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カテゴリ:【物語】はじまり
はじまり 38 ~嘘~ 薔薇の咲き誇る庭園を、キール王子とクローディア姫は、散歩をしていました。 この一年で、すっかりおしとやかになったクローディア姫の手を、 容姿端麗なキール王子が引いて歩きます。 その後ろを側近であるヨウメイとソウが付き添う姿は、まるで一枚の絵画のようでした。 もうすぐ結婚を控え、二人はすっかり打ち解けていました。 もともと、仲の良い間柄でしたので、軽い気持ちからキール王子は口を開きました。 「クローディア姫、覚悟は良いですか」 相変わらずの生真面目な口調に、クローディアは内心吹き出したい思いをこらえて、 微笑みます。 「あら、キール王子はどうですの?」 苦笑いしてから、クローディア姫の瞳をじっと見ました。 「あなたに、心残りがあるように見えたので」 一瞬、微笑みが崩れました。すぐに気持ちを立て直して笑います。 「心残りなんかありませんわ」 ずきずきと痛む胸に気づかないよう、口ばやに言い切りました。 その様子に、キール王子の表情がすっとさめます。 「僕は、嘘は嫌いです」 射抜くような視線にたじろいで、クローディアは顔をゆがめました。 「王子!」 二人の側近を視線で黙らせて、キール王子はハンカチを取り出します。 薄いブルーの瞳からぽろぽろと涙をこぼすクローディアの瞼に、 そっとハンカチをあてました。 「少なくともあなたには、似合いませんよ」 穏やかな口調で諭すキール王子に、思わずすがりついて泣きました。 子供のように泣きじゃくるクローディアを、愛しそうに抱きしめます。 背後では、額に手をあてて空を仰ぐヨウメイと、 大きくため息をつくソウが突っ立っていました。 つづく お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2011.12.24 10:00:03
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