今日の若者も、いつかは老人になる
【辛坊持論】次世代の意思高齢者が押しつぶした10年ほど前にIMFが、加盟国に「有権者の過半数が50歳以上になる前に、高齢者に不利益を与える制度変更を済ましておかないと、福祉予算で国がつぶれる」という警告を発した。実はこの警告、医療、介護、年金、高齢者の生活保護予算が膨れ上がりつつある日本を横目に発せられたもの。当時すでに日本の有権者の過半数が50歳以上になっていて、それがIMFの警告のきっかけになった。私は当時、「日本の高齢者はもっと賢い!」という趣旨で短文を書いた記憶があるが、今回の大阪都構想をめぐる住民投票の結果を見るとIMFの懸念は現代日本が抱える大問題となってしまったようだ。都構想をめぐる住民投票、結果は0.8%の僅差で反対派の勝利になった。世論調査などを詳細に分析すると、この結果をもたらしたのは、期日前投票における大量の反対票だったことが分かる。投票日当日の読売テレビ出口調査で反対が賛成を上回ったのは70代以上の男女と、50代女性だけ。特に20~40代の働き盛りの男性は、圧倒的多数が賛成票を投じている。これら大阪の次世代を担う人々の意思を、70歳以上の高齢者が押しつぶした。暗たんたる気持ちになるのは、そもそも若年~中堅層の人口は高齢者人口より少なく、今後ますますその傾向が強まることが決まっているから。これら高齢者の約4人に1人は認知症、またはその予備軍とのデータも存在するが、病気を理由に投票権が剥奪されることはない。投票年齢の引き下げと、若年が投票所に足を運ぶ民主主義教育に一刻の猶予もありません。日本の未来のために。(要旨)---先日、「シルバーデモクラシー」論を批判する記事を書いた際も少し触れましたが、辛坊次郎という輩の言い分が、相変わらず滅茶苦茶です。そもそも、この文章を一読して分かるのは、データの分析がおかしいということです。この結果をもたらしたのは、期日前投票における大量の反対票だった~投票日当日の読売テレビ出口調査で反対が賛成を上回ったのは70代以上の男女と、50代女性だけ。特に20~40代の働き盛りの男性は、圧倒的多数が賛成票を投じている。これら大阪の次世代を担う人々の意思を、70歳以上の高齢者が押しつぶした。なんだ?これ??です。当日投票の出口調査で20~40代に賛成が多く、70代に反対が多かったことは事実です。期日前投票が反対多数だったことも、おそらく事実です。しかし、期日前投票が反対多数だったことと、70代の高齢者が「次世代を担う人々の意思」を押しつぶしたという分析にはつながりがありません。無関係なものをつなげて、さも関係がありそうなフリをしているだけです。だって、期日前投票に行ったのは70代ばかりなんですか?どう考えたってそんなはずがないでしょう。というより、むしろ逆です。仕事で投票日に家にいないから期日前という人は、圧倒的に現役世代に多いはずです。だから、期日前投票の投票者は、むしろ当日投票より若い世代が多い可能性が高いんじゃないでしょうか。かくいう私も、最近は期日前投票をおこなうことが多いのですが(4月の統一地方選は、平日8時までに家に帰れず、当日投票しましたけど)、その際に他の投票者に高齢者はあまり見かけなかったように思います。なお、検索したところ、2011年2月におこなわれた愛知県知事・名古屋市長選の世論調査結果がありました。この10ページ目によれば、期日前投票と当日投票の年齢別割合を比較すると、20代30代は期日前投票のほうが圧倒的に高く、40代もやや高い。50代はかわらず、60代は期日前投票のほうがやや低く、70代以上は圧倒的に低い、という結果になっています。ここから導き出される推測は、当日投票では若い世代は賛成多数だったけど、期日前投票した若い世代は反対多数だったのだろう、ということです。全投票の2割が期日前投票で、しかも、その期日投票では相対的に若い世代の割合が高く、かつ反対が圧倒的多数だったとすれば、若い世代だって、全体としては必ずしも賛成が圧倒的ではなかった可能性が考えられます。何しろ、すでに指摘したように、住民投票以前の世論調査では、若い世代も大阪都構想には決して賛成多数ではなかった事実があります。「若年~中堅層の人口は高齢者人口より少なく」というのも、まったくのウソです。大阪市の有権者の構成比を再度掲載します。20代が14.2%、30代16.4%、40代17.5%、50代12.9%、60代14.4%、70代14.2%、80代以上10.0%です。70代以上より20代30代の合計のほうが多い。「中堅層」という言い方なら40代だって含まれるはずですが、70代以上対20~40代となったら、ダブルスコアの差です。ただ、若年層の投票率が低いことは事実で、「投票年齢の引き下げと、若年が投票所に足を運ぶ民主主義教育」という結論部分だけは、私も同意しますけどね。それにしても、自分の思い通りの選挙結果にならなかったからと、高齢者はおろかとでも言いたげな、この八つ当たりぶり。「これら高齢者の約4人に1人は認知症、またはその予備軍とのデータも存在するが、病気を理由に投票権が剥奪されることはない。」だそうですが、だからなんでしょう。選挙権を剥奪しろとでも言うつもりでしょうか。IMFという新自由主義の権化の言い分を金科玉条としているあたりも、どうしようもないなと思います。IMFの言い分が全面的に正しいなら、世界中で反IMF暴動なんか起こるわけがないのに。そもそも、人は必ず年をとるものです。今日の若者は、いつか必ず高齢者になる(20や30で若死にしない限りは、ですけど)。こうやって高齢者叩きをやっている人も、必ず高齢者になります。ちなみに、辛坊次郎自身は1956年の生まれだそうですから、私より10歳以上も年上で、来年60になるようです。ということは、11年後には70ですが、70になったときには、「若者の意思を押しつぶさないため」に自分の政治的発言は控えるのでしょうか。ま、そのときにどんな態度をと知るのか、見ものではあります。