そこでかどうかは判決文からはわかりませんが、最高裁は、そのような期待を法的に保護すべき場合もある、という立論を立てました。すなわち，当該取材に応ずることにより必然的に取材対象者に格段の負担が生ずる場合において，取材担当者が，そのことを認識した上で，取材対象者に対し，取材で得た素材について，必ず一定の内容，方法により番組中で取り上げる旨説明し，その説明が客観的に見ても取材対象者に取材に応ずるという意思決定をさせる原因となるようなものであったときは，取材対象者が同人に対する取材で得られた素材が上記一定の内容，方法で当該番組において取り上げられるものと期待し，信頼したことが法律上保護される利益となり得るものというべきである。そして，そのような場合に，結果として放送された番組の内容が取材担当者の説明と異なるものとなった場合には，当該番組の種類，性質やその後の事情の変化等の諸般の事情により，当該番組において上記素材が上記説明のとおりに取り上げられなかったこともやむを得ないといえるようなときは別として，取材対象者の上記期待，信頼を不当に損なうものとして，放送事業者や制作業者に不法行為責任が認められる余地があるものというべきである。つまり、一、取材に応じることにより必然的に取材対象者に負担が生じる場合（たまたま負担が大きくなった場合は含まれない）二、取材の担当者が素材について一定の内容を説明した場合三、その説明が客観的に見て意思決定の原因となる場合（個々人の特別な思い入れは考慮しない）という点を「全て」満たす場合に不法行為が認められる余地がある、という訳です。もっとも、この判例をどのように読むかは、見解のわかれるところではないかと実は思います。最高裁が掲げた要件の場合に本当に限定されるのか、最高裁が提示したのは不法行為が認められる要件の一つで今回の事件に最も近そうなものを検討に持ってきたに過ぎず、ほかの場合であっても不法行為責任が認められる余地があると読むことは可能であるし、実際上の結論も一応はその方が適当ではないかと思います。（もちろんこれは単なる私見です）なお、横尾裁判官は一切賠償の対象とはならないという解釈のようですが・・・正直言ってこの解釈は無謀だと私は思います。最近見た補足意見の類では一番信じられない、と思いました。例えば、両論併記の体裁をとりつつ反対意見ばかりに力を入れ、半ば笑いものにするのが目的であるような番組編成をとる番組さえもあります。そのようなものまで編集の自由と称して一切保護ことは、放送倫理上の問題があるというべきですし、信頼保護の実質は放送を行う作為を求めるという理屈も賛成できません。放送しなかったので慰謝料を求めるというのとは、性質が違うのではないかと私は思います。ただ、多数意見でも不法行為となる場合、「何が不法行為なのか」は、明らかにしてくれていません。そのような取材で得た情報を使った番組を放送するが不法行為なのか、意図したとおりの番組を放送しないのが不法行為なのか、という点が必ずしも明らかになっていないという点は気になるところです。私などは、どのような番組を作るか自体は基本的に自由で、意図したとおりの番組以外に取材で得た情報を用いることが不法行為となるととらえるべきではないか、と感じています。ちなみに、司法試験の択一でおよそ○○の余地はないとか言ったらアウトになると思っていていいくらいのところですから、横尾説は私には筋の悪すぎる議論に見えます。

  2008年06月14日

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• 私の趣味の世界の一つにメスが・・

  秋葉原で発生した通り魔殺傷事件。改めて亡くなられた7名の方のご冥福と、負傷なされた方の快癒をお祈り申し上げます。さて、犯行で使われた、ダガーと呼ばれるナイフ。逮捕された男性が用いた凶器の一つとのことで、ドラゴンクエストに登場し、ここからインスパイアが働いたのでは…という一部マスコミのニュースが。ダガーナイフは、有名なゲームソフト「ドラゴンクエスト」などにも“アイテム”として登場、ゲーム好きの面を見せる（氏名略）容疑者をひきつけた可能性もある。これを読んで私が思ったこと。「・・・・・・・・・・・は？」確かに、ドラゴンクエスト（以下DQ）世界にも、ダガーと名付けられた武器として、「アサシンダガー」なる武器が登場します。攻撃力はそこまで高くありませんが、毒物でたまに相手を即死させるという能力を持った短剣で、初登場はDQ３（スーパーファミコン版）だったと思いますが、その後もDQ７、８に登場している、準常連といった風情の武器です。その後、DQ８では「ダガーナイフ」「イーグルダガー」なる武器も登場しています。しかし、ドラゴンクエスト世界の装備品において、ダガー、あるいは短剣という武器はそんなにメジャーなものではありません。そもそも、普通にゲームをやっていれば、「アサシンダガー」という名前しか出ません。何も知らない人は、パラメーターの上下とか特殊効果でゲーム内での地位を悟ることはできても、現実世界での地位まで悟るのは単にゲームをやっているだけでは不可能であり、公式ガイドなどを買わなければわからないのです。例外はDQ８のグラフィックへの登場ですが、それでもあれで人を刺すようなシーンはどこにもありませんし、（長大な杖で人を刺すシーンはありましたが）そもそも攻撃力自体そんなにないし、そのグラフィックでもちらりとで、ど派手にでかでかと登場するような代物ではないのです。先週の金曜日に出てきた「風の谷のナウシカ」のセラミック刀。映画にはありませんが、漫画版では、ナウシカがそれを用いて装甲兵を刺し殺すシーンが登場しています。私は、武器というのは、少なくとも現代日本においては、「芸術品」として大きな価値のあるものであると思っています。高校時代は、「武器事典」（新紀元社）なる本も読んでいました。私自身がネット碁で使用しているHN、英語名「mithril fan」も、DQ世界で使われる武器として使われる道具を想定してつけた名前です。扇子って、結構昔から現実の世界でも隠し武器に使われてきたんですよ。私はドラクエの公式ガイドブックを買いますが、それはストーリーに行き詰まるからではありませんし、ステータスや裏技の類が知りたいからでもありません。そんなものは、ネットで調べた方がすぐにわかるご時世です。私のお目当ては、武器や防具、諸々の道具の百花繚乱。空想上の産物とはいえ、豪華な意匠が施された刀剣をはじめ、槍、レイピア、鞭、弓矢といったものを見て素晴らしいなあと思っているのです。こればかりはネットをいくら探してもなかなか手に入るものではありません。あるサイト（現在は消滅）でキリ番を踏んだとき、所望したイラストが武器だったこともありました。今回の件を機に、刀剣・刃物類に関する規制が厳しくなるかもしれません。もちろん私自身、カッターナイフはともかく、ダガーや刀剣類のようなものを持っているわけでもありません。しかし、逆にいえば武器という存在を、現実のくびきを超えて楽しめる空想世界に規制が入ることは、決して小さくない失望です。社会的に見ても、芸術的価値のある刀剣類は免許のもととはいえ所持が認められているほか、実用品でもある程度の所持が認められている現段階では全くの荒唐無稽と思いつつも、もしかしたらこうしたゲームでの武器使用などに規制がかかるかもしれません。人命尊重という強烈なお題目を建てられれば、武器を見てみたいという私の希望はただの願望論とも言えます。ただし、特に取り調べなどでドラゴンクエストが出たというわけでもなければ、ダガーという武器の登場は別段ドラゴンクエストに限定されるとは考えられません。はっきりいって、部吉手はメジャーに属するのに、いきなりドラゴンクエストを持ち出されるのは、ドラゴンクエストのクリエイターやファンにも重大な迷惑であります。

  2008年06月11日

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• タイゼム8段が倒せない（囲碁ボケ無差別級）

  ニコニコ動画その他を好んでみる人たちにはまあまあ受けるネタです。囲碁ボケじゃ確かこれはやってなかったと思うな。あ、ネタ採用するならばどうぞ。そういえば、最近囲碁ボケはちっともいいネタが浮かばないのでちっとも投稿していません。かつて「旧約碁聖書」でスーパー囲碁ボケくんをとりましたが、どうにも。まあ、ニコニコ動画辺りで、「エアーマンが倒せない」という歌の替え歌が流行っているわけですが、私もここらで一曲替え歌を…と。え、体験談？まあそうなんだけどね。気がついたら　七段転落スレスレそしていつも　奈落に落ちていく～あきらめずに　勝ててない人に挑戦するけどものの見事に　返り討ち夜中にログインすれば　無料会員も打てるけど何回やっても　何回やってもタイゼム８段倒せないよ誰に申し込んでも何回やっても倒せないランクインした公式順位もとっくに見る影もなしミニ中国流も試してみたけど研究されてりゃ意味がないだから次は絶対勝つためにわたし超速布石は最後まで取っておく　気がついたら強豪はみんな８段そしていつも勝負できている～あきらめずに　７段向先で狙ってみたけど半コウ勝てず１目負けタイゼムサービスいいから自動申込も使えるけど何回やっても何回やってもタイゼム８段倒せないよ得意型に持ち込んでそれでもやっぱり勝てないポイントかけて気合を入れてもポイント無駄になるだけ会心の一局打てたとしても相手が強けりゃ意味がないだから次は絶対勝つためにわたししばらく対局やっぱりやめておく激しくorzな替え歌になりました。笑ってやってください。幽玄の間の方は７段で結構勝てていてかなり好調（あと一局勝てばおそらく韓国サーバーで荒稼ぎしていたころの最高点を日本サーバーだけで更新です）なんですが、タイゼム８段は勝てないんですよ…

  2008年06月09日

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• 緊急更新：幽玄の間で

  定先でプロに勝っちゃいました。しかも18目。いよっしゃ。私の公式HN、英訳すると「mithril fan」でふらりと入ったのですが、そうすると某プロ（実名HN使用）から申し込みが。自由対局かと思ったらレーティング、しかも10秒碁だって。７段の下っ端の私ですが、指導してあげようというありがたい発想をして下さったようで、感謝いたします。早碁だし、どうせ凹されるんだろうなと思いつつも受けたらなんか勝っちゃったわけです。秒碁ですし、淡白に打ってこられたのは事実だと思いますが、明らかなポカ等はなかったと思います。（134はポカか？）むしろ私が右下でポカったり。下に棋譜を貼っておきます。今夜の笑い話のタネにでもどうぞ。(;GM[1]FF[1]SZ[19]PB[風の精ルーラ,幽玄7段,,]PW[某,プロ八段,,]GN[ネット碁]DT[2008/06/07]PC[幽玄の間]RE[B+18.0]KM[0.0];B[pd];W[dc];B[pq];W[cp];B[eq];W[po];B[ce];W[do];B[qo];W[qn];B[qp];W[pm];B[nq];W[qi];B[qg];W[oi];B[gc];W[ed];B[jc];W[ci];B[bc];W[df];B[cf];W[dg];B[cg];W[dh];B[cb];W[fp];B[gq];W[hp];B[gp];W[go];B[ho];W[hq];B[fq];W[io];B[hn];W[gn];B[in];W[jo];B[gm];W[en];B[cq];W[bq];B[ep];W[fn];B[hr];W[ir];B[gs];W[jq];B[cr];W[hm];B[jn];W[hl];B[ko];W[jp];B[ln];W[km];B[kn];W[lq];B[iq];W[ip];B[on];W[om];B[nn];W[pn];B[kr];W[lr];B[jr];W[kq];B[is];W[ks];B[iq];W[op];B[np];W[ir];B[bp];W[bo];B[iq];W[oq];B[or];W[ir];B[dp];W[ap];B[iq];W[pr];B[nr];W[ir];B[cn];W[co];B[iq];W[cc];B[ir];W[bd];B[bb];W[cd];B[eb];W[db];B[da];W[gd];B[hc];W[he];B[hk];W[gk];B[gj];W[ik];B[hj];W[gl];B[ij];W[jk];B[jj];W[kk];B[jf];W[je];B[if];W[ie];B[kf];W[ke];B[lf];W[kc];B[kb];W[jb];B[ib];W[lb];B[ja];W[me];B[mf];W[oe];B[pe];W[of];B[gg];W[fj];B[fi];W[fh];B[ej];W[fk];B[eh];W[gi];B[ei];W[fg];B[gh];W[ki];B[kj];W[li];B[lj];W[mm];B[mi];W[mh];B[nh];W[ni];B[mj];W[ng];B[lh];W[mg];B[mn];W[lg];B[kh];W[kg];B[jh];W[jg];B[ig];W[ih];B[ji];W[qc];B[pc];W[rd];B[re];W[pb];B[ob];W[rb];B[ph];W[pi];B[pa];W[qb];B[nc];W[mc];B[oh];W[ne];B[mb];W[hg];B[hf];W[gf];B[hh];W[lc];B[la];W[qr];B[rq];W[rr];B[sr];W[ro];B[rn];W[qq];B[rp];W[pp];B[so];W[rm];B[sq];W[sm];B[sn];W[dk];B[ff];W[ge];B[le];W[ld];B[eg];W[ef];B[ek];W[el];B[lm];W[ml];B[ll];W[il];B[qd];W[sc];B[se];W[sd];B[lk];W[fb];B[fc];W[ec];B[ea];W[ca];B[ba];W[ac];B[gb];W[qh];B[pg];W[nj];B[nk];W[ol];B[rh];W[ri];B[rg];W[ab];B[mk];W[ok];B[br];W[ar];B[fe];W[fd];B[pf];W[md];B[dj];W[cj];B[kl];W[oo];B[no];W[id];B[ic];W[ee];B[fg];W[sh];B[sg];W[si];B[fo];W[eo];B[im];W[fm];B[qa];W[ra];B[oa];W[os];B[ns];W[ps];B[rs];W[od];B[oc];W[kd];B[jl];W[di];B[bs];W[nf](;B[ii]))

  2008年06月06日

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• 8例目の法令違憲判決～国籍法違憲判決～

  戦後8回目の法令違憲判決（戦前は司法に違憲審査権がない）です。判決原文へのリンクはこちらからどうぞ。さて、判例を読んでの解説らしきものをしてみます。正直なところ、こういう解説を書くのはすごく勉強になるし、身にもつくんですよ。危険運転罪の解説をあちこちでしていたもんだからラッキー、と思ったり。さて、戦後、法令を違憲とした例は一、尊属殺人罪重罰規定違憲判決（最大判昭48・4・4、尊属を殺害した行為を特に重く処罰するのは憲法14条違反）二、薬事法距離制限違憲判決（最大判昭50・4・30、薬局開設において距離制限の規定は憲法22条1項違反）三、衆議院議員定数配分違憲判決（最大判昭51・4・14、一票の格差が1:5に及ぶ不均衡は憲法14条・44条違反）四、衆議院議員定数配分違憲判決（最大判昭60・7・17、一票の格差が１:4.40に及ぶ不均衡は憲法14条・44条違反）五、森林法分割制限違憲判決（最大判昭62・4・22、森林の分割の請求を認めない規定は憲法29条2項違反）六、郵便法賠償制限違憲判決（最大判平14・9・11、郵便業務の過失による損害賠償免責規定の一部が憲法17条違反）七、在外邦人選挙権不存在違憲判決（最大判平17・9・14、在外邦人に選挙権がないという立法不作為は憲法15条違反）以上の7例となっています。また、法令自体は合憲でもその法令をこの件に適用したら違憲だ、という例は多数あります。さて、国籍法に関する判決が4日に大法廷で行われるという話は知ってはいましたが、裁判所は基本的に違憲判決を出さないもんだと思っています（憲法違反とかを大展開しなければならないような裁判は半ば詰んでいる証拠に近い）から、第一印象自体は意外、とは思いましたが、理屈自体は十分に筋が通るものであると考えています。理屈の展開を、私がある程度わかりやすく噛み砕こうと思っています。本件における争点は2つ。その前提となる国籍法3条を下にコピーします。第三条 　父母の婚姻及びその認知により嫡出子たる身分を取得した子で二十歳未満のもの（日本国民であつた者を除く。）は、認知をした父又は母が子の出生の時に日本国民であつた場合において、その父又は母が現に日本国民であるとき、又はその死亡の時に日本国民であつたときは、法務大臣に届け出ることによつて、日本の国籍を取得することができる。 ２ 　前項の規定による届出をした者は、その届出の時に日本の国籍を取得する。 また、準正についても。嫡出子とは婚姻している両親から生まれた子を指しますが、例え結婚していない両親から生まれた子であっても、認知の上で事後に両親が婚姻すれば嫡出子となります。これを準正（民法789条）と言います。さて、争点は一、父親が日本国民・母親が日本国民でない場合には、父親が認知したとしても嫡出子になるわけではなく、従って日本国籍を有していないことになる。両親が婚姻していれば日本国籍がもらえるのに、婚姻していないと認知をしてもらっても日本国籍はもらえないこととなる。これは、嫡出子と非嫡出子を不当に差別するもので憲法14条に違反するのではないか。二、（一で違憲であることを前提に）裁判所が原告らに国籍を与えてよいか。先に結論を言えば、第一段階では12人が違憲説を主張、3人は合憲説を主張しました。そして、第一段階の違憲説12名のうちでも2人は第二段階で「違憲だが国籍を与えることはできない」と主張しました。多数意見の理屈をわかりやすく書いてみます。ただし、わかりやすく書いているというのは大切なことを切ってしまっているという危険があるということでもあるので、注意してください。まず、憲法10条は、日本国民要件は法律で決めるものとしています。しかし、当然それは無制限白紙委任ではなく、合理的な理由もなく差別的に取り扱えば憲法14条（平等権）違反となりえます。今回の場合、区別があるのは明らかですから、そこに合理性があるか、というのが焦点です。この点においては、反対意見も同じです。そして、多数意見は、こうした差別をする目的が正当であり、目的と手段に合理的関連性がなければならない、としました。その上で、多数意見は以下のような事情を考慮しています。一、国籍は人権保障や公的資格付与・公的給付などで大切である一方で、父母の婚姻は子が自分で変えることができない以上、その合理性は慎重に検討しなければならない。二、3条の規定は血統主義（日本人の子に日本国籍を与える原則）の補完であるが、その趣旨は出生後に父が認知すれば、日本人と生活が一体になり、それなら日本国籍を認めることがいいだろうということにある。その生活の一体性を判断するために要件を設けたのだから、その目的は合理的と言っていい。三、国籍法3条ができた当時は、認知に限らず、婚姻ではじめて密接な結び付きがあるという判断は合理的なものであったといえるであろう。しかし、家族生活や親子に関する意識も一様ではなくなってきているし、国際交流の増大で日本人の父とそうでない母との間の子が増加している。その実態や意識でも複雑多様で、婚姻をもってはじめて国籍を与えられるほどの結びつきが認められるという判断は必ずしも実態と合致しない。四、諸外国においても、法律ができた後非嫡出子と嫡出子の区別は解消の方向であり、国際人権規約や児童の権利に関する条約（子どもの権利条約）でも差別が禁止されている。五、国籍法の規定は出生の時に嫡出子はもちろん、日本国民の父から胎児認知された非嫡出子や日本人の母の非嫡出子も国籍を取得できるというのに、日本国民の子でありながら出生後認知で父母が婚姻していないとなると国籍が取れないというのは著しい差別的取扱である。これらを踏まえ、国籍が重要な権利保障の前提であるし、母が日本国民か父親の日本国民でも差異が発生することも考えれば、この扱いには合理的関連性はなく、いくら立法に裁量権があるといっても、もはや不合理な差別で違憲であるとせざるを得ない、と指摘しました。たとえ法務大臣の裁量などで是正することができても（反対意見はこの点も重視）、仮装認知によって不当に国籍を取られる恐れがあるとしてもそれは変わりません。こうした多数意見の見解に対し、規定自体を合憲とする横尾裁判官（行政官出身）・古田裁判官（検察官出身）・津野裁判官（行政官出身）は国籍法の体系を血統主義を前提としつつ一定の場合に国籍を付与するかどうかを規定しているとした上で、多数意見の考慮すべき事項において具体的に明らかではないこと、国際的な比較が必ずしも考慮事情とすべきではないことなどを根拠に、違憲説を批判しています。なお、第二段階に関しても彼らは反対意見に属する旨を主張しています。さて第二段階に入ります。第一段階の違憲という結論をクリアしても、その先、日本国籍を与えていいかは、別の検討が必要です。というのも、特に国籍を与えなさいという法律があるわけではないので、違憲だとして裁判所が国籍を与えよということは裁判所が立法をすることに等しい、という批判がありうるからです。いかに司法機関といえど唯一の立法機関が国会（憲法41条）であることを動かすことはできません。（反対意見はそのように多数意見を批判している）多数意見への賛同を前提とする補足意見においても、むしろこの点が徹底的に論じられている点は注意してください。多数意見は、違憲状態を是正して当事者を救済するためには、届け出に応じて国籍を出すしかないだろう、と判断しています。たぶん、以降の理屈立てもその価値判断が大前提にあると思います。さらにいえば、違憲の部分を取り除いて彼らにも国籍を認めると解釈することで、法律全体を合理的に、合憲の方向で解釈できる、としています。その効果も意見の部分を取り除けば法律の規定の趣旨や目的に沿う（この点については、今井裁判官の補足意見が詳しく論じている）のだから、そこまで認めてもよいだろう、とした上で、届け出をした原告らに国籍を認めた、という訳です。反対意見の方はどうか、というと甲斐中裁判官（検事出身）と堀籠裁判官（裁判官出身）から示された批判は、国籍法の規定がない以上、彼らにとっては白紙の状態が存在するだけであり、特別に権利を与える原則があるわけではない。つまり、法律が「全くない」という状態であり、一部の制限する規定を取っ払うのとは性質が違うから、ここで法律もないのに国籍を与える権限は裁判所にはない、認めるのは司法による立法だという判断でした。他方で、甲斐中・堀籠反対意見に近く、白紙の状態が存在するだけであるが、国籍法の解釈を拡張することで解決できるし、この考え方であっても立法者の見解を無視することにはならないと考えたのが藤田裁判官の理解です。限られたスペースの中での記事ですので、さらなる内容の充実は各人で判決文にあたっていただきたいと思います。この判決は、ただ単に国籍を認めない法制度の問題を検討して違憲判決を導いただけではなく、法制度が違憲だとしてどこまで救済できるのか、という点に関して画期的なものになる可能性が高いことも、知っておいてもらいたいと思います。どちらかといえば技術的な問題に属するのは間違いないのですが。あと、この判例の出現でもう一つ気になるのが、非嫡出子差別として有名な相続分差別（民法900条）です。最高裁判所はこれまで合憲であるという見解を貫いてきましたし、今回の判決がダイレクトに相続分差別の違憲を導くというわけではないのですが、嫡出子非嫡出子の差別について厳しい態度をとったのだ、と見れば（実際その点についてかなり攻撃的なことを書いているように思う）、この問題に対する判例の態度に変更が生じる可能性が上がったとみる余地もあるように思われます。

  2008年06月04日

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• 強敵との激突

  「ハチワンダイバー」を見たせいか、こんな話が書きたくなりました。私が3歳の時に碁をはじめ、20年以上も碁をやっていましたが、大会などに意識的に出て強敵と当たるという事態は高2～院１の計7年間。それが私にとってよかったのか悪かったのか、それは誰にもわかりません。囲碁で大会に出れば、必然的に精力をすべて振り絞らなければ勝てない（あるいは振り絞っても勝てない）強敵とあたります。大会は個人戦ならトーナメントの形式をとるものが多くなります。スイス方式（多人数リーグ方式の一種で世界アマ囲碁選手権の世界大会などで採用されている）をとったとしても、勝ち進めば最後には強敵と当たることは避けられません。少なくとも「私が最後まで勝ち残る」ということをやったのはただ一度、院1年の時の学生十傑戦の関東予選だけです。それ以前は必ず誰かにどこかで土をつけられて終わっているのです。つまり、私にかかれば強敵なんて存在しないよはっはっは、なんてことは残念ながらありません。つまり、大会で上に行こうと思えば、どうしても強敵との激突は避けられないのです。抜きんでた力を持つ強豪といえど、それは変わりません。ただその強敵度がある程度下がってくることはあっても、気を抜けば奈落の底というような勝負を経なければ上には上がれません。私自身も、大会で何度か「強敵との激突」ということを経験しています。大会にでた最初のうちは、強敵と当たって負けたとしても別に何とも思っていませんでした。しかし、そうこうしている間に私も強くなりました。私を鍛えてくださっている早稲田の諸先輩方ともまずまず勝負できるようになってきて、上に行けるかもと言われれば、否応なくある意味では余計な、ある意味では必要なプライドというか自信というのが生まれます。さらに、もののはずみで強敵に一発入れるという事態も何度かあったため、そのようなプライドというか自信はたぶん私の場合は割と早く増幅されていきました。それ以前の私は、相手が誰かというよりは飄々と碁を打っていたと思います。もちろん勝てば喜びますけどね。それでもある程度実績のある相手であれば、否応なく「本来は自分の手に余る相手である」ということが自覚されてきます。しかし、自分も実績はある。誰であろうとそうそう負けたくはなくなる。そうなって、強敵と当たる場合の緊張感というのは醸成されてくるように思います。負けてもいいならそんなに緊張しませんし。強敵と打って、勝とうとすると遭遇する事態が、「うまくいかない」ということ。格下と打っていれば読み通り、想定の範囲内、想定の範囲の外を打ってきたけどそれは悪手で転がして終了…となってくるのに、強敵と打つとすぐに読みが外されるのに、局面はとみると、いいように見えない。しかもそうこうしているうちに自分の打つ手ばかりが悪手にさえ見えてくるし、相手の模様は全部確定地に見えてくるし、自分の模様は相手の陣地にさえ見えてくる。対局中は相手の顔はあまり見ないようにしているのですが、今度は緊張からくる吐き気（私自身の特性のひとつ）とのどの渇きが交互に襲ってくる。碁の相手ばかりか、自分の体とさえ戦う羽目に陥るのです。この「うまくいかない」にどう向き合うかが、一つのカギになります。棋力が上がれば、「うまくいかない」という現象自体が少なくなりますし、現実に強くなりたいなら真っ先に鍛えるべきはそこです。しかし、「うまくいかない」という現象を前提にそれとどう向き合うか、というのも、現実の勝負では一つの要素になってきます。さらに、強敵に勝てそうだ、と思えば始まる現象が「ふるえ」。つまりとにかく勝とうとして安全そうな手を打って差を詰められ、しまいにはひっくり返される。このふるえ現象で私自身プロをも倒すような相手からの大金星を2度ほど逃しています。両方とも私が勝ちそうだというので周囲は騒然としていたらしいですが。もちろん、場数を踏めばある程度はその辺も減っていきます。しかしそれが最後まで消滅することはありません。プロだってトップ同士で打っていれば、多かれ少なかれその辺を経験しているはずです。例え世界最強の李昌鎬や李世ドルであっても。強敵相手に知嚢を振り絞り、勝ちに向かうというのは、大変厳しいことです。ハチワンダイバーは多少オーバーに描いているかもしれませんが、自分をつぶしに来る相手を迎え撃つというのは消耗が極めて激しいことです。それを１局でも打てば、翌日までバタンキュー、足に力も入らないということも私には珍しくはありません。世のアマ強豪連はそれさえも克服しているようで、羨ましいことこの上ないですけど。また、久々にあの真剣勝負の感覚を味わってみたくなったのですが・・・さて味わえるのは何年先になるでしょうね。

  2008年05月31日

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• わかる人にはわかる文章です。

  えー、念のため、囲碁関係ではありませんよ。　現在、私が現在唯一単行本を買っている某漫画の展開の先読みをしようとして頭が迷宮状態になっています。　まあ、今後扱うであろう伏線（ア○○○、青○○、家○○○の○○、四○○の○○○・・・etc）はいくつもあるのですが。ちなみに上の伏せ字を全部埋められる人はたぶん私と同類です。　地獄へようこそ（悪魔の微笑）。　このうちいくつかのネタは時期尚早の匂いが漂いまくっています。また、いくつかのネタを扱ったらたぶん全体の整合性が取れなくなるように思います。　一応最終回というわけではなさそうです。　と言ってあんまり軽そうなネタではない・・・。・・・などと答えの出ない問いをうんうんと20分ほど唸りながら、判例集めをしています。救いようがないです。　超重要な問題であれば、ろくな根拠のない先読みを披歴するのは品性のない証拠だと思う（実際問題、それで一喝した人もいる）のですが、漫画の先読みレベルであれば、まあ罰は当たらないかな、なんて思ったりしますし。別に私はアシスタントをやっていて先の展開まで知っているような立場でもないので。　ただし、思いっきり外していたら恥ずかしいのでやっぱり披歴はしません。（笑）　まったく、あの時私の弟が某宇宙大怪獣について聞いてこなければ、こんな迷宮に入ることなんかなかったのに…。　いや、それどころかどんどん深みにはまっています。しかも、自ら深みを作っていっている感じです。そろそろ某党（注：政党ではありません）あるいは某会に籍を置きそうですし…。　誰か助けてください。

  2008年05月27日

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• 罪を犯した少年の手続はどのように行われるか？

  少年法の改正案が、衆院で審議入りしたとのこと。　私は少年法の高名な実務家（元裁判官）から少年法の概要について、一わたり講義を受けていますので、少年審判の大まかな流れについて、ここでぱらりと話そうかと思います。ちなみに、いわゆる人権派系ではたぶんなく、「厳罰化」と言われた少年法改正をめぐって日弁連と激しく対立したこともある人です。　さて、少年法における少年審判はどういうものでしょうか。刑事裁判を念頭に置くと、その違いに愕然とするかもしれません。　まず、犯罪として認知する段階では、犯人が少年かどうか分からないのは、別に珍しくもなんともありません。とっ捕まえてみて、あるいは一定程度目星がついて、初めて犯人が少年であると言うことがわかるのが通常です。　警察は罪を犯した少年（犯罪少年）をとっ捕まえた場合は、全件をいったん家庭裁判所に送致します。家庭裁判所にはカウンセリングなどを専門とする家裁調査官がいて、彼らが少年のことを隅から隅まで調べ上げます。少年法制がある国（成人でもろくな人権保障がないような国でなければ多かれ少なかれあるようです）ならば、こういった心理などの専門家を用いるのは別に珍しくはありません。　家庭裁判所に送致して調べると、基本的には家庭裁判所が審判で処分の内容を決めることになります。家庭裁判所が調べたけど、これは刑事処分をするしかない、ということになるとここで家庭裁判所は検察官に送致し、検察官は地裁など通常の系列の裁判所に起訴します。これがいわゆる裁判所から検察と言うのは通常と逆ですから、いわゆる「逆送」です。（少年法20条）　逆送は全体から見れば少なく、多くの少年は家裁での審判です。この逆送についても、近年故意犯罪の死亡事件に関して原則逆送規定が設けられたことを知っている人も多数いらっしゃるでしょう。私の師匠は、改正がなくとも別にそんなの当たり前になされているべき運用じゃないか…というとらえ方をしていましたが。ではこの家裁の審判はどんなものでしょうか。通常の裁判と違って、裁判官は真っ黒い法服（何物にも染まらない公正の象徴です）を纏わず、普通にスーツ姿で、高い壇上に立つわけでもありません。同じ高さで、ことさら厳粛ぶって行うわけではありません。少年法の審判は懇切和やかにやれ、と言う規定は最近改正され、内省を深めるものにしなさいという文が追加されました（少年法22条）。もっとも、それ以前だって叱り付ける程度のことは普通に行っていたようで、特別改正されたからどう、というものではないようですが。そして、審判は非公開です。（少年法22条2項）被害者・遺族にも記録は見せます（少年法5条の2）が審判そのものは見せません。検察官も（原則として）関与しませんし、弁護人（正確には付添人）の権限もこれと言って大きくはありません。基本的には、家裁の裁判官が一存で決めてしまいます。検察vs弁護の攻防と言うことはまず考えられないのです。なぜこうなっているか、というと、まさしく新派刑法学と現代の刑法学の違いがそこにあります。（こちら参照）少年審判は更生保護のための手続（少年法1条）です。したがって更生保護的な観点が第一であり、審判運営もそこからです。そして、更生保護というのが本人にとって利益な処分と言う一応のタテマエがあればこそ（もちろん、現実には不利益性は否めず、救済手続等で修正はされていますが）、ことさら防御権の保障だのなんだのと言う見地は出てきません。そして、更生保護には彼の行為を徹底的に見つめ、周辺環境まで明らかにし、場合によっては周辺関係者まで教育する必要があります。だからそういうのが全て明らかにするために、証人が口をつぐんでしまうおそれがある公開法廷の使用はやめ、報道もやめて、萎縮は最大限に抑えるようにしようと言う発想が登場するわけです。ちなみに、逆送事件で法廷公開に制限がないのは日本くらいのものらしいです。（報道には規制がありますが）そして、検察vs弁護でどろどろした争いをするのもやめておこうか、という発想が登場します。これが通常の裁判だったら、証拠で「犯罪行為自体」が立証できれば、後は有罪判決を下して終了してしまうことができます。もちろん刑事政策的な考慮はいろいろしますが、当事者から全く出てこないものを何とか搾り出して無理やり斟酌だ、なんて必要はありません。それで刑罰の基本的な目的は十分達することができる、という訳です。そのような視点から、遺族への傍聴を認めるのには、実務家からも慎重な見解が相次いでいますが、これ以上は解説記事の範疇を超えますので、「大法原」の記事に任せるといたしましょう。少年法のこのような趣旨を一定程度は踏まえた上で理屈を展開していかないと、このあたりの理屈にも説得力はつかないものです。その点を意識していただければと思います。

  2008年05月23日

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• つくづくオタクな私ですね。

  昨日、１０年ぶりくらいにカラオケに行って、（一人で行ったのはたぶん生まれて初めて）、3時間近く一人で放歌高吟してきました。やっぱり歌ってものは一人で歌ってストレス解消するのが私には合っています。私は音をとるのに手間取る上に（音痴なのかも）、そのくせ音がずれると自分で気がつくので、人前で歌う気はあんまりしません。まあ、それはいいのですが・・・　最新に属する機種と思われるカラオケで、いろいろと歌って、半ば喉がつぶれた状態になったわけですが・・・　なんと３曲に1曲くらいは「ない」。つまり、どこを探しても登録されていない音楽がやたら多いわけです。一部アニメのキャラソンとか、歌手自体は有名でもそのアルバムの片隅にポツンとあるような曲とかが、脈絡なく気に入るというのが多くて、メジャー曲でも今一つ好きになれんということがよくあります。当然、そういうマイナー曲はなかなかないのです。まあそれでも、「少年の羽」なんかは歌えたのでまあいいのですけど。何の曲か、わかる人はいますか？私は最新流行の音楽をほとんど知りません。街中で流れる曲も歌手の名前くらいは知っていても、顔とも曲とも一致しません。嫌いなのではなく、単に興味がそんなに湧かないだけではあるのですが。知っている歌の過半数は昔見たアニメ系です。ちなみに、一番の神アニメは何と聞かれればジーンダイバーと答えるでしょう。先日、某アニメショップを某漫画の単行本が出たのをいいことについでと称して興味本位で覗いたのですが・・・なんとそこで流れている曲（某超有名女性声優の歌）を私は知っていました。この時、自分が知っているという事実に愕然としたものです。昨日、ニコニコ動画でオタク検定みたいなものをやったら、５０問中２８問くらいを的中させて「オタク」をばっちり認定されてしまいました。３０以上だと「キモオタ」に属するようですから、やばいどころの騒動ではないのかもしれません。さらには昨日、久々に「なんでも鑑定団」を見てたら、羽野晶紀がガルガルを持ってきたのに久々に興奮しました。ガルガルは１９９６年公開の映画「モスラ」に登場した竜型の機械で、体長３０センチの体重５０キロ、飛行速度は時速１０００キロくらい、人間二人引きずり回す怪力で口からは紫色のシュビビン・ビームを吐き、機械であることは最後にちらっとわかるだけ・・・。１９６１年公開以前に出された一番最初の小説、「発光妖精とモスラ」もちゃんと読んでいます。某アニメで「体長１８０メートル体重２万トン」と聞いただけで何代目のモスラか一発で的中させてしまったり。・・・傍から見たら私ってただの変質者ですね。さて、囲碁関連の話題でテーマを設定したので、碁の話もちらっと。久々に公式HN、英訳するとmithril fanで、幽玄の間で２局打ちました。やっぱり、今は６段（RP31000から31999、現在の私は31900台）早いところ７段（RP32000点以上）にしたいよね。金を払ってない無料会員でも、申し込みは来るものです。幽玄に金払う余裕ないし。というか、週刊碁さえも買わなくなってしまったので最近はとことん碁に金をかけてないですね。しかし、31900とかになると上に行くのは相当大変になります。勝って上がる点はちょぴっと、負けて下がる点はドーン。そこで必要なのは安定感です。強手に一発入れるよりも安定して勝つ方が幽玄で上にいくには大切です。１局目。白番。明るく打ちまわしていたら黒の仕掛けに無理があり優勢に。しかしその後余計なちょっかいを出してしまい、大振り替わりが発生するも多分損。しかしそれでも形勢は悪くならず、最後は辺の石を分捕って投了してもらいました。あの石は死なずに済んだと思うのだが。2局目。今度は黒番。相手の人は実はもしかするとあの人かな？と言うあたりがある人だったり。中国流から争い、早目にリードを奪ったのだがそこからいつまでたっても差が広がらない。失着もあり形勢は難しくなったが、何とか小手先の技術で先手を奪って先手を取り形勢は不明に。向こうの攻めに多少の無理があってそこで再度儲け、あとはそつなく寄せきった。最後に相手が小ヨセでも損したので4目半差でしたが、小ヨセに入る段階では一応黒が厚かったでしょう。糸が切れることなく打てた碁だと思います。まあ、今年も大会には出ないと思いますが、棋力がキープされているといいなあ。少なくとも、後輩たちの碁をちゃんと見ていられる程度の棋力がほしいものです。

