超短篇小説「午後3時の平穏」
その日の午後3時、僕はサークルKにいて、入り口のすぐそばにあるUSA TODAYを手に取り、北朝鮮のミサイル発射に関連した記事を眺めていた。ブッシュ大統領のコメントに目を移した矢先、右手入り口前方から耳をつんざくような銃声が聞こえた。「動くな!全員両手を挙げて一列に並べ!騒ぐんじゃない!いいな!」男が撃った弾丸は、店の天井に黒く小さな弾痕を残した。店内には僕を含む6人の客と、レジ係の男性が一人。みんな突然の出来事にその場にぼう然と立ちすくんでいた。男はサングラスと帽子で顔を隠し、レジの男性の胸に銃を突きつけてこう言った。「有り金を全部このバッグに入れろ。小銭もすべてだ」男が差し出したのはコットン製のダッフルバッグで、軍隊で使われていたものらしく、相当色褪せていた。レジ係は震える手でキャッシャーを開け、ドル紙幣と小銭をわしづかみにしてそのバッグの中に入れた。「よし、いいぞ。ついでにそこのチョコバーも5,6本入れろ。急げ!」その間、男は、ソフトドリンクサーバーでMサイズのカップにダイエットペプシを注いでいた。店内の客はいずれも身動きひとつせず、男の一挙一動をうかがっていた。レンジに入れたピザができあがるのを待っていたタクシードライヴァー。恐怖のあまり失禁してしまった子供と、200ポンドはありそうなその母親。旅の途中か、派手なファッションに身を包んだ老夫婦。レジ係は言葉もなく、冷汗を額に流し、既にかみ締めた唇は紫色に染まっていた。男はレジ係がキャッシュをバッグに入れ終わったのを確かめると、それを彼から引ったくり、銃口を我々に向けたまま出口の方に向かっていった。「悪く思うなよ。俺も生活がかかってんだ。あばよ!」男がドアから足早に出て行った直後、レジ係の若者は青ざめた顔にわずかながらスマイルを浮かべ、ほとんど言葉にならない言葉で言った。「あ、ありがとうございました。またどうぞ!(Thank you. Please come again.)」その無機的であまりにも冷酷な口調に、店にいた客はおそらく皆鳥肌が立ったに違いない。現金1532ドル67セントとチョコバー7本、ダイエットペプシ1杯、それらに加えてあの強盗は、中西部の田舎町にごく当たり前の、午後3時の平穏まで奪って行ったのだった。 (Photo: Philipsburg, Montana)