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碁法の谷の庵にて

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2008年01月13日
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 どこに行っても、飲酒運転の逃げ得を認めたような判決だと騒ぐ人たちが出る福岡の飲酒運転3児死亡事故の判決。

 判決文全体に目を通さないで判決をどう、ということは私は言うつもりはありませんが(まともな法律家はコメントするにしてもその辺は留保がつきます)、マスコミに出ていた情報からでも、そんなに変な認定ではないのではという説は非法律家からも上がっています。事件について批判的にコメントしていた某弁護士(まああの人なんだろうなと言うのは分かりますが)は酒気帯びや酒酔いの弁護をやったことがないんじゃないかと言い放ったキャリア法律家もいました。


 いずれにしても、逃げ得説を振りまく人たちこそ、かえって逃走を助長しているということには、彼らは感づいていないのでしょうか。
 隠滅して逃げるのが賢明とここに書き残して行った人もいますが私に言わせれば「最悪かつ大バカな手段」です。光市事件弁護団バッシングくらい見ていて腹立たしいし、情けないことです。

 これは、道義的に最悪であるというのはもちろんのこと、法的に見て得策か、といってもぜんぜん得策じゃないというわけです。下手糞な法の抜け穴ハウツーは大火傷の元です。


 逃げ得説の根拠は、逃げて飲酒の検知に引っかからなくなれば危険運転致死(懲役1~20年)が業務上過失(最高懲役5年)になるんだから、ということに集約されています。そして、その後ろには、より重い罪で脅せば人は犯罪を思いとどまるという、フォイエルバッハの心理強制説みたいな発想があるのでしょう。
 もちろん重罰と犯罪抑止の因果関係は決して簡単に結び付けられるものではないのですが、この際簡単に結び付けられると仮定します。単純ではないにしても一般論としてそこまで誤りだ、とは私は思いませんし。
 しかし、例えそうだとしても、そこには大きな誤りがあります。


第一に、危険運転罪の適用を免れるのはそう簡単ではないということ。
 ちょっとやそっと水を飲んで時間が経ったからといって簡単にアルコールの濃度が下がるものではない、と言う指摘もありますし、一時的に逃げて呼気アルコール濃度が下がったとしても、運転の内容などの客観的状況から危険運転罪の成立が認められる恐れは決して小さくない、ということです。
 今回の判決も、飲酒量に限らずその直前の運転や事故直前のブレーキ痕など、どのような運転をしていたかはきちんと検討されていることは要注意です。つまり、運転の態様によっては、逃げたとしても危険運転罪が認定されている可能性もあったということです。
 今回の件でも、警察の初動捜査に問題があった(まっすぐ歩けというような酒酔い試験を失念した)から、危険運転かどうか、検察が十分判断できなかったか立証に失敗したのではという指摘は極めて有力になされていることに注意すべきです。



第二に、重罰化されているし、かつ情状が最悪であるということ。
多少場合わけして考えましょう。

一、救護もせずに逃走して、しかも水を飲むなど殊更に証拠隠滅を狙った上でそれが功を奏さず危険運転致死罪の適用・・・なんてことになったらもう目も当てられません。危険運転致死罪と救護義務違反の併合罪、最高懲役30年。犯人自身の証拠隠滅は条文上不可罰とされていますが、不利な情状になることは実際上疑われていません。重いほうの刑がバシバシ適用される恐れは極めて高くなります。

二、逃走して被害者が死亡したが、証拠隠滅が功を奏して危険運転罪を逃れたとしましょう。
 今度の事件でこそ業務上過失致死と単純な救護義務違反でしたが、今後の事件で適用される自動車運転過失致死罪と事故車救護義務違反の併合罪は最高懲役15年。飲酒運転で事故というだけでも情状は相当に悪く、しかも先述したように逃走は最悪ですから相当上の量刑を適用することになるでしょう。上限をバシッと適用ということも視野に入ってこざるを得ません。
 未決算入(裁判のための身柄拘束を懲役日数に入れてもらえる制度)の点で得しない可能性も出てきます。
 また、判決が済んだとしても、刑期の3分の1を経過すれば仮釈放と言う余地も残されています。こうした事件の情状の悪さが、仮釈放に影響する恐れだってあります。3分の2くらいの刑期がそれで動くのですから、決してバカにならない影響力です。

三、救護をして、被害者が一命を取り留めれば最高懲役は15年です。危険運転の前提として道路交通法違反をしていても、危険運転の罪に吸収され、併合罪として刑の上限が重くなるわけではないというのが法制定に際して古田佑紀法務省刑事局長(現最高裁判事)の参議院法務委員会での答弁(信号無視に関する回答ですが、酒酔い運転もパラレルに考えてよいでしょう)ですから、酒酔いがついちゃってもそこまでではないのです。
 つまり、救助に成功すれば逃げて証拠隠滅に成功した場合と罪の形式的な重さはかわらず、しかも情状がよくなります。被害者の負傷の程度が後遺症が残るようなものでなく、さらに真摯な反省・賠償ということになれば、執行猶予という可能性も出てきます。

四、救護が功を奏さず、被害者が死亡して危険運転致死が成立したとしても、危険運転罪だけなら最高でも懲役20年です。
 そもそも傷害致死罪だって2004年1月の改正以前は有期刑が最高刑で、その有期刑は傷害致死一罪なら懲役15年が最高刑だったことを考えれば、最初から加害意図がある、とまではいえない(危険な運転で事故を起こせば運転者本人だって危ない)危険運転致死罪で15年オーバーと言うのはいかに厳罰化の風潮が強い現状でも、ぼんぼん使えるものではありません。尼崎の飲酒で危険運転2罪による懲役23年の判決など、遺族の方々は軽いといっていましたが、法律家的には破格に近い(地検は懲役30年を求刑したが控訴は諦めた)そうです。


 
 つまり逃げて得をするのは、たった懲役刑の上限が5年縮まるだけで、逃げそこなった場合の情状は最悪で、例え逃げても量刑判断や仮釈放と言う形でもっと不利になる恐れが出てくるというわけです。



 これでも飲酒運転は逃げ得、というのでしょうか。
 裁判官を不当だとなじり倒していますが逃げ得という言説を見て本当に逃げた方が得だと考えた運転者が出てきたら、責任は取れるのでしょうか。誤信は無関係と重く処罰することは可能でも、それでは被害者の命が危険にさらされます。加害者を懲役や死刑にしても、何億円賠償させても、被害者は帰ってきません。

 もちろん、立証の困難を救済したり、一応最高刑が違うのは事実ですから、その辺の隙間を埋めるために、なおも法改正が必要だという主張をするのはいいでしょう。しかし、それを越えて、あたかも逃げたほうが得策だというようなことを平気で言い放つのは、逃走にインセンティブを与えかねず、許されないことであるというべきでしょう。





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最終更新日  2008年01月13日 16時36分54秒
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