  2008年05月21日

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• 日本の刑罰にはどのようなものがあるか？

  裁判員制度となれば、裁判員は有罪判決を下すならの話ですが、その量刑を決定する必要が出てきます。どのような考え方で刑罰を決めるかは、こちらの拙稿を参照願うと致しましょう。では、日本における刑罰はどんなものがあり、その内実はどうなっているか。それを、今日は紹介していくことにしましょう。刑法において定められている刑は7種類です。１、死刑言わずと知れた死刑です。死刑の方法は、絞首、ということですが、一般的にいうところの首吊りによって行われます。死刑にあたる罪は、刑法・特別刑法合わせて17ありますが・・・これをすらすら言える人は刑事の裁判官でも少数ではないかと。また、死刑が出る罪は殺人罪がらみが大半で、放火などでも死刑はありますが実際は放火だけで死刑にはなりません。ただし、外患誘致罪、つまり外国とつるんで日本に武力を行使させた場合の罪（刑法81条）は、死刑しかありません。まあ、こんな罪で裁かれた人は少なくとも戦後はいませんけど。死刑制度をめぐってものすごい論議があることは知っている方も多いでしょうし、何度か触れても来ましたが、今日は刑罰の紹介にすぎないので割愛。なお、最高裁判所は死刑制度を合憲であると解釈しています。２、懲役つまり、刑務所に叩き込んで就労させる刑罰です。日数は期間に定めがある場合には、i1か月から20年が原則です。しかし、併合罪などという形で増やす場合には30年に延ばすことができます。また、無期懲役という制度もあります。無期というのは、１０年で仮釈放が認められる制度であることは最近よく知られるようになりましたが、実際の仮釈放はなかなかされていません。３、禁錮懲役刑とよく似ていますが、禁錮は閉じ込めておくだけで、中で就労させることをしません。ただし、刑務所の中は娯楽も制限があって働かなければ暇ですから、願い出て就労することができ、禁錮受刑者の多くはそのように就労しています。いったん就労したら、義務じゃないから・・・ということで懲役囚と区別がされるわけではなく、懲役囚と同じように就労しなければいけません。禁錮の長さ期間については懲役刑と同じように扱われています。日本の刑罰は懲役刑が中心で禁錮は少ないですが、それでも禁錮刑にあたる罪としては、おもに政治犯や過失犯と言った罪が中心とされています。政治犯などの場合は、良かれと思ってやったこと、彼らの名誉に配慮すべきという発想が根底にあるようですが…いまどき時代遅れ、という考えもあるようで、懲役と禁錮の一本化が検討されています。４、罰金文字通り「金払え」です。では、もし金が払えない（あるいは渋って払わない）場合は？この場合は罰金額に見合う期間、労役上に叩き込まれて働かされることになります。最近、モラルハザードで金を払わず叩き込まれるバカが増えたというニュースが流れました。最低金額は1万円とされています。では、刑法における罰金の上限はいくらでしょうか？わいせつ物頒布に250万とか、先端的な法律では罰金が億単位というのもあるという話を聞いたことがありますが、実は「無限大」です。「偽造通貨収得後知情行使」という罪、つまり贋金をつかまされた後になって本物だと知り、それなのに使った場合の罪について、「使用額の2倍」という上限が定められています。つまり、100兆円使えば罰金は200兆円、1京円使えば罰金は2京円ということで、無限に増えていきうるのです。まあ、理屈の上ではですが。罰金刑は、現在経済力によって罪の重さに差が出るなどの問題が指摘されています。５、拘留（こうりゅう）身柄を拘束するけれども就労を強制しない点で禁錮とよく似ていますが、期間は30日以内です。罰金より軽い罪と位置付けられていますが・・・本当でしょうかね？罰金1万円と30日の身柄拘束、あなたはどっちを選びます？また、実際問題受刑者教育という視点でも難がある期間で、執行猶予もできず、使い勝手が悪い…と私の師匠は言っていました。なお、「勾留」も「こうりゅう」と読みますが、勾留は刑事裁判で捜査・裁判のために被疑者の身柄を保全する制度であり、拘留は刑罰そのものです。きちんと区別できなければいけません。６、科料1000円～9999円の金銭を払え、ということでつまりは罰金のもっと軽いバージョンです。ただ、罰金と違って執行猶予はありません。なお、行政上の制裁として「過料」があり、これもかりょうと読みます。両者を区別するために、「過料」を「あやまちりょう」、「科料」を「とがりょう」と読むことがあります。７、没収没収は、これまでの6つとちょっと毛色が異なります。有罪判決で、「○○を没収する、終わり」という判決は出ません。上の死刑～科料までの罰を言い渡した上で、さらに追加で没収が言い渡されます。（付加刑といわれます）また、没収については刑法の各条文に○○を没収するという規定がなくとも、没収ができます。その上で、没収されるものとして一、犯罪行為を組成したもの（強盗予備罪で用意したナイフなど）二、犯罪に用いた、あるいは用いようとしたもの（殺人罪におけるナイフや放火罪におけるライター）三、犯罪行為によって作られたもの（通貨偽造罪で作られた紙幣など）四、犯罪行為によって取得したもの（盗品譲り受けの罪の盗品など）五、犯罪の報酬になるもの（殺人の謝礼金など。保険金殺人の保険金はこれなのかなあ？）六、三～五までの物件の対価として得たもの（偽造紙幣で手に入れたものなど）こうした物件がもう無くなってしまった、あるいは何も知らない第三者の手に渡ってしまい、第三者が所有権を手に入れてしまったという場合には、没収する物を取得した当時の金額を追徴することになります。さて、刑罰に付随する制度も、いくつか知っておいていただきましょう。１、執行猶予名前くらいは知っているでしょう。執行猶予の場合、有罪判決後身柄は釈放され、その後の猶予期間を何の罪も犯すことなく経過すれば、基本的には彼は制度上は有罪判決を受けなかったことになります。つまり、まっさらの自由になれるわけです。社会から切り離さず、社会復帰させておいた方が、彼は真人間でいられるだろう、と考えれば、執行猶予は単なる温情ではなくて大変合理的な制度だと言えます。執行猶予は、3年以下の懲役・禁錮・罰金などにつけることができます。猶予最長期間は5年です。例えば、懲役3年、執行猶予5年と聞いたら、ギリギリのところで猶予してあげたんだな、と推測できるわけです。では、その間に性懲りもなく罪を犯し、禁錮以上の刑をくらってしまうと？実は、それでも執行猶予をもう1回とり、前の犯罪の執行も猶予してもらう余地はありますが、1回目と比べてかなり厳しく、懲役1年以下でなければなりません。しかも後述する保護観察が必ず付きます。そして、それがとれなければ新たに犯した罪と前に犯した罪の分合わせて服役しなさい、ということになります。また、裁判以前にやらかした罪が発覚してそれに執行猶予がない場合にも、執行猶予は無意味と化します。罰金刑をくらってしまった場合でも、執行猶予は裁量で取り消すことができます。また、執行猶予の一つのオプションとして、「保護観察付執行猶予」というのもあります。執行猶予にはするけど、その間、執行猶予者保護観察法に定められている通り、行政機関、と言っても実際に担当しているのは民間篤志家出身の保護司ですが、彼らにしっかり見ていてもらいなさい、ということになります。そして、保護観察付きの執行猶予中にもう1回やらかしたらアウト。実刑になってね、ということになります。また、保護観察で遵守事項を守らないでいても、執行猶予取り消しを裁量的に行われることがあります。つまり、保護観察がつくか否かというのは相当差が大きいというわけです。２、仮出獄・仮出場懲役刑、禁錮刑は仮出獄、拘留は仮出場と呼ばれます。例えば、懲役１５年の判決を受けたとします。その場合、改悛の状があると、刑期の３分の１、無期懲役なら１０年を務めあげれば行政庁、現在は地方更生保護委員会が決定権を握っています（犯罪者予防更生法29条・30条）が、彼らが仮出獄を許すことができます。仮出獄を認める要件としては、彼のしでかした犯罪行為の内情も考慮することが要請されていると考えられます。拘留の場合は１日も拘留しないで即仮出場ということが可能です。無期懲役・無期禁錮刑で出獄するのも、この仮出獄制度によるものです。裁判所が言い渡した判決を行政機関がかえるものではありますが、このような制度がなければ受刑者としても更生にインセンティブが働かず、中で不真面目にやってようがまじめにやってようが同じ、ということになり、刑務所内の秩序維持の観点からも適当ではありません。そして、仮出獄のまま刑期を終えれば、刑は受け終わったものとみなされます。しかし、仮出獄は順守事項を守らないと裁量で取り消されますから、結構な綱渡りになります。・・・では、刑期がない無期懲役は？残念ながら恩赦を受けない限り、死ぬまで仮出獄の身となることになります。刑罰について考えるときには、これら全てについて、ある程度網羅的な知識を持っておくことが必要になります。

  2008年05月19日

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• 3周年緊急告知：一部移転します

  別ブログを立てることとしました。こちらであります。場所ははてなダイアリー。名前は、「大法原の隠棲処」。なお、このブログですが、もちろん今後も存続します。更新もします。いわば二本立てですね。文章を書くときはいつもワードに書いてコピペしていますので、さほどの手間はかからないと思います。ただし、両者は分業制としておきたいと思います。はてなは、法律系の解説記事、ならびに法律系の、議論を呼び起こしそうな話題について、見解を述べる場所としたいと思います。こちらは、法律系の記事は解説記事にとどめ、その他の日記並びに囲碁関連の記事とします。解説記事で先鋭的な議論が出てきてしまった場合は、はてなに移動してもらうかもしれません。なお、解説記事でも見解を述べる部分については、両者にアップする文章に差が出てくるかもしれません。両ブログは連続していますし、作者の人格も同一（別人格として全く名前を変えてコメントしているところは結構多い）ですので、一方での質問がもう片方で回答されたり、ということもありえます。対処の理由を説明いたしますと、まず楽天の使い勝手が悪くなったこと。「強かん罪の刑事弁護について」で、かんのところを漢字にすると、わいせつ表現だとかで訂正を迫られます。使い勝手が悪いことこの上ありません。広告については、ただで使わせてもらっているので今さら文句を言う気はないのですが・・・次いで、厳しく尖鋭的な問題を扱いすぎたこと。おかげで比較的ゆるい記事を書くのも遠慮がちにしなければならなくなったのが、辛くなってきたことがあげられます。両者併存とした理由は、もう４年目に突入するここには愛着があること、これまでの記事も参考資料として有用であり、はてなでも資料として活用したいし、苦労して生み出した自分の文章であるから消したくないことがあります。では、「碁法の谷の庵にて」並びに「大法原の隠棲処」をよろしくお願いいたします。

  2008年05月18日

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• 9年ぶりの穏やかなGWに浮かんだ薄ら笑い

  　まあ、心穏やかと言う訳にはいきませんけどね。　私自身、気を鎮めるために「lacrimosa（Mozart）」「Kommt,ihr tochter（BMV244）」「Requiem from far」「Railroad　worker（piano version）」「Saint spring」「Heavenly　flight」「lullaby」、などなど、いろいろ聞いて落ち着けながら勉強しています。（ちなみに曲名は勝手に外国語にしただけでほとんど日本語の題名がありますが、意味が分かったらマニアックすぎるものもあるので要注意）さて、敗戦の報は２ちゃんねるとTさんのところで知りました。連盟更新遅いなあ。　　未だにここを見ている人たちがいるのかは分かりませんが、私が見にいかなくなったら途端に･･･というのはよしておきましょう。私などいなくても十分に強い人たちばかりだからです。監督も、新人まで含めて大いにほめていたのですから。彼は私と違ってつまらないお世辞は言わないタイプだ･･･と私は思います。ちなみに、敗戦の報を聞いた私の最初の反応は、怒る、嘆く、俯く、天を仰ぐ・・・どれでもありません。「薄ら笑い」を浮かべることでした。別に顔が引きつっていた訳ではないし、ましてや嘲笑ったわけでもありません。T大学の凋落も含め、普通に面白いことになってきたね･･･と思って笑ったのです。この年になって、しかも外野席で見ているとなると、無論勝つことは一つ喜びますが、それ以外にも全体が盛り上がってきたことにもいい感想を持ってきた、ということだと思っています。こんなにレベルが高かった時期は私の知る限りなかっただろうな、と思いますし。新たな自分の一面を発見した日でもありました。クスクス。　そして、あのライバル軍団は好きな酒も断って、私が「生まれる前」の記録までほじくり返して、本格的に打倒に向けて動いてきたようです。プレーオフは明らかに力負けしていた彼らが、一気に押し返し。つまり、彼らは一皮も二皮も剥けてきたということ・・・まあ、それは直に対峙した選手たちが一番よく分かっていることでしょう。　それでは、クリスマス前後は予定を意地でも空けておきます。これが何を意味するか分かる人たちは･･･まあ読めた意味の通りになるようにがんばってくだせえ。

  2008年05月05日

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• 憲法記念日記念記事：憲法と私人

  　ここの発足から3度目の憲法記念日です。憲法記念日には憲法を巡る問題点をいろいろと語ってきた訳ですが、まあいろいろと触れてきたところネタ切れの感（記事にするだけなら可能でも面白い記事にはなりにくい）を呈していましたが、割と重要な話が残っていました。それは、憲法と一般私人の関係です。　真っ先にお出ましいただくのは、憲法99条です。憲法尊重擁護義務について定められていますね。第九十九条 　天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ。 　では、ここで憲法尊重擁護義務があるのは誰か、という点を見ると、天皇、摂政、大臣、議員・裁判官その他公務員。　ここに一般国民が入ってはおりません。憲法は個々の国民ではなく国家権力を縛り付けることによって国民の権利を守るための法律である（憲法97条など）ために、国民が憲法を守らなければならない、国民が憲法に違反すると言う事態は、実は想定しにくいのです。ドイツなどでは、憲法忠誠といって国民も憲法を守ることを要求していますし、国民が国家に対して守れと言っている法の趣旨を国民が平気で踏みにじるようでは困るのですが。では、ここで憲法の人権条項に着目してみましょう。多数の権利がずらっと並んでいて、義務に関する条文がちょっとありますね。これらの権利のうちで、憲法の条文が私人の間でも効力を有する、と考えられているものがいくつかあります。一、投票の秘密（憲法15条4項）二、奴隷的拘束からの自由（憲法18条）三、児童酷使の禁止（憲法26条3項）四、労働基本権（憲法28条）　これらは、国民との間でも性質上当然憲法がでてきて規律する（現実には、個別に法律が作られているので今の所直接適用にそこまで重大な意味があるというわけでもないのですが）と考えられています。なぜ？と言われても正直けっこう難しいのですが、労働基本権は趣旨からして労働者vs使用者（私人）の対立を予定していますから、私人間で否定されては無意味と言えます。投票の秘密･奴隷的拘束は誰がやっても国家がそのような行為を手控えるのを無意味にするほど重大な侵害だ、ということだろうと私は考えています。　もっとも、直接憲法を適用できるからと言って法律抜きに処罰をしようとしたりすると罪刑法定主義違反になります（奴隷的拘束をした者をどう処罰するかは憲法に記載が全くない）し、行政の行為のうち私人の権利制約にあたることは法律の根拠を要すると言う多数理解からしても、これらの行為は違法とすることができるというだけで、更にその先に何が出来るかは結局法律を待つことになるのではないかと思います。　さて、他の表現の自由･信仰の自由･平等権などはどうでしょうか。これらは、私人間にも直接効力があるとは考えられていません。では、私人の間でなら表現の自由の制限も信仰の自由の制限も不平等な取り扱いもやりたい放題だ、ということでしょうか。　もちろん、憲法の規定にお出まし願わなくとも、国が法律を作って国民を規律することはあります。例えば、男女雇用機会均等法は平等権の趣旨を進めたものといえます。表現や信仰・学問その他を暴力によって抑圧しようとすれば、刑事法による処罰が待っていることでしょう。しかし、それらは個別の法に待たなければいけないのでしょうか。こういう場合にも、憲法の出番はないかな？ということを考えたくなるのが人情と言うものでしょう。　特に、今日では政府以上に私的団体が権利を侵害すると言う現象は珍しくもなんともないのが現実です。そこに対して無力では、憲法が個人の尊厳を守るために人権のカタログを用意した意味が全く没却されてしまうでしょう。　ここで、裁判例がなんといったか。　昭和48年12月12日、三菱樹脂事件と呼ばれる事件に最高裁大法廷で判決が出されました。試用期間を終えた人物を、会社が雇い入れるのを拒否した事件です（ちなみにこの判例、労働法の判例としても大きな意味を持っているとされています）。雇い入れ拒否の原因が、彼自身が大学時代に学生運動に参加していた上に、その点について虚偽の記載をしていたことに由来するものです。　最高裁は雇い入れ拒否を適法としたのですが、一つの問題点として、「思想信条による差別ではないか」「思想について会社が質問することは思想表明をされない自由の侵害ではないか」という点ですが、ここで最高裁が下した判断の一つが、「憲法の規定は私人間には適用ないしは類推適用される訳ではない」ということです。そもそも憲法の規定は歴史的に見ても対国家機関の法律であり、私人間を律するための法律ではないのだから、憲法を持ってきて、違憲だのなんだのとする余地はないよ、ということなのです。また、憲法を直接適用すれば、会社の側にも存在する思想その他の個人の自由や、権利義務を自らの意思で取得負担すると言う私的自治の原則は吹っ飛んでしまうだろう、ということも見逃すことは出来ません。この判例はぴくとも動く気配はありません。この考え方を前提とした判例は多数出ていますし、今後何年も動くことはないと思われます。　じゃあ、憲法は全くの無力なのでしょうか。実はそうともいえません。　例えば、日産自動車事件と呼ばれる事件（最判昭56･3･24）では男性の定年が60歳、女性の定年が55歳と言う会社の就業規則は違法であり、無効であるとされた判例があります。そこにおいては憲法14条（平等権）の趣旨が大きく生きています。　・・・しかし、この事件も憲法の規定を適用した訳ではありません。実は、法律の中にも一般的抽象的な条文で使いやすいものがいくつもあります。民法1条3項の「権利濫用」。権利の濫用にわたる行為は許されません。民法90条の「公序良俗」。公序良俗に反する契約の類は無効です。民法709条の「他人の権利または法的に保護された利益」。これを侵害すれば不法行為として損害賠償の対象になります。こうした私人の間を規律する法律の文言に、憲法の平等や表現の自由といった趣旨を取り込むことによって、憲法の趣旨を生かそう、ということがよく行われています。日産自動車事件で言えば合理性がないのに、男女を差別的に取り扱ったのは憲法14条の見地からも公序良俗に反する、ということで実質的に救済がなされたと言う訳です。趣旨を取り込んで公序良俗を形成する、と考えるわけですから、当然反対側の利益に対しても、ある程度は配慮することが可能となります。　他にも、個別法の解釈においては、憲法の趣旨を取り込んだ解釈が行われることは決して珍しいことではありません。　競業避止義務などは、職業選択の自由との兼ね合いが問題になります。　刑事法とて、憲法の趣旨に合致するように解釈することが要請されています。名誉毀損に関する法理などは、表現の自由との鍔迫り合いの元で解釈が生まれてきたものです。（名誉毀損に関する判例の多くが刑法に限らず憲法判例となっています）　憲法の知識を法実務において使うことはほとんどないといってもよいと私は思います。（むしろ国会議員とか法制局の人たちの方が使うかも？）私の予備校の弁護士は何年も弁護士をやって憲法使ったことなんか一度もない、と言っていたこともありました。　しかし、憲法は司法試験に限らず、多数の資格試験で必要な知識とされているそうです。それは、憲法に関する知識というよりも「素養」が、日本における法解釈に関して、欠かすことの出来ない「素養」であることが大きな原因の一つではないか、と思われるのです。　　憲法9条改正反対が６６％とか、朝日新聞に書いてありました。　品性ある法律家は、今ある憲法を（たとえ改正した方がよいと思っていても）尊重しますが、憲法を改正することは、決していけないことではありません。そして、憲法が個々人に対しどうしろというための法律ではないこともまた然りです。　ただし、自分で憲法の精神を平気で踏み潰しておきながら、憲法による庇護を受け続けることほど傍から見ていて恥ずかしいものはありません。　憲法施行から61年、各人が憲法を知り、それを支持するかどうかを別にしてその考え方に深く思いを致すことを願ってやみません。

  2008年05月03日

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• 今枝弁護士のお考えに関して、TB用の記事です

  　sokさんの二番煎じと取られても仕方がないかもしれませんし、sokさんの内容の秀逸さには比べるべくもないですが、私の方からも今枝弁護士に一筆振るわせていただきます。　今枝弁護士は、一度ここに書き込みをしてくださったことがあります。　集中審理の直前で、私自身、懲戒請求扇動に関してあれこれと論考をしていた頃で、民事訴訟でも参考にした旨記載されていました。生憎ネットと言う環境上、本人であるかどうかの確認は出来なかった訳ですが、本人であると確信するのにはそう時間はかからなかったことも間違いありません。　私が真っ先に今枝弁護士を知ったのは今枝弁護士が真っ先に書き込んだ「超初級革命口座」、そこの主、ＪＤ弁護士が私の記事（説明責任論批判記事）を紹介していて、ＪＤ弁護士の方から記事紹介を受け、そこに今枝弁護士の書き込みがあったという縁です。早くから言論活動を見てきた一人ではないか、と思います。　無論全て憶えている訳ではありません（むしろ私は忘れっぽい部類に属する）が。　さて、世間的には、死刑判決というある程度は予想された判決の中で、事態がここまで急展開することは、私自身の予想の範疇を越えていました。　今枝弁護士が、訴訟を取り下げること「自体」は、決していけないことだ、とは思いません。私自身、個別の懲戒請求者に対してやる気があるなら強硬策にでた方がよいのではと提示したこともありますが、弁護団がそうすべきである、などということは口が裂けてもいえません。それは、犯罪被害者に手前勝手な幸福論を説いて説教をするようなものです。まだ弁論準備手続も終わっておらず、終了にはまだまだ手間がかかると予想されますし、続ける気のない訴訟をいつまでも続け路などとはいえません。　ただし、この訴訟をある程度社会的に関心ある訴訟としたのは橋下氏に限らず、今枝弁護士でもあることも事実です。その点に関しては、きちんとした釈明を行う必要があるか、と思います。橋下氏の言っていることにも意義があった、ということですが、社会的に問題点を明らかにしたいという視点からすれば、何も訴えを取り下げる必要があったのでしょうか？勝訴判決を取った後に、橋下氏と連絡を取り、金銭の支払はいらない旨を通知し、橋下氏に対しての民事執行を控えると言う方法もあったはずです。訴訟外で金銭以外でも何らかの互譲が成立したのなら別ですが、そうでもない限りは、屈服したと取られても仕方がない内容ですし、残された3原告について、裁判官にとっても好印象を与えないでしょう。確か、各原告が各人の代理人にもなっていたかと思います。　さて、橋下氏の問題提起に、問題提起として価値があるものが多かったのは分かります。私自身、支持はしないけど問題提起としてはありと書いた事もありました。しかし、それとて、決して使える具体的対案が伴っていたものではありません。もちろん、守秘義務上言えない事などがあって、裁判に対する理解が抽象的な中ではどうしようもない、ということ自体は理解できます。理解できますが、せめて、多少なりとも具体的な形を伴った上で、何をすればいいのかが提示されて行かなければ、おそらく弁護士の多数の採用するところにはならないでしょう。場合によっては、旧来の刑事弁護のあり方への理解に対し、重大な挑戦をする必要が出てくるかもしれません。裁判員裁判は言葉遣いなどをより分かりやすく、手早くと言う視点では吟味されていても、主張自体をどうする、と言う路線での論争はそんなにされていないように思うからです。　確かに弁護団の弁護方針は結果から見ればうまくいきませんでした。批判されるべき点もあったのでしょう。しかし、では他ならうまくいったのか、弁護方針策定の当時において、証拠並びに被告人の供述を基礎にしつつ、死刑回避に結びつく（少なくとも毒にならない）合理的な手段があったのか。私にはその手法が結果論以上のことでは思い浮かばないのです。せいぜい、記者会見なんか全く（最高裁の段階から）しない方がよかったのでは、という程度です。　また、本村氏が理解してくれれば･･･などと言うことであっても、決して対案があるとは限りません。橋下氏の言うように、刑事弁護のために弁護する、なんてことを言うことが許されますか？被告人が（少なくとも死刑に当たるような）罪を犯していないからこそ弁護する、という立場を逃れることは、少なくとも旧来の刑事弁護への理解ではできないと思われるのです。　何をすれば、遺族からの納得が得られたのでしょう？被告人は謝罪の言葉を縷々述べ、わずかな作業報奨金を送ったとのこと。会いに行って会えず、手紙も読んではもらえませんでした。旧来の刑事弁護に関する理解からすれば、一通り遺族などへの配慮として十分なことをやったと評価される事項ではないでしょうか。　手紙をほぼ判決文が出来上がっているであろう頃に訴訟外で公開したのが思慮に欠けたとか、そういう意味では弁護団に改善すべき点がない、とは言いません。しかし、ただよくなかった、もっと配慮すればと言うだけなら子どもでもできます。被告人に対する弁護は緩めず、しかし遺族や社会に配慮する、というのが本当に必要なら、その具体案には多くの弁護士たちが苦慮するはずです。例えば修復的司法、という概念が近時注目され、加害者と被害者で対話する･･･と言うような考え方が人気を集めています。しかし、それは条件を徹底的に整えた上で、犯罪を絞ってやらないと逆に傷口に塩を塗りこむだけになる、ただでも日本の刑事弁護くらい修復的なものは珍しいと私は教わっています。　私自身、今枝弁護士の著書は斜めにしか読んでいませんから、もしかするとそれらについて提示があったのを見落としているのかもしれません。ただ、そのあり方について、具体的な例まで含めて幅広く提示し、かつ批判に対応して行かないと、こうした言説が弁護士に対する関係で力を持つ可能性は低いと思われますし、かえって建設性のないアンチ弁護団言説に取り込まれる恐れもあります。もし私が強盗致傷で被害者は重傷というような事件で被告人になれば今枝弁護士に頼みたいですが、光市事件の被告人の立場で死にたくないと考えるのだったら安田弁護士らにお願いしたくなるのが、現段階での私の正直な感想です。　私が刑事弁護に関する問題点を最初に拾ったのは、学部3年のとき、裁判員制度がいよいよ出来てきた頃で、刑事訴訟法のゼミで初めて扱った話題が刑事弁護人の真実義務であったことにありました。私の刑事弁護に対する理解の大枠はこのあたりで骨格が出来上がっています。きちんとした肉付けをされるのは、私が将来実務につくことがあるならその後でしょうが。　そんな私の発想からすれば、今枝弁護士の理解は旧来の理解に対しての相当大きな挑戦になりえるものです。いえ、挑戦をしてはいけない、などというつもりは毛頭ありませんし、もしかすると並び立ってくれるのかもしれませんが、茨の道を覚悟したほうがよい、ということです。あんまり短兵急なやり方をすれば、橋下氏２号となる恐れもあります。　そして、今枝弁護士が誠実な方であることは、私は疑っていません。少なくとも誠実さに関していえば橋下氏よりも数段格上であると思っています。　ただし、誠実なだけではどうにもならないこともあります。　かつて、とある殺人事件で弁護をしたN弁護士は、無罪判決を勝ち取りました。ところが、後に被告人が別に殺人事件を起こしたのに耐えかねて、前の殺人事件の被告人の有罪心証を著作に書くなどして弁護士会から戒告の懲戒処分を受け、日弁連も支持しました。N弁護士は、おそらく人間としては誠実な人で、これを話題にさせて週刊誌を儲けさせるなんてことはぽっちも考えていなかったでしょう。それでも、この懲戒処分は支持されなければならないと思っています。　今枝弁護士は被告人の言い分を信じているとしても、少し冷ました上で言説をやらないと結果的にこれに近いことをしてしまいかねないように思います。今枝弁護士が精神的に弱い、と言われているのがどういう文脈かは知りませんが、そういうことをしてしまいそう、と言う意味では弱さを感じてしまうのも事実ですし、むしろ弁護士は誠実一辺倒ではやっていけない職業であることの現れであるかもしれません。むろん、逆の意味ではそれは安田弁護士にかかってくる批判なのかもしれませんが。　そうそう、先ほど書いた犯罪被害者への手前勝手な説教で思い出しましたが、、日本テレビの「太田総理･秘書田中」で、「少年法廃止」なるマニフェストで廃止反対の見解を取り、登場した被害者遺族に私が眉をひそめるような説教まがいのことをしてネット上でバッシングを受けていた平岡秀夫氏が、昨日参院補選で山口2区で当選しました。　しかも、彼の当選した選挙区には、なんと事件が起こった光市が含まれています。なんとも数奇な印象を受けますが、誰かが何かを仕組んだ、とは考えません。　ただ、もしこの選挙において、凶悪犯罪に対する対策や被害者問題の対策が争点になっていたなら、おそらく平岡氏にとって先述の説教まがいは暴きだされ、強力な癌になっていたでしょう。しかし、有権者の多数派の関心はもちろんそんなことではなく、道路問題や高齢者問題に関する民主党の政策に支持が集まったゆえのことであろう、と思われます。　要するに、犯罪に関する問題は、所詮は市民にとっては些細なことであり、本当に大切なのは生活振興をはじめとする経済政策なのではと考えられる訳です。橋下氏が大阪府知事に当選したのも、懲戒請求が支持された云々ではなく、その点が原因であろうと思われます。　こうしてみれば分かるとおり、市民は決して犯罪防止策･被害者対策を優先順位の高いものとは捕らえていません。そして、厳罰を希望する人の多くは、無意識にせよ厳罰を何らかのカタルシスを得る場所と捕らえており、犯罪抑止の手法などぽっちも考えていません。だからこそ、福岡の飲酒運転３児死亡事故では、「現行法」を無視して飲酒運転助長言説がまかりとおる結果となったのです。　そうすると、被害者のための活動に、政治の協力がどこまで期待できるのかは激しく疑問です。既にＴＢしているｓｏｋさんが縷々指摘している通り、犯罪被害者のことを、国民の多数、ましてやネット世論の大多数は真剣に考えていないのです。　そこを何とかするには、法律家の草の根的な活動は必要になるでしょう。その意味でも、今枝弁護士の今後の活躍には期待しています。

  2008年04月28日

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• ちょっと感想めいたものを。

  　先日の休み時間、人に聞こえ放題の所で「他の弁護士を」「実名出して」「有害」と言った上に「外見的なことまでぼろぼろにけなしまくっている」人を見かけました。　　しかも、どうやら法科大学院（卒業）生らしいです。知り合いではないので、私と同じところではないようですが。私って、こういう人と同格だったのか･･･と思うと、虚しいと感じましたね。　まあしかし、私自身も、こんな奴が法科大学院卒業だと思われているかもしれない、と思えばどっこいどっこいかもしれません。むしろ、そう考えている人が多数派なのかもしれません。多数派でなくとも、「鏡見ろ、鏡」かもしれません。　予備校論点がどうだ、ではなくとも、必ずしも法科大学院って教養や品性がきちんとするところではない、というのは、私がおかしいのか彼が変なのかに関係なく感じていることです。そんなもんは法科大学院以前に身についていると言うのが前提なんでしょう。もちろん社会人出身ではなく、学生であったとしても。　法科大学院ってのは、カルネアデスの板とか、正義の女神の目隠しとか、新派刑法学とか、八月革命説とか、ボアソナードとか、帝国憲法とか、国際人権規約を知らなくたって、今のあり方に関して知識とそれに見合うだけの能力があれば卒業は出来るところですからね。　もちろん、私だって試験関連以外でも知らないと呆れられるようなことをけっこう知らないのではないかと思います。自分の知っていることに自己満足するのは極めて簡単ですが、無知は実に幸福でいられますからね。　ちなみに、私自身の大学院の成績はお世辞にも高いとはいえないものです。　　　ただ、曲がりなりにも法律家を目指すものとして、無意味に「お高く止まる」ような意味ではなく、品性として自分をきちんと律すると言う意味でのプライドは失いたくないな、と感じました。　例え自分が将来法律家にならなかったとしても、法律家を目指した者としてのそういうプライドだけは失いたくありません。

