猫風の夜3
「行くぞ ついて来い」 「かーしゃんとこ?」 「・・・ ミルクが欲しいなら ついてこい」 まだ 足元もおぼつかない チビ。 けど 歩け。 生き抜くための 第一歩だ。 捨てられ子猫は 自分の才覚で ミルクと寝床を手に入れなきゃならないんだからな。 猫風は 空を飛ぶことも屋根にかけあがることもせず 安全な猫道を 歩く。 「ねーぇ まだぁ?」 「まだだ」 「かーしゃんは いつも くわえて運んでくれたよ」 「おれは 子猫を甘やかさない主義だ」 「おなか ぺこぺこ~ もう 歩けない」 「無駄口叩くと よけい 腹が減るぞ」 「・・・・・」 猫風のネットワークは 最強だ。 なかでも 猫好きマップ は 完璧。 「チビスケ ここだ」 赤レンガの家。 花咲き乱れる庭。 まるで チビを歓迎するかのように 白い花々。 薄汚れたチビだけれど 愛されれば 輝くような白猫になるだろう。 「チビスケ ここで 新しい母ちゃんを呼べ」 「あたらしい かーしゃん?」 「そうだ。 いいか 大事な事だ。 生きていたいなら おまえの声に答えて おまえを抱き上げてくれる人を 母ちゃんだと思ってみつめろ。 母ちゃんだと信じろ。 そうすれば その人はおまえの母ちゃんになる。 ミルクと暖かい寝床を与えてくれる」 チビは チビなりに 理解したのだろう。 「うん わかった」 と うなずいて その庭に入っていった。 白い花に埋もれた 白い子猫 妖精に見えないこともない。 「おかーしゃん」 声を 張り上げた。 「おかーしゃん おかーしゃん」 庭に面した窓が 開いた。 息を飲む気配。 「おかーしゃん おかーしゃん おかーしゃん」 子猫を驚かせてはいけないとひそめられた そのくせ 一刻も早く抱き上げてやりたいと急く 足音。 猫風は 満足して 空へ かけのぼった。 今夜も上出来。 猫風の夜。 今夜はおしまい