自由貿易帝国主義 竹田茂夫
19世紀の中盤、英国の政治エリートは自由放任は標榜した。国家は商業や金融を市場の働きに委ね、海外権益が脅かされる場合にのみ軍事介入すべきだとされた。それ以前の官許独占の東インド会社によるアジア侵略の時代と1880年代以降のはばかることのない帝国主義に挟まれて、自由放任思想は特異に見える。だがこの建前は、世界各地の版図拡大・植民地インドの圧政・中国とのアヘン戦争等の事実によって内実を露呈される。自由貿易とは形を変えた帝国主義だったのだ。現代の米国通商代表部や日本の諮問会議などでは、公正な市場原理が称揚されてきた。いわく、自由でフェアな貿易、公正有効な競争、市場のルールと社会正義、等々。だが、グローバルなバブル・危機の連鎖を体験して身にしみて分かったように、市場原理を過度に追い求めれば、世界経済を不安定化し、成長を口実にして格差を広げ、失業と非正規雇用を増やして、結局は人々の生活と自然環境が犠牲にされた。オバマ政権と農業・保険・医療等の米国の大企業、それに追随する日本の政財界がアジアで覇権を求めるのが環太平洋連携協定(TPP)にほかならない。公正な市場原理は、日米大企業の抑制なき利潤追求や米国の政治的・軍事的プレゼンスと表裏一体だ。(東京新聞「本音のコラム」竹田茂夫)