  2008年04月27日

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• 弁護団を非難する皆さんに質問します。

  判決を受けて弁護団を批判する人が現れたので、今回の判決を受けての話でもいいですが、本件の弁護方針策定の当時において、弁護団はどうすればよかったのでしょう？条件は以下の「被告人は、現実にドラえもんや魔界転生、殺意なしなどの話をしており、どうやら本気のようである」「無期懲役以下の判決が取れるだけのより合理的な主張は見当たらない」と言う点だけです。なお、一つだけ、あらかじめ答えを出しておきます。一、弁護人を辞める（引き受けない）べき→弁護人は、好き勝手にやめることはできません。被告人に不利な形で辞めてしまえば懲戒処分の対象になりえます。また、辞めた後は国選弁護人がつけられますが、彼は裁判所の許可を取らないと辞められませんし、裁判所がそれを無制限に認めるとは考えられない（結局弁護人がいなくなってしまう）から、その際の問題も登場します。辞める（引き受けない）をみんなで選んだら誰も弁護しないと言うわけです。　ちなみに、判決直後、某テレビで元検事の弁護士が「自由心証なんだから良心に従った事実認定を批判するのはおかしい」と言うようなことをいっていましたが、確かに法令上「自由心証」と言う言葉が使われてはいますが、自由心証は合理的心証主義とも読み替えられるべき（松尾浩也教授など）ものであり、決して裁判官に無制限な白紙委任されるものではなく、何が合理的か法律で決めることはごく一部の例外（自白のみ有罪の禁止）を除いていたしません、何が合理的なのかは裁判官の判断に基本的に任せますということです。あまりにもばかばかしい認定をすれば、それが経験則違反などと言う形で違法とされることはありえます。自由心証主義で裁判官の良心に従ったものと言えど、批判の対象になりえないわけではないと言うことを伝えておきます。※※※※※第一次追記※※※※※私の疑問は広島高裁の判決文に書いてある、旨はてなのブックマークで指摘されていたので、その点について私見を述べさせていただきます。確かに、広島高裁の量刑理由においては、より真摯に罪に向き合っていればと言うようなことが指摘されています。本村氏もその旨を語っていました。被告人に向ける言葉として、私はこの言葉は本当にごもっともと思っており、判決主文と理由に不当な部分がない限りこの指摘も不当とは考えません。しかし、当然ながらこれは被告人本人が本当に反省してくれなければどうしようもありません。事実関係を放っておいて弁護団が情状路線で攻めたとしても、最高裁までで既に方針変換を明らかにしてしまったわけですし、被告人が法廷で勝手に言い出したら全ては崩壊する恐れが高いのですから、今更どうしようもないと考えられます。そして、事実を争うことは反省していない兆表、と裁判所が判断した以上、今枝弁護士の路線で争ったからどうなった、とは正直言って思えません。今枝弁護士は何も事実関係を争うなということで弁護団と分かれたわけではないですし、今枝弁護士と弁護団の方針のずれは、主張の「力点」のおき方だったと記憶しています。今枝弁護士の主張は全く主張されなかった、と言うわけでもないのでは？と考えています。また、弁護団も、殺意否認関連はもちろんながら、その他の部分でもなんとかしようと、おそらくは反省させるために努力したのだと思います。謝罪の手紙が送られたり、とか。（その処遇がどうかは、今更語る必要もないでしょうが）高裁の裁判官だって、別に弁護団を名指しで非難したわけではありません。それどころか、この弁解は「被告人のものだ」という判決文は産経新聞の判決要約にも記載があります。今枝弁護士の方針を採っていれば･･･と言うのは、可能性がない、とは言わないまでも険しい道のりであり、弁護団の方針が誤りであったことということには到底ならないであろうと考えます。なお、今枝弁護士と弁護団の経緯は私も詳細を記憶しているわけではありません。今日はほとんどテレビなど見ていないですし。何か誤りがあるならば遠慮なく指摘をお願いしたいと思います。※※※※※第二次追記※※※※※毎日新聞の記事は、最初読んだときは正直衝撃でした。判決は新供述について、「虚偽の弁解を弄（ろう）したことは改善更生の可能性を大きく減殺した」と批判。「２１人の弁護団がついたことで、（被告は）刑事責任が軽減されるのではないかと期待した。芽生えていた反省の気持ちが薄らいだとも考えられる」と弁護団の存在が元少年に不利な状況を招いた可能性を示唆した。判決の弁護団がついたことで･･･の部分は、最も詳細と思われる産経新聞の要約には見当たらなかったし、マスコミがここをとらえて大騒動と言うことは別になかったのですが･･･。もちろん、周辺文脈はよく分かりません。弁護人がせっかく熱心に弁護をしたのに、裏切ったと言う意味でも被告人の刑事責任は重い、と言うニュアンスかもしれませんし、最初は衝撃を受けましたが、ちょっと落ち着けば直ちに弁護人を非難するニュアンスを導くことはこの一部分から直接は導けません。第一、弁護人は当然つくし、その利益を擁護するために最善の弁護をするのが大前提（日弁連弁護士倫理46条）ですから、それに手前勝手な期待を抱いて反省しなくなるなら、被告人は所詮はその程度の人物だったと言うべきでしょう。まさか、精力的に弁護をしたらそのせいで反省しなかった、不当弁護だと言うのが本心なら、高裁判事でありながら刑事弁護を理解していないと言われても文句は言えないと思われます。なお、法務省幹部とやらは「明らかにおかしかった」と言っていますが、ぜひその法務省幹部とやらに上記の質問に答えていただきたいな、と思います。

  2008年04月23日

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• 死刑判決を受けて～マタイ受難曲を聴きながら～

  　私が聴いているマタイ受難曲は、ジョン･エリオット･ガーディナー指揮のものとカール･リヒター指揮のものです。（ちなみに、ニコ動画やyoutubeにアップされている冒頭の初音ミクバージョンも割と気に入っています）　意図していたつもりはありませんが、考えてみればこれは「死刑」の曲でもあるわけですね。前々から愛聴曲でしたが、今日はいつになく沈痛に聞こえます。　　判決は、大方の（「私の」とは言いません）予想通り、ということになりました。　「死刑判決」の報がほぼ確定に私のところに入ったのは、私の持つパソコンの時計で12時2分でした。　私は、穏やかに寝過ごして、目が覚めたら判決が出ていた･･･となることをホンネでは望んでいたかもしれません。ただ、そうなれば判決がどちらであろうと私は判決に対する狂騒曲に怒り狂うのが先だったかもしれませんから、これでよかったのかもしれません。　もちろん勉強はしていますが、私の朝起きる時間はルーズにできているのです。下手すると午後まで寝ていたりもします。しかし、睡眠時間4時間程度で朝早くに目が覚め、私の4時間睡眠としては珍しく眠気は蘇らず、結局判決時刻にテレビの多数画面サーチを使って見ていました。最近は食事時とその周辺以外ではテレビを見ることはないのですが。　開廷日時の午前10時、私がそのとき大きくつけていたのはテレ朝だったと思いますが、記者がこけつころびつと言った風情で「主文後回し」の報を持ってきました。　主文は、「被告人は無罪」とか、「被告人を懲役○年に処する」というような、被告人をどう処断するかを述べる文章。何ページ、読み上げ数時間にもなるような判決の中でほんの数文、読み上げ時間1分にもならないようなものですが、まさしく裁判の「要」と呼ぶべきところです。　本件の判決なら、「原判決（注：第一審判決）を破棄する。被告人を死刑に処する。」といった感じだと思われます。「最初の高裁判決」は最高裁が既に破棄していますが、一審判決自体については最高裁は特に何も述べていないので、形式的には一審判決が今なお有効と考えられるためです。普通、刑事裁判では真っ先に判決理由主文を述べます。（映画「それボク」でも真っ先に判決理由主文を述べていました）しかし、死刑など一定の重大な罪を言渡す場合には、主文を後回しにすることがあります。あんまり衝撃的な判決の場合、主文を言われると理由を聞いてない、と言うことがあるためです。（「それボク」のラストでも有罪判決を受けた被告人は呆然として理由を聞いていなかった）予想通り、マスメディアの多くは厳しい判決だ、と一気に来ました。BPOの意見書が出ていたせいか、思ったよりはましだった気もしますが、判決理由前にあれこれと専門家にコメントを求め、判決が読み上げられている最中からいちいち分析をはじめ、それに平気で応じる神経は、やっぱり分かりません。NHKもそういうことをやっていました。　判決言渡し～主文は２時間でした。何年も判決を待てないと言うのならともかく、数時間の主文言渡しも待てないのでしょうか？　被告人の発言が本気なのか、言い逃れなのか、言い逃れで考えたら本気でそう信じてしまったのか、個人的推測はしていますが、私にとって被告人は会ってもいない人なので、述べるべきではないと思います。　本村氏の記者会見の様子も見ました。感想は・・・「私の能力では論評できそうにありません」ということでしょうか。　死刑制度に大まかな知識（もちろん、その気になって準備した上で語れと言われれば1時間くらいは語れると思いますが）だけであっちふら、こっちふらしている私としては到底敵いそうにもない犯罪認識です。テレビ越しなのに、気圧されました。囲碁強豪と「直接」対峙して打っていても、こんなに気圧されたことはありません。　もちろん、彼の言い分におよそ間違いがないとか、そういうつもりはありません。これまでしてきた批判を全面撤回する気もありません。しかし、私自身の思考として、あの「死刑死刑」と騒ぐだけの、ネット世論と比べていた面がなかったか、改めて自戒させていただこうかと思います。　最近涙腺がもろくなってきつつありましたが、私としては今日はいつになく涙腺が活動しています。「人間ではない」「あんたのようなバカが法律家になるのは空恐ろしい」「こんな青いことを言っているようでは弁護士になっても仕事は来ない」と言われるような人間のいうことですから、信じてはもらえないかもしれませんが。　私自身、現在「高次社会法学」みたいなものを少し考えています。　もし仮に世界に国境がなくなり、しかも人類の知性が進んだら、法（刑事法も民事法も公法も）というものはどうなっていくだろう？あるいは、宇宙に人類のような生物が文明を築いて、しかも人類とは比べ物にならない文明を築いた種族であるとして、どのようなものなのだろうというのを想像している訳です。最終段階があるとして、最終段階までどのような紆余曲折をたどるのか？というような、いわば思考実験です。もしかすると、彼の思考と通じるものがでてくるかもしれません。　　しばらくするとまた動きがあるかもしれません。追記するかもしれません。※※※※※※※※※※第一次追記※※※※※※※※※※綿井健陽氏のブログが燃え上がっています。光市事件関連では数少ない、弁護団側寄りの情報発信をしていた人物であり（雑誌などにいくつかの記事もありました）、ネット上に記者会見の模様が流れたことも彼の功績であると聞いていますが、判決前に「判決がおよそ荒唐無稽と言うことなら責任を取ってジャーナリスト活動をやめる」と書いたのに反応した一部の人たちが、また汚い言葉（慇懃無礼も）や絵文字で罵っているのが印象的でした。2年ほど前、ちょうど当該ページのコメント欄でここが紹介されたので私も彼をはじめて知ったのですが、炎上騒ぎは私のページが紹介されているすぐ下で起こっていることでもあり、私としても不愉快この上ないです。別に私は彼が辞めようが辞めまいがどちらでも批判するつもりはないですし、（前言撤回をすればその点は軽いんじゃない？と言う感想を持ちますが）そもそも判決文をきちっと読んでいない以上およそ荒唐無稽とまでいったかどうかはっきりしない面もあるわけですが、あの手の悪乗り言説にはほとほとうんざりしています。死刑に賛成するななどというつもりは毛頭ありませんが、本村氏の厳粛かつ沈痛な訴えに対し、ネット住民が「支持」と称してやることはこれなのか、と言うと本当に哀しくなります。一部のはねっかえりの所業が目に付いているだけだと考えられればいいですが。※※※※※※※※※※第二次追記※※※※※※※※※※今度は、安田好弘弁護士に強制執行妨害（認定は幇助らしいです）で東京高裁で逆転有罪判決との報。まあ、私は強制執行妨害事件自体はよく知りません（多数の弁護士から、これを有罪にされては会社建て直しをアドバイスできないと言う意味で反発の声が上がっていること自体は知っていますが）し、光市事件については私は「安田弁護士ならずともまともな弁護士はこういう弁護をせざるをえないのではないか」と主張しているわけですから、この件に関して、有罪判決が出たからと言ってこれといって見解を変更する必要はないと考えております。罰金刑、と言うことですから、弁護士法上の弁護士欠格事由には当たりません。また、弁護士法上の懲戒処分は除斥期間（3年）を経過しており不可能とも考えられます。もっとも、判決確定時を除斥期間起算点と考える可能性もあるかもしれませんが、資料不足でもあり私には判断いたしかねます。少なくとも、徹底的に事実にこだわると言う安田弁護士の刑事弁護人としての姿勢（と報じられているもの）については、尊敬に値するものと考えています。たぶん、マネは出来ないしマネをしなければならないような事件には絶対に遭いたくないというのが本音ですが。

  2008年04月22日

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• 差戻し控訴審判決は明日です。

  　今日は裁判本体の話です。　この件で、広島高裁は、最終弁論の終了（昨年の12月4日）から、判決期日を4ヶ月半後に設定しました。　冬休み期間をはさんでいたとは言え、秋田の連続殺傷事件で審理終了―判決が2ヶ月であることを考えれば、相当遅いと思われます。これが何を意味するのでしょうか。　もちろん、高裁のキャパシティ上やむを得なかった可能性はありますが、私には、慎重に審理する必要があると考えたゆえだと思えます。弁護側の主張を認めるか認めないか、心証がなお完成していなかったか、いるとしても双方の主張に関して徹底的に審理、おかしな点はおかしいと潰すための時間が欲しい、ということではないのか、と思われる訳です。　また、この判決においては裁判所の事実認定並びに量刑理由に限らず、傍論にも、ちょっと期待したいところがあります。井上薫元判事はこういうと怒り狂うかもしれませんが。　かつて、和歌山カレー事件で被告人の黙秘権行使について批判が起こったとき、和歌山地方裁判所の判決は黙秘は一切事実認定の資料とはなっていないことを明言した上で、（これ自体は法的に当然と解されており、判決文に書く必要はない）なぜ黙秘権が必要なのか、それをわざわざ市民感情からすれば当然かもしれない、と言った上で、それでも日本の誤判防止のための訴訟構造をぶっ壊してしまう、批判の声はもっと違う方向に向けてもらいたいと言うことをいいました。　もちろんこれは広島高裁の判事がそうすべきだ、という意味ではありません。しかし、判決傍論や関係者に対する訓戒を始め、裁判所が何を言うかは、一つの注目事項です。もちろん、何も言わないかもしれませんが。　また、確定後に鳩山法務大臣がまた物議をかもすようなことを言い出す匂いもします。　判決がどの方向に転ぼうと、私にはその内容を批判する材料はおそらくないと思われます。　材料にすべき事項なら私の手元にもいくつかありますが、それにも限界がありますし、精緻な検討というべきことは私はほとんどしていないし、している時間もないからです。　最初にこの事件をここで扱ってから2年1ヶ月ほど。その間に私は大学院に進学し、卒業しました。奇しくもここが「本格的に」この事件に首を突っ込んだ最初の記事「ますますうんざりの弁護士非難」から今日でぴったり2年です。　しかし、差戻控訴審の実質審理は6ヶ月半だったのですから、破格の短さです。未成年への死刑適用・最高裁で無期判決を軽いとして破棄差戻しと言う点では類似する永山事件では、最高裁の差戻し判決と差戻し控訴審の判決に3年8ヶ月のブランクがありました。　光市事件は1年10ヶ月。最初の11ヶ月は公判開始すらしていなかった訳です。少なくとも実質審理期間については、裁判迅速に関して要請が高まったとはいっても、破格の速度というべきです。それでもとろいと文句を言うのは、イチローが5割打っていないと非難するようなものですし、この速度が可能になったのは弁護人が21人ついたからでしょう。　また、懲戒請求をした人たちは、自分たちの請求が通って弁護団が辞任すれば、裁判がもっと遅延した可能性があること、下手をすれば、懲戒請求に対応する手間のせいで審理が遅れる可能性もあったことを認めていただかなければなりません。　それでも、判決が死刑に転んで、被告人から上告がされなかったとしても（実際上は考えにくいですが）、決して事件は終わりではありません。昨日書いたことも含め、この事件を通じて検討課題となったことは決して少なくないのですから。　ただ、死刑判決ということになれば、ネット世論は意外と静かになるような気もします。死刑になった時点でおそらく弁護団批判派の批判行為も通り一遍のものに過ぎなくなると思われるためです。少なくとも、最高裁差戻し判決のとき、私の知るネット言論は沸いてはいましたが、意外と攻撃性を見せていませんでした。弁護団の最初の記者会見のときとか、橋下氏を弁護団が提訴した報道のときなどの方が全然沸きあがっていた印象を受けます。橋下氏騒動の時のような半分炎上状態も、判決論評のときは火種すら見つかりませんでした。（バカバカしいことを言っている人はいましたが）　ちなみに、この事件であれば、死刑判決に対して弁護人が上告をするのは当然であると思われます。おそらく、被告人の意思を確認せずに上告をすることも許されるでしょう。被告人が嫌なら自分で取り下げて、ということです。一事の気の迷いで上訴権放棄というようなことをしては困るので、安全弁としてその程度の便法は許されると言うべきでしょう。　ただ、上告については、バカ騒ぎをする連中がでないとも限りません。判決に対して弁護側も上訴する、というのは、たたかれていることがよくあるのです。光市の件では、不利になることなんかないのに控訴しなかったくせに…何とか言いつつ、秋田の児童殺傷事件ではすぐに控訴するなんて反省していないんだとか何とか言うようなダブスタ言説もあります。（後者の言い分を認めるなら、検察が控訴しているときに控訴しないで恭順戦略をとるというのはますます合理的な発想です）有罪判決で、検察側も上訴したあるいはすることが強く予想されるならば、普通は弁護側も上訴しておいた方が立証の方針が立てやすい（今枝弁護士談）わけですが。　もし、無期懲役判決、ないし傷害致死罪ということでの有期刑処断なら？考えたら、想像するだに恐ろしいことになります。　おそらく、「弁護士・未熟な人間・今枝仁」「弁護士のため息」「元検弁護士のつぶやき」などといった多数の弁護団支持（誤解のないように言っておけば、弁護方針が全面的に妥当なものだったとまで言っているわけではなく、各人各様のスタンスがあります）ブログは史上最大級の炎上状態になるものと思います。既にたかじんのそこまで言って委員会の掲示板でさえ、すちゅわーです弁護士らの大奮戦でアンチ弁護団は鳴りをひそめていますが、判決によってどう転ぶかは、わかったものではありません。おそらくここにも何らかの形で影響が及ぶでしょう。というのも、死刑にならなかったのは弁護団のせいだ、という点で、弁護団批判派の怒りは頂点に達することが予想されます。判決を見れば納得…と言う予想は、正直できません。彼らは、弁護団その他が必死になって何を言おうと聞かなかった身です。先日、謝罪の手紙について内容が公開（ニュースになったのはほんの一部でしたが）されても、中身も見ずに、「弁護団もろとも」こき下ろす人たちが多数派でした。この分では、彼らは、死刑以外の結論を受け入れる気はないし、それに茶々を入れるような言説は認めたくない…と考えざるを得ません。つい先日、BPOが報道が感情的なものである、と手厳しく指摘した意見書がでました。しかし、それにもかかわらず弁護団がおかしいんだ、ということを言い放ってはばからず、BPOに至るまで、公開されている文章を読んだとは考えられない理屈でこき下ろす人たちも相当多数います。報告書はさらっと読みましたが、特別違和感はありませんでした。私のような法的視点からのものだけでなく、報道と言う視点からの報告がむしろ中心であり、文章としても読みやすく、これは多数の人に読んでいただきたいと思います。なお、関連して私の学部時代の師匠（刑法学者）は「新聞にコメントしたら内容が違って書かれていた」と講義で語っていましたし、大学院時代の師匠（刑事実務家出身）２人は「一度テレビに出て奥歯にものの挟まった言い方をしたらテレビにお呼びが全くかからなくなった」「取材に来る記者を最初に教育しないといけない」と語っていたことを私からの追加情報として付記しておきます。　他方で弁護団擁護派としては高裁判決をも盾にとって（高裁判決が全面的に正当であると言う前提に立たなくとも）弁護側の主張の何が悪いんだ、ということになります。　もちろん、私もこれまでより遥かに辛辣な批判を繰り広げることになるでしょう。私は結果オーライをこの辺の問題ではあまり認めない主義ですが、それでも最終結論的には正しい部分もある可能性もかなり高いと考えたからこそ、多少は遠慮していました。しかし、判決がそうなってしまえば結果オーライの結果さえついてこないからです、判決内容によっては公式にその発言の問題を取り上げ、糾弾しようかと考えているところがあります。（むろん、個人的感情も前提にありますが）　また、テレビなどに登場したコメンテーター弁護士に対しても、弁護士会は職権で調査に乗り出すべきではないでしょうか。懲戒請求という形をとることは先日の判例から難しいとしても、それならば弁護士会が社会的な問題は職権で調査すべきは当然です。マスコミ上の表面的報道だけで「弁護団は死刑廃止が目当て」とか言っていたのは何も橋下氏に限りません。彼らが十分な調査をしたのか精査し、ろくに調査をせず法律家としてのコメントをテレビ上で放ったとすれば、懲戒処分も視野に入れて断固糾弾される必要があります。弁護士個人の言論の自由は尊重されるべきですが、調査もしない発言の自由を弁護士会が認める必要はないと考えます。　あるところで、死刑以外の判決になったら大変だろう、と書いたら、でもこれまでの議論もあるし、大丈夫じゃないか、というような意見もありました。また、むしろ再度弁護制度を理解してもらえるチャンスかも、とあくまでも前向きに捉える方もいました。　非難するつもりはありませんが、すでに多数箇所で議論が進展して、判決が出て、今なお理解しない、しかもそれでも突撃をかけてくる方々相手に、あの膨大な大論陣を見ろ、といったところで話は進まないように思います。　総論として被告人の利益になることが分かっていても、刑法体系とかがわかっていないので各論になると全くの意味不明になってしまうのは、当ブログでも経験しています。イッパンロントシテケイジベンゴハヒコクニンノリエキノタメニオコナワレルベキ･･･と音で憶えていても、それだけでは理解できたかどうか怪しいものだ、ということは、映画「それでもボクはやってない」関連で指摘いたしました。　刑事弁護は、所詮は多種多様な社会現象の一つに過ぎませんから、音で覚えること自体は仕方ないかもしれませんが、それを盾に自分は中立だ、みたいなことを考えられると、大変困ってしまいます。判決で、これまで理解しているように見えた人たちのその陥穽が如実に現れてこないか、というのも一つの懸案事項です。　もちろん、裁判所はこんな外野のことにとらわれず、判決文も既に用意したことでしょう。こんなよそごとを気にして判決を決定したと言うのであれば裁判官失格です。（神業のように論理を駆使して気にしてもいいといって欲しい気も実はするのですが）　　個人的に、判決予想は禁句とします。　最後に。　なくなられた本村弥生さん並びに夕夏ちゃんの命日（つまり犯行日）はつい先日、14日でした。　二人のご冥福を改めて祈ると同時に、適正な判決（それが死刑だ無期懲役だというのではなく）が下されることを願って止みません。

  2008年04月21日

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• 差戻し控訴審判決2日前です。

  　明後日は、光市母子殺害事件・差戻控訴審の判決言渡しです。言渡し前だからこそ言えること、判決が出た後に語っても言い訳がましくなってしまうことなどを今のうちに洗いざらい語ってしまおうか、と考えています。この記事は、少なくとも判決以降に追記することはありません。ある種のアリバイとしても使うつもりです。　けっこうたくさんありますので、その一部を今日は記載します。明日公開する予定の文章もほぼ出来上がっています。「一連の文章」としてお読みください。　今日は、本村洋氏に関することです。　昔、本村氏が無期懲役の判決に不服のあまり「自分で殺す」と言っていたころ、当時私は高校生くらいだったと思いますが、ちょっといくらなんでも荒っぽすぎる、ということを感じていました。バッシングを肯定するつもりは毛頭ありませんが、燃料にはなるだろうな、とは今なお思う訳です。　今だって、個別の発言を取り上げて、批判していけばそれは違うんじゃないか？と思う点もいくつかあります。そういう点の批判から文章を書いたことだってあります。　ただ、それでも私は本村氏に対して高く評価をしていると言うことは、知っておいてもらいたいと思います。　私は、直接会った事があるわけでもないので本村氏の知識量がどれほどのものかは知りません。並みの検察官よりしっかりしている、というような検察官（院の私の師匠の一人）の話も聞いたことがありますが、法的知識・論理力の話なのか心構えの話なのかは分かりません。個人的にはたぶん後者なのだと思いますが。　本村氏に対する高い評価の原因、それは「自分が遺族であるということばかりを振り回さない」ということにあると思われます。　もちろん本村氏が遺族であること、同時にそれが原因で現在のような被害者関連の諸問題に取り組むようになったことは、今更疑うまでもないでしょうし、それを非難するつもりは毛頭ありません。　そして、本村氏はこの問題に取り組むために外国まで視察に行き、被害者問題に関して相当な量の勉強をしているという話を聞いています。　この事件でだって、沸騰するネット世論と異なり、少なめに見積もっても表立っては検察vs弁護で攻防の結果裁判所が出すべきなのが判決であり、その結果として死刑が正当であるという立場を維持しているのだ、と考えられます。何を言われようとそんなの関係ないという態度には、少なくとも私には見えません。　私は以前から、被害者問題に進展を見せるためには、少なくとも活動をする被害者自身がある程度強くならなければならない、という点を主張してきました。もちろん個々の被害者にそうあれというわけではありませんが、何とか進展をさせようとするなら、そこには厳しい道のりが待っている、ということなのです。　もう書くのも何度目になるかわかりませんが、10年位前までは犯罪被害者というのはまさしく忘れられた存在でした。ですから、法律家や議員などの目線を被害者にとにかく向けさせれば、それだけで一定の成果を上げることができたのです。　ところが、被害者救済の対策も、だんだんと手詰まりになってきました。意識を向けたとしても、旧来の刑事裁判の基本枠組みを動かす訳ではないですから、単なる実務的工夫として認めてもよいかな？というようなことは割とどうとでもなりますが、そこから先をなんとかするには、強固な理論武装、しかも実務にどっかりと根を下している方々を揺るがすだけのものが必要になります。　これまで感情でも動かなかったものに対し、いくら感情圧力だけをかけてもムダだし、逆に感情しか根拠がないのか、というツッコミを覚悟しなければならなくなるということです。　その先を求めるとなれば、感情と同時に理屈でもがっちりと武装した上で論戦をしなければなりません。被害者団体などに参加して知恵を貸している法律家や学者は数知れませんが、ちょっと新説一発で全部ひっくり返せるほど甘いものではありません。　そして、そういう武装するに際しては、味方であるとしてもそれは通じないと言う手厳しい洗礼を浴びることだって必要になる可能性は決して小さくないのです。　遺族だから何を言っても、まあそういう感情を抱くのはしょうがないんだろうな・・・と言うことで終ってしまっては（現実に、私自身そう思ってあげつらったりしないで流している遺族の発言は決して少なくない）、結局社会的な力にはなりません。けっこう有名な遺族の方でさえ、法制度に対する無理解が先に立ってしまっている・・・と嘆いていたのは、日弁連から厳罰化と非難された少年法改正を「推し進めた」実務家なのです。別に被害者が嫌いだから、尊重の必要がないから言っているのではなく、やっぱり全体像を理解していないと法改正の類はうまくいっていかないという意識があるのだと思っています。　その点、遺族感情に安住するだけではなく、自ら発言権を勝ち取りにかかって相当な勉強をしている本村氏の態度は敬意を表するに値すると同時に、今後の被害者関連の諸問題においてはぜひとも必要な姿勢であると考えている訳です。彼ばかりを神格化するつもりはありませんが、彼でなかったらここまで進んだか、というのはやはり一つの問題でしょう。　まだ施行されてはいませんが、刑事裁判の被害者参加制度ができました。旧来の裁判制度の枠組みからすれば、はっきりいって「信じられない」制度でさえありますが、導入された以上は、当然しばらくはそれに基づいた裁判がある程度は行われるはずです、　そして、そこにおいて法廷混乱の実績が積み上げられてしまうと、せっかくの被害者参加制度が運用においてだめにされてしまうおそれがあります。裁判所には被害者参加を認める・認めないの裁量がありますから、「疑わしきは使わず」ということになってしまう恐れが出てくるわけです。　被害者の依頼を受けた弁護士の参加も多数予想されますから、法律家たちのノウハウ蓄積も必要になってくるでしょう。というより、おそらくもうやっているのではないか、と思います。　発言権を得るには、情だけではどうしようもない、というのが現実です。人の生命を情だけで扱ってよいという考え方ができるほど、人間は高等生物ではありません。しかし、情が理を動かすことそれ自体が必ずしもいけないことではありません。　何百年何千年かして、人類全体として、その知性が進んで、現在の裁判制度の誤謬が発覚しているか、当時の制度としてはそれはやむを得なかったが、現在の人類がそんな制度を取る必要はない、ということにもなっているかもしれません。現在のような裁判制度なんて、300年前には考えられなかった制度ですから、今から何百年先がどうか、なんて誰も予測できないのです。　そうなったときに、その進んでいた原因になっているのは、もしかしたら本村氏か、あるいは彼のように情と理を結び付けるべく奮闘した被害者や遺族の方かもしれません。今の刑事裁判をめぐる諸制度は根拠のあるものだと信じて私は疑っていませんが、そういうこともありえるのですから、なんか変だ、と思う各人の感情それ自体は、大切にしていてよいのではないか、と思います。以前、あるページ（現在は消滅、私のパソコンに保存してあります）でこのような言葉を見つけました。記載日時は6年前、第一次控訴審判決のすぐ後です。「本村氏は、初期は感情発散中心だったが、だんだんと厳粛な怒りに昇華して来ているように見える。本村氏の言葉に反発できる理屈を持つ人はそうはいないだろう。しかし、本村氏は聡明な方ではあるが、周囲が自分と同じように考えてくれると期待しているような気がする。もしそうなら、周囲は事件が終ったら忘れてしまう。それは間違いだろう。」　本村氏がその内心においてどのような期待を持っているのかはわかりません。被害者救済のために発言してきたのに、死刑に関する感情だけが大きく扱われる旨言っていたという話も聞いたことがあります。報道との関わりも、本村氏は割りと考えているらしいです。　しかし、この言葉がぴったり当てはまってしまいました、ということにならないように、その意味で事件を風化させてはならない、ということを肝に銘じる必要があるでしょう。　被害者救済の問題は、刑罰の厳罰化や刑事裁判のテクニックの問題に限りません。一つの大切な要素であることは間違いないですが。　民事実体法では、不法行為法における救済を待つ必要があります。時効制度などにメスを入れる必要があるかもしれません。民事訴訟においても、その立証のやり方をどのように行い、どれだけ迅速に進めるか、ということを考える必要があります。　行政のあり方としても、犯人から取れないときのために、見舞金や補償金のあり方を考え、行政サービスの内容を考えていく必要があります。　国民一人ひとりだって、報道を見て脊髄反射的な反応が時として何の関係もない遺族や被害者を傷つけている可能性に目を向けなければなりません。本件だけ被告人死刑を主張して遺族の味方になった気になっていてもよそでは報道鵜呑みで被害者も悪い遺族も悪いといっているようでは落第点です。　もちろん個別に専門家になれ、ということではありません。ただ、事件が終わったから、問題点があるということも忘れてのほほんと考えていては困るよ、ということなのです。（この話続く）

  2008年04月20日

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• 自衛官宿舎ビラ配り事件有罪判決の感想

  　まあ、憲法・刑法においては重要な判例となることが予想されますので、とりあえず読んでみました。判決文はこれ。　結論的には、最高裁の判断が不当である、とは私には考えにくいものがあります。　住居侵入罪における「人の看守する邸宅」の定義該当性は、最高裁も比較的こまごまと検討を加えています。（もっとも、「住居」「看守邸宅」「看守建造物」の区別はそんなに重要なものだ、とも思っていないのですが）その上で、建物を人の看守する邸宅に当たる、としたわけですね。　宿舎の個別部分は「住居」に該当すると思われますが、その他の部分は看守する邸宅、と考えたものと思われます。　その上で、管理権者の意思に反する立ち入りが「侵入」に当たるという定義の下、意思に反していたことは明らかであるとして、侵入罪の成立を認める…というのも、これまでの判例の枠組みからすれば適当なのではないでしょうか。　「侵入」の定義には、住居に関して管理権を持つ者の意思に反した立ち入りが侵入に当たる、という住居権説と、住居の平穏を乱す態様での立ち入りが侵入に当たるという平穏説が学説上は割合有力に対立していますが、判例通説は住居権説を適当と考えているとされます。これが平穏説なら、ビラを配るのが平穏を害するとはいえない、として不可罰という立論も可能になるのではないかと思うのですが、住居権説からすれば少々厳しい理屈にならざるを得ません。　　ここまでは、一審の無罪判決も認めているところです。ちなみに、もう一件、葛飾でマンションの立ち入りビラ貼りが起訴された件で二審有罪判決（罰金５万円）で現在最高裁に係属中ですが、その一審無罪判決は、こういった要件を考慮して無罪判決を導いています。　その上で、表現の自由の点がこの判決に関してよく主張されていますが、個人的にはあんまり筋のいい議論とも思えない、というのが本当のところです。表現の自由を盾にすれば住居の侵入が許される、という理屈は、おそらく誰も取らないでしょう。　もちろん、その点を考え合わせて可罰的違法性を欠く、というのが一審の地裁における無罪判決の骨子になっているわけですが、住居権も憲法上の権利の一角と考えられる（３５条、犯罪捜査といえど、令状なくして立ち入ることは許されない）訳ですから、住居侵入罪の保護法益を住居権説でとらえる限りにおいて、住居侵入の要件該当性のところで侵入該当性を認定してしまった以上、更にそれを超えて可罰的違法性を欠くという立論は相当に厳しいのではないか、というのが私見です。構成要件解釈を超えて、正面から可罰的違法性がない、という考え方自体は判例上も承認されていますが、実際上ほとんどありません。ちり紙盗んでも窃盗既遂にならない、というような判例や、タバコを別の店から定価で買ってきて定価で売っても罪にならないと言う判例なども、多くは窃盗罪における「財物」概念やタバコ専売法における「販売」概念の問題として処理されたものです。　まして、それ自体を違憲云々の立論は、相当無理があるように思います（無罪判決の地裁判決でさえ、憲法２１条から疑問ありと入っているが処罰は違憲とまでは言っていない）。最高裁への上告理由が憲法違反と判例違反に絞られているので、憲法違反として記載する趣旨もあるでしょうから、まあ理解できるといえばできるのですが、これが採用される、とは思えません。ビラ配りは一つの有効な表現手段であることは否めませんが、ビラ配り以外できんのか、と言われればおそらくはできるという結論以外は取れないと思われるのです。ただし、この事件に関しての感想は、決して筋のよいものとはいえません。本判決が下した判決はあくまで罰金刑です。しかも、この事件の捜査のために７５日にもわたって勾留した、とのこと。７５日の勾留がどうしてできたのか、何か別件で逮捕でもしたのか、想像の範囲を越えることはできず、一応逮捕自体は容疑があったのだと仮定しても、起訴されたのが住居侵入だけのようですから、これは問題だ、というより問題外だとさえ思います。　訴訟の経過からして、被告人の側が徹底的に噛み付いたので、そこを捉えての起訴だったのかも知れませんが、政治ビラ配りそれ自体は違法行為でも何でもありません（それ自体を違法としたら今度こそ違憲を疑われるでしょう）。違法行為をやろうとして入ったとは違うのです。それを捜査するために７５日も勾留するのは、まさしく自白や反省を身柄拘束を盾に迫る人質司法だったのではと問われても文句が言えないのではないでしょうか。証拠が不十分とも思えませんし、特に住居不定でもなければ彼らが逃走するとも考えにくいですから、起訴するならするでさっさと起訴すればよかったと思います。　また、起訴決定にも疑問があります。反省云々は起訴猶予にするか否かに関して重大な指標であることは間違いありませんが、そうだとしても、このような事件をいちいち起訴した、というのは余りにも筋が悪いと思われます。いろいろな罪を重ねていて、行きがけの駄賃で起訴したら軒並み無罪でこの罪だけ残っちゃった、などというのはわけが違います。これは違法なんだ、と知らしめるだけなら起訴猶予でも十分（それでも重ねた場合に併せて起訴する）ではないでしょうか。　問題提起として、いいのか？ということを追及したかったのかもしれませんが、筋が悪いと言う感想を否定することはできません。

  2008年04月12日

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• 表現の自由の自殺行為（江川紹子氏の文章に触発されて）

