東電電気料金値上げ 記者の見方
たとえば、ある企業が不祥事を起こし、自社の商品が売れなくなったらどうするか。「経営を立て直すために大幅な値上げが必要だ」などと言いだそうものなら、消費者はそんな企業は相手にしない。信頼は失われ、市場からの退場(倒産)を迫られるだろう。しかし、そんな企業は実在する。9月から家庭向け電気料金を値上げする東京電力だ。地域独占の下で、消費者は値上げを迫られても、他に電力会社を選べず、受け入れるしかない。私たちの生活に電気は必要だ。他に手段がないならば、値上げを受け入れる覚悟もある。だが、今回の値上げは、東電や政府が、消費者の負担回避のために、最善を尽くしたとは到底思えない。まず、負担の順序がおかしい。これまで配当を得ていた株主や、利息でもうけた金融機関は何の責任も取っていない。投資家が企業に投資して多額の利益を得るのは、いったん経営が傾いた場合に損失を負うリスクの見返りとしてではないか。本来、東電は破綻処理させ、株主や銀行にまず責任を取らせるのが資本主義の原則。真っ先に消費者負担を求め、将来的に経営を立て直したら、株主や銀行が利益だけを受け取るようなやり方は筋が通らない。加えて値上げ原価には、動く見込みのない原発の維持費なども含めている。消費者の理解を得られる内容ではない。値上げ論議から読み取れる政府や東電の思考法は、消費税論議と同様に「手っ取り早く取りやすいところから取る」というものでしかない。(東京新聞 岸本拓也)