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碁法の谷の庵にて

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2008年04月12日
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 まあ、憲法・刑法においては重要な判例となることが予想されますので、とりあえず読んでみました。判決文はこれ


 結論的には、最高裁の判断が不当である、とは私には考えにくいものがあります。
 住居侵入罪における「人の看守する邸宅」の定義該当性は、最高裁も比較的こまごまと検討を加えています。(もっとも、「住居」「看守邸宅」「看守建造物」の区別はそんなに重要なものだ、とも思っていないのですが)その上で、建物を人の看守する邸宅に当たる、としたわけですね。
 宿舎の個別部分は「住居」に該当すると思われますが、その他の部分は看守する邸宅、と考えたものと思われます。

 その上で、管理権者の意思に反する立ち入りが「侵入」に当たるという定義の下、意思に反していたことは明らかであるとして、侵入罪の成立を認める…というのも、これまでの判例の枠組みからすれば適当なのではないでしょうか。
 「侵入」の定義には、住居に関して管理権を持つ者の意思に反した立ち入りが侵入に当たる、という住居権説と、住居の平穏を乱す態様での立ち入りが侵入に当たるという平穏説が学説上は割合有力に対立していますが、判例通説は住居権説を適当と考えているとされます。
これが平穏説なら、ビラを配るのが平穏を害するとはいえない、として不可罰という立論も可能になるのではないかと思うのですが、住居権説からすれば少々厳しい理屈にならざるを得ません。
 
 ここまでは、一審の無罪判決も認めているところです。ちなみに、もう一件、葛飾でマンションの立ち入りビラ貼りが起訴された件で二審有罪判決(罰金5万円)で現在最高裁に係属中ですが、その一審無罪判決は、こういった要件を考慮して無罪判決を導いています。


 その上で、表現の自由の点がこの判決に関してよく主張されていますが、個人的にはあんまり筋のいい議論とも思えない、というのが本当のところです。表現の自由を盾にすれば住居の侵入が許される、という理屈は、おそらく誰も取らないでしょう。
 もちろん、その点を考え合わせて可罰的違法性を欠く、というのが一審の地裁における無罪判決の骨子になっているわけですが、住居権も憲法上の権利の一角と考えられる(35条、犯罪捜査といえど、令状なくして立ち入ることは許されない)訳ですから、住居侵入罪の保護法益を住居権説でとらえる限りにおいて、住居侵入の要件該当性のところで侵入該当性を認定してしまった以上、更にそれを超えて可罰的違法性を欠くという立論は相当に厳しいのではないか、というのが私見です。構成要件解釈を超えて、正面から可罰的違法性がない、という考え方自体は判例上も承認されていますが、実際上ほとんどありません。ちり紙盗んでも窃盗既遂にならない、というような判例や、タバコを別の店から定価で買ってきて定価で売っても罪にならないと言う判例なども、多くは窃盗罪における「財物」概念やタバコ専売法における「販売」概念の問題として処理されたものです。
 まして、それ自体を違憲云々の立論は、相当無理があるように思います(無罪判決の地裁判決でさえ、憲法21条から疑問ありと入っているが処罰は違憲とまでは言っていない)。最高裁への上告理由が憲法違反と判例違反に絞られているので、憲法違反として記載する趣旨もあるでしょうから、まあ理解できるといえばできるのですが、これが採用される、とは思えません。ビラ配りは一つの有効な表現手段であることは否めませんが、ビラ配り以外できんのか、と言われればおそらくはできるという結論以外は取れないと思われるのです。


ただし、この事件に関しての感想は、決して筋のよいものとはいえません。
本判決が下した判決はあくまで罰金刑です。しかも、この事件の捜査のために75日にもわたって勾留した、とのこと。75日の勾留がどうしてできたのか、何か別件で逮捕でもしたのか、想像の範囲を越えることはできず、一応逮捕自体は容疑があったのだと仮定しても、起訴されたのが住居侵入だけのようですから、これは問題だ、というより問題外だとさえ思います。
 訴訟の経過からして、被告人の側が徹底的に噛み付いたので、そこを捉えての起訴だったのかも知れませんが、政治ビラ配りそれ自体は違法行為でも何でもありません(それ自体を違法としたら今度こそ違憲を疑われるでしょう)。違法行為をやろうとして入ったとは違うのです。
それを捜査するために75日も勾留するのは、まさしく自白や反省を身柄拘束を盾に迫る人質司法だったのではと問われても文句が言えない
のではないでしょうか。証拠が不十分とも思えませんし、特に住居不定でもなければ彼らが逃走するとも考えにくいですから、起訴するならするでさっさと起訴すればよかったと思います。
 また、起訴決定にも疑問があります。反省云々は起訴猶予にするか否かに関して重大な指標であることは間違いありませんが、そうだとしても、このような事件をいちいち起訴した、というのは余りにも筋が悪いと思われます。いろいろな罪を重ねていて、行きがけの駄賃で起訴したら軒並み無罪でこの罪だけ残っちゃった、などというのはわけが違います。これは違法なんだ、と知らしめるだけなら起訴猶予でも十分(それでも重ねた場合に併せて起訴する)ではないでしょうか。
 問題提起として、いいのか?ということを追及したかったのかもしれませんが、筋が悪いと言う感想を否定することはできません。





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最終更新日  2008年04月13日 15時08分42秒
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