  　これまで追い込み勉強で触れずに過ごしてきましたが、江川氏の文章に触発されたので、私も多少書いてみます。　江川氏の見解は初期は賛同できないものの方が多かったような気がしますが、私の見る限り最近の論考はなかなかだと思います。　私は、表現の自由は、「論争という土俵に上がるための自由」であると捉えています。　誰もがリングに上がればこそ、誤りは淘汰されます。もちろん、説得力のない言説もそこで淘汰されるわけです。そして、そこで形成された正しい言説が政治の場で戦わされる・・・　表現の自由は、民主制を支えるための大切な自由と捉えられ、その制限も相当に厳格なものが要求される、というのが判例や多数説でもあります。たとえ純客観的には適切な制限であったとしても、制限の対象にならないはずの表現の自由を萎縮させるようなやり方さえ、萎縮効果をもたらせば表現の自由はアウトになるということで、違憲になる場合があるとされます。ところが、です。表現の自由が自ら崩れてしまう事態が起こっています。表現行為それ自体を食い止めようとした抗議活動などをおそれ、表現活動のために場を提供する者が次々と引っ込んでしまう・・・そう、映画「靖国」の上映中止問題です。　インターネットなどが普及し、多くの人に手軽な意見発信の機会がある状態になりました。とは言っても、まだまだ情報発信の機会を大きく得るには、出版、映像など一定の大型マスメディアの主を用いるということをせざるを得ないのが実情です。　比較的大きなブログであるここでさえ、アクセスを30万ためるのに1000日以上かかりました。それだって、ブログとしてはかなり早いほうであると思われます。そして、30万は延べ人数で実人数は1000単位、よくて1万とかであろうと想像されます。　また、所詮はブログのただ言論ですから、調査も十分にできなければ信用性も低いと考えられます。　先日、東京地裁で、ネット上の書き込みについて、調査の程度がゆるかったとしても名誉毀損罪に当たらないとする判断が下されました。私はこの判断には首をかしげる部分が少なくないのですが、ひとまずそれを脇においておくとしても、その根拠として報じられているのが、ネット上の書き込みには反論ができるということ、そして信頼性が低いということです。　判決文を精密に検討したわけではないにしても、所詮はネットだろ、眉に唾つけろというのがある程度は公的判断であることに注意しなければなりません。　もちろん、出版や言論が大切だからといって、取り返しのつかない大きな損害をもたらす言論を差止め、場合によっては刑事罰を持って処断することが許されることは、言うまでもありません。名誉毀損やプライバシーの侵害がそうです。　しかし、差止だの刑事処罰だのは、全て公正中立な裁判所が一定の手続を経て行うものです。しかも憲法上の自由がかかっているとなれば傍聴制限をかけることが許されません。（憲法82条）　そこにおいて、映画館などが自ら上映を手控えてしまうというのは結果的にせよ表現活動に大幅な枷をはめることとなります。反論があるならば映画を見た上で、というのができなくなってしまいます。　全く正当性のない言論が、対抗言論によって封じられ、淘汰されるのであれば、これは言論の自由市場が正当に働いている証拠です。したがって、私も論戦を挑んできた相手に対しては厳しく論難することは厭いません。それ知らないよ、というような逃げも認めません。それが怖いから黙る、というのはとどのつまり人と議論ができない人間ですから、わざわざ周囲の表現の自由を後退させてまで保護する必要もありません。　しかし、徹底的に潰そうという動き、しかも対抗言論ではなく、暴力的な結末が怖いから、自ら止めてしまう、というのは既に表現の自由が危ない、ということです。　しかも、そのなかには先日の日教組がプリンスホテルの使用を拒絶された件のように、裁判所の処分にも従わないという、ある意味では暴挙と言うようなやり方でさえ結実しています。　裁判所の処分に従わないことが絶対的に100％許されないか、というと一定の緊急事態においては許容される場合もあるような気はしますが、それでだって相当な緊急事態で他に方法があるとは言えない（他の方法ではより重大な損害が発生する）のが大前提です。将来の抽象的危険を盾にとって止めることを肯定するのは途方もない困難です。警察に依頼するという手もあったわけですし。　警察とて、自由社会の警察である限りにおいて、自由な言説を暴力的に封殺するような行為を許すとは考えられません。検察も同じです。むしろ、言論を暴力で封殺するような行為については厳しい処断をすると考えます。検察官だって憲法を学び、表現の自由の重要性を学んでいることには変わりないからです。　表現の自由を容認するということは、厳しいようですが、論戦の巷が起こるというのを認めることでもあります。周囲が、第三者の抗議のせい、しかも不法行為にも該当するような抗議のせいで迷惑がかかるんだ、といってやめろというのであれば、表現の自由を享受する資格はない、というべきでしょう。私も、ブログなどへのリンクはあまりしないのが通例です。普段書くことが書くことなので、周囲を巻き込みたくないというのもあります。しかし、それはあくまでも私自身の一方的行為に関する、個人的な配慮に過ぎません。私のリンクがどうだからといって、いきなり彼の表現の自由がどう、ということもありません。厳しいようですが、自由社会の維持というのは大変に厳しいことである、警察的監視国家のほうが、ある意味では楽になれることだってあるというのを、日本人全体が学ばなければならないでしょう。　また、助成金を問題にしようなどと図った議員団の行動も、表現の自由のデリケートな性質に照らして問題がなかったかどうか、検討すべきであると思われます。　この問題が一旦信仰の事由に流れ込んだら、政教分離の見地から問題が生じえますが、今回の事件は政教分離がうまくいかなかった場合の弊害・表現の自由バージョンといえるかもしれません。　最後に所感を述べますが、最近の日本人は少し他者に対する寛容というものが薄れているように思います。　法律関係の勉強をやっていると、多少自己の見解とは違っていても、それ相応の説得力があれば「まあそういう考え方もあるのかねえ…」という事で、支持するかどうかは格別、一定の理解を示すことができるようになります。というか私はそうでした。理解さえ示さないのは、要するにどうにも弁護不能という状態になっているわけです。　しかし、最近は意見表明をすることすら許さず、徹底的に潰してしまえという態度が目立つようになっています。ネットの炎上なら、個人の意見表明が集中したと解釈する余地はないこともないですが、光市事件の懲戒請求は裁判所に対する意見表明自体を許さんといって潰そうとした動きであることはテンプレートを見れば一目瞭然です。　自由社会の維持が厳しいということを、今一度国民全体がかみ締める必要があるか、と思います。

  2008年04月06日

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• 今枝弁護士への懲戒請求、退けられる

  まあ、多数の法律家が予想したとおりの展開ですね。正直なところ、欠席事件のある安田・足立両弁護士以外では、一番攻めるとっかかりがありそうなのが今枝弁護士でしたが、それも箱でもって、懲戒委員会にまわすわけでもなく一括懲戒請求棄却。まともな懲戒請求など一通もなかった、と考えるのが現段階ではもっとも穏当でしょう。（弁護士会に問題があるという推測は成り立たないわけではないにしても）決定文は今枝弁護士のブログから読むことができますが、見れば見るほどひどい言われようです。事実は大半が誤認で、一部の事実も好悪の問題に過ぎない、と一蹴されています。以前の東京弁護士会の決定文でも相当苛烈な言われようでしたが、これもひどいものです。この決定文が裁判所に全く正当と認められたら、民事責任を逃れるのは相当に大変なことです。懲戒請求は、今枝弁護士個人だともう500を越えているそうです。対橋下氏の民事訴訟では300通余ということで訴えがきていますが、更にあの後増えたのか、既に出されていた懲戒請求が新たに発覚したのかは残念ながら定かではありません。一挙手一投足に懲戒請求をした者がいないとも限らないため、詳細は藪の中です。　少なくとも、私が懲戒請求を受けた弁護士なら、今回の件で、欠席事件以外で懲戒請求をした者に対しては個別に内容証明郵便を送り、とりあえず話し合いの席についてもらうと思います。　各人に名目的責任として月収の1割程度をお詫び金として支払いながら謝罪してもらい、かつブログなどでその旨の記事を書いた者に対しては記事削除ないし謝罪文を要求するかもしれません。　私は踊らされた被害者だ、としても、その後に何かすることはできたはずです。無責任なネット言論やテレビ言論に踊らされた、という点については同情の余地が十分ありますが、責任がないとはいえません。テレビ言論やネット言論にせよ、そういった動きにストップをかける動きは決して少なくなかったからです。あのテレビ言論でさえ、法律家で懲戒請求支持だなどとは、私の知る限り橋下氏以外言わなかったわけですから。　弁護団が21人いて訴えを提起したのが4人である以上、残り17人については全くの手付かずです。橋下氏への請求が棄却されたら、あるいは全面的に認められたとしても、当然個別の懲戒請求者に請求が行く、というのは考えられることです。橋下氏が政務で忙しいとかいって訴訟から逃げてしまったら、個別の懲戒請求者は、誰もかばってくれません。まあ弁護士に依頼すればいいですが、橋下氏の論理を盾に責任が減少すると主張する弁護士はいても、責任がないと主張する弁護士はなかなかいないと思われます。　ネット言論の無責任はどこまで行っても責任を問われない、というような前例を作ることは、適切であるとは思えません。もし今後、これが裁判員制度の下で起こってしまえば、いや起こらなくともこのような前例があるというだけで裁判員制度が機能不全を招く（裁判員裁判も評議は密室でも審理は公開法廷ですから、裁判員が誰かばれたら大変なことになる）可能性も考えられます。　やろうと思えば責任が問えるということは、知らしめておかなければどうしようもありません。健康的な事態だとは考えられないのですが、既に起こった不健康を是正するには、不健康を再度使うことも仕方のないこととうつります。　今枝弁護士のブログでは、コメント欄が復活して一時ほどの炎上状態ではないにせよ、既に全然事件について知らない手合いからの突撃※コメントがありますが、結局事件に対する動きが鎮静したのも、特に動きがないから、飽きたからと考えざるを得なくなりました。　もちろん、この問題に関して継続的に見解を表明してきた私としては、私の説得が稚拙だったから懲戒請求を止めることが、あるいは十分な検討をしてもらうことができなかったともいえます。　法律家は、裁判を起こしたいと言う者を、勝てないし費用もかかるんだから止めようよ・・・ということが当然考えられることです。私のところを見て理解したといってくれた人たちには大いに励まされましたが、それでもなおも懲戒請求をするといった彼らを説得できなかったという意味では、私にも責任のコンマ一端位はあるのかもしれません。じゃあどうすればよかったんだろう？といわれても今なお分からないし、たぶん方策なんかないんじゃないかな、とは思っていますが、それでも自分の説得能力のなさはちょっと情けない気もします。　もちろん私に限らず、多くの法律家の先生方も同様でしょう。ネットコメントの応酬に生で会っての法律相談の質を求めるのは無理であるとしても、彼らをどうして説得できなかったんだろう、というのは、考えてもいいところかもしれません。　ないものねだり、かもしれませんが。※突撃・・・筆者の造語。反対の見解を持つブログ・掲示板などに敵意を露にして罵声を浴びせる、ないしは批判的見解・挑発的質問を書き込むこと。批判的見解を書き込むだけでは突撃には当たらない。突撃の殺到状態が「炎上」にあたる。

  2008年04月04日

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• 重大な事件なのに不謹慎になってしまうこと

  　光市の事件で、弁護団の報告集会が開かれたのですが、そこでの弁護団の言動などを不謹慎といって非難した週刊新潮の記事がありました。新潮なので針小棒大の可能性が少なくないと思って静観していましたが、どうやらそんなに誤った記事でもないようです。　記事の真実性を前提にすれば、弁護団は何をやっているんだろう、という印象は拭えません。　私は弁護団の弁護人としての行動の評価は客観的な弁護内容自体によって基本的には決しますが、これについてはコラコラという感じはします。年齢の11ヶ月と11歳を間違えたのは単なるいい間違いに属するとしても、何かと笑いが出てくる、しかも犯行再現写真などのところで笑いが出てくるのはいくらなんでもちょっと･･･という印象は拭えません。写真の被写体が誰であるか、というのは場合によっては写真の正確性などを検証するために必要になる場合があるので言ってはいけないとは思わないのですが、それにしてもちょっとひどいでしょう。後述するような不可抗力レベルなら、最低限止めるべきだったと思います。　弁護団が不謹慎であれば、被告人についても不謹慎に見られる恐れがあることも考えなければいけません。裁判官個々人に対する関係ではともかく、市民からそう見られるのが被告人にとって利益になるのでしょうか？　差戻控訴審判決まであと3週間くらいですが、真実であるならば記者会見で謝罪をするほうがよいのではないか、とさえ思います。　ただし、私は、人間という生き物は不謹慎なことを考えてしまうことが多い生き物だと思っています。　本当に不謹慎なことでさえ、笑いがぷっと出てしまうことは、多くの人たちにも経験があるはずです。残念ながら、私はこれは不可抗力な部分があると思っています。　院で、あの「シャクティパット」で有名なライフスペースの代表が治療を受けさせずに死亡させた事件を扱ったことがありましたが、そのとき教授が多分何の気なしに「定説」という言葉を使ったら、教室中にクスクス笑いが広がったことを憶えています。（学界では「通説」という言葉が多用されることが多い）不謹慎ながら私もその一人。曲がりなりにも人が死んだ事件であるのですが。　また、不謹慎なことをしていなければ生きられません。ぶっちゃけ、弁護士は他人の紛争で食べる職種、医師は他人の健康上の苦痛で食べる職種（科にもよるでしょうが）です。他人の紛争や苦痛をタネに得た金で、ただ単に飯を食うだけでなく、酒も飲んで娯楽もある程度はするわけです。　それを否定されたら、弁護士という職業が成り立たないばかりか、弁護士という職業に依頼して裁判を助けてもらうことができないわけで、社会的な損失とさえいえます。　不謹慎といえば不謹慎でしょう。しかし、これらをいちいち咎めることが本当によいのだろうか、と考えると、私にはそうは思えません。　今回の件がそうだ、というわけではなく、不謹慎だ不謹慎だと言い立てることが、本当によいのか、ということはもう少し考えてもいいかと思います。　そして、この件に関して、不謹慎なのは弁護団ばかりか、といえばそう思っていないのも確かです。　当該記事を掲載した週刊新潮は少年法61条を無視し、被告人の実名を掲載していました。以前は彦根市長に「バカ」と言う単語を羅列しまくり、大阪高裁に賠償命令を食らってさえいました。法による裁きを要求していながら、自分では法を土足で踏みにじる姿勢は、法治国家がどうたら以前に不謹慎のそしりを免れません。　懲戒請求すべきだといった橋下氏は、弁護団に対して下世話な用語で罵倒を浴びせていました。これだって十分に不謹慎に当たると考えています。　本村氏の自分で殺すという発言だって、遺族感情として死刑の適正を訴えるものであるにせよ、反抗宣言にも属するもので厳しく言えば不謹慎に属すると私には思えます。立場が立場なだけに誰も咎めないし、咎めるべきだとは思いませんし、今もなおこの発言を維持しているとも思いませんが。　ブログ界では、今なお平気でとっくに真実と違うと指摘されている「弁護団の素晴しき主張」をなんの検討をするでもなくコピー＆ペーストしている人たちもいます。　私だって、今だから言いますがこの事件について不謹慎なことを考えたことがないわけではありません。内容を語ることはこれまた不謹慎に属すると考えるので慎みますが。思ったことをすぐに口に出さずに済むのは、ブログという媒体の小さからぬ利点だと思います。（もっとも、そんな利点を全くないもののように扱っている人は少なくないのですが）　弁護団の上記の発言を不謹慎であると批判することはよいでしょう。正直、私自身としてもガクッと来たのも本当のところです。一部の人が不届きであるからといって連座的に全員の心性をこき下ろすような、藤井誠二氏のような論考はとらないにしても、ほめられたこととは到底いえません。　真実と違う、というのなら弁明した方がよいでしょうし、真実であるのならば弁護団は謝罪すべきではないかと思います。　　正直私は、もう正直弁護団としての情報発信は基本的に打ち切り、弁論要旨や上告趣意書のような客観的に裁判所にいっている情報だけを発信すればよいと思います。もうかなりの情報が発信され、弁護人の倫理についても、心ある人たちは多方面からの検討を既にしているのですから、それでも理解しないような手合いには、何を言っても無駄と割り切ることも必要でしょう。　説明をしたといっては叩かれ、説明をしなければ説明責任があるといって叩かれるのが現状です。藪をつついて蛇を出すより、じっと我慢の子をするほうが策としては適当に思えます。　

  2008年03月31日

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• 違法捜査を量刑上考慮することは許されるか？

  今日の話題の素材はこの記事からです。　違法捜査は、悲しいかもしれませんが厳しく捜査方法に制限をおいている日本の法の下の捜査においては宿命的に生じることかもしれません。　そして、違法に収集された証拠を証拠採用することが許されない場合がある、ということは学説でも現在はほぼ異論はなく、判例でも旧来から認められてきました（最高裁が正面切って認めて現実に証拠排除したのは平成15年ですが）。　特に物証については、違法収集だからって覚せい剤が小麦粉に変わってしまうわけではないのですが、（自白とかであれば、違法捜査が圧力となって虚偽自白を誘発する事態がありうる）そんなものを証拠採用しては違法捜査も抑止できないし、適正手続なくして処罰なしという原則をぶっ壊しますし、司法の廉潔性を害する、と考えられているというわけです。　ただ、違法だからといって全部排除するのは、やはり真実発見の見地から問題あり、とされることが多く、判例上は違法が重大であって証拠採用が将来における違法捜査抑止の見地から相当ではない場合にのみ証拠排除される、と解されています。（最判昭53･9･7）　しかし、証拠排除というのはなかなか使い勝手が悪いのではないでしょうか。　証拠排除をしたって、他に十分に証拠が調ってさえいれば、処罰の結論に関して痛くもかゆくもない結末になる恐れがあります。違法捜査抑止力として本当にいいのか問われる可能性があるわけです。人権擁護の見地からどこまで有効か疑問というわけです。　逆に、証拠排除は真犯人を真犯人と思いながら無罪放免しなければならないという事態を招く恐れがあります。真実発見の見地からも行き過ぎる事態を招くというわけです。　証拠排除自体がいけない、という訳ではないにしても、証拠排除で根本的な解決になるのか、というのはもっと問われていい所ではないかと思います。また、証拠排除がなかなかされないため、結局あまりにもひどい違法捜査だけが証拠排除されるだけか、というのが批判として存在します。　そんなわけで登場したのが、違法捜査を量刑上考慮できないか、という問題です。これなら、真犯人が無罪ということは一応ないですし、極端な違法でなくとも訴追側としては痛い目に遭いますから、一応の抑止効力は働くと思われます。　実は、量刑をどう決めるかについては、明文はどこにもありません。刑法はどこにもないのです。（改正刑法草案には、責任に応じてなどという条文がありましたが）ただ、刑事訴訟法上、性質上類似する起訴便宜主義に関する条文を引っ張ってきてその辺を考慮して量刑を定める、というのが基本路線となっているようです。　その中に、「犯罪後の情状」という言葉があり、ここが手がかりです。　つまり、違法捜査を、広い意味で犯罪後の情状に含める、というわけです。　しかし、これには反対の見解も有力に主張されています。このようなやり方を認めると、かえって証拠排除がされなくなってしまうのではないか、という批判もありました。また、基準があまりにも不明瞭である、という指摘もありました。　一番多い説は、救済がどうこう、抑止がどうこうというのは、国家賠償とか担当者の刑事･行政上の処分（懲戒免職にするとか、特別公務員暴行陵虐などの罪で付審判請求するとか）で考慮しろ、というものでした。　そして、犯罪後の情況といっても犯罪に直接関連するわけではないので、量刑考慮していいものではない、というのがあります。　私自身は量刑考慮可能説を採用しています。最初は4年前ろくに何もわかっていなかった頃に答案練習で初めてこの問題点に接して即興で考えた見解ですが、今になってもこの見解を支持できると思っています。　私は、憲法31条が適正手続による刑罰権実現（処罰）のみを認め、それによらない刑罰権実現を否定している以上、全くの不適正手続（違法手続）によって刑罰権は全面的に実現できないことになります。　それなら、中間的領域として、中間的な違法手続きが存在した場合は、刑罰権は一部分実現できない、つまり処罰の範囲が狭まるという結論を導くことは理論上可能であろうと考えています。刑法理論ではなく、刑事訴訟理論の中で解決できるだろうというわけです。　そして、刑罰権の実現手続に適正手続が必要であるというのは単なる個人的利益の問題ではなく公益的要請です。拷問して取った証拠を被告人がいいと言ったから証拠採用する、なんてことはありえません。違法行為のストップは私益救済という意味ももちろんありますが、少なくとも著しい違法があれば被告人の同意でも証拠能力が認められない、というのは高裁判例もありますし、学説上は多数見解ではないかと思います。適法捜査と認定した上で、更に同意があるからますます問題ないといった最高裁判例もありますが、著しい違法の場合については最高裁でも不明瞭です。　その見地からすれば、部分的違法捜査の存在の量刑考慮も公益的要請であると捉えています。　また、国家賠償との二重救済となる危険の指摘も、そもそも守備領域が違う（追徴課税と脱税処罰が二重処罰にならないのと同様）ということになります。言ってみれば、被告人救済の手法としてではなく、（もちろん結論的な望ましさの補強をするという視点では考慮しますし、このような問題意識が発生したのは証拠排除がうまくいかないことや国賠で救済できないことにあるのはそうだと思いますが）公権力行使に対する縛りとして最初から存在するものとして考えています。　もちろん、これによって副次的に、手間も費用もかかる国賠訴訟以前に救済類似の利得を得られるという点、証拠排除というドラスティックすぎる手法に頼らないで合理的結論が導けるというのはメリットといってよいと思います。　現状でも、犯罪の後に会社をクビになったというような犯罪に直接関係ない社会的制裁の有無も量刑上考慮されています。　また、身も蓋もない言い方ですが、実際問題として、裁判員制度導入で裁判員に量刑判断をさせるというときに、違法捜査を考慮「するな」、というほうが無理な相談だという印象があります。黙秘や余罪などさまざまな問題が裁判員下での余罪考慮にはありますが、これらはまだ結論的に不利益になること自体は容認されています。余罪が情状として、黙秘が自白との対比で不利益になるというのは否定されません。（余罪については扱いに変化が生じますが）　しかし、違法捜査は「およそ考慮できない」。しかも、証拠排除はしない。　「量刑に市民感覚を持ち込むことを認める」裁判員制度にはまるでそぐわない解釈であるように思います。量刑考慮否定説がその辺をどう解決していくか、それとも最初から問題にならないのかは、今後を注視する他ありません。　しかし、この説は旧来の刑罰理論と整合しないのは間違いない（行為に対して処罰を行うのに犯罪行為と全く関係ない違法捜査まで考慮していいのか？という点）などという点から、人気がいまひとつのようです。支持説の私も、理論的に詰めなければならない問題があるというのはほぼ同意ですし、無制限に量刑に考慮していい、とは考えません。違法収集証拠排除のように一定程度の要件をはめることが必要になる可能性は十分にあります。　また、今回の判決理由についても、苦痛を蒙ったこと自体を量刑考慮の対象としているのであるようで、私のように刑罰権の存否・広狭がどう、という理屈を立てているものではどうやらないようです。私の理解は、それなりに自信はありますがあくまでも学生レベルの私見に過ぎない、というわけです。　とはいえ、一つの重要な問題点になりえる領域ですから、検討が深められるのに期待したいところです。　また、もしよかったら、自分が裁判員になったらどうするかも聴いてみたいところではあります。考慮する余地がある、と考える人も、一、違法捜査はあったが被告人含め誰も苦痛を受けていない場合二、違法捜査があったが被告人ではなく無関係の第三者が苦痛を受けた場合三、違法捜査があったが被告人が先に国家賠償訴訟を起こして勝訴判決を得ている（または国などと和解して損害金や謝罪を得ている）場合四、違法捜査があったが違法捜査で得られた証拠は既に証拠排除がされてしまった場合五、違法捜査の態様が被告人に生死の境をさまよわせ、生涯にわたる障害を残すような極限的なものであった場合（証拠排除は既にされている）といったように場合分けして考えてみるとよいかもしれませんね。

  2008年03月27日

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• 後輩たちに祝辞をひとつ

  　　早稲田大学囲碁会の後輩たちが、大学選手権２連覇を賞されて小野梓記念特別賞をもらったとの情報をある情報口からゲット。誰かが卒業式のときに合わせて表彰されて壇上に上がってなにかもらってきたらしいですね。　もらってきたのがどんな人かは見えなかったといっていましたが、たぶんあの人じゃないかな、とあたりはついていたり。　まあ、７年前はある種「優勝できて当然」的な雰囲気がないこともなかった（私だけか？）ので、立命館という格上と思われる相手を撃沈しての優勝はそれに価するものと信じて疑うことはないのであります。　世界に鳴り響く早稲田大学でも最高クラスの栄誉を手にしたことを素直に賞賛し、一応先輩の私もおこぼれで胸を張りたいと思います。　また、来年以降の新人の育成などにも期待したいと思っています。　ちなみに、私も院の卒業には成功しました。まあ、卒業できても何にもならないんですがね。　昨日の模試はまあまあできましたが、復習しなければならないのでこれにて失礼。

  2008年03月26日

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• 磯谷利恵さん拉致殺害事件に関して～署名は有効なのか？

  　名古屋での、磯谷利恵さん拉致･殺害事件を巡って、遺族の方々が極刑を求める陳情書への署名を求めているようです。　事件自体は、磯谷さん自身が私と同様に碁をやっていて、腕を上げていて幸せだった中起こった事件ということで記憶に残っていました。改めてご冥福をお祈りいたします。　この事件に関して、何十万という署名が集まる動きになっている、ということを知ったのは、鳩山法務大臣の手紙の話のときだったのですが。　さて、署名を集めること自体は私は全く非難する意図はありませんし、極刑を求めることも批判しません。　個別的事件に関することには署名をしないのが私のポリシーですし、事件について何も知らないまま、あるいは検察官や弁護人が何時間もかけて調べるような事件について、長くて10分程度の報道で知った気になって死刑を求めると言うような重大なことに関して署名をするのは無責任な行為であると思いますが、事件に関して十分知った上で署名をした、と自信がある人であれば、署名をすること自体も非難は述べません。むしろ尊い善意と言ってもいいかもしれません。　今回私が問題にしたいのは、そのような署名について、裁判所が証拠能力を認めるのかどうか、あるとして重きを置くのかということです。　例えば、まず考えられるのが裁判所に請願すると言う手です。　しかし、裁判所は請願を誠実に受理する義務を負うと考えられます（請願法、憲法16条）が、請願の通りにする義務はありません。裁判所に直送されたからと言って、裁判所がいきなり証拠として調べることはまずないと考えられます。よほど重要な証拠なら裁判所が職権で調べる余地もありますが、どれほど重要と言えるか怪しいのは後述します。　また、いきなり当事者の頭越しに裁判所が証拠調べとなると公正ささえ疑われます。かえって個人情報漏洩の元になりかねないので、即刻シュレッダーにかけるという見解もありました。私は今後の事件の指針にすることくらいはあるんじゃないかと思いますが、いずれにしてもこの事件に直接役立つ、ということはないように思われます。　では、検察官にその写しを渡し、検察官に証拠請求をしてもらうというのはどうでしょうか。少なくとも、これなら公正という見地からは問題はないでしょう。　そして、検察官が証拠請求をしたとして、証拠能力は認められるでしょうか。　署名が伝聞証拠に当たるかどうかも問題があります。仮に伝聞証拠に当たるとすれば、そもそも証拠能力が認められない可能性があります。もっとも、精神状態の供述などという形で伝聞証拠に当たらないという可能性もありうるところだとは思います。　　　しかし、ここを突破できたとしても、あまり展望は明るいとは思えません。　　10年近く前でしたが、和歌山のカレー事件で遺族らが集めた黙秘をしないように求める署名を巡り、とある判事補が法学セミナーに匿名で書いた記事には、こんな趣旨のことが書いてありました。正直言えば、私の感覚に近いです。　「署名が訴訟の内外で渡されることがあるが、内容を本格的に読むことはない。主張は内容の正しさで判断されるべきであって、誰が支持しているかでは決まらないし、署名の趣意書には大事な主張が書いてあるのに準備書面に書かないというような訴訟活動は馬鹿げていてありえないので、そもそも署名を読む必要はありえない」　準備書面、とありますから民事裁判を主眼にあいた文章でしょう（もっともカレー事件は刑事事件ですが、この判事補はその署名を非難していました）が、刑事裁判でも重要な主張を冒頭陳述や論告求刑、場合によっては被害者・遺族の意見陳述では言わずに署名趣意書でのみ書くというのは正直考えられないですから、同じことが言えるかと思います。　もっとも、主張の内容の正しさが国民感情によって決まるのは、特に刑事裁判における量刑という側面ではある程度はある話です。従って上記の文章が全面的に今回に当てはまると言うわけではないようには思いますが。　おそらく私が裁判官ならば、証拠採用したとしても事件の証拠としてはほぼ全く考慮しないのではないかと思います。国民の死刑に関する要求が高まっているのかな、と言うことを知識として入れ、その意味で参考にすることはあると思いますが、この事件において死刑が妥当であると言う証拠に使うことは私ならありません。　なぜか、と言えば署名というのがあまりにも散発的過ぎるためです。　名前を書いた人全員が本当にいるのかどうかさえもわからず（何十万人も確認しようとすると相当な手間がかかります）、いるとしても自分の意思で書いたのかも分からない（署名のたびに名前だけ貸している人は決して少なくないものと想像します）というのが本当のところでしょう。　また、自分の意思で書いたとしても、事件についてどれくらい知識を仕入れた上で署名しているのかがちっとも分かりません。事実認定と量刑手続が分かれていれば、あるいは第一審判決が出された上でその事実認定を広めた上で二審で署名を集めるというのがありえますが、裁判が公判手続にも入っていない現在、事実関係を詳細に知ることができるか、出来るとして署名者が本当に知っているのかというのは裁判官ならずとも当然抱く疑問です。　事件に関して十分な知識を容れた上での署名ならともかく、知識不十分で「拉致･殺害・遺棄」しか知らず、被告人側の言い分も聞いていない恐れがある人の署名では、まともな証明力は期待できません。そして、そうであるかどうかは、署名を見ただけでは分からないのです。事実から離れた感情を事実に無理やりくっつけるのは絶対にあってはならないこと、と言わざるを得ません。　ネット上にアップされている署名の用紙も見ましたが、ただ単に極刑陳情書、と書いてあるだけでは、具体的事件についてきちんと認識しているという保障もなく、本当にどれだけ事件を知っているか全く理解しようがないのです。　署名をしなかった日本の大多数の国民がどう考えているかだって、何千万もの署名を集めてきたのなら格別、数十万の署名では不明瞭です。死刑にしない旨の陳情書と数比べをやるわけではありませんし、私のように刑事裁判官の判断に任せますという立場もありえます。　結局、最低限証明力を確保しようと思ったら、署名した人を裁判所に呼び出して、この事件はどういう事件か知っていますかと尋問することになりますが、何十万人もいる署名者にそんなことをさせては何年かかるかわかったものではありません。犯罪事実の認定に関することならまだしも、量刑事情一つにそこまでのことをさせることは無茶です。　最終的には、こうした署名は遺族の方々への励ましであるとか、検察官に論告求刑で考慮してもらうとか、遺族の意見陳述に際して言及してもらうとか、この事件の裁判官ではなく裁判所全体や司法をめぐる行政に対して、厳罰の要求はここまで高まっているんだな、ということを自覚させるものにしかならないだろうな、と私は考えています。　署名をなさる方々の善意をくさすつもりはありませんが、ただ署名だけで判決を動かすのは、相当難しいのです。日本の特に刑事司法は極めて厳格です。自分の署名で判決が変わる、というのを目指そうとすれば、肩透かしを食わされる可能性は相当高いように思います。思ったようにいくとは限りません。　光市の件の懲戒請求のように逆に訴えられることを心配する必要はないとは思います。　ただし、現在署名を考えている方は、判決にどれほど役に立つかは悲観的に見ておいたほうが無難である事を忘れずに署名をしていただきたいと存じます。

  2008年03月21日

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• 社会防衛・更生重視の刑事法と贖罪重視の刑事法

  刑法学において、今は旧派（古典学派）という考え方が基本的な考え方とされています。これに対し、かつては新派（近代学派）という考え方が相当有力に主張されていました。　学部とかでは、こういった刑法学の対比は深くやることはありません。というか、私は何をやったか全く憶えていません。ただ、学習を進めていくと、これがそういうことかというのが多少は見えてきます。　「刑法」という科目が開設されている場合、その主領域は犯罪の成否、あるいは成立するとしてどの罪か、という考え方（犯罪論）が中心になりがちです。そして、刑罰の目的や種類･あり方論は刑事政策という科目にまわされることが多く、刑法学のこうしたあり方さえ、あんまりやらない、やったとしても試験に出ないため、すぐに忘れてしまうと言うのが本当の所ではないでしょうか。また、司法試験であってもこの領域が問われる可能性は「ゼロではない」程度でしょう。　そして、現在は、犯罪学・刑事学と刑法解釈学は分けて考えられることが多いため、刑法に強ければ現実の犯罪現象や犯罪対策に強い、ということにはならず、別個の勉強しなおしが要求されるのが実態ではないかと思われます。　私の理解も、とんでもない誤りがあるかもしれません。それを前提に読んでいただきたく存じます。　さて、現在の刑法学と、新派の刑法学はどう違うのでしょうか。　例えば、未遂犯論において、未遂に至る「実行の着手」に関し、現在の判例や学説の大勢は「現実にある程度の危険があった場合」を採用します。一例として、毒入りの酒を郵送して飲ませ、毒殺しようとした場合、実行の着手があるのは送ったときではなく、毒入りの酒が到着したときである、とされます。例えば、郵送中輸送事故で割れてしまったら殺人予備罪にしかなりません。輸送事故で割れてしまった毒入り酒が飲まれることは到底ありえないので、危険がないからです。　しかし、新派刑法学では未遂犯に至る実行の着手は「犯意の飛躍的に高まったとき」とか、「犯意の成立が行為で確定的に認められたとき」「取り消し不可能な確実性ある行為があった場合」とします。だから、輸送事故で割れてしまっても送った時点で犯意は飛躍的に高まっている、送ったら取り消しは利かないので、実行の着手あり、殺人未遂という結論になると考えられます。なぜこうした考え方を新派刑法学は採用したのでしょうか。新派刑法学が大きく発展したのが、「生来性犯罪者説」を唱えたロンブローゾの出現によると言われます。彼は、実証的な犯罪研究を踏まえ、犯罪と言うのは全面的ではないにしてもある程度宿命的なものと判断（この辺、人間観が出てくるところです）。そこから、「罪と罰を予告しておけば犯罪が減る」といった思弁的思考による罪刑法定主義による犯罪抑止力を否定し、犯罪の実態に即し、社会から犯罪と言うものを追い払うための処罰を模索しました。こうした実証的研究に基づいて犯罪学を考えたロンブローゾは、犯罪学の父ともいわれ、こうした犯罪学と法理論を結びつける考え方が一時大いに模索され、激しい論争となったようです。　新派刑法学がなぜ登場したのか、と言えば、刑罰をもって脅すという旧来のあり方が、増加する犯罪に対して無力なのではということが自覚されてきたためだ、と言われています。罪刑法定主義で、犯罪と刑罰を予告しておけば各人は犯罪と刑罰の利益･不利益を比較して犯罪を思いとどまる･･･というような考え方は、人権保障はともかく犯罪抑止からは役立たない机上の議論だ、ということが自覚されてきたわけです。新派刑法学の出発点は、「犯罪者に対する処罰は社会防衛という視点からなされるもの」という点にあります。そこから、犯罪者個々人に対する特別予防の機能が大変に重視され、危険人物ということで、そのような人物を教育、場合によっては排除することによって社会からの危険を取り除くために処罰をするわけです。（ちなみに、新派刑法学でも死刑存置論も廃止論もあります）　そうすると、犯罪を生の現象として捉え、抑止などを模索する犯罪学と処罰という番犬に対する鎖を解く場合を模索する学問である刑法学は相当に接近することになります。危険性判断には、犯罪を生の現象として捉えるあり方が不可欠であるためです。　ここにおいて、贖罪という概念は脇に置かれます。例えば、救いようのないような人殺しに対して、2年くらい服役したら完全に更生しました、これ以上服役させても浦島太郎になってしまって悪影響しかありません、ということになったら新派刑法学を徹底する立場からすれば釈放が適正（！）ということになります。旧派からすれば最後まで償っていけ、ということになりますが。新派刑法学の中には、危険性に対して刑罰に変わる制裁によるべきであって、刑罰という観念自体なくなるというようなものさえあったのです。　しかし、現在の学界の通説・刑事実務を支配する刑法の捕らえ方では、処罰は彼のした行為の贖罪であって、反省･更生はせいぜいこうした贖罪に関連する副次的機能として考慮すべきものと捉えます。今でも、犯罪行為自体（被害、やり方、動機など）が観察されて量刑は7,8割が決まる、と私の知る実務家は口をそろえます。周辺情状（境遇とか、年齢とか）は考慮されますが、プラスαの2,3割でしかありません。（もっとも、裁判員裁判でここがどうなるかまでは予測がつきにくいですが）死刑事件とかなら、あるいは短期懲役刑で執行猶予如何を争うということであればまだしも、普通の事件は彼のやったことはなんだ？と言う点をつめるところから入ります。　新派刑法学が現代において採用されなかった理由は、人権保障という見地にある、と言われているようです。刑罰と言えば人権保障とギリギリとの攻防をしなければならない領域ですが、主観に依存しすぎれば刑罰の範囲が不明確となる上に、あまりにも処罰が早すぎてしまい、（毒酒郵送の事例なら、送った直後に後悔して電話をかけ、毒が入っているから絶対飲むなと伝えた場合にも殺人未遂ということになる）のは、人権保障の見地から脅威となる恐れがあるし、そもそも応報･贖罪の見地なくして刑罰を正当化できるのかどうかという点にも疑問が持たれたことがあげられます。（新派刑法学は逆に応報などで正当化できるのかという疑問を提示しましたが）更に、内心の処罰に至って人権保障の見地から問題が発生する恐れもあります。罪刑法定主義の縛りを堅持するとしても（新派刑法学では罪刑法定主義自体に否定的な見解もあったらしいですが）、主観的な面に依存しての刑法は、処罰の範囲が拡大しすぎるのでは、という考えが有力だったようです。　もう一つ言えば、贖罪という概念をすっ飛ばし、危険性で大方を決めてしまう、というのは国民感情にも合わないのではないでしょうか。先述の「懲役2年の救いがたい殺人犯」を想像してください。　また、刑事実務という視点から見ても、証拠から遡れるのは行為と結果、故意過失レベルが精々であり、主観面に著しく依存する刑法解釈は使い勝手が非常に悪いようです。大量に起こる犯罪を処理するのに、個々人の細かい可能性まで検討するのは限りなく厳しいというのが実情でしょう。　刑法がそうであるとすると刑事訴訟法にも影響が及びます。事実の認定はもちろん大切ですが、事実認定が済んだ後も延々と本人の改善や更生の可能性を検討していかないと、適正な刑罰は到底導き得ないことになります。精密司法と言われ、過剰立証で訴訟を遅延させるものだと批判されていた実務のありようだって、新派刑法学からすればある程度当然ともいえます。　また、裁判員裁判では、訴訟進行内での前科ばらしはできる限り慎むことが求められると言われますが、本人の危険兆表たる前科は新派刑法学からすれば非常に重要であること、専門性がほしいところですが、裁判員はむしろ素人性が求められていますから、裁判員裁判で全面的に新派刑法学を用いることは不可能でしょう。　結局、刑法解釈の基礎となる考え方は旧派で現在はほぼ落ち着きました。しかし、新派刑法学vs旧派刑法学は無意味な議論だったわけではありません。刑罰の実務的運用（執行猶予、仮釈放、刑の量定）と言ったところに入って、そういうところで論争が大きく生きていると言う見方もあるようです。　また、少年たちの更生を目指す少年法制では新派刑法学的な発想が非常に強く出てきます。これについては、後日別個に記事にしようかと思います。念には念を入れておきますが、両者は必ずしも二律背反ではありません。贖罪をすることがその更生→特別予防に小さからぬ役割を果たすであろうことは否定できません。刑務所で更生する人だって現実にいるわけです。死刑という判決によって自分のした行為の重さを思い知る者だっています。逆に、本人の特別予防の見地からも、贖罪一切なしというのも問題があるでしょう。彼の社会復帰が社会に受け入れられなければいくら本人に更生意欲があったって結局犯罪に手を染めると言うオチが存在しかねません。とはいえ、背反する場合があることも当然です。常々言っているとおり、刑務所に対する服役がレッテル貼り、社会隔離となって更生阻害となる例は否定できません。犯罪少年に金を使うなんてというような発想は、正義感情には適うかもしれませんが、現実の犯罪抑止には役に立たないものです。　さて、旧派刑法学は、ある意味では犯罪の被害者等を重視する立論にはあわないのではないか、と思います。既になされた犯罪に観念的な償いをさせるよりも、再犯率が決して低くない現在においては再度の被害者を生む恐れを低減させる方がはるかに合理的であり、犯罪者個々人に対する教育を主眼において新派の考え方がずっと優れているものと考えています。　他方において、新派刑法学はものすごく合理的であると思いますが、そのような刑法学が現在の司法、いや人類に扱いきれるのかというのと同時に（裁判官に高い能力が求められ、手間も費用もかかる）、扱いきれたとして支持されるのか、という問題もあります。犯罪者に対する特別予防主眼の少年法が今の犯罪被害者や世論から嫌われている現状を見れば、新派刑法学はたぶん支持されないだろうな、と思います。　結局どちらもどちらなりに犯罪被害者に優しく、犯罪者に厳しいあり方です。　ただ、更生を一方で求めながら厳罰を求めると言うのは、矛盾となる「場合がある」ことは否定できません。厳罰でなければ更生しない、というのはケース次第です。刑罰による抑止力、という考え方はありますが、全面的にそれでいける、という性質のものとも考えられていません。　その辺を踏まえて、裁判員裁判を前に、いったん刑罰って何のためにあるのか、人間というのは運命付けられた存在なのか、各人で考えてみるのもよいのではないでしょうか。　ちなみに、wikipediaでのまとめはここからどうぞ。

