老女の昔話5 語り終える
「海底に沈みながらも呪いの言葉を吐き続けるサキに、 あの人の声が聞こえた。 『鬼になりたい者などおらん。』 腕をぐいと引っ張られた。 あの人が、サキの手をとり、泳いでいた。 海面に浮かぶ小舟にサキを押し上げ、あの人もふわりと舟に乗る。 ほっこり笑って、 『お待たせしました、みなの衆。今日の芝居は・・・』 ボロ舟の上、芝居が始まった。 サキは泣いた。笑った。 サキとあの人を取り囲む波間で、鼻をすする音がした。 波が砕けて笑い声が散った。 島人たちの霊だった。 やっと、島に春が来た。 あの人の芝居に泣いて笑って、鬼が去る。 サキは、たったひとり、 ボロ舟で気をうしなっているところを助けられた。」 応援していただければ嬉しいです