  2008年03月17日

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• 判例百選にちょいと反応

  　刑法の判例百選最新版（第6版）が出たのでぱらぱらと読んでみたら、評釈をした学者にどっかで見た名前が。　ちなみに、判例百選は、司法試験受験生なら基本的には抑えておくべき判例が満載の本です。　　S藤T磨先生。F1のレーサーではありませんぞ。　K大の専任講師ですが、学生時代は囲碁の強豪としても名を馳せていた人で、私も名前だけなら知っている人です。最初はありそうな名前なので同姓同名かな？と思ったのですが、ちょっと調べるとどうも本人のようです。まだ30代に入ったくらいで百選に書く、というのは相当に有望な人なんじゃないかな…と想像したり。　dasさんとの対局の記録が部誌に残っていたので知っていました。早稲田の選手たちを散々苦しめてきたようです。　評釈した判例は、これは司法試験受験生なら知らなければもぐりともいうべき、侵入泥棒が金のあるレジにいこうとしたら…という判例、論点は窃盗罪における実行の着手です。（ま、実際に争われたのは強盗殺人罪の成否ですが）　　ちなみに、行政法の学者には現在の早稲田囲碁会の監督がいます。こちらは同姓同名。

  2008年03月14日

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• ある意味で羨ましいこと

  　RYZさんが言っていた、「マンガ人権弁護士」とやらを読みました。　予備校に刑事法の短答試験の答練を受けに行くときに、少し時間を作って立ち読みをしてきたものです。刑事法の短答は割合得意なので。　読んでいて、最初は、見ていて呆れも怒りもしました。　法律的検討は言い訳程度で、刑事司法の現実も知らず、冤罪はよくないといった知識も申し訳程度で、自分たちで勝手に世間が考えるところの「あるべき犯罪者像」を作って、それをさせないと国民の信頼は得られないって、主権者と絶対君主の違いが分かっているのか、とさえ感じました。　近頃、作中で「人権弁護士」が言っていた「死刑にされて満足するのか？」という言葉に、最近シンパシーを感じるようになりました。　私はこの言葉は空しいだけだと思っていましたし、今でも被害者や遺族相手にこんなことを言うのは愚かしい（第三者が勝手な幸福論を説くのは空虚だと思っている）と思っていますが、世間の人たちが大騒ぎした事件で、死刑が執行されたということが話題になることがどれだけあるだろうか、と考えると、「本当に満足するのか？」という問いにもそれなりの意味があるように感じられてくるのです。　また、死刑がある、しかも比較的多数使われるようになったが故に、犯罪者の社会復帰に関する諸問題も、刑事政策における超重要な問題として考えることができず、ただ厳罰にすれば、不寛容にすればいいと思っているんじゃないか、という問いさえ浮かんできます。　私はそれなりに死刑制度について調査したことがあって概要くらいは把握しており、少なくとも明確な死刑廃止論は採用していませんが、こういう現象を見ていると廃止論ないし縮小論に髪を引かれるものもあります。　しかし、です。　私はこの本を読んで正直なところ「羨ましい」かな、という気もしました。今となっては、そっちのほうが強いかもしれません。　あの本は、首尾一貫して、既に確立された法律を脇においてまで自分たちの支持する刑事司法像を追い求め、それにさえ沿えば割と一貫した見方とさえ取れるような気もします。刑事政策を分かっているのかな、という気もしますが、それさえも自分の考えで埋めていれば、怖いものはありません。　もちろん、現行法上それに沿うことを支持することは到底できませんし、現状認識は悪意の塊に近いな、とさえ思いますが、その悪意だって、自分たちの支持する刑事司法像が根底にあれば、そう感じるんだろうな、とも思うとむしろ感心するほどです。　この手の問題について意見表明するに際しては、「人間じゃない」などというような罵声も浴びましたし、友人も失いましたし、友人に至るまで貶す不届き者にまで遭遇しました。　私にも法律家希望の端くれで、この手の問題に関して曲がりなりにも検討をしてきた以上、全く理屈抜きの意見表明は誇りが許しません。また、乗りかかった船として今更撤収するのも…とも思っています。お世辞か本気か分かりませんが、私の文章で分かったといってくれる人もいるのですから。　今だから言いますが、最初は、私は重大な事件に関連して色々と論評するとなると、相当攻撃的でした。いい年した大人が何をいっているんだ、というような苛立ちの心情が先にあったことも否定できません。本丸の事件からつい逸れそうになる目線を意識的に戻したことも、一度や二度ではありません。　当時の私が読んだら、早速とばかりにマンガの部分部分を取り出して批判を始めたかもしれません。　でも、今は彼らに対して羨ましさを感じてしまうのです。ああいうことがあっけらかんといえるというのは、私からすれば羨ましいことです。　自分たちの考えた正義そのままに、主張できる。こんな嬉しいことがあるでしょうか。　なんかおかしいなと思いつつも、それを口に出せない。こんな辛い事があるでしょうか。（裁判員の守秘義務でもそんなこといっている人いましたね。）　　これは皮肉でもなんでもない本心です。結果的に皮肉めいているととられるかもしれませんが、ご容赦願います。　

  2008年03月10日

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• 最近のニュースから2題ほど

  一、被害者遺族が傍聴席から少年を蹴った事件　あーあ、という印象は拭えません。蹴った場所が頭、ということでは例え暴行罪であってもそれなりに対処は厳しくなってきます。頭を蹴れば、一歩間違えば首の骨が折れてしまったり、視覚や聴覚と言った五感に重大な障害を残すと言うことがありうるからです。被害届を出すことを勧める、告発すると言うような裁判所の対応がやりすぎ、とは私には思えません。　素直に反省すれば、私が検察官なら事情が事情なだけに起訴はしないと思いますが、仮に自分が正しいことをやった、と信じて疑わないようだと起訴を考えざるを得ないと思います。　まあこの事例一つだけでいきなりそうなる、というわけではないと思いますが、遺族や被害者による法廷混乱という事態が蓄積されると、被害者の訴訟参加というせっかく走り出した制度が水の泡になる恐れがあります。訴訟参加も裁判官が裁量によって制限できますが、その裁量がどんどん参加を認めない方向に進む恐れがあります。　被害者団体やその協力弁護士としても、今後に向けてノウハウを作っているものと思いたいところですが、最終的には被害者個々人の自覚が必要になってこざるを得ません。被害者の依頼する弁護士が参加する場合であっても、その弁護士を遺族らがコントロールしなければ結局検察官2号となって参加の意味がなくなる恐れがあります。こればかりはどうしようもないことです。　せっかく作った制度を自ら壊してしまうことのないように、慎重な対応が望まれます。二、少年に拳銃を向けた警官に嘆願書が届いている件なんかな、という感じを受けます。まあ確かに、少年を厳しく叱り付けたという意味でならば、警官を賞賛するのは適当だと思います。同時に、勝手にたむろして交通に障害を与えたり、騒音を振りまいている少年たちを非難するのも、不当とは考えません。その辺の事情を考えれば、その警官も反省の弁を述べているようですし、例え事情がすべて真実だとしても、警察内部で処分されれば、ことさら起訴する必要はないような気もします。　しかし、銃を抜く、というのはどうしたのでしょうか。　そもそも警察官が人に危害を加えてよい場合は法律上相当に限定されております。ニュースを聞いた限りでは、少年たちが言うことを聞かない、しかもたむろする場所を変えただけだったからそこで拳銃を使った、ということ。少年たちが殴りかかるような気勢を見せたから、とでもいうのなら話は相当に変わってきますが、そうでもないと拳銃を抜くのは危害行為であり、大問題です。路上でたむろした彼らの行為が犯罪にあたると判断できる（断定できないが、軽犯罪法1条14号違反の可能性がある）なら現行犯で逮捕すればよい（そこで抗戦がくるならばそこで銃を使用すればよい）ことでしょうし、マナーが悪いだけの行為に過ぎないのなら、銃を使ってまで抑えることなのかどうかという判断をすべきです。犯罪に至らない、マナーの悪いだけの行為まで警察がいちいち介入するのは、自由社会の姿とは私には思えません。まあ、それがいいというのならば私に止める権利はありませんが。　　銃規制が行き届いている日本では、市民は拳銃に対してアレルギーを持っています。だから警察は発砲の度にメディアに「適正な使用だった」といちいちコメントするのです。ただ単に一部の人が噛み付くからとは考えられません。　警察と言えど、過度の銃使用は逆に銃に対する市民の抵抗感が薄れ（免疫ができてしまう）、銃器に対する規制の実効を薄れさせる恐れもあります。拳銃をまかり間違って発射すれば、撃たれた方に限らず第三者にも危害を加える恐れがありますし、冤罪で射殺！！などという事態が発生したら一大事です。　単に怖いから、どけてほしいから拳銃をちらつかせるのを許容するつもりなら、その辺の危険は飲むことになります。　正義感が強いのは、その正義感が本当に正義ならばよいですが、一旦正義から逸脱すればとんでもない暴走戦車になりえます。自爆テロリストなんて、まさにそうでしょう。正義感には要注意です。

  2008年03月07日

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• 最近の碁との付き合い

  　私は、近頃は囲碁の大会には全く出ません。ネット碁すら打たなくなってしまいました。ましてや碁石などもったことがありません。　番碁も棋譜はちらっとしか見ていません。　気合でもって打たないようにしている、というわけではなく、打とうと言う意欲が起こらないのです。　まあ、碁という誘惑から脱したことは、喜ぶべきことなのでしょう。当然ながら、試験は厳しい戦いです。ぶっちゃけ、今年受かるかどうかは怪しいと言うか相当に厳しいのではないか、と予想しています。短答試験の足きりを受けないくらいの点ならば取れそうではあるし、短答だけなら合格点も十分射程圏内だと思う（旧試験の短答試験突破経験持ちの勘が戻ってきた）が、正直な所をいえば論文は苦手です。　そんな中、週刊碁にジャンボ大会の記事が載っていました。　ジャンボ大会とは、15人という大規模で行われる団体戦。雪組だと法人や官公庁で、月組だと囲碁研究会や碁会所などが集まって出てくるものです。　15人なら、下の方は･･･と思ったら、とんでもない間違いです。　上位連中は、まさしく一番下に至るまで、県代表が狙えるクラス、いやそれ以上（県代表常連とか、都代表クラスとか、学生上位経験者とか・・・）が並んでいる領域です。某チームのメンバーを見たのですが、私が名前を知っている超豪華メンバーがずらーりと並んでいます。　私はこれと言ってコネがないのですが、コネがあったとしても声がかかるかどうか怪しいもの、というわけです。　さて、私の最高成績は、学生ベスト8。県代表枠が2つある県でベスト4。　特に学生の方は、くじ運がよかったといわれようと、強敵二人倒して関東の重包囲網を突破した上であそこまで行ったのは、私にとっては一生の記念以外の何物でもありません。　しかし、ジャンボ大会のメンバーを見ていると、どう考えても勝てる気がしません。いや勝てる以前に碁になる気がしません。下手すれば嫌味にさえ聞こえるかもしれませんが、本音です。　当然ですが、彼らは才能だけで上に行ったのではありません。当然それに見合う努力をしています。　私みたいに詰碁は嫌いで碁の勉強も嫌いで外国棋譜の研究もしない、思考も続かないという人間では、現状でも十分身に余っているはずです。早くにちゃんとした勉強をしていればもっと上にいける才能があったのではないかとさえ思っています。　しかし、強豪という人たちがあんなにいるのを見ると、自分の力量の小ささを悟らざるを得ないのがまたなんとも空しいです。そして、石を長期にわたって握らず全く勉強もしないとなると、腕もさびてくるでしょう。　それがなんとも口惜しいです。

  2008年03月05日

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• 映画「それでもボクはやってない」地上波登場に寄せて

  ついに、地上波登場ですか。ネタバレは致しませんので、ぜひ映画を見る前に読んでいただきたいな、と思います。ネタバレ込みの感想は以前書きましたので、ネタバレでもかまわないと言う方はこちらとこちらからどうぞ。　この映画は、名作と言ってよいでしょう。個人的に不満な部分があるといってしまえばそれまでですが、それを含めても現状の問題点に深く切り込んだ作品であると私は思います。　周防監督は映画のためだけ、と言うわけではないかもしれませんが、法廷傍聴などを繰り返し、痴漢冤罪の問題を深く研究してきたようです。それを生かしたと言うことだけあって、その法的考証の評価は実務家からも高いと言います。私自身、法廷で見たことのない手続がこんな感じだったのかと知ることができました。　しかし、です。どんな映画も、見る人がダメでは何の意味もありません。そして、この映画を見てそれを自分の考え方に生かそうとするのは、他の映画以上に難儀です。　実在の事件のように扱ったため、2時間刑事ドラマに近い視点がどうしても出てきてしまいます。これは周防監督のせいではないでしょう。もしかするとないものねだりかもしれません。　私にとっては象徴的な出来事がありました。　　実は、私はこの映画を最初から見ようと思っていたわけではないのです。ネット上で知り合ったある人が、見て来いとせっつくから、電車代と安くない観覧料と時間を割いて、観覧してきたものです。　ところが、その後、私に見に行けとせっついた彼がしでかしていたのは、光市事件（差戻審）の弁護団バッシングでした。十分に弁護団の主張さえ理解せず、勝手に弁護団の弁護はありえないと言う心証を作った上に、それに基づいて弁護団をこれでもかと罵っていました。　つまり、彼は映画の問題意識を理解していると見せて、痴漢冤罪の最大の歯止めである刑事弁護については、これっぽっちも理解していなかったのです。映画は弁護人と被告人の間関係も描かれていますから、その一瞬だけ、痴漢冤罪に絞っていれば問題意識を持つことは簡単でした。　でも、映画を離れ、痴漢冤罪と言う局面を離れたら途端に全部忘れてしまった挙句、職務に苦悩する刑事弁護人を世のためではないかのような発言をしてのけたのです。　あの時のはらわたが煮えくり返る思いは、今でも忘れることができませんね。私自身沸点の低い性格をしてはいますが、激怒して机を叩いたことを憶えています。　しかし、これが彼だけの現象かといわれると、残念ながらそうともいえないのも確かです。　「そうだ、日本の司法は何をやっているんだ、冤罪を出すなんて問題外だ」　そんなことは小学生だって分かっているのです。そして、警察や検察をはじめとする日本の司法制度を非難して終わってしまうのでは、周防監督が入念に調査をして映画をつくった意味が減殺されてしまいます。　そして、それしか言う事がない映画に高評価を与えるとすれば日本映画は終わりでしょう。　あの映画は無駄な脚色はほとんどしていません。現実に起こりうることだけを集めて映画化しています。　そして、周防監督が批判しているのは直接的には日本の司法制度や法律家・警察ですが、間接的にはそのような司法制度を生み出す国民性にも向けられていると言うべきでしょう。　あの映画で実現されていた裁判は、まさしくネット上で特に思想傾向が保守的な人たちが主張することの多い裁判のあり方そっくり、というかそのものです。作中の俗語には、「主に」思想傾向が保守的というか右寄りな人々で、裁判制度のあり方を理解していない人々が弁護士や裁判官を罵倒するときに用いる言葉も登場します。　決して周防監督の造語ではありません。どの言葉かはできれば映画を見た方々に当てて頂きたいな、と思いますが。　ちょっとショックを与えられたらすぐに忘れるような教訓なら、持たない方がマシです。映画を見たことをよい方に持っていけるか、自己満足で終らせるかは、まさしく見る人自身にかかってくると言うことです。　　なお、作中で登場した用語やその他について質問があれば受け付けます。

  2008年03月01日

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• どこの国の法律で処罰しますか？

  　ロス疑惑の被告人として一時時の人となった三浦和義氏が、サイパンで同事件の被疑者として身柄を拘束された、とのこと。　ニュース速報でまで流すのは意味不明だとは思いましたが。　日本の刑事法は、当たり前ですが、原則として日本国内のことしか裁きません。刑事法の適用は主権のなせる業であり、主権の及ばない領域の人間を勝手に処罰することはできませんし、逆に外国における処罰に口を出すこともできません。そんなことをすれば国家の主権侵害となって、もはや話が法の域を越えてしまいます。　どうしても処罰したいなら、彼を日本の主権の及ぶところに正当な方法で連れてくる必要があります。のこのこと向こうからやってきたのをとっ捕まえることができないとすれば、それには犯罪人引渡条約を締結するのが手っ取り早いですが・・・条約はわずかに2カ国であることには注意すべきです。その原因がどこにあるかは難しいですが・・・日本に存在する死刑が一つの原因になっていることは、一つ知っておいたほうがいいでしょう。（EU諸国と結ぼうと思ったら、最低限死刑不適用確約条項を盛り込まないと締結自体できない）　引き渡してもらえないなら、相手の国で代理処罰をしてもらうほかはありません。　国外で行われる分には黙認してもよい行為、あるいは現地の法律に任されるべき行為というものもあります。従って、刑法第1条はまず日本国内の行為を対象にし（属地主義）、海外で行われた行為は基本的に処罰から外します。しかし、一定の重大な犯罪については、日本人であれば、国外で行っても裁く罪（刑法3条）もあります。こういったあり方を「属人主義」といいます。さらに、日本人を守るため、ということで日本人に対して行うと外国人であっても裁かれる罪もあります。（刑法3条の2）さらに、外国人が国外で行う被害者のない犯罪であっても、外患誘致罪のような日本の国家存立を危うくする罪、通貨偽造のような通貨に関する罪などは日本の法律で裁かれます（刑法2条）。国家的犯罪である以上、国外の行為だからといって軽くは扱えないというわけです。これを保護主義といいます。ハイジャックなど、条約で全世界的に処罰が約束されているような罪さえあります。これは刑法には直接の規定がなく（4条の2参照）、世界主義と呼ばれます。これらからはじかれれば、外国の犯罪行為を盾に日本で処罰することは出来ない、というわけです。たとえば、アメリカで300人殺したアメリカ人がなぜか日本にいたとしても、日本でそれを盾に有罪判決を下すことは出来ません。もちろん、国外で行えば裁かれない行為もあります。たとえば、日本では賭博は犯罪ですが、海外に賭博ツアーを行ったとしても、特別法はどうか知りませんが刑法上は何の罪にもなりません。バカラだろうがブラックジャックだろうがルーレットだろうがやり放題です。今回の場合は殺人罪ですので、日本人である三浦氏が行えば、外国での行為でも処罰の対象になりますし、また被害者が日本人ですから、その意味でも日本の法律で処罰の対象になります。もちろん、アメリカでの行為である以上アメリカの方でも裁判権を持ちます。いったん無罪か確定したことを再度裁判するのは違憲ですが、外国裁判までは対象にしないと考えられていますし、ましてアメリカの裁判権に口を出すことは不可能です。さて、海外で、日本の法律でも処罰される行為をしでかした場合どうなるでしょうか。日本国内では、海外で処罰されたとしても、日本の法律で再度処罰する事は問題ありません。海外で処罰されたことを刑の減軽や免除の理由とすることが可能な程度です。（刑法5条）もちろん、海外で無罪であるからといって、当然日本では無罪となるわけでもありません。当然、日本の裁判と海外の裁判の関係でも、それは同じです。日本の裁判で無罪だから外国で有罪にするな、とはいえません。　あまりにも不当な有罪判決を出す場合はどうでしょうか。例えば、今なお中世的魔女狩りを行っている国がもしもあったら？　せいぜい旅行者に注意を呼びかけた上で、国際的に世論を喚起して経済制裁をはじめとするつまはじきにするか、まあ最強形態としては戦争を起こす（！！）ということになるのでしょうか。世界中に異なる国があり、どの国も主権を持っている以上、そこに干渉することはどうしてもできません。これはもはや法の枠を越えた話になってしまいます。　さて、三浦氏の逮捕を巡って報道は過熱しているようですが、逮捕したとは言ってもアメリカにおいて無罪率は決して低くはありません。とりあえず調べて陪審に投げる、という発想が比較的強い英米では、特に事実認定を争う事件では無罪率もけっこう高いのです。　また、無罪判決が下された場合に上訴することはできません（有罪判決に被告人側からの上訴は可能）。日本では無罪判決に対する上訴は合憲とされていますが、アメリカでは「二重の危険」に当たり憲法違反とされます。　三浦氏といえば、自己に対する名誉毀損事件で、弁護士を依頼せず本人訴訟で続けざまに勝訴判決を勝ち取った実績もある相手です。本人訴訟のハウツー本も彼は書いていたはずです。　今なお犯人だと思っているというような迂闊な報道をすれば、三浦氏から反撃される可能性もあることに注意しなければならないでしょう。新証拠があるというような報道もされてはいますが、新証拠の内容さえ明らかになっていない段階でそれに依拠した犯人視発言は、大変危険です。　当時はホームページなどあまり普及していないご時勢でしたが、今に至ればHPやブログなどに意見を書き出した人が目をつけられる可能性もないとはいえません。三浦氏自身HPを以前持っていたはずです。　事件に関して意見を言うなというつもりはありませんが、特に犯人視発言には心してかかること、不安になったらすぐにもやめることをお勧めいたします。

  2008年02月25日

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• 親族相盗の話（おまけで弁護士懲戒請求の話）

  　実は２年位前にもこの辺に関連する記事を書いたのですが、焼き直しです。　２年前の記事は、第１回公判が行われたときに書いたものですが、おそらく同じ事件でしょう。たった２年で第１回公判期日が設定されて最高裁判決まで行くというのは早いですね。ちなみに、高裁判決は去年の５月末。　・・・そうすると、高裁判決・上告から公判期日指定まで３年以上かかった光市事件は一体何なんだろう？（ボソッ）　さて、割と知られている話だと思いますが、日本の法律は、窃盗・横領・詐欺・恐喝の罪については、配偶者・直系血族・同居親族の間で行われた場合には刑を免除する（「無罪」ではなく「刑を免除」であることに注意）と定められています。　なぜこのような規定があるのでしょうか。　学説上は、一、家庭内で財産が動いただけなので、違法性が低いとする説二、家庭内の物は身近で親族の甘えもあることから、取っていくのは人間心理として仕方なく責任が低いとする説三、本来処罰すべきところではあるが、家庭内での解決に任せて刑事処罰は手を引くという政策説が挙げられています。一、二の趣旨もないことはないのでしょうが、判例・通説は三の趣旨をもっとも大きく捉えています。なんといっても、「刑を免除」なので、有罪であることには変わりないからです。さて、２月１８日に下されたのは、被害者の祖母が預かっていた孫の財産に手をつけたという話。それだけなら業務上横領罪ながら親族相当例適用で終了ですが、なんとこの祖母は、裁判所から孫の財産管理をする、民法上の後見人とされていました。それなのに、孫の財産に手をつけたというわけです。２月１８日の判例は、上記の趣旨論争について、三の説に立つことを明言しました。　その上で、　家庭裁判所から選任された未成年後見人は，未成年被後見人の財産を管理し，その財産に関する法律行為について未成年被後見人を代表するが（民法８５９条１項），その権限の行使に当たっては，未成年被後見人と親族関係にあるか否かを問わず，善良な管理者の注意をもって事務を処理する義務を負い（同法８６９条，６４４条），家庭裁判所の監督を受ける（同法８６３条）。また，家庭裁判所は，未成年後見人に不正な行為等後見の任務に適しない事由があるときは，職権でもこれを解任することができる（同法８４６条）。このように，民法上，未成年後見人は，未成年被後見人と親族関係にあるか否かの区別なく，等しく未成年被後見人のためにその財産を誠実に管理すべき法律上の義務を負っていることは明らかである。そうすると，未成年後見人の後見の事務は公的性格を有するものであって，家庭裁判所から選任された未成年後見人が，業務上占有する未成年被後見人所有の財物を横領した場合に，上記のような趣旨で定められた刑法２４４条１項を準用して刑法上の処罰を免れるものと解する余地はないというべきである。したがって，本件に同条項の準用はなく，被告人の刑は免除されないとした原判決の結論は，正当として是認することができる。公的な性格にたつから、というのは説明として分かりにくい気もしますが、私個人の理解を述べさせてもらえば、横領罪が成立するには、誰かが財産を委託信任する必要があります。そして、未成年後見人は裁判所の監督に服するわけですから、そこには公的性格、もっと言えばあたかも財産を委託信任したのは「裁判所でもある」という側面があります。もちろん裁判所の預けたものを取ったら親族相盗なんてことはありえません。だから、親族相盗の適用もない、という解釈であると考えています。　実際問題としても、高齢化社会で親族が後見人となるケースは増えるでしょう（今回被後見人は祖母が存命中の人物らしいですが）。何年か前、後見人は原則として親族という民法の規定は削除されましたが、それでも親族が後見人となるケースは多数予想されます。親族である後見人が使い込みその他不届きな行動に出ても、金を返せ、後見人をクビにするとしかいえないのでは、事前の抑止になりません。本人も成年被後見人ということは後見人を監視することはまずできないし、運よく発見されないとどうしようもない、ということになりかねません。　結論として処罰が妥当である事には、ほとんど異議はないのではないかと思います。　ぶっちゃけた話をするようですが、家族という共同体でも個人主義が浸透している中で、このような規定を用意しておく必要はないのでは、という見解も学説上は有力なようです。もちろん法の解釈適用が使命の裁判官がこんな法律は消したほうがいいなどと言うことはほとんどありませんが、そのためか、親族相当の適用範囲を広げるやり方は取られていません。盗んだ物を預かっているのが親族でも所有者が別人なら適用がないとする判例もあります。一昨年には内縁の配偶者（婚姻届は出していないが実質的に夫婦として暮らしている）から取った場合にもこの規定の適用はない、とされました。内縁の配偶者であれば、婚姻届を出した夫婦に準じて幅広い法律上の保護が与えられるようになっていますが、刑法上の規定の適用はない、というわけです。表立って判決理由に書かれたのは親族の範囲を明確に定める必要があるから、届出のない内縁の夫婦まで持ち出されてはたまらないということですが、あんまりこの規定を広く使うのは問題があるというような問題意識も後ろにあるのではないかとを私は感じました。さて、おまけで懲戒請求の話も。去年の弁護士懲戒請求がなんと前年比7倍になったそうです。光市事件の弁護団に対する請求は8000件超で、これを差し引くと去年と比べて微増にとどまる、とのこと。この件がきっかけとなって、気に入らない弁護士に懲戒請求をかけるような行為がよその事件で激増・・・というようなことは今のところ統計には表れていないようです。もっとも、去年は弁護士懲戒請求が不法行為となる余地を広く認める判例が出た年でもあることを考えると、微増の中にそうしたものがある可能性も捨て切れません。他方で、弁護士に不当な目にあわされた人が懲戒請求という手段を知ったゆえに正当な懲戒請求が増えている可能性もあります。なんにしても、光市事件関連をのぞけば決定的な根拠のある問題ではないだけに、個別の案件を調査できない私としては来年以降を注視する外はないでしょう。しかし、この顛末については町村先生も激怒していました。どのみち、橋下氏が自分には関係ないなどということはできません。先日、今までなかなか見つからず読めなかったのですが、大型書店に足を伸ばして、「橋下弁護士vs光市事件弁護団」の本を初めて読みました。ネット上のサイトはあちこち調査されていましたが、（モトケン先生のところやM.T先生のところもありましたが、幸いにも私の所はありませんでした）ろくな調査もしていません。まるであらすじ本だけ読んだ上での感想文を読んでいるようです。調べもしないで、他人を徹底的に攻撃する。それが「一般人」のありようだというのなら、私は一般人であることが恥ずかしいか怖いと思います。攻撃するのは一人前、他人から攻撃されると嫌がるような卑怯者は問題外です。調べもしないでの攻撃に平然と耐える人は筋は通るでしょうが、私はそんな怖いことは嫌です。ちょっと思い込んだ人が相手なら、誰が何を言おうと、勢い余って警察にたれこもうと耐えるような仙人には私はできておりません。まかり間違って弁護団の主張が控訴審で認められるようなことがあれば、いよいよテンプレートを用いての懲戒請求者たちの行為は結果的とはいえテロリズムにも等しい犯罪的行為と呼ぶべきものになります。例え上告審でひっくり返されたとしてもです。もちろん、例えそれがなくとも、例え同情の余地があろうと、テンプレート懲戒請求者たちの行為は厳しくお灸をすえられなければならないでしょうが。

  2008年02月22日

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• 冤罪に対する理解貧困は法務大臣だけの問題ではない

  　近代刑事法は、犯罪者100人をとり逃がすことよりも、無実の人間を処罰してしまうことを恐れました。　もちろん、100％やった、やってないに限るものではありません。本来過失犯に過ぎない者を故意犯として裁いたり、連続殺人犯だからと言って類似事件を押し付けるようなことも、許されないこととされました。　刑事訴訟の仕組みを見ても、無実の人間を処罰しないと言うことには、まさに腫れ物に触るかのごとくに扱われています。実際問題、刑事裁判の第一次的存在意義は無実の人間を処罰からふるい落とすことにあると私は考えています。真相解明がどうとか、正義の実現とか、もちろん大切な役割ではあるでしょうが、存在意義であるとは私は考えません。そんなのは、裁判でやっているものではなく、裁判の結果としての処罰や裁判の準備行為としての捜査でやるものだからです。その辺については、こちらを参照していただこうかと思います。　先日、鹿児島･志布志の選挙違反冤罪事件において、鳩山法務大臣が冤罪と呼ぶべきではないと言って物議をかもしました。一旦矛を収め謝罪した鳩山法務大臣が法務省の幹部が言っていることだと言い放って、法律家（特に検察系）から再び激しい批判を浴びています。　この辺に関しては、あれこれと批判がすでになされているところでもありますし、私自身は彼の発言の真意をつかみかねている部分もあります。法律家系ブロガーから多数の批判も出ていますし、そちらに委ねると致しましょう。なお、法務大臣は決して法律の専門家ではないので、まともに法律の勉強をしていれば決して言わないことも言ってしまうことがある、というのは一般論として言えると思います。　さて、刑事裁判的には、有罪（guilty）･無罪（not guilty）という概念しかありません。冤罪（innocent）という概念は、実は法律上はないのです。法令データ提供システムに「冤罪」「えん罪」と打ち込んでも、一件もヒットしません。　従って、法律的には定義などありません。　広い意味で言えば、警察が一瞬睨んだけどすぐにアリバイが分かって本人は気づきもしないうちに疑いが晴れたのだって、冤罪といっていえないこともありません。　起訴されなければ冤罪ではない、というのならば、松本サリン事件は起訴どころか逮捕勾留さえされていない以上、冤罪ではないということになります。もちろん、厳密にそのように定義する向きもあるようですし、一つの考え方ではありますが、それが一般的な定義に合うかどうか不明ですし、真実に反する犯罪の嫌疑による不利益という側面ではここも立派な一つの問題です。冤罪という単語に当たらないとしても、問題にすべきであることは変わりません。　冤罪という概念がスパッと区切れないものである以上、何を冤罪と呼ぶかというのは難しいし、語義論争を始めても、「冤罪」という概念に当てはまるかどうかで被害の実態や救済方法に影響があるわけでもないので、そこに法律的な意味での生産性は感じません。法学者より国語学者や（法）社会学者に出てきてもらったほうがよいと思います。　法律家をはじめ、刑事関係者として、その根絶に力を費やしているのは、広い意味での無実の罪によって、被疑者･被告人の財産･自由･名誉などの点で損害が及ぶことです。　再審の場で、というような非常手段は置いておくとして、裁判の場でというのも最後の安全装置というべきもの。そこに達する前に関係のない人を外していくのが求められています。刑事裁判でも、逮捕→勾留→起訴→有罪判決と手続が進むに従って必要な嫌疑は高まっていきます。　他方で、調べていく過程で嫌疑を絞っていくというのが通常である以上、最初から一発で真犯人を捕まえろというのは無茶な要求といわざるを得ません。犯罪者は逃げたものでも処罰するという大前提に従う限り、そこで無茶な要求をすれば、自白の強要などを招くというのも知られている話です。　少なくとも刑事関係者の目指している意味で、そういった不利益の縮減･根絶は、刑事裁判という制度がある限り永遠の課題と言えます。ことに、逮捕→勾留→起訴→判決というような過程で求められる嫌疑があるにもかかわらず、そこを踏み越えてしまったなどということは厳しく批判されなければならないでしょう。　よく、神の目から見て無罪かどうか、ということと有罪無罪が違う、といわれることがあります。　はっきり言って、そのとおりでしょう。有名な事件で無罪判決が下されたからといって、彼（女）が真犯人ではないということにはならないというのは、一面においては正解です。　しかし、落ち着いて考えてみれば、今ここで文章を書いている私が日本で年間１０００件ほど起こっている殺人を犯していないという証拠もない（もちろん私はそんなことをやった記憶などこれっぽっちもないですが）のです。ここを殺人犯が見ているということはないと思いますが、ここを見ている人たちも、潜在的には殺人の疑いを持たれている人間といえます。　めちゃくちゃな極論ですが、地下鉄サリン事件だって、オウム関係者が逮捕されて裁判で有罪判決が下っているとはいえ、それを前提にしても「偶然」同じときにサリンをまいていた人間がいて、彼の巻いた行為が死期を早めたということはなかったのか？とか、犯行に気づきながらむしろそれを助けるような行為をした奴がいなかったのかといわれても、今からでは誰にも分かりません。そういう意味では、今なお国民はサリン事件について潜在的な被疑者といえます。　では、そういう点をあげつらって、殊更にお前は殺人をやったかどうか疑わしい人間だ、などということが許されるでしょうか。　普通そうはならないでしょう。おそらくそんな発言をすれば侮辱ないし名誉毀損として刑事処罰や不法行為責任を問われても文句は言えないと考えられます。　誰もが疑わしさを持っているのを前提に、特にそれを追及しない（どうしても追及したいなら各人の胸の内に収めることでする）ことで社会は成り立っていると私は考えます。　無罪判決が下った人間に対して、十分な検討も加えず、手前勝手な「真相」を設定し、攻撃材料とするのは、まさしくそういうのと同列の行動であり、だからこそそのような発言は品性を欠くものであると考えるわけです。ちなみに、思想傾向が保守的で、品格・品性･礼儀がどうだの何だのという人たちの方がそういう言説を放つことが多いのは、ふしぎな現象と呼ぶほかはありません。　私は、この事件で鳩山法務大臣を叩いても、建設的だとは思えません。いや、不適切な人間ではなく適切な人間を法務大臣にしろという意味ではいいでしょうが、冤罪という問題に関しては全くいいことはない、と私は考えています。　「エンザイハイケナイ」というようなカタカナ語で覚えているような知識など、意味はありません。むしろ、なまじ知っているからそこで理解を止めてしまい、ちゃんと理解しようとしない人が多数いると感じます。そんな小学生でも分かっていることを語ったら途端に自分は両方の立場に目配りが出来ている…などと評価してもらえるほど、この辺の問題は甘くはないというべきです。　そこを出発点に、刑事裁判の制度設計を理解し、変えるべき所は変え、守るべきところは守り、というのが必要なのですが、私の知る現状を観察する限り、エンザイハイケナイというカタカナ的知識は持っていても、その認識が不十分だから起こっている事態を十分認識していない、あるいは被害者を持ち出されるとすぐにその辺を忘れて後退させてしまったり、非現実的な見解ばかりが山のようにというような、非生産的な事態が起こるのです。　挙句の果てには、志布志の事件や富山の冤罪事件が起こっているのをいいことに、時系列を無視して全く冤罪でない光市事件を使って死刑廃止を訴えようとしていると言い放つ不届き者さえテレビで大きな顔をしています。　鳩山法務大臣は、検察に責任転嫁をするようなことを言った、と報じられていますが、その真意はさておくとして、少なくともメディアで報じられているような鳩山法務大臣と大同小異の言説を主張する人なら多数いるというのが私の所感です。　熱しやすく冷めやすい国民性（まあネット上で見えている範囲だけかもしれませんが…）からすればあまり期待できたものではありませんが、この件が少しでも冤罪という事態に対しての国民の理解に資することを祈るばかりです。

  2008年02月20日

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• 沖縄･米兵暴行事件に関する新潮の記事

  　沖縄の米兵によるとされる女性暴行事件。　私自身は、嫌疑については嫌疑を受けた米兵が否認していることもあり、現段階では静観する態度を取っています（性犯罪系のことは、誤信などによる冤罪も珍しくない）が、私の目線からして我慢がならないのが、被害女性のプライバシーを暴くような週刊新潮の記事です。新潮は仮名を用いていますが、被害者が誰であるかは本人はもちろんのこと、周辺にも知れていることが強く予想されるだけ（現に実家の近隣住民とかがインタビューに応じている）に、これは激しい被害女性への攻撃になると言うべきです。犯罪被害者にとって、決して無視できない二次被害の一つが、被害者に対する心無い中傷です。　確かに、犯罪の被害を受けないためには自己防衛をすることも大切なことです。事件を教訓に他の市民が自己防衛をするためにこのような行動は危ないというようなことを市民に伝え、将来の防犯に役立ててもらうことは賛成します。　その反射的な効果の範囲で、犯行の様態がばれたり、このような行動が迂闊だと指摘されるというようなこともやむを得ないことと私は判断します。（この部分については、異論のある方もいるかもしれませんが）　しかし、新潮の記事はもちろん、特に読者以外の目に触れる吊広告は、ただ単にそれにとどまらず、被害者の女性がよく考えもせずほいほいと米兵についていったことに原因がある、自業自得のような事件と言う印象を与えさせるものでした。　こう言った被害者に対する中傷（少なくともそう受け取られる噂）、全く犯罪の被害とは関係のないプライバシーの暴露の危険が、特に性犯罪において被害者が告訴や告発を思いとどまる原因になっていることを知らないというのでしょうか。　本当かどうかは存じませんが、うそならば問題外ですし、真実であってもだからといってああいうことを書かれなければならない謂われはないといえるでしょう。　桶川ストーカー殺人事件でも、被害者である猪野詩織さんが、そのような心無い記事によって名誉を傷つけられました。最初にそのような情報を流したのは警察であり、その点は断罪されてしかるべきですが、それにそのまま乗ったと言うことを抗弁にするようでは報道機関として失格でしょう。今猪野さんの父親である猪野憲一氏は、こうした被害者問題に関して活動をしていたと記憶しています。　松本サリン事件とて、広い意味では被害者に対する偏見が冤罪事件に発展したものといえるでしょう。　私は、被害者といえどもそれはおかしいと思えば批判します。しかし、それはあくまでも制度提言や刑事罰に対する主張に対する反論であり、犯罪被害についてどうだ、と言うことはまずありません。そして、それを放置したままにしておけば被害者の主張から説得力が抜け落ち、通らない主張を永遠に続けることになってしまうからです。少なくとも被害者が最初から被害を受けたと訴えること自体を躊躇うようなことで、誹謗中傷に当たるようなものは言いません。　検察官とて、被害者の証言でつじつまのあわないところがあれば突っ込んでくるでしょう。別に検察官が嫌がらせをしたいのではなく、放置したままそんなものを法廷に出せばせっかく逮捕した真犯人に疑わしきは罰せずで無罪判決が下ってしまう恐れもあるし、逆にやぶにらみ捜査を永遠に続ければ真犯人に逃げられる恐れも高いという意味合いもあります。　弁護人なら、被告人の正当な刑の軽減が職務ですから、疑わしい部分はバシバシ追及するしかありません。　報道があのようなことを書くことに何のメリットがあるのか、激しく疑問です。　で、同じ紙面で恥ずかしげもなく始めるのは福岡の飲酒ひき逃げ死亡事故判決批判。その内容もめちゃくちゃです。被害者や遺族見解の言い分を載せるのはいいとして、そのちょうちん持ちに徹している姿は、滑稽でさえあります。　問題は週刊新潮だけではありません。　ネット上でも、常日頃から「これで死刑にならないというなら被害者の立場はどうしてくれる」などというような人が、きちんと教えない被害者の親が悪いみたいなことを平気で言っていました。ことに被害者が未成年である場合、親が法定代理人として告訴権を持ちます。　また、その親の意向が被害者自身の告訴の意向に小さくない影響を与えることには思考が回らないのでしょうか。　ここ10年くらいまで被害者救済が進まなかったのは、もちろん法律家にも責任がありますが、一般の市民も無関心だったからではないのでしょうか。　今回の記事が堂々と出版されたのは、そのことを象徴するような出来事と感じました。

  2008年02月16日

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• 国民が法を知るということ

  　昨夜、このブログも開設して1000日となりました。当初は比較的短い文章を解説するような物が多かったですが、現在ではもっと長い論文めいたもの（質は論文などといったら怒られるでしょうが）を書くことが増えています。　私は省略をあんまりしたがらない（省略を行うと読みやすいかわりに、誤りに検証が入らないし、私自身としても勉強になりにくいので･･･）ので、読みにくいかもしれませんが、それはご勘弁ください。　囲碁系の記事はかなり限定されざるを得なくなりました。最近はタイトル戦の棋譜すら見ていないことも珍しくありません。　まあそんな感じですが、28万を超えるアクセス、よそで紹介されることも多々あり、はてなでも割と頻繁にブックマークがつけられるようになりました。感謝の言葉を申し述べたいと思います。　さて、ここを開設した一つの理由に、国民に法と言うものを知ってもらいたい、ということがありました。　国民が法を知る、というのはとても大切なことなのです。法律家にお任せ、というのは便利ではありますが、本当にそれでいいの？ということになると、信じているとけっこう恐ろしいことになります。国民の多くはそう信じているのではないかと思いますが、実態は決してそうではないのです。　法律は国会が作りますが、国会の作る法律が効力を発生するのは公布、つまり一定の手続に従い、国民に向かって法を知らしめたときです。具体的には、法律を官報で告示し、その官報が国民の目に触れる最初の時点から、その法律は有効となるわけです。　最大判昭和33･10･15では、東京官報販売所で午前8時半に改正後の法律を登載した官報が売り出されたから、その日の午前9時に広島で犯行をした人間に改正後の法律で有罪判決が言い渡されています。そんな時間にわざわざ官報を取りに行く人がどれだけいるのか存じません（たぶん日本中に5人もいないでしょう）が、この時点で国民に法を「予測する機会」は与えられている以上、それで十分というわけです。ある意味ではフィクションの要素があります。　そこから先、現実に知ってそのとおりに行動するかどうかというのは、国民個々人に任されているのが実態です。実際問題、多数存在する日本の法律を全て押し込むのは到底無理であることなどを考えると、国民に法を周知させるのは、実際問題大変なのです。現在のありようがよいかどうかは検討しなければならないことでしょうが、だから知らないのもしょうがない、法の適用外というのを広く認めると秩序維持の点から大変困ったことにならざるを得ません。　そんな中で、法律を知るというのは、自分の身を守るということでもあります。　法律というのは決して自分だけを守ってくれるものではありません。世の中に存在するありとあらゆる紛争を解決するのが裁判所の役割であり、そこにおいて「自分」となるべき存在は何億にもなります。日本人なら赤ん坊や植物状態になってしまった人に限らず、日本に存在する外国人や法人だって、裁判に出てきます。　こんな風に相手のある世界で、清く正しく生きていれば、法の世界で損をすることはありえない･･･というのは残念ながら間違いです。　囲碁のずぶの初心者は、やたらとアタリアタリと打ちたがります。なぜかといえば、相手がいて、相手は逃げるということを意識しないからです。それと同じように、法律のずぶの初心者は、相手も反撃してくることを忘れがちになります。だから、攻撃的なことはすぐに法律に頼っても、反撃から自分を守るというところではとんでもないことを忘れたりします。　例え清く正しく生きていたとしても、犯罪等の被害者になった時にどうするのか。そのときは、彼ら自身が自分の権利を守るために動かなければいけません。もちろん相談に乗る弁護士の先生はいますが、相談を持ってきてくれなければどうしようもありません。せっかく権利を持っていても、何もしようとしない者には、残念ながら法は保護を与えてはくれません。ぼやぼやしている間に時効になってしまったら、アウトになってしまいます。　そして、法を知らなければ、自分自身が違法な行為に手を染める恐れだって出てくることも忘れてはなりません。企業がコンプライアンスに力を入れているように、個人も本当はコンプライアンスが必要なのです。　例えば、刑法学の世界の絶対原理の一つが罪刑法定主義ですが、この罪刑法定主義というのは国民にこれをやったら罪になるということを知らしめるのに大切な根拠があります。罪刑法定主義は、ややもすれば計算高い犯罪者に計算の機会を与えさせ、それでも構わないから犯罪に走るというようなことをさせかねません（フォイエルバッハの心理強制説は現代の犯罪学では幻想と考えられています）が、国民に予測可能性を与え、公権力を縛るという人権保障の要請には代えられない、というわけです。　他方で、刑法の世界では、「私はこれが違法だとは知らなかった」というのは抗弁にならないというのが判例とされます。学説では言い訳になる場合もあるというのがむしろ有力説ですが、それでもそのような場合を認めるには相当に限定されています。いざ行動に走って、検察官に起訴されて、そんなの知らなかったと裁判所で泣き出しても、無罪判決を下してはくれないよ、ということなのです。　そこにおいて、いくら自分が独自の解釈を作り出して、これに従えば自分が正しいといっても通じないのです。鼠小僧が「俺は義賊だから無罪だ」なんて言ったって、そんな言い分は通じません。あなたの担当弁護人は何とか理屈を作ろうとしてくれるでしょうが、それが裁判所に認められるかどうかは全く別問題です。弁護人だって、例え裁判でこれは無罪だと主張してくれても、普通は事前にこれをやっていいかどうか相談してくれば止めるのが通常です。（ごく限界的な事例もないわけではありませんが･･･）　もちろん、国民全員が法律を「実際に」知っていることが大前提になっている、とまではいえないでしょう。　法は国民が法を知らないということもある程度予定し、法解釈を誤った国民を救済したり、法を知らない国民に救いの手を差し伸べることがあります。　刑事裁判になれば、資格を持った弁護士をつけてもらえます。それがやがて被疑者段階にも拡充されます。　民事訴訟でも、弁護士の代理人がついていないなら、裁判官がこの辺を立証してほしいなどと言うことで、いろいろとて取り足取り教えてくれることだってあるでしょう。　行政に関連する問題では、行政機関のほうから不服申立の方法であるとかを教えてもらえますし、訴える裁判所を誤ったとしても救済する法律が用意されています。法　律家個々人の努力だって見逃せません。弁護士は、法律を知っているわけではなく、従って何が重要な事項かわかっていない依頼人が思わぬ情報を持っていないかどうか知ることに心を砕きます。後になって重要な情報が出てくると、負ける裁判をわざわざ金と手間をかけて起こした挙句相手の訴訟費用まで負担するハメになったり、本来勝てる裁判に負けるというようなことも起こるのです。　しかし、どんなに法律家が草の根でがんばっていても、最後に自分の身を守るのは結局のところ国民一人一人の自覚にほかなりません。　法律家が国民一人ひとりにぴったりくっついてその行動を監視監督することなど不可能ですし、私はもちろんのこと、きちんとした法律家といえど、決して全法律マスターではありません。最高裁の長官だろうが、内閣法制局長官であろうが、それは変わりません。その場で学んだ法律を脳みそで解釈するということは、普通に行われているのです。もちろん、その後ろには周辺法令全体の構造把握や、それ以前の法的素養が前提にありますが。　法律は国民一人一人が主権者として変更に参与できるものですから、その法律を批判し、ありようを検討するのはよいことです。　しかし、法というのは誰にも平等である以上、決して自分だけが法の例外、自分に噛み付く法の見解は間違っているとなるわけではありません。自分は決して法律の世界の外からギャラリーあるいは審判官（？？？）として存在しているのではなく、世界の中で保護され、場合によっては脅されている存在でもあることは、常々肝に銘じておく必要があります。　また、自分が当事者となったときに、自分なりの解釈をいくら主張しても、「義賊だから無罪と開き直る鼠小僧」と同列に扱われ、敗れ去る可能性は決してないとは言えません。まるで何の素養もない人が、その場しのぎで自分だけの解釈を貫くのは、とんでもない大博打なのです。　　もう一つ、主権者として法改正をするに際しても、既に存在する法律を知っておくことは、大変有用であると同時に大切なことです。　最近は（昔からかもしれませんが）、法律のありようやそれに基づいた実務の運用について、全く理解しないままに法を批判する動きが散見されるのが実態です。以前、飲酒運転が逃げ得であるという言説について激しい批判を行ったのですが、先日遺族の方がひき逃げ厳罰化の街頭署名を行い、その際にまで「逃げ得」と言う言葉を使っているのには、頭を抱えると同時に大変がっかりせざるを得ませんでした。　誤った法知識の流布は、ものにもよりますが、国民に間違った期待を与え、せっかく法が用意した歯止めをぶち壊してしまう場合があります。その歯止めをきちんとすることを求める人たちが、返って歯止めを無効にしてしまうようなやり方の運動に加担してしまうという構図は悲劇的ですらあります。　また、こういった理解を省いたままに法改正に動けば、激しい法律家の反撃に遭うことは必定です。仮にそれを通したとしても、将来再度の論争を招いたり、国法体系の統一性を損ない、声の大きい者の言い分だけが通る社会になる恐れが出てきます。　コペルニクス的な大転回を法が行うのは相当な難儀です。これまでその法を前提にできてきた社会制度が枝を伸ばすのは楽ですが、根底から全部覆そうとするのは、解釈の空隙を生むなど多大な混乱をもたらす恐れがあります。　　立法論といえど、既に存在する法律と決して無関係ではありません。立法を求める方々も、これまでの法を知っておいた上で批判を組み立てることがぜひとも必要であると考えています。　むろん、私が勝手に決めた個別の話題について、片手間にちょこちょこと解説するだけでは、法を知るということにはなかなか結びつきません。部分部分を知っていても、全体としてどうなっているか知らなければ、なかなか理屈を通すことは難しいものです。　もちろん、私が全て知っているわけでもありません。もちろん記事を書く際にはそれなりに信頼できる資料に当たります（ネット上にはそれすらやらない人も散見される）が、もしかするととんでもない誤りがあるかもしれません。　ただ、ここが法制度に対する正確・正当な理解に資することを祈るばかりです。

  2008年02月13日

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• 久々に光市事件のことを書きます。

  　判決（４月２２日）まで後2ヵ月半ですね。ちなみに、光市事件の後、1月に結審した秋田の２児殺害事件の判決は3月だそうです。これを見て何か感じる人はいないのでしょうか。　さて、勝谷誠彦氏が、倖田來未氏の発言を巡るバッシングについて、大騒ぎをしているようです。　確かに、つまらないバッシングをあおるような輩は後を絶ちません。その意味では、勝谷氏の見解は一つの立派な考え方といえるのかもしれません。倖田來未氏の発言を彼が弁護しているわけではなく、謝れば済むだろうといっていることからすれば、彼が発言を容認しているかのようなネットの見解には、賛同することはできません。　しかし、私がこの発言に怒りを覚えるのは、勝谷氏が光市事件弁護団バッシングで何をやったかと言うことです。　彼は、あの「たかじんのそこまで言って委員会」で、橋下氏が懲戒請求をかけてもらいたいといった後、「弁護団を精神鑑定にかけろ！！」と怒鳴り散らしました。　感情の発露であるにしても、曲がりなりにもまじめな番組（を気取っている番組）に出演しながら、聞くに堪えない罵声を弁護団にめがけて飛ばしました。論評であるとしても侮辱罪の成立を免れるかどうか怪しいような発言で、さらに、弁護団の顔写真を出せ、住所や担当事件をさらせなどと言う、批判どころか人身攻撃そのものと言うべき発言を公共の電波に流したのです。　その結果、あの弁護団はほとんど全ての情報がネット上に流出する事態となったのです。懲戒請求が広まったのには、彼の発言にも一つ原因があるというべきでしょう。むろん、彼の周囲で怒声を飛ばしまくっていたパネラー軍団や司会者も同等です。　弁護団に関する懲戒請求の法的責任に関してはひとまずおくとしても、あの苛烈な弁護団バッシングをもたらしたのは、勝谷氏にも立派な一つの原因があるというべきでしょう。あのような空気を彼をはじめとするパネラー軍団が一緒になって作ればこそ、橋下氏があのような、法律家がこぞって非難する発言に走ったという側面もあると私は考えます。（だからといって橋下氏が免責されるとは考えませんが）　その後、死刑制度が当該番組の議題になった際の発言については、sokさんのページが参考になるでしょう。私ではひっくり返っても書けない秀逸な文章をよく書かれる彼が、筆を滑らせました。この事に私は小さくない意味を感じます。　にもかかわらず、ことここに至って、勝谷氏はそのことを総括・反省するでもなく、ネットでバッシングをあおる人間を徹底的にけなすという立場は堅持というのは、とどのつまり自分が攻撃すべき対象だとみなす者はバッシングし、少なくとも彼にとって攻撃対象にならない者はバッシング者をバッシングするということでしょうか。　バッシングの内容批判はいいとして、バッシングに加担しておきながらバッシングと言う現象自体に噛み付くような言説は、理解しがたいことです。　こういう人間がテレビで大きな顔をしているのですからほとほと困ったものです。法律家だってテレビに出てくる人の大半はそれっぽいことを言う人ばかりです。冤罪事件があればそれに詳しい弁護士（俗にいう人権派系）を出し、凶悪事件なら検察系で口の軽い(決まってもいないことをすぐ断定する)人ばかりが出てくる。　テレビ評論家、それ以上にその選定を試みるテレビ局の性質にはあきれ返らざるを得ません。　以前スルーしましたが、光市事件を巡る報道狂騒曲が、ついに報道機関の自浄作用にかけられることになりました。ＢＰＯのほうが、報道について調査をする旨決定したということです。一旦裁判中だから･･･と言うことで審査はやめようとしたようですが、結局委員会をつくって審査をはじめることになりました。　この事件は欠席事件を皮切りに、弁護団の発言や本村氏の発言、被告人の「なめないでいただきたい」など、呆れるほどに燃料が続けざまに出てきた事件ですが、公判審理も止まり、本村氏の記者会見なども終われば、流石に燃料もなくならざるを得ません。その後議論を続けるには、事件に関して各人が心からの関心を持ち続けることが必要･･･と思われたのですが、いまや議論はすっかり沈静化。懲戒請求がはねられても騒ぐのはほんの一部。被害者問題に関する議論が深まったわけでもありません。　今まで静かだった人たちがこの件をきっかけに被害者問題に興味を持つ･･･というのもほとんどなさそうです。こんな人たちが何の罪もない2人が無残に殺された事件の刑罰を論じ、弁護人バッシングをしていたという愚劣さには、開いた口がふさがりません。　こんな人たちに燃料を供給し続けたのは、結局はマスコミ報道でした。上の行動の一つ一つは確かに弁護団や、被告人や、本村氏などの行動だったかもしれませんが、なぜここまでの事態になったのかと言えば、結局はマスコミに問題があると言うべきでしょう。　ドラえもんがどうだの、ちょうちょ結びだのと言う言葉だって、マスコミが言葉の断片を切り貼りしたために、少なくとも弁護団が発表していた以上に人の神経を逆なでするような被告人像・弁護人像が出来上がっていきました。　光市事件の報道を考える会とやらがＢＰＯにいくつかの番組をピックアップして申し立てたそうです。私はワイドショーはほぼ見ない、のですが、ワイドショーとは異なる、曲がりなりにもニュース番組と呼ぶべきもの（私が見ているのは報道ステーションですが）でさえ、聞くに堪えないものでした。本村氏の立場を押し立てるのはまあいいとして、弁護団に対して一方的な推測を行い、大弁護団は政治･売名目的だの死刑廃止論がどうだのという印象ばかりを次から次へと与え続けるものでした。年報死刑廃止２００６に掲載された弁論要旨もろくに読まず、記者会見の言葉は全てを伝えるのではなく一部を勝手に切り貼りしたのです。　もちろん、基本となる法制への理解もおろそかで、差戻審の拘束力についても超重要判例があるのにそれには触れず、勝手なことばかりを言い続けました。　弁護団が記者会見や今枝ブログ（辞任後は別としても）、年報死刑廃止２００７などで言葉を尽くして説明している(その方法が下手であるというような技術的な批判はありますが)と言うのに、片手間情報収集の域を出ない私でも知っている基本的な情報収集もやらず、やったとしても言葉を尽くさないと言うのは、報道機関としては根本的な怠慢があると言わざるを得ないでしょう。　そして、テレビなどでいろいろとコメントしている人たちも。テレビ番組に出たからにはそれなりに雰囲気に合ったことをいわなければならない義理と言うものがあるでしょうし、その点は同情しますが、事後フォローを入れたという話は聞きません。(この件に関し、事後フォローを入れた芸能人ブログなどを知っている方はぜひご一報をお願いします。)　江川紹子氏も、この件はBPOで取り上げるべきと指摘していましたから、まあ当然の結末だったのかもしれません。まともに検証すれば、一定の制裁や指導を受ける番組も少なくないでしょう。　ただでさえ、裁判員制度を巡って予断や偏見を裁判員にもたせないためにどうするかと言うのが頭の痛い問題だったのです。報道規制をしようかという声がありましたが、何とかそれだけは見送られました。　しかし、市民の司法参加がある国は報道規制があり、イギリスなら予断を与える報道は法廷侮辱罪で処罰の対象になります。イギリスの場合、下手な報道をすると犯人の家が焼き討ちに遭うなどと言うことが本当に起こったので、趣旨は他にもあるでしょうが。　今回の報道を巡る一連の問題は、報道機関が対立する立場の双方の立場を客観的に紹介するという報道の基本さえかなぐり捨てたこと、更にそれに市民が派手に影響されたことを如実に物語っています。主要な問題が派手に露呈したと言っても過言ではありません。　「美味しんぼ」（単行本未収録だと思いますが）で、カップ麺の成り立ちを見せた上で、自分でラーメンを作ったらすごい手間がかかる、それがカップめん程度の費用でできるなんておかしいと思わなければという話がありました。　司法関係の報道だって、まさにそれと同じことが言えます。言われれば簡単なことです。　事件を追いかける警察は、地道に最新の技術や長年のテクニックを駆使して何日もかけて調べていかなければならないものです。　裁判だってある程度日数がかかります。起訴如何を決定する検察官だって、弁護人だって何時間も、みっちり事件記録を読みます。テレビで話題になるような事件なら、なおのこと時間は増えていきます。　裁判員だって同じです。短期集中とはいえ、裁判官が側にいて法律に関することは何でも教えてくれて、数日間は集中して事件と格闘します。　こんな世界で、長くて１０分やそこらの事件解説と、法律家の１分やそこらの法律論解説で全てを把握しきって、正しい見解が作れるなんて、そんなバカな話はないのです。　テレビごときでわかった気になるのは、甘い発想であると断じてよいでしょう。　あなたは自分の人生を変えかねないような裁判になったとき、例えば不運にして満員電車で痴漢に間違われ、裁判にかけられたとして、テレビ番組や新聞が言っていた伝聞情報を頼りますか？「それでもボクはやってない」見たから大丈夫だと思いますか？　普通は信頼できる専門職を直接頼むでしょう。テレビでやるような事件は、多くがそれで人生を左右される人が出る事件です。　テレビを、一過性の情報として有用に使うのはよいでしょうし、それに基づいた見解を表明することも否定するつもりはありません。しかし、それが他人への攻撃となった場合には、本当にそれが信頼できるものなのか考えないと、逆襲に遭います。そこで「マスコミを信じたんだ」なんていったって、聞いてもらえません。常識に属する上記の知識さえあれば容易に考え付く論理なのに、それも考えず、被害者に泣き寝入りをさせていいんだ、なんてオレ様理論は許されないでしょう。　光市事件の被告人だって、親の自殺など不遇をかこってきたのは一応事実です。それが人格形成に影響を与え、犯罪行為への抑止が働かない可能性もあったでしょう。だから命だけはみのがしてやる、と言う理屈を多くの人は採用しませんでした。それでいけないとは私は思いませんが、自分はＯＫで被告人だけは許さんと言うような手前勝手なダブルスタンダードは許されません。　

  2008年02月08日

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• 14年ぶりくらいの再会

  　その作品の題名は、「遺伝子の旅人」と私は勝手に訳しました。直訳すれば遺伝子潜航者となるのですが、ちょっと詩的にね。 　分かる人は分かるでしょう。「ジーンダイバー」です。　私は小学校の頃、恐竜マニアでした（小学生レベルですが）。小さい頃から動物その他の図鑑を読んでいたという、変質者みたいな私（文系に固定された今でも動物番組に目の色を変える）ですが、その中に恐竜の図鑑や古生物の図鑑もあったわけです。 小4のとき、NHKの「天才てれびくん」でやっていたのが、「恐竜惑星」。もともと天才てれびくんを見ていた訳ではないのですが、マニアをひきつけるには十分すぎる題名ですね。これは普通にほぼ全部見ました。もちろん、当時の恐竜に対する知識を吸収するのには貢献しました。ただ、面白いかと言うとさあ？と言う感じでしょうか。またみたいと思うか？と言われてもあんまり･･･と言う反応しかしないでしょう。ちなみにこの主人公の女の子の名前（正確にはハンドルネーム？）が「萌」であり、今秋葉原あたりで全盛の「萌え」文化の語源になったと言う説があるらしいです。本当かよ？あれから、恐竜を巡る学説状況も少なからず変わってきているようですし、わずかに漏れ聞いているのはありますが（ティラノサウルスは群れで狩をし、若い個体が勢子、年を取った大型の個体がトドメをしていたと言う説など）そんなのについていけるほど私はマニアックでは（今のところ）ないので。 さて、その翌年がそう、「ジーンダイバー」でした。これが見ていたときはそうは思わなかったのですが、今思えば神というべき名作でした。私の知るアニメでコンテストをし、シナリオ部門を作れば第一位はほぼ間違いなくこの「ジーンダイバー」となるでしょう。（ま、そんなたくさん見ているわけでもありませんがね、エヴァンゲリオンとかは見ていないので） 　はっきりいって、絵的には駄作（子ども用にしても大したことなさすぎ）です。しかし、絵よりはるかにこの作品は私を惹きつけてやみません。 　まずのっけからOPが1分続かない曲なのに神です。10何年間、ほぼ私の人生の半分ほどの期間にわたって見ていなかったにもかかわらず、ずっと耳に残り続けていました。無意識に口笛で吹いていたこともしばしば。 そして、子ども向け番組とは思えない内容の濃さというか重さというか。前半は人類の進化を巡る争い。進化に手を加え、人類を滅ぼそうとする、げっ歯類の進化した人類・プグラシュティクとの戦いと、その内側の悲しき運命と、不気味にうごめく影。そして遺伝子の謎。主人公の女の子、唯の芯の強さにも胸が熱くなりました。キャピキャピしたような恐竜惑星の主人公・萌と違って、比較的おとなしく心優しい性分なのですが。 後半はストーリーがもっと強力になります。恐竜時代を更にさかのぼり、初めてイクチオステガのような両生類が陸に上がったころ、さらにはバージェス頁岩のような時代にまでさかのぼります。そして、プグラシュティクの仲間・ティル（彼女も前半はツンツン系シスコン？みたいに描かれましたが、後半になると戦士としての優秀さも併せ、魅力的に描かれるようになります）と生命の進化への介入する無機生命体（生きたコンピュータのようなもの）と、木星の衛星エウロパに登場した知的生命体の一人、ドライ6と組みながら人類以前に生命の進化の歴史をさかのぼる中、ついに生命の起源にまでたどり着きます。生命が粘土から複写能力（つまりはコピーのような細胞分裂）を得、そこから独立した生命体として活動する（現在これが正しい説と認知されているのかどうかまでは存じませんが･･･）に当たって発生したいくつもの条件や奇跡を見ながら、ついに物語は月における決戦へとうつります。そして、月において分かる驚愕すべき真実と、人類、いや生命体の未来は。有機生命体と無機生命体はどのように違うか、そしてその可能性は。その意味を理解するにはゆとり以前とはいえ、当時小学生の私には難儀でしたし、今見ても言葉を理解するのに手間取る（本当に小学生向けなのか怪しまれる）のですが、 　先日、試験明けでチョイ休みとして、ある所を多少彷徨っていたら見つけてしまいました「ジーンダイバー」。十何年ぶり、実に私の大して長くもないとはいいながら人生の半分以上ぶりにめぐり合いました。　話は流石に今なら話についていけます。てか、小学生向けのアニメで「貴族院」とか、特にラストのあの長々とした、理系の大学の講義で使うような単語の羅列としか思えない台詞はなんなのやら。しかし、相変わらずそのストーリーは引き込まれます。 　DVD出ているらしいですので、どこかで見つけた方はぜひ見てください。

  2008年02月05日

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• 時効殺人に賠償命令、しかしその根拠は？（けっこう変更しました）

    1978年に殺害され、遺体発見が26年もあと。刑事上も時効にかかり、せめてと民事訴訟を訴えてもやっぱり時効。それも、時効より強力な、「除斥期間」（民法724条後段）。時効と言う制度自体は必要だと私は思いますが、やるせない思いをせざるを得ない人たちが出てくることもまた事実です。 それに対して、東京高裁が「決死の抵抗」というべきものを試みたというべきでしょう。26年経過していたとしても、遺体を隠して、遺族が知ることすらできなかったのに、除斥期間という主張を認めるのは正義･公平の理念に反するという判断を示したのです。今回の事件は、当然民法上の不法行為ということで損害賠償を請求したものでしょうが、不法行為は「不法行為があったときから20年」と言う制限が厳然と置かれています。しかも、「被害を知ったときから3年」という規定も一緒にあります（民法724条前段）から、全く知らなかった･･･といってもそれは言い訳にならないということになると考えられます。 ところが、「正義･公平の理念」と言う言い分から、東京高裁は除斥期間の成立を排除しました。判決文が手に入らなかったため、どのような判断枠組みかは分かりません。ただし、これまでの理屈からすれば、よく言えば画期的、悪く言えば異常な判決です。 唯一の手がかりは最判平成10年6月12日。解説はこの事件に関連して以前行ったのでこちらからどうぞ。しかし、これは除斥期間について「解釈上除斥期間の場合に適用がないとされていた民法158条を例外的に引っ張ってきて」期間が延びることを認めたにすぎません。しかも、あの事件は最初から被害者が心神喪失状態に陥っており、裁判に訴え出ること自体が法律上不可能だったものであり、しかも心神喪失状態に陥ったのはその不法行為が原因だという条件まで考慮して除斥期間の適用の排除を認めたのです。 　一部報道で、裁判所は相続に関する期間に関する規定を引っ張ってきた、と言う記事があります。　どうやら、民法160条、つまり相続人が確定して6ヶ月経つまでは時効は完成しないという規定を一定の厳格な要件の元に引っ張ってきた（厳格な要件の設定においては、平成10年の判例が生きていることでしょう）ようです。相続の開始は死亡によりますが、相続人の確定は相続人が死亡を知った＝死体発見の後、3ヶ月の相続放棄如何の熟慮期間を経た時点ととらえるならば、除斥期間は完成していないぞ、という解釈論を採用したというわけです。　もっとも、行方不明になって以降7年の経過によって、失踪宣告をさせることができ、行方不明になった者は死んだものとして相続を開始させ、法律関係を確定させることができます。もし上記のような論理を採用した場合、失踪宣告をすると、それから3ヶ月で相続人は確定してしまい、結果踏ん切りをつけたり、やむを得ず失踪宣告を申し立てた（父親が行方不明で金策に困り、やむを得ず父親の持つ土地を売りたい場合など）親族が大損をする、などというようなことになるおそれがあります。およそ認められないよりは･･･という発想はひとつの考え方かもしれませんが、20年もの間不明だった場合にそれを160条の法意で解決することは法の予定しないことではないか、というのが個人的な所感です。　また、債務の根拠となる事実を隠すというのは、なにも珍しい現象ではありません。ここで亡骸を隠したということ、さらにそれをだまっていたことだけで除斥期間なしという考えをすると（判決文がどこまで考慮したかは分からないので本件がそうだと断言は出来ませんが）、除斥期間に関する規定が骨抜きになる恐れがあり、そこまでを認めると法解釈の域を超える恐れが出てきます。 もちろん、東京高裁の裁判官の先生方だって、このような判断を下すとなれば真っ先に平成10年の判例などを意識したでしょう。と同時に、ただ単に正義･公平の理念と言うマジックワードさえ持ち出せばこの判例と同じだということがいえると考えたわけではないと思われます。時効･ましてや除斥期間というのは正義の要請をある程度退けても、時間の経過と言う状態を尊重して法的な安定をもたらそうという制度ですから、正義だ公平だを簡単に持ち出して時効制度の適用がないという理屈を簡単に使ってしまってはそもそも時効と言う制度自体を無意味にしてしまうためです。特に、犯人が死亡し、相続が発生していた場合などには、罪のない親族に厳しい結果を招く恐れも出てきます。（ちょぴっと相続しただけなのに、億にもなる債務負担を強いることになりかねない） 160条説はあくまでも推測に過ぎません。東京高裁の下した判決文がどのようなものか、公開が待たれます。 本件が最高裁まで行くかどうかは分かりません（遺族の方は上告はやめてほしいといっている）が、最高裁まで行けば最高裁の最高の（？）判断が聞けることになるでしょうし、判断がどっちに転んでも重要な判例となるでしょう。 除斥期間という制度を硬直した形でまず例外なく排除するという判断枠組みには民法学界からも小さくない批判があるところでもあります。これまでの判断枠組みからすれば、東京高裁の判断はかなりの冒険的要素を含んでいると思われるというのが私見（現実に第一審は認めなかったわけですし）ですが、被害者保護という近時の流れからすれば、もしかすると東京高裁を支持するか、別論理展開か、判例変更あるいはそれに近い形で最高裁が解決する可能性は小さくないものと思われます。 なお、本件に関しては「民法教員のタテマエ」が詳細な論理構成や検討を加えています。ぱっと聞いた程度の私の想像など一蹴するほど（弁解すると、他の法律家の先生方も少なからず同じ発想だった）、検討が深められていたようです。失踪宣告とからめた疑問はやっぱりありますが、必読です。

  2008年02月01日

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• 橋下氏が当選したらしいですが･･･（追記あり）

  　ふーん、と言う感じでしょうか。橋下氏有利の報道がされてきたこともあり、大したショックは受けておりません。（単独で過半数は取れないと思ってはいましたが） 　私がこれまで橋下氏に対して、懲戒請求扇動事件を中心に厳しい批判を浴びせてきたことはご承知の方も多いかと思いますが、それはあくまでも法律家の肩書きをつけてなす発言として失当ではないのか、と言うレベルにとどまり、政治家として出ることまでを否定するものではありません。祝辞を述べる理由もありませんが、罵倒をしなければならない理由もないのです。（少なくとも今のところ）　法律家と政治家はその従うべき倫理も違います。法律家が法の枠内で、依頼者との関係に従うのに対し、政治家は特定の人間の奉仕者ではなく、全体の奉仕者としての色彩を帯びます。世間一般への説明責任がどうちゃらと言うような立論も法律家としては失当でも、政治と言う領域なら相応に説得力を帯びます。 たしかに、タレントで有名人だから票を入れたとか、懲戒請求騒動で橋下氏支持だから入れたとすれば、公民としての良識を欠く行動であると私は評価するでしょう。しかし、橋下氏が知事として有能であるかどうかは、結局経験させたことがない以上分からないというよりありません。知事としての橋下氏の政策や人柄を評価するという発想が、決してありえない理屈だ、とまでは考えません。　橋下氏を当選させた大阪府民のレベルの低さを嘆くようなブログ記事も散見されますが、大阪府民が身内批判をしているならばともかく、他県に住み（大阪に通学通勤していると言うのならまた別になってくるでしょうが）、大阪の実情などまるで知らないも同然の人間が口を出すべきことではありません。　愚かな事をすれば在職は不可能となるでしょうし、それも出来ないなら最終的には大阪府民の自己責任として帰ってくるべき事柄と言うべきでしょう。 　もっとも、知事に当選したからと言って彼が法律家としてしでかした行動が不問になるわけではありません。懲戒請求民事訴訟は今なお係属中で2月には弁論準備手続が広島地裁で予定されていますし、自身に対する懲戒請求に関しても、大阪弁護士会が動いています。　弁護士会に処分されたからと言って、知事たる地位にいきなり影響が及ぶわけではないと推察しますが、かつての大阪府知事･故横山ノック氏のように、「公務の時間が惜しい」と称して欠席戦術を取るわけにも行かないでしょう。ノック氏のまねをして破滅をすれば、大阪府民も黙っていないと思われます。　広島地裁から大阪地裁になぜ移送を申し立てなかったのか、理解に苦しむところはありますが、準備手続が終わって本案審理に入れば、これまでの方針を変えて代理人を雇うか、自ら広島地裁まで足を運ぶよりありません。あの戦術では普通の弁護士とは発想が合わず、空中分解を起こしかねないと思われます（最初から担当して争うと言うことなら、代理人が普通に争うこともできたでしょうが）から、知事をやりながら広島地裁まで足を運べということになるでしょう。　 なにはともあれ、大阪府民の今回の選択が大阪府の幸福につながることを祈るといたしましょう。  ※※※※※※追記（2月14日）※※※※※※橋下氏は代理人の弁護士を頼んで電話会議としたようです。依頼人が見つかったのですね。広島まで足を運べないとなれば、それしか手はないでしょうね。あの方針で弁護しきれる弁護士の先生がいらっしゃるのかどうか分かりませんが、まだ弁論準備手続をやるようです。準備書面をパラリと見た限りでは、お互いに多少考え方にずれがあるのがひとつの原因であるようには見えます。3月26日にもう一度準備手続ということを考えると、こちらの判決より「本丸」刑事事件の差戻し判決のほうが先に下りそうですね。私自身の試験も近いころではありますが、4月22日は気を締めて待つことといたしましょう。

  2008年01月28日

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• 警察庁の捜査指針を見て呆れた！！

  　鹿児島・志布志の選挙違反冤罪事件や富山婦女暴行冤罪事件を受けて、警察が取調べを巡って、禁止すべき事項をいくつか決めたそうですが・・・私の感想は「呆れた」以外の何者でもありません。　いや、決定した内容が間違っていると言うわけではないでしょう。夜間の取調べを禁止したり、長時間の取調べを禁止するなどは、当然なすべきことです。　私が呆れた原因は、こんなことを今更決定しなおさなければならないと言う警察のあり方にあります。　第一、有識者懇談会の面子を見て、双方の立場を踏まえた、まともなことがいえるのかよ、と言う批判だってけっこうあります。某M田教授は検察寄りで有名ですし、元検事関係も多いですし、被害者問題に超詳しい某O弁護士になぜ出番があるのかよく分かりませんし（真実発見の適正と言うプロセスに被害者の出番はないというべきでしょう）テレビ常連の某K弁護士など、「世に言う」人権派系とは思えない（むしろよく批判する）私の師匠がぼろぼろに貶していました。さて、今回の指針で禁止事項として掲げられていたのは、（１）容疑者の身体への接触（２）直接・間接の有形力の行使（３）不安を覚えさせ、困惑させる言動（４）一定の動作や姿勢を取ることの強要（５）便宜供与（の申し出）や、その約束（６）容疑者の尊厳を著しく害する行為（７）警察本部長や署長に無断で行う一定時間外の取り調べこんなのは、取調べのイロハとして禁じられていなければならないでしょう。被告人が無罪を主張しているのに有罪を認めるなと言う弁護人論理と同レベルではないでしょうか。国家公安委員会規則として定められた犯罪捜査規範でも、（下線は筆者）第二条 　捜査は、事案の真相を明らかにして事件を解決するとの強固な信念をもつて迅速適確に行わなければならない。 ２ 　捜査を行うに当つては、個人の基本的人権を尊重し、かつ、公正誠実に捜査の権限を行使しなければならない。第十条 　捜査を行うに当つては、常に言動を慎み、関係者の利便を考慮し、必要な限度をこえて迷惑を及ぼさないように注意しなければならない。第百六十八条 　取調べを行うに当たつては、強制、拷問、脅迫その他供述の任意性について疑念をいだかれるような方法を用いてはならない。 ２ 　取調べを行うに当たつては、自己が期待し、又は希望する供述を相手方に示唆する等の方法により、みだりに供述を誘導し、供述の代償として利益を供与すべきことを約束し、その他供述の真実性を失わせるおそれのある方法を用いてはならない。 ３ 　取調べは、やむを得ない理由がある場合のほか、深夜に行うことを避けなければならない。第百七十条 　共犯者の取調べは、なるべく各別に行つて、通謀を防ぎ、かつ、みだりに供述の符合を図ることのないように注意しなければならない。 ２ 　取調べを行うに当たり、対質尋問を行う場合には、特に慎重を期し、一方が他方の威圧を受ける等のことがないようその時期及び方法を誤らないように注意しなければならない。とがっちり記載されています。犯罪捜査規範だけでもバッチリ守っていれば、こんな規定を今更作る必要はそもそもあり得ないと考えられます。弁護人とかにとっては犯罪捜査規範は基本的には参考資料程度のもので犯罪捜査規範違反がいきなり自白の証拠能力がどうだとかいうようなものではないのですが、警察関係者はまさしく行動規範であり、当然びしっと知っていて然るべき所でしょう。取調べを担当するならばなおさらです。こんなことを決定しておきながら、今なお「捜査に萎縮するとすれば問題があるからしっかりやってもらう・・・」みたいなコメントを仰々しく語っていたM教授の感覚は、私には正直信じられません。また、確かに裁判例上は、上記に当たるような取調べの結果得られた自白であっても、証拠能力が認められると言う判例はいくつもあります。深夜１１時に逮捕した後徹夜で取り調べ、一応自白したのに更にその後半日に渡って取り調べて証拠能力を否定しなかった判例もあります。（最判平元・７・４）しかし、それは救済判例、すなわちヘマをやった警察を、有利な事情をいくつか拾って、ギリギリのところで救ったと言う意味だって少なくないのです。こうした裁判例は、決して全面的によい取り調べであると言うお墨付きを出しているわけではありません。また、よしんば証拠能力が認められたとしても、その証明力と言うか信用性はおのずと限定されざるを得ません。（志布志事件だって、自白は証拠採用こそされたものの証明力なしと判断された）ニュースでは「共犯者が認めた」というのは（３）の困惑させる言動にあたるといいますが、昭和４５年１１月２５日には、最高裁の大法廷でそのような取調べによる自白には証拠能力がないという判例がとっくに出ているのです。犯罪捜査規範に既に規定があり、最高裁の大法廷で証拠能力が否定されたような判例があるようなことを、わざわざ規定しなおすなどと言うのは、今までの傍若無人振りがよほど酷いか、こうした決定など世間へのポーズでしかないことの証拠ではないのでしょうか。落合弁護士は、その旨指摘しています。指針以前に順法意識の方を問うた方がいいのではないか、と考えざるを得ません。　また、監督制度やマジックミラーを設けると言っていますが、志布志の冤罪事件では内部で会議などが開かれていたのに暴走が止められなかったと言うような実情も指摘されています。内側の監視で有効なのか？と言う疑念は当然持たれてしかるべき、というか信頼してもらえないのもむべなるかなとしか言いようがありません。　しかも、つい先日最高裁から警察が捜査の際に作ったメモ書き（犯罪捜査規範上作れと言われている）を証拠開示しなさいと言う決定（実務上重要なにおいが強い）が出たにもかかわらず、検察側から弁護側に「なくなっちゃってます」などという意味不明な回答がかえってきたといいます。これではもみ消したと疑われても仕方のない行動でしょう。たとえ過失によるものであると仮定しても、非難されなければならないことは明らかと言えます。存在していて、開示命令が出ていた証拠を破棄する行為が発覚した場合、程度問題ながら、取調べに関する事項であればその調書の証拠能力を否定したりというような手法を取らざるを得なくなるでしょう。ことに、故意の場合だともっとドラスティックな対応に訴える（公訴権濫用論みたいな）必要さえ出てくるかもしれませんもちろん、取調べをしている人たちがことさら自己の利益や保身だけを図っていると言うつもりはありません。自白して、反省しているさまを見せれば日本の裁判所は刑を軽くしてくれますし、実際問題そういう中で自らの行動の意味を理解し、更生している人もたくさんいるわけですから、その延長線上のつもりでやってしまうのではないかと推察しますし、こうした熱意を持った取調べには外国の学者などでも評価する見解があるようです。しかし、それを維持するには、それに相応するだけの信頼が不可欠でしょう。それを彼らは裏切ってしまったのです。もはや、取調べの可視化に全面的に抵抗することは不可能でしょう。せいぜい、司法取引や証人保護プログラムをはじめとするその他の武器を代わりに持ってきてくれ、と言うのが関の山ではないでしょうか。

  2008年01月25日

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• 「逃げ得」説の流布は許されない犯罪助長行為である！

  　どこに行っても、飲酒運転の逃げ得を認めたような判決だと騒ぐ人たちが出る福岡の飲酒運転3児死亡事故の判決。　判決文全体に目を通さないで判決をどう、ということは私は言うつもりはありませんが（まともな法律家はコメントするにしてもその辺は留保がつきます）、マスコミに出ていた情報からでも、そんなに変な認定ではないのではという説は非法律家からも上がっています。事件について批判的にコメントしていた某弁護士（まああの人なんだろうなと言うのは分かりますが）は酒気帯びや酒酔いの弁護をやったことがないんじゃないかと言い放ったキャリア法律家もいました。　いずれにしても、逃げ得説を振りまく人たちこそ、かえって逃走を助長しているということには、彼らは感づいていないのでしょうか。　隠滅して逃げるのが賢明とここに書き残して行った人もいますが私に言わせれば「最悪かつ大バカな手段」です。光市事件弁護団バッシングくらい見ていて腹立たしいし、情けないことです。　これは、道義的に最悪であるというのはもちろんのこと、法的に見て得策か、といってもぜんぜん得策じゃないというわけです。下手糞な法の抜け穴ハウツーは大火傷の元です。　逃げ得説の根拠は、逃げて飲酒の検知に引っかからなくなれば危険運転致死（懲役1～20年）が業務上過失（最高懲役5年）になるんだから、ということに集約されています。そして、その後ろには、より重い罪で脅せば人は犯罪を思いとどまるという、フォイエルバッハの心理強制説みたいな発想があるのでしょう。　もちろん重罰と犯罪抑止の因果関係は決して簡単に結び付けられるものではないのですが、この際簡単に結び付けられると仮定します。単純ではないにしても一般論としてそこまで誤りだ、とは私は思いませんし。　しかし、例えそうだとしても、そこには大きな誤りがあります。第一に、危険運転罪の適用を免れるのはそう簡単ではないということ。　ちょっとやそっと水を飲んで時間が経ったからといって簡単にアルコールの濃度が下がるものではない、と言う指摘もありますし、一時的に逃げて呼気アルコール濃度が下がったとしても、運転の内容などの客観的状況から危険運転罪の成立が認められる恐れは決して小さくない、ということです。　今回の判決も、飲酒量に限らずその直前の運転や事故直前のブレーキ痕など、どのような運転をしていたかはきちんと検討されていることは要注意です。つまり、運転の態様によっては、逃げたとしても危険運転罪が認定されている可能性もあったということです。　今回の件でも、警察の初動捜査に問題があった（まっすぐ歩けというような酒酔い試験を失念した）から、危険運転かどうか、検察が十分判断できなかったか立証に失敗したのではという指摘は極めて有力になされていることに注意すべきです。第二に、重罰化されているし、かつ情状が最悪であるということ。多少場合わけして考えましょう。一、救護もせずに逃走して、しかも水を飲むなど殊更に証拠隠滅を狙った上でそれが功を奏さず危険運転致死罪の適用・・・なんてことになったらもう目も当てられません。危険運転致死罪と救護義務違反の併合罪、最高懲役30年。犯人自身の証拠隠滅は条文上不可罰とされていますが、不利な情状になることは実際上疑われていません。重いほうの刑がバシバシ適用される恐れは極めて高くなります。二、逃走して被害者が死亡したが、証拠隠滅が功を奏して危険運転罪を逃れたとしましょう。　今度の事件でこそ業務上過失致死と単純な救護義務違反でしたが、今後の事件で適用される自動車運転過失致死罪と事故車救護義務違反の併合罪は最高懲役15年。飲酒運転で事故というだけでも情状は相当に悪く、しかも先述したように逃走は最悪ですから相当上の量刑を適用することになるでしょう。上限をバシッと適用ということも視野に入ってこざるを得ません。　未決算入（裁判のための身柄拘束を懲役日数に入れてもらえる制度）の点で得しない可能性も出てきます。　また、判決が済んだとしても、刑期の3分の1を経過すれば仮釈放と言う余地も残されています。こうした事件の情状の悪さが、仮釈放に影響する恐れだってあります。3分の2くらいの刑期がそれで動くのですから、決してバカにならない影響力です。三、救護をして、被害者が一命を取り留めれば最高懲役は15年です。危険運転の前提として道路交通法違反をしていても、危険運転の罪に吸収され、併合罪として刑の上限が重くなるわけではないというのが法制定に際して古田佑紀法務省刑事局長（現最高裁判事）の参議院法務委員会での答弁（信号無視に関する回答ですが、酒酔い運転もパラレルに考えてよいでしょう）ですから、酒酔いがついちゃってもそこまでではないのです。　つまり、救助に成功すれば逃げて証拠隠滅に成功した場合と罪の形式的な重さはかわらず、しかも情状がよくなります。被害者の負傷の程度が後遺症が残るようなものでなく、さらに真摯な反省・賠償ということになれば、執行猶予という可能性も出てきます。四、救護が功を奏さず、被害者が死亡して危険運転致死が成立したとしても、危険運転罪だけなら最高でも懲役20年です。　そもそも傷害致死罪だって2004年1月の改正以前は有期刑が最高刑で、その有期刑は傷害致死一罪なら懲役15年が最高刑だったことを考えれば、最初から加害意図がある、とまではいえない（危険な運転で事故を起こせば運転者本人だって危ない）危険運転致死罪で15年オーバーと言うのはいかに厳罰化の風潮が強い現状でも、ぼんぼん使えるものではありません。尼崎の飲酒で危険運転２罪による懲役23年の判決など、遺族の方々は軽いといっていましたが、法律家的には破格に近い（地検は懲役30年を求刑したが控訴は諦めた）そうです。　　つまり、逃げて得をするのは、たった懲役刑の上限が５年縮まるだけで、逃げそこなった場合の情状は最悪で、例え逃げても量刑判断や仮釈放と言う形でもっと不利になる恐れが出てくるというわけです。　これでも飲酒運転は逃げ得、というのでしょうか。　裁判官を不当だとなじり倒していますが、逃げ得という言説を見て本当に逃げた方が得だと考えた運転者が出てきたら、責任は取れるのでしょうか。誤信は無関係と重く処罰することは可能でも、それでは被害者の命が危険にさらされます。加害者を懲役や死刑にしても、何億円賠償させても、被害者は帰ってきません。　もちろん、立証の困難を救済したり、一応最高刑が違うのは事実ですから、その辺の隙間を埋めるために、なおも法改正が必要だという主張をするのはいいでしょう。しかし、それを越えて、あたかも逃げたほうが得策だというようなことを平気で言い放つのは、逃走にインセンティブを与えかねず、許されないことであるというべきでしょう。

  2008年01月13日

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• もう逃げられない・・・

  　現在、私が唯一単行本を買っているコミックがあります。　コミックの類は骨までしゃぶるように読む（カルトクイズとかを解くには便利な性癖）習癖があるので、次々手を出さずとも一冊もあれば十分です。　今日発売日なんで、院の講義の前に、近くにある某有名店にちょっと足を伸ばして購入したんですよ。特典ついているという噂だけ耳にしていたし、たまにはそういうのもいいかな、と。（ちなみに前巻は地元の駅のキヨスクで購入）　ちなみにこの有名店、興味本位で行ったことは二度ほどありますが、買い物をしたのは今日が初めてです。　そうしたらくじ引いてくださいっていうんですよ。　へえと思ってとりあえず軽い気持ちでひいたんですよ。そもそもくじの存在自体知らなかったし、当たりが何かはひいた瞬間にも知らないし、私としては単行本が手に入れば基本的にはそれでホクホクだったのです。　そうしたらレジの人がなんだかあわただしく電話とかするんですよね。どうやら大当たりらしいです。ふーん、と思って出てきたのはなんと！！登場キャラ等身大カレンダー！！存在自体は知っていたけど、まさか私が手に入れることになるとは・・・。　身長が1.7m後半と比較的大きめの私よりも、私の部屋のドアよりもでかいような一枚紙にカレンダーがどーんと。買ったら2940円にもなりますから、409円（単行本代）で3349円分（単行本＋カレンダー）手に入れたわけで、金額的にはぼろ儲けです。1000円の馬券が8200円くらいになった計算ですからね。　しかしですね、こんなの飾る場所ないって。しかも、最悪にも今年はうるう年だから、何年かまって使いまわすのが聞きそうにないし。　よしんば無理して天井とかに飾ったところで、危ないマニアックか何かと思われるのは必至です。　しかも、何よりまずいのは、当たった後どう考えても自分が不気味にニヤついていたことです。鏡見なくても自分の顔ですからなんとなく分かるんですよ。　ってことは、やっぱりそういう趣味があるってことでしょうかね。もう逃げられないのかもしれません。　

  2008年01月12日

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• やっぱりハードルの高い危険運転罪ですが･･･（15日追記）

  　福岡で3人の子がなくなった飲酒運転の死亡事故。　判決は懲役7年6月となりました。　　懲役7年6月は、業務上過失致死罪と道交法上の不保護罪の併合罪によるものです。（業務上過失致死も不保護も懲役5年、1.5倍で懲役7年半）　本当は、今同様の事件があったならば自動車運転過失致死罪と道交法上の不保護罪の併合罪として懲役10年6月（自動車運転過失致死は最高懲役7年、1.5倍して10年半）が下せるのですが、自動車運転過失致死罪は当時なかった罪。というか、この事件がひとつの契機となってできた罪ですからね。　（１月８日追記）　道路交通法上の救護義務違反は本人の事故の場合は懲役１０年が最高刑だったので１０年を１．５倍して１５年が正しい処断刑でした。これも最新（平成１９年）の改正の成果です。もちろん、罪刑法定主義上この事件に使えないのも同じなのですが。　刑法は試験で抑えますから完全に把握していますが、道交法は出ないために最新改正までは抑えていないのがひとつの原因ですが、実務家としてこれをやってはそれこそ懲戒ものでしょう。　偉そうな事を言いながらこの体たらくは汗顔の至りであります。　事実認定は疑わしきは被告人の利益としなければならないし、自動車運転過失致死をさかのぼって適用するのは憲法39条・罪刑法定主義違反となりますから、裁判官としてもどうしようもなかったのでしょう。　証拠隠滅すれば･･･という人もいますが、どんな事件でも証拠隠滅をして逃げ切れば処罰ができなくなるのは同じです。例え目の前で凶器らしきものを破壊した人間でも、凶器であると分からなければ凶器としては扱えず無罪となるのが、日本の刑事裁判です。危険運転致死傷罪の要件については、以前書いたこちらを参照。　今回の件で裁判官は訴因変更命令をやったそうですが、私の院の師匠は30年近いキャリアを持つ刑事の裁判官（私でさえ院進学以前から名前を知っていた先生です）ですが、30年間訴因変更命令など一度もやったことがないといいます。多少裁判官に個性があるとしても、めったに使わない訴因変更命令を使ったということは、裁判官としても多少なりとも本音がうかがえます。　最高刑を適用したという点から見ても、裁判官も内心では危険運転罪を適用したかったのではないか、仮にもっと重い刑が下せたならもっと重い刑を適用したのではないかと思えてなりません。　懲役7年6月という結論だけ見て裁判官はこれで納得できますか？みたいな陳腐な問いから裁判官を叩き続ける人たち。　遺族の大上夫妻でさえ、裁判官の最高刑という判断には理解を示している（内心では納得していないかもしれないけど、理屈で考えて言葉を選んで抑えて語っている）にもかかわらず、どうしてこんなことばかり平気で言えるのでしょう。　産経新聞とか主張で法改正に言及をしていますが、自動車運転過失致死傷罪という、最新の法改正の成果に言及しない姿勢はいかがなものでしょう。もちろん、先述した言いたい放題の人たちも、自動車運転致死罪も知らないのに、7年半では･･･なんていい続けないでもらいたいものです。それこそ彼らの論理からすれば飲酒運転の助長ではないのでしょうか。　というより、危険運転罪の使い勝手が悪いことこの上ないから、中間的な措置として自動車運転過失致死罪ができたという意味もあるのですが。（私は自動車運転だけ最高刑を高くするのは不合理で、重くしたいなら過失致死罪全体を底上げすべきだと思っていますが）　大上夫妻は、もちろん本件について厳罰を希望しているようですが、逃げずに踏みとどまった人を何とかすることも必要であると考えるなど、（事件の性質としてそういう発想を持ちやすい事件かもしれませんが）それなりに深く考えていらっしゃるようです。　あまり大きな声で言いたい事項ではありませんが、遺族感情としては当然としても、法体系全体から見ると、無知故なのか荒唐無稽な主張や意味のない批判に走ってしまいがちな遺族の方々もいます。私に限らず、被害者にもっと配慮した解釈をすべきであるという解釈で他の学者と激突することさえあった先生さえ、そう嘆いていたりするのです。　事故の遺族としての心情を吐露するだけでなく、法制度を全体として学び（個別の解釈論がどうという問題でなく）、そこから自分の持つ心情を問題点を見つけ出す姿勢を持っている方々は、尊敬に値しますし、ただただ心情を吐露するだけよりはるかに制度を動かす力になると考えます。　　検察は控訴する方針のようですし、つい先日も、一審の業務上過失致死の認定を二審で危険運転とした例が出てきたばかりですから、今回ひっくり返らないという保証はできません。　しかし、何とか認定したいという、裁判官の心情では越えられない壁があったということは、やはり一つの事実なのでしょう。※※※※※追記※※※※※　報道ステーションを見ましたが･･･こんなに情緒的なつくりにしてしまっていいんでしょうか？　コメンテーターとして登場していた谷原誠弁護士は、ネット上でも発言を見かけました。活動は敬意を表すべきものですが、言動はちょっとはて？と思うこともありました。　それはともかく、判決文の、ほんの一部の要素だけを抜粋して個別に批判を加えていくというやり方は、本当にいいのかどうか私には疑問です。せっかくの法改正の成果である自動車運転過失致死傷罪の存在もほとんど触れられることはありませんでした。　で、報道直後にブログ検索をかけると、それまでそこそこをつければ形になっていた批判だったのに、とたんに情緒的な批判が山ほど･･･。　　血液鑑定を不採用にしたのもまるで悪いことしたみたいです。血液は人間の身体の一部ですし下手な採血は危険ですから、簡単ではありませんし、個人差がある鑑定がはねられるのも、決しておかしなことではありません。　どこまでいっても、「疑わしきは被告人の利益」という命題はついて回ってきてしまいます。　　もともと実務家が使い勝手が悪いとして頭を抱えていた危険運転罪を放置してきたまま、最高刑を持って処罰に臨んだ裁判官をつるし上げることに何の生産性があるのでしょうか。　こうした事件を、つるし上げや処罰でカタルシスを得る場所にしているとするならば、それはほどほどにしていただきたいものです。これは、収穫を得なければならない議論の秩序を乱し、同時に最大の苦痛を味わいながら必死に理屈を作って勤めて冷静に主張を組み立てている遺族や支援者の方々への侮辱になります。　社会人としての良識ある賢明な判断を望みます。　※※※※※追記2号※※※※※　読売ウィークリーで、判決批判を趣旨とした文章に「最大12秒のわき見」と記載されていました。　もしこれが判決文のとおりなら、12秒の運転なんて危険運転以外の何だというんだ！！というような、ネットではびこっている言説は一発で根拠を失うことになるでしょう。「最大12秒」ということは、疑わしきは被告人の利益に考えなければならず、12秒のわき見を前提に運転の異常さを基礎付けるなどというのは不可能になるからです。　ことに、某テレビでそこを盾に判決批判を展開した某弁護士など、読みもせずにいい加減なことをテレビという極めて公共性の高い媒体で語ったということで、懲戒処分ものではないでしょうか。　　もちろん判決文をきちんと読まなければ迂闊な事がいえないのは私も同じですが、判決文がどこにもアップされていないのが大変気がかりです。早く誰かアップしてもらいたいところです。光市事件最高裁は最高裁ＨＰにアップされましたので割と早くに検討が可能でしたが、こっちはどこにもありません。　「12秒わき見」論争をはじめこの事件の事実認定をめぐる論争には、判決文という一番大事な要素が全く欠け落ちているために、いかに激しい批判を語っても白々しいのです。　判決文要旨はありましたが、やはり判決文をしっかり用意してもらわないと困るというほかはないでしょう。部分部分を切り取れば、どうとでも批判できるものです。なればこそ、部分の切り取りをやってさえろくな批判が出来ていない人は最悪というべきですが。

  2008年01月08日

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• ねずみ年の最初の話はヘビです。

  　旧約聖書で、イブに知恵の実を食べるように唆した動物がいます。彼は神によって人との間に敵意を置かれ、人は彼の頭を砕き、彼は人のかかとを砕くと言われた動物は何でしょうか？　　答えはヘビです。　　しかし、私は変人であるゆえか敵意がおかれなかったようです。　そういうわけで、私はヘビがけっこう好きですよ。幼稚園くらいの頃から動物図鑑が座右の書で、ヘビのところばっかりじーっとみていましたから。千石正一先生とか見ているとうらやましくなってきたりさえするわけですよ。　宙を舞うトビヘビとか、砂漠を横に滑っていくサイドワインダーとか、トカゲの仲間扱いされているのにメクラヘビとか、奇妙な形で木に巻きつくエメラルドボアとか、ヘビ食いヘビムッスラーナとかなかなか可愛い連中もいますというかほとんど可愛い連中ばかりです。さすがに毒ヘビを相手にする気にはなりませんが。（ただしサイドワインダーは毒ヘビですし、ムッスラーナも微妙に微毒だけど）　ちょっとでかける機会があって、某動物園に行って、ふれあい広場みたいなところでヘビ（まあ普通のアオダイショウです）とちょっと戯れて写真を撮られたんですがね、家族いわく私のどの写真よりいい顔してるとかいうんですよ。　で自分でもちょっと見てみると確かに我ながら楽しそうないい顔してるんですよ。　新年からヘビと戯れたわけですから、今年は金運に恵まれてくれるでしょうか？まさか新年早々書く記事がこれとはね　

  2008年01月05日

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• 学生リーグにおける経験の威力

  　年内に書くといってしまったので、年越し記事としてこんなのを書きます。　学生リーグで勝つのに必要なものは何か？　もちろん答えは「棋力」です。棋力以外の答えを真っ先に答えるようでは根本的に甘いとしたものでしょう。　９５％以上が棋力によります。上に行きたいならまず基礎的な棋力を上げることが不可欠といえます。その方法が詰め碁を解くのか実戦修練か棋譜並べかは、難しいし人にもよると思いますが。　しかし、です。なかなかどうして実力差が少ない相手と打つことも必要になってきます。力を発揮すれば勝てるが調子が悪いと負ける相手というのもいます。そうなってくると、残った５％の威力も無視できなくなってきます。　そのひとつが、「経験」という要素です。５局くらいしか打っていない人間が経験を語るのはチャンチャラおかしいかもしれませんが、まあ涼としておいてください。　早稲田は、一般部に関しては学内リーグで勝った者を上から順番に並べるのが基本です。場合によっては学内リーグに参加できなかった実力者が一時的に打つということもありましたが、基本的には避けられてきた方策です。　変則オーダーは基本的にはやりません。２、３年位前に聞いたと思いますが、やったらOBから怒られるらしいです。（私自身は現役がやりたいならどうぞと思っていますが）　さて、学内リーグに参加する資格のある者（今はどうか分かりませんが、去年は試験碁を打つといっていました）が勝ち続ければ全く問題なく誰もが主将になれます。一年生でも然りです。　しかし、ことに一年生に主将を打たせる、というのは、相当に大変です。　学生リーグ独特のムードというのがあるのもそうですが、主将の重圧というのがあるのか（経験者ではないのですが）、１年生から関東で主将を張る人たちはほとんどいませんし、張った人が成功しているかというと、私の知る９年くらいの関東リーグの勝敗を見る限り、１年生で一部主将になった人はけっこうきつい目にあっているのです。かの村上深本因坊でさえ、１年のときは２部リーグの主将だったときに吉沢文伸さん（一橋大）に痛恨の一発を食らっているのです。　私は本来は、一年生は副将以下において、1年くらいは団体戦に慣れさせるのが必須ではないかと考えるわけです。慶応は学年順ぽいことをやるようですが、これも一定程度の合理性があるものと思います。　もちろん、学内リーグをやるからにはその価値を尊重すべきですから、勝ったら当然彼を上に行かせるべきだと思います。　ただし、学内リーグを打つ上級生はその点を意識し、一年に主将の座を渡さないという気合がほしいというわけです。　1年生にして学生十傑戦を優勝、その後学生本因坊2期、学生王座1期の阿佐巧さん。彼は高校時代から学生十傑５位に入賞し、その名を知られる逸材だったのです。　しかし、一年生の彼が学内リーグで選手になったのですが、日大、東大、多摩大など、大所にばたばたと敗れてしまいました。秋も5勝2敗で終りました。１敗は何十目勝っているか分からない碁を時間切れで落とし、チームが２－３負けになるという本人にとってはたまらない目にあったようです。学生リーグの威力は、学生タイトルクラスでさえ弱らせる魔力があるのです。その年の秋、彼は学生十傑戦で田中伸拓さん（東大）や劉錚さん（東大）を破り優勝したのに、です。　翌年春、彼は元高校チャンピオンにして後の学生本因坊松田みこと（多摩大）を破り、早稲田の優勝に大貢献します。　一昨年、秋の早稲田は、新入生の谷口洋平くんが学内リーグで主将になりました。　しかし、谷口くんは秋のリーグで山本智裕くん（慶応）に1目半逆転負け。プレーオフは彼の勝利もあってきわどく勝って全国出場に貢献したのですが、全国は大沢伸一郎さん（東北大）、小野慎吾くん（立命館）と敗れました。相手も超強豪ですから全力を発揮できても微妙な部分はありますが、彼の腕からすればあっさり敗れた感が強く、力が発揮できなかった感が否めません。　彼は、デビューとなる春のリーグは三将でしたが、ほとんど全対局が考慮時間20分くらいで終って全勝賞。これ自体は賞賛に値することですが、団体の中で近い相手と戦うと言う経験ができないままに主将になったのは彼にとっては不幸なことだったかもしれません。　その年の大型新人トリオ谷口・寺山・清島と全国大会では信じられない負けを喫しました。プレーオフも、寺山くんは優位に進めながら逆転負け、清島くんは相手の手抜きという勝負手にハマって半目負け。　当時と今で腕に違いがあるという面は正直あると思いますが、それでも経験という要素の存在も、感じずにいられません。しかし、です。去年の早稲田はその意味で1年生を実にうまく使いました。　１年生としては、前期関東21戦無敗の関東王座と、一年とは思えぬ暴竜ぶりを発揮した強豪糸山くん。高校生にして女流アマを制した女王下坂さん。他大なら一発で主将になれる方々ばかりです。　しかし、彼らが主将になることを断固阻止したのが４年目の主将・太田匡彦。もちろん権力で落としたのではなく、碁で勝って落としたのです。春・秋の関東リーグで、彼らは下のほうで打つという体験を経させ、その上で主将とすることに成功しました。　太田くん自身は関東リーグの本割はいまひとつの出来で、春にいたっては負け越し（！）と言う屈辱的な戦績を味わい、勝ちまくっていた後輩から逆にいじめられる始末でした。しかし、糸山くんと個人戦で3回もあたり、王座二次・本因坊2回戦・十傑の順位戦とことごとく敗れた糸山くんを学内リーグでは断固主将に上らせなかったのです。　結果、早稲田は春に慶応を５－０で下します。秋も、糸山くんは敗れたとはいえそれなりの相手と打たせることに成功しました。　去年、口には出しませんでしたが、全国で下坂さんを主将にしたのはまだちょっと早い感がありました。実力がどうだの性別がどうだのというのではありません。学内リーグで勝つこと自体はあるだろうと思っていました。が、春三将、秋五将、そこまで重量のある相手とは打っているとはいえないし、まだちょっと早いのでは・・・と正直思っていました。が、下坂さんが団体戦に関しては天才だったらしくなんと全勝！！すばらしいことです。しかし、これは例外現象に属するというべきでしょう。　もちろん、主将でなければ大丈夫というわけではありません。　岡田くんは、デビュー戦でたぶん３つくらい置かせるはずの相手にまさかの２目半負けを喫しました。　太田くんでさえ、早稲田キラー神紘一郎さんに力みすぎてあまりにも華麗に技にはまっていました。　全国大会の京都大戦で半目勝ちを収めて早稲田を救った永山さんも、１年目の秋にデビューは３連敗。　滝沢王座は槇尾名人と対戦し、三連星から優位を築くも終盤に入って崩れ去りました。　田中康収王座でさえ、１年目は槇尾名人に苦杯をなめさせられ続けました。　　上級生は、これまで得た経験を最大限生かすのはもちろん、リーグで力及ばず補欠その他に甘んじた新入生たちも、最大限リーグ戦は見に来て、その雰囲気だけでも感じ取るなど、リーグというのはどういうところかを感じておいてほしいのです。　　、最後に、一般連ではなく理工チームの面々にも一言申し述べたいです。　先日の打ち上げで理工の若い選手ともいろいろと語りました。世代ががらりと変わってしまっていて時の流れを感じます。私がもう少し若ければいろいろと教えてあげられそうですが、さすがにそうも行かないので。　部誌の棋譜や部内ランクなどを見る限り、各人高段者と名乗ってもとりあえず怒られないくらいの持ち主のようですが、それでも３部に落ちてしまいました。全員と打っているわけではありませんが、早稲田級で観察する限り、３年位前なら十分一部で通用していたように思います。ヒカ碁ブーム世代の大学進学や関係者の努力の成果による全体のレベルアップもあるのでしょうが、どうしても肝心なところで勝負弱さが目に付きます。　以前の中野くん、河部くん、金さん、増田さんといった早稲田の主力選手たちが、関東リーグという場で鍛え上げられた存在であることを考えると、足りなくなったのはやはりそこだろうと思われます。　最初から実力が違うのは仕方がありません。そこを埋められればすばらしいしそのための最大限の努力は当然すべきですが、どうあがいても限界もあるでしょう。院生の上位とかがなぜか主将に座っていたりするのに勝つ必要はありません。　自分といい勝負の相手に勝率をぐぐっと上げることが出来れば、革命は遠いかもしれませんが（ちなみに「革命」という言葉を作ったのは私です）一部はそこまで遠いとは思えません。そのためには棋力アップの個別的な努力と並行してたくさんの経験を積んでもらいたいところです。理工の選手クラスは選手権などで活躍している人が少数派で、場数という点で劣らざるを得ません。学内で練習をするのもいいですが、それ以上にもっと学生･一般棋戦に出てほしいです。　団体としてリーグに出る経験を積むのはちょっと回数に限界があるでしょうから、春と秋の到来を待つより仕方がありません。　しかし、アマ本因坊やアマ名人、協和発酵などのアマチュア棋戦、学生個人戦をはじめ、個人でも真剣勝負碁の打てる機会をよりたくさん持つことを勧めたいと思います。学生棋戦に出ている人間が一部の選手クラス中心であるという現状は、正直なところ残念です。　一般アマ棋戦の出場は2000円近くかかりますが、なればこそ気合の入る形で打てようというものですし、学生棋戦なら1000円くらいで出られます。　会全体でも、理工選手で準決勝に残るくらい活躍したら個人戦の出場費くらい会で負担する位の勢いで（予算が大丈夫かどうか分からないで言ってます、大丈夫じゃなかったらごめんなさい）、バックアップをしてあげてほしいところです。　さて、今年もあと300分あまり、来年のことを言うと鬼が笑いますよ。ククク。　それではよいお年を。

  2007年12月31日

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• 最後にする予定の観戦記～早稲田、再び全国の頂点に立つ！（後編）

  　さて、結果をまとめてみましょうか。　チームは7戦全勝、個人の勝ち数は32勝3敗。　2000年に早稲田が全国制覇したときも32勝3敗でした。三将が5－2で主将が6－1というのまで2000年と一緒です。　今年の立命戦以上の名勝負、というか怖い勝負は見たことがありません。　私の生で見たことがある、客観的に見て名勝負といえそうな勝負としては、2000年春季関東リーグ　早稲田vs東大（早稲田の新入・ベテラン混合軍でベテラン勢大奮戦、東大の強豪を制圧）2001年関東リーグプレーオフ 早稲田vs東大（形勢二転三転の大乱戦ばかり、終局直前半目逆転や時間切悲喜劇も）2002年春季関東リーグ 早稲田vs東大（早稲田が東大にまさかの敗退、学生タイトル2名が敗退、半目勝負2局の激突）2003年春季関東リーグ 早稲田vs慶応（新戦力を加えた慶応に豪華メンバーの早稲田が轟沈）2004年秋期関東リーグ　早稲田vs東大（戦力で劣ると言われた早稲田が大奮戦をするが最後の最後で涙を呑む）2005年関東リーグプレーオフ　早稲田vs慶応（早慶戦史上最大の名勝負、終局直前の逆転劇やベテランvs若手、見所満載の超絶死闘）2006年秋期関東リーグ 早稲田vs慶応（戦力大幅ダウン…と見られた慶応が最後の抵抗でプレーオフに引きずり込む）　あれ、関東ばっかだ。　去年は、客観的に立命有利の下馬評の中、結果に関する感動度はとても高かったと思うのですが、割と普通に早稲田が勝ってしまった感があります。内容的に名勝負だったか、と言ってしまうとという部分もあるかもしれません。　今年は見ていて死ぬかと思いました。林海峰先生は熱気と言ってましたが、あれは瘴気か殺気と呼ぶべきものです。最初のうちは一時的に売店などに逃げ込んで回復を図りましたが、終わりの方になると迂闊に動けば席がなくなってしまうのでますます死ぬ思いをするハメになりました。　8年間見ていてこんなことはありません。　ちなみに、ゲンを担いで去年優勝したときと同じ格好をしていったというのはナイショです。　連盟賞は岐阜大の若山くんと東北大の太田くん。若山くんは新入生で主将として北大・田沢くんを撃沈するなど割りと普通に受け入れられたような気がしますが、太田くんの受賞には割りと反応が微妙だったような。5勝2敗でチームは3位、強いのは疑いませんけど普通ですよね。　想像の域を出ませんが王座戦からの6日間ぶっ通しが評価された可能性があるかと思います。あと、現段階において早稲田・立命の2大強豪制（？）に風穴を空ける一番の候補が東北ですから、その大将に対してハッパをかける趣旨ではないかと勝手に想像。というか私の希望。主将糸山くん、去年は副将で選手権で辛酸をなめさせられまくってきた高津昌昭くんを撃沈して全勝でしたが今年はスルリ。鬱陶しい所にもちゃんと勝っているにもかかわらず、十傑戦も含め、一番肝心な所で震えてしまうのが一つの課題のようです。まあ彼のことですから、克服してくれるでしょう。　学生名人戦、太田尚吾くんとの準決勝が待っています。勝つと次の相手は村上vs白川の勝者。今度こそ優勝してくれるでしょう。日程さえ分かれば、期待をこめて、億以上のポイントを持つ私は彼にたくさんのポイント（1000万位）をかけたいと思います。とりあえず村上くんの十傑制覇を阻止して欲しいところ。　彼が優勝できなければ入賞者の私の株も上がるというもの（くぉら）。　副将谷口くんの全勝には、まこと救われた気分であります。　一昨年、早稲田に谷口・寺山・清島の強豪トリオが加入し、早稲田が一気に全国大会に上り詰めました。そんな中、秋の関東リーグ・プレーオフ・全国大会と主将を張っていたのが、紛れもない当時1年の谷口くんでした。学内リーグで勝ってなっていますし、それに見合う逸材であると今なお思うのであります。　しかし、1年生に主将を任せるというのは、上級生（当時は私もそうでした）がふがいない証拠でもあります。この辺に関しては年内に別の詳細な考察記事を書きますので、後学にしていただきたいと存じます。　結局、彼も全国で、大沢伸一郎さん（東北大）や小野慎吾くん（立命館）に敗れ去りました。上級生としてそのふがいなさを恥じるばかりです。　がしかしです。そんな彼が、立命戦をがっちり制したわけです。2－2で最後に残り、ギャラリーが30人くらい（数えたわけじゃないけど）集まる中、序盤劣勢と思われた碁をひっくり返して逃げ切り、見事全勝賞を獲得したのですから、文句のつけようがありません。　皆さんのおかげですみたいな殊勝なことを言っていましたが、もう少し胸を張ってもらわないとこっちが申し訳ないところです。三将笹子さん、6年前、あの半目負けを喫した日が昨日のように思い出されます。　1年半のブランクをものともせず三将まで上り詰め、少なくとも私の理解の範疇を超えている独自の碁で個人戦でも団体戦でもその地位を切り開き、学生本因坊戦でも入賞しました。学内リーグで名うての強豪を撃沈して関東リーグ一部の主将に座り、全勝するという神業をやってのけました。女の子で主将全勝なんておそらく15年位前に関東でがんばっていた梅沢由香里以来…というか梅沢由香里もやったことがあるのでしょうか？梅沢先生見てたら書き込んでください。　来年も優勝したいみたいに聞こえたので来年もいるのかよと思いましたが、ちゃんと今年で卒業のようです。もちろん後輩には頑張ってもらいたいようでしたが。　私としては、卒業する前に彼女の碁がもう一度見られたのは本当によかったと思います。東北戦とかは、良くも悪くもらしい碁だったと思います。　最後は残念でしたが、いずれ女流アマとかでその雄姿を見ることができると信じておきます。四将下坂さん、またしても全勝・・・リーグ戦に6回出て5回全勝、団体戦通算42勝2敗。ちなみに早稲田の最高勝率・坂本修作さんは関東で54勝4敗、村上深本因坊ですら関東は二部リーグを含めて35勝2敗くらいですから、いかばかりの安定感かが知れます。　全国大会で14連勝したのはここ30年くらいは早稲田では滝沢さんと太田くんだけですよ。去年なまじ主将で全勝したばかりにプレッシャーもあったらしいですし、しかも一番の山場の立命戦は直前にトラブルに巻き込まれるなど、正直言って貧乏くじばっかり引いていたような気もしますが、貧乏くじを跳ね返す棋力が十分にあるのが救いであったと言うべきでしょう。まあゴレンジャーの類では貧乏くじを引くのは女の子と相場が決まっているものでして…（おいおい）　夏合宿で打ってもらったら龍とハムスターくらい腕が違いました。棋力ってこんなにも違うもんなんですね。五将寺山くん、唯一の三年連続選手。三度目の正直と言うべき全勝。しかもなんと全局中押し勝ち…。　早稲田で大学選手権で15勝以上（彼は通算18勝3敗）あげた人はここ30年以上いませんよ。（断言）　まあ、私としては、彼の高校時代は名前さえ知らなくて、大学に入ってふーんと思ったような人で、選手になったときも東大や慶応には勝って一応の責任は果たしましたが、調子が悪いのか団体戦慣れしてなかったのか今から考えると内容があんまりよくなくて…（ヒドイ）　それがいつの間にか全国大会全局中押し勝ちですよ。選手たちの中で、私の知る限りの成長度に関して言えば、彼の右に出る人間はいないかもしれません。と言うか初期が過小評価だった？　彼の唯一の欠点がポカをよく出すこと。去年はそれで東北戦で涙を呑み、関東リーグの急所でも続けざまにやってしまいました。しかも一回全勝を取ったと思ったら今度は他が負けてアウト、勝った時は周囲が4－1以上と言うことも多かったりと、せっかく強いのに微妙な立場にいましたが、今年はついに全勝賞獲得で立命戦はがっちり勝利につながっているのだからこたえられないはず。　夏合宿で打ってもらったんですがね、私じゃ歯が立ちません。　　そうそう、忘れちゃならんのが太田匡彦監督です。私みたいなニートもどき院生と違ってきちんと一流企業に就職しているというのに、最終日は連盟や選手の誰よりも早く来て応援に来てるんですよ。　選手たちからも慕われ、優勝が決まれば彼を胴上げ。プレーオフの写真は彼が中心。スポンサーもやっているそうです。去年は福沢諭吉数名を優勝祝いの寿司に投入したらしいですし、あんたは偉大だよ。　ちなみに、谷口くんの所で書く予定の記事を考えていたら彼の偉大さに改めて気づいてしまったので楽しみにしているように。　ここ数年、2連覇が一つの区切りとなり、3連覇がなかなか見られないようです。　ここ2年の早稲田、その前2年は立命、その前2年は東大、その前2年は早稲田、東大を一つ置いてその前2年は京都。つまり3連覇と言うのが一つの壁になっていると言えます。　笹子さんは卒業しますが、主力選手は来年も残っています（予定）し有望な新入生が来るという話も聞いていますから、ぜひぜひ来年も優勝してほしいところです。　3連覇を目指すと言うことを言っている方々がいますが、早稲田は地味に4連覇経験校なので、ここは一つ5連覇を目指してもらいたい所です。　もちろんそれには中で選手として通用する人材を育て上げないといけない（名選手を青田買いするだけではきつい）でしょう。今の選手たちが留年を重ねると言う手法もなくはないですが、正直それはどうかと思うので、今後に期待しましょう。順当に行けば主力が卒業予定の5年目が最大の試練となるでしょう。　が、しかしです。3連覇なら道のりは平坦か、というとそうではありません。　次の春、早稲田は「前回順位3位」として関東から出発しなければなりません。　早稲田は慶応と中央にやられているのです。プレーオフで勝とうが全国で優勝しようが、中央と慶応に負けて3位だったと言う事実はどーんと残っているのです。　また、古豪東大が力を伸ばしてきています。大久保くんは順当なら今年で卒業だったと思いますが、久保田くんや稲田くんなど新鋭軍を総動員して打倒早稲田の大号令をかけてくるとなれば、大変面白いことになるでしょう。　　なかったはずの2年間の学生碁界生活は、大変充実したものになりました。彼らのおかげであります。　まことにもってありがとうございました。　5連覇するまで貼り付いていたいのも一つホンネですが、もうすぐ私も本番です。あんまり模試の出来もよろしくありません。何年越しの挑戦になるのかわかりませんが、いつまでも学生に引っ付いているわけにも行かないでしょう。　というわけで、私の観戦記その他はこれにて終了です。これからは一介の学生囲碁界OBとして外から学生囲碁界を眺めることとしましょう。もちろん、情報提供の類は大歓迎です。　ご清聴ありがとうございました。　ついでに早稲田囲碁会のHPがブログを始めたらしいですので、リンクに加えておきました。

  2007年12月29日

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• 最後にする予定の観戦記～早稲田、再び全国の頂点に立つ！（中編）

  　超長編になってしまったのでなんと中編です。後編は更に明日を待て。　さて、この中編は、はっきり言って、終った後、私ははっきり言って「死にそう」な状態で書いたものをベースにしています。あんなの、見ているだけで体が持ちません。頭が割れそうに痛かったです。　なぜこんな状態になってまで私は観戦記を書いているのでしょうか。見に来てくれる人のためなどと言う殊勝な心構えは私は持っておりませんので、不思議です。何かタチのよくないものにとり憑かれたのかもしれません。　さてそんなことは置いておいて、さっそくと立命戦の戦況にうつりたいと思います。メンバー紹介は前編で済ませたとおり、握りは立命の奇数黒番です。～戦闘開始！！～主将戦：開始から神経を使うコウが勃発しています。白の方が石的には弱い石に見えるのですがコウしだいによっては黒も弱そうだし･･･不確定要素が多すぎて何にも分かりません。こういう神経戦はなんとなく武田くん強そうですね。副将戦:進行がとてつもなくゆっくりです。山田くんは長考派ですが、谷口くんってこんなに長考派だったっけか？2年前の春は比較的相手が軽かったとは言え10分くらいでほとんど全対局カタをつけていたような、と言っても最近はけっこう最後まで打っていることも多いのだが。両者ともかつてのT・T（早稲田･滝沢雄太vs東大・田中康収）対決のように考えに考えています。秒読みくらいなんてことはないよ、と言うことなんでしょうか。　局面は山田くんが本格派で地に辛いとよく知られた彼の棋風通り下段で地を稼ぐ展開です。山田くんは棋風で序盤20手位は着手がかなり読まれている気がするんですが。去年も22手くらいまで読まれていたようです。三将戦：高津くんが恐ろしくぽんぽんと打ち進めています。秋の関東リーグで不戦勝の人より早く勝った（！！）と言う伝説を持つ笹子さんも応戦しますが･･･ちょっと黒の攻めがツボにはまっている感じがします。あの攻めをまともに食らったらたまらない、と言うのが通説ですが、笹子先生はこの通説を打破するのでしょうか。四将戦：序盤の最初のうちは少し下坂さんが打ちやすそうに見えました。しかし、辺に突入しての白のサバキがうまくいき、黒は確定地はあるのですが、せっかくの地も捨扶持を与えられたと言う感じでなんだか攻めの標的になっています。白地も大きくまとまりそうです。　戦いに入る前、下坂さんはコンタクトを落っことしてメガネでの戦いを余儀なくされていました（局後、目が痛いと言っていました）が、それが小さからぬ影響を与えているようです。この剣が峰で内と外から襲い掛かる強敵に耐え凌がなければならんというのは恐ろしいことです。五将戦：黒の野口くんがミニ中国流から構えますが、寺山くんはあわてず騒がず開始十数手を相手の注文に乗って打ちたいように打たせました。研究量の多さは天下一品の彼ですから、ミニ中国流ごときではびくともしないのでしょう。ミニ中国流に侵入してさらさらと消していき、黒がどう攻めるか。～揺れ動く形勢～比較的早めに形勢がはっきりしたのは下の3枚です。　三将は進行が速いですが、ちょっと高津くんの攻めをかわしきれていません。どこか逝ってしまいそうです。別に特に地が多いわけでもなく、しのげば勝ちとも見えないので苦しいのでしょう。まああの辺の石を殺して逆転勝ちする・・・なんていう期待というかわずかな希望に望みを託す感じでしょうか。　他方、五将戦が形勢よしです。野口くんの手にキレがありません、というか白がキレすぎているだけか。白はぱっと先手を奪って大所に先着し、なかなか好調です。黒としてはミニ中国流を消した石を攻めたいところですが、どうにもうまい攻め手が見つからないようです。　四将戦は・・・なんだかすんごく苦しそうです。楽にコミにかかる、ってかダメです。ノゾいて反撃に移ろうとしたのでしょうが、これは受けて貰えば悪くないだろうけど瞬間に反発されるんじゃないか・・・と思ってみてたら本当に反発してきました。シノギ勝負にするわけでもないとなると、去年の立命戦以上にきつそうな進行になっています。コンタクトの影響がやっぱり大きかったか？　上二枚は・・・主将戦は競り合いでムードがよくなってきました。眼型の薄い石を放置してがんばり、あちこちに手を回して地が多くなってきました。これなら白有望、主将戦はいけるというムードで見ました。　他方、副将戦は・・・なんか接近戦闘で盤上が白のハチの巣になっています。それに見合うほどに黒地が多いようにも見えませんし、ダメだこりゃという説が・・・しかし、黒も取られていたように見えた石をコウにして食い下がります。あいかわらず進行が超ゆっくりです。　そうすると、5が勝って、主将がいいムードで、後もう一つと言う感じです。それでも、この段階では立命の勝ちを予想していました。～そして終局へ…～　比較的早く、最初に終ったのは三将戦。　立命館大学三将・高津昌昭の黒番中押し勝ち。　時間もけっこう残っており、高津くんの完勝と評価するほかはないでしょう。最後はコウ財が尽きる形で大石が討ち死にし、やっぱりつぶれて終りました。予想通り凄まじく激しい碁でしたが、笹子さん体の調子でも悪かったのでしょうか。　高津くんの力を見せつけた形です。立命、2年ぶりの（！）対早稲田戦勝利です。　それからかなり経って、次に終ったのは五将戦。（時計見てないから何分経ったかなんて全然覚えてない）　早稲田大学五将・寺山文哉の白番中押し勝ち。　野口くんが大損覚悟の捨石作戦から取りかけを狙ったつもりが逆に取られてしまいました。単純な攻め合い4手対5手で5分くらい考えると言う石橋をたたいてわる勢いの念押しで決まり。　団体戦のためか、最後の抵抗を試みる野口くんでしたが、更に大きくとってかたをつけました。油断も隙もない碁で圧勝です。去年みたいに追い詰められないと力が出ないと言うわけではどうやらなさそうです。クスクス。　２ちゃんねる下馬評で三が立命・副・四が早稲田厚く、互角の主将・五将でどっちかと言うことであり、客観的に見ても妥当な評価だと思います（当ったし）が、キーポイントの五将が勝ち名乗りを上げました。　さて、のこり3枚ですが・・・四将戦で三将戦が終ったあたりから下坂さんが急追。　いつのまにか攻めていた白石を派手にもぎ取った上に白っぽかった下辺を叩き割り、しかも黒地がぼとぼとついています。焦った白はコウを仕掛けるのですがコウに負けて後退を余儀なくされて追加で損をしてしまい、ついについに逆転しました。　整地して白地32、黒地42が確認されました。盤面10目。　早稲田大学四将・下坂美織の黒番3目半勝ち。　無敗の女王はコンタクトレンズを失ってもその力を失いません。個人の勝利としては、去年より感動したかも知れません。　　さあ残り一つです。　ここから上2枚が3時間越えのペースでいつまで経っても終わりません。両局とも300手越えの超死闘で秒読みのまま延々と打っています。自分の学生十傑全国の対局中より緊張しながら見ていました。（マジ）　さて、主将戦は白有望の形勢のままで、実際主将が勝ってという星勘定をしていた人が多かったようですが、なんだか白地に近いところで黒が所帯を持っていて、一時盤面勝負くらいに思っていた形勢に差がほとんどありません。コウを仕掛けましたが、コウをがんばりきられて白いまひとつです。禁断のヨセとも言うべき逆ヨセ8目くらい、打てたような気もするんですが（気のせいならすいません）打ち損なって形勢はいよいよわからなくなり、更に中央がぼろついてはそろそろ逆転のにおいがし始めました。神経を使う碁ばかり打ってきたため、コイルが焼き切れてしまったのでしょうか。　最後は白地15、黒地24。　立命館大学主将・武田淳の黒番2目半勝ち。　痛恨の逆転負けを食らい、糸山くんが頭を抱えます。武田くん、早稲田戦初勝利で２－２に持ち込みます。驚異というより伝説にも近いような層の厚さを誇る立命の全国大会で３年間主将を張り続け、敗れた２局以外ほぼ完勝で進み続けた男は半端ではありません。２局敗れているのは百も承知ですが、全国大会で見た選手たちの中では、滝沢王座や阿佐本因坊（早稲田）、鈴木紀之さん（九州大）と言った強豪を差置いて、彼が一番強いのではないかと思いました。　予想通り残されたのは副将戦、谷口洋平vs山田紘平。　黒は大石狙うコウを仕掛けられたのを外側のアヤを利用してがんばりきりました。コウを争っているうちに黒地も固まり・・・と言うか白コウでえらい損をしたように見えます。ようやくカタがついたときには、えらいところにキリが入った状態、これは黒勝つだろ・・・と思っても白もするりするりとトカゲの尻尾を捨てて本体を脱出・・・。　しかし、さすがにトカゲの尻尾が大きくこれで形勢は決まったのでしょう。　見ている方としてももはや意識朦朧、立っているのもやっとの状態。両対局者ともなんだか手が震えているように見えますし、石を落っことして盤面が壊れたりハマの入ったふたを落としたりはしないかと余計なことまで気になってくる状態。始終見ていたわけではないし、あげハマが多すぎて正確な目算はできませんが、何度数えても白有利の目が見えません。しかし差はだんだんと縮まっているような・・・（局後損をしたと言っていた）　最後の半コウは白が勝ち、いよいよ整地にうつります。勝っていると計算を出し、こっくり首を縦に振りました。　山田くんの方が周囲に「どうなってんの？」と聞きます。「２－２」の反応を得て、「マジで・・・」と顔をしかめる山田くん。彼のほうも計算はできていたようですね。　最後の整地は、黒地6、白地マイナス5。盤面11目。　早稲田大学副将・谷口洋平の黒番4目半勝ち。　8年間見てきた中で最大の激闘は、早稲田が3－2で王者の座を死守して終りました。　まだまだ続くよ。

  2007年12月28日

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• 最後にする予定の観戦記～早稲田、再び全国の頂点に立つ！（前編）

  　今年は初日に模試があり、２日目はその模試の復習に当てましたから、見物も３日目からです。　来年以降は仮に見に行っても観戦記を書く事はおそらくないと思われるので、学生に関して言えば観戦記と言うべきものはこれが最後の予定です。私がいなくなった後、誰かすばらしい文才の持ち主が観戦記を書いてくれることを期待するとしましょう。初日　早稲田の笹子さんが岐阜大戦でまさかの敗戦。35-0と言う夢は早くもお預けとなりました。ちなみに、立命はお預けではありません。二日目　お互いエンジンがかかったのか双方5-0、と言いつつも早稲田は内容的には危ない碁も多かったようです（立命は知りません）。　九州―北海道で去年に続いて北海道が九州大学を撃沈。今度こそはの復権を目指します。三日目　早稲田･立命と順調です。そろそろ上位対決ですが、勝ち星を失うことはなかったにしてもこゆるぎもしませ・・・とはちょっと行かなかったかも。しかしやっぱり立命は強い。太田尚吾くんさえ武田くんになす術なくといった感じで潰されていました。あれを見る度に、うちの監督や四将（注：今年のです）は一体どうやってこんな人に勝ったんだよとぼやいてしまいます。　各地区の大学が今日までに１勝を挙げ、下位の混戦が目立ちます。それはいいことだと思いますが、早いところトップ集団：早稲田・立命、トップ集団後続・東北、後ろの集団：それ以外という構図は早いところ脱却してほしいものですが・・・さすがに厳しいのかな。四日目午前　早稲田の監督は年末の忙しい時期に会社の有給を取って応援に現れました。しかも選手や連盟の誰よりも早く会場到着だって。気合入りすぎでしょ、といいつつも１年近く後輩を磨いてきたらしいですから、これくらいは彼にとっては当然なのか。　詰め碁やら練習碁やらを選手たちは散々やってきたらしいです。優勝して、しかも立命をあのスコアで下して、それでもなおこのモチベーションを保てる方々は尊敬に値します。　　他方、立命も監督が構えています。来年は代打オレ（古い？今は「オッケーイ！」かな？）が見られるという噂も。　早稲田以外の関東碁界関係者も段々と集まり（慶応の人も東大の人もいました）なかなかの盛況に。ただ、早稲田関係者に関して言えば、やっぱりもっと早く来た方がいいと思うんだよね、うん。私も眠い体を叱咤激励して長躯日本棋院に来てるので・・・って監督のことは言えないか。　さて、早稲田の相手は東北大。去年のメンバーから清島･笹子と勝利している仕事人中村一朗さんが選手からはいなくなり（会場にはいた）、戦力的にはややダウンの感。オーダーも去年の趣向を凝らしたオーダーとはうって変わって激しく正統派なオーダー。　しかし、宮城県代表として世界アマ日本代表経験者の金沢盛栄を破るなど頭角を顕しつつある太田尚吾くんを先頭に、副将には名人戦で十傑の覇者花巻くんを撃沈した志藤くん、三将に去年四将戦で寺山くん･堀内くんを破って全勝した桑野くんをおきます。五将の松浦くんは･･･そうそう、私と並ぶかそれ以上の学生囲碁界のブログ師です。　握りは東北の奇数黒番です。　序盤、主将戦はなんだか糸山くんが打ちにくそうです。3手目カカリから三隅に展開されています。いや、悪手を打っているわけではたぶんないので形勢が傾いたわけではないのでしょうが。太田くんの表情は当てにならないそうなのでここでは書きません。自販機でコーヒー（？）買っていましたね。クスクス。やがてぽつんとした白石を動き出しここから大激戦が展開されます。乱戦となれば糸山くんの戦闘民族度はむちゃくちゃ高いですよ。　副将戦は微妙です。一瞬志藤くんの石が安定してこれはやられた？と思っても谷口くん微動だにせず鼻ツケて食いつき、なかなか好勝負に見えます。ま、こういう碁は谷口くん強いので大丈夫でしょう。　三将戦は･･･これも打ちにくそうですね。白の石運びは重い感じで、黒の方がのびのび打てていて好印象です。白としてはどこかを力でこじ開けるでしょうか。死兆星が見えます。どっちに見えているのかは教えてあげない～♪　四将戦は東北が補欠の三浦くんを投入。補欠とはいっても昨日は立命の野口くんとかなりの好勝負を演じており（結末は2目半負け）油断なりませんが･･･一瞬攻撃に移ろうとした所を下坂さんが逆襲に打って出てリードを奪いました。　五将戦はこれまた考えどころです。大ゲイマガカリに黒がぶっつけた手がなかなか局面に合ったよさそうな手で、寺山くん長考。　形勢がなかなか分からず、さすがに東北は一味違うと言うことが感じ取れます。ただ、早稲田はもっと味が違うわけで。　去年は全局秒読みでしたが、今日は四将戦がどっちも秒読みに入らないうちに終了。白が何とか下坂さんの黒石を包囲したのですが、苦もなく生きられると周囲の白石が薄すぎて処置なし。あっという間に投了せざるを得なくなりました。　五将戦は黒の中央の模様が大きい？と言う下馬評も飛び交う中、黒に痛恨の死活見損じ登場。巨大な花見コウの末にフリかわりましたが、結局別の大石を撲殺しておわってしまいました。別に見損じがなくても、はっきり悪くなった局面はたぶんないと私は思うんだけどね。　この２局が比較的早く終わり、のこり３局は長期化。　谷口くんの碁は黒地が多いものの不確定要素が大きく難しい戦いが繰り広げられましたが、辺のコウでたぶん一本取った谷口くんが優位に立ち、中央の戦いで優勢を勝勢に進めて最後はぶっ潰して終了。東北で名を挙げている彼も、早稲田の公然の秘密兵器（？）には敗れました。　さて残り二つは･･･主将戦は白が１００手を越えていると思われる超絶難戦を戦い抜き優位を奪い取りました。まあ序盤に奪っておいた地が大きいです。やがて差を広げてたぶん盤面でも黒ぜんぜん足りず白の中押し勝ち。相手はかなりの逸材ですが･･･　三将戦は・・・本当にこじ開けました。辺にポツンといる星下を見捨てて、石をぶっちぎって丸のみ。一応フリカワリですがこれは白勝ちでしょう。ちょっぴり気色は悪いけどはっきり手抜きで取れています。オニや。最後は白６目半勝ちでした。　他方、立命は去年土をつけられた九州大学をシャットアウト（土をつけた一柳くんは引退。副将戦は危なかったらしいですが）。ここまでゼロ敗です。結局早稲田―立命の決勝戦が動きません。慶応か東大でもいたら面白くなるのになあ～？？　さて早稲田vs立命館の激突をメンバー紹介もかねて。東北戦の文章の前にやればいいかもしれないけどやっぱりメインはここでしょ。　まあ早稲田としてはですね、今年は女子学生本因坊、学生本因坊、学生十傑、学生王座と全部で銀メダルをとるという傍から見ている分には面白くても当人たちにとってはけっこう堪える結末があったわけでしてね、もう銀メダルはいらんわけですよ。　あと、優勝チームに女性が二人いるというのはかなり珍しい現象かもしれません。糸山剛志vs武田淳　糸山くんは去年のプレーオフ以外副将ばかりでしたが今回学生トリプルシルバークラウンの勢い（？？？？？）で主将に座りました。　対する武田くんはこちらも準優勝3回。もともと院生上位であり安定した実績を残す武田くん。碁を見る限り人より２段階くらい先が読めているように見えます。大学選手権は負けなしです･･･早稲田戦以外は。　学生準優勝3回同士で激突。学生の公式戦ではたぶん初対決。団体でも準優勝の悲哀を味わうのはどちらでしょうか？もちろんここまで両者とも全勝です。谷口洋平vs山田紘平　今から5年前の高校選手権、この両者は準々決勝で激突。谷口くんが細かく振り切りそうな碁でしたが、ヨセのミスで黒番・山田くんの盤面６目勝ち。当時コミは5.5だったのです。　谷口くんは中国遠征でも大暴れ（プロにも混じって勝ちまくり、一局コミ7.5の黒番で半目負け（1/4子負け？）しただけらしい）、どこにいっても評価の高い強豪です。学生個人戦で村上くんを撃沈したこともあるのですが、安定感の点で多少難があるのか、いまひとつ実績につながりません。　山田くんは高校チャンピオンでありながら学生に入ってから今ひとつでしたが、今年ようやく十傑4位に躍りだしました。　長い年月は、どちらに有利に作用しているでしょうか。ここまで両者とも全勝であるのは言うまでもないですね。笹子理紗vs高津昌昭　笹子さん今年の秋に復活して三将に構えます。前女子学生選手権者・学生本因坊4位vs学生本因坊の組み合わせ。　両者ともとんでもない戦闘民族です。従って戦いはどちらかが潰れて、戦いの後には勝者しか立っていないまさしく真竜の戦い（意味が分からない人はダイ大を参照）で終わるんでしょうね。初めてこの組み合わせを知ったとき私は恐怖を感じました。　ここは唯一両者とも全勝でないカード。笹子さんは岐阜大戦で一敗。高津くんは一局補欠と交代しました。下坂美織vs横川悠太　下坂さん学内リーグでは調子を崩していたのか、楽なポジションで打ちたいのか四将まで落ちて（？）います。　とはいっても下坂先生の去年の活躍は知らぬ者がいない（知らないのはもぐり）でしょう。ここまで危なげなく上がってきています。対する相手は横川くん。北海道対決です。　学生に入ってからの実績をはじめ、団体戦と言うこともあり、下坂さんに乗るところですが、横川くんももともと高校選手権3位の強豪、県代表クラス（もっと？）の巣窟である立命の学内リーグで頭角を現しだしているようであり、関西の枠抜け常連でもあります。好勝負が期待できるでしょう。　両者とも全勝なのは言うまでもありません。寺山文哉vs野口正樹　寺山くん一昨年五将、去年四将、今年は五将。普通の大学ならまあそのくらいの選手なんだなとなるところなんですが･･･。全国大会出場３回目なのは早稲田では彼１人です。　野口くんは去年も五将。以下…まで同文。　ふーむ、勝敗予想はなんとも微妙なカードです。まあ実績だけなら大阪府代表の野口くんに一票でしょうが、実力に差があるとは感じておりません。お互い棋力面もさることながら人材面でも貴重な存在みたいであり、意地の対決を見ることができそうです。　ここまで寺山くんは６戦全勝、野口くんは補欠と一度代わっています。そして・・・明日の後編に続く

  2007年12月27日

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