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カテゴリ:【物語】桃剣幻想記
桃剣幻想記 19 ~一緒~ 気の遠くなるような転生を繰り返した後、 リンのいる桃源郷にたどり着きました。 会える喜びと、また相手の命を奪ってしまう不安から、 通鷹は剣の力を封じました。 以前よりも格段に力は落ちたものの、リンが自然と思い出す 時を待ちました。 リンは、くすりと笑います。 「すまないね、一向に思い出せなくて」 いえ、それならそれで良いと… 龍は薄く蒼く輝いて、リンの両手に乗るくらいの大きさに なりました。 剣の飾りだった時と同じくらいの大きさです。 リンのそばにいて己が自然と癒されていくにつれ、 相手が記憶を呼び覚ますことに執着しなくなりました。 「それでは、なぜここに?」 一言謝りたかったのです 小さな龍は、ふわりと浮いて、リンの額に口付けます。 それから、ほわりと蒼い輝きを残して消えました。 ごめんなさい ありがとう 蒼い静かな空間に、木霊が響きます。 胸の奥が切なくなって、ほろりと涙が零れ落ちます。 しばらくたたずんでいると、少女の叫び声が聞こえました。 「あー、いなくなっちゃったー」 声の方を向くと、黒髪に翡翠の瞳をもった少女が 口をとがらせています。 しばらく、顔をしかめていましたが、リンに向かって 走りよってきました。 「あの、君は…」 リンには、少女が何者なのかさっぱりわかりません。 しかし、少女はリンのことを知っているようです。 親しげにリンの腕に自分の腕をからめ、にっこり笑って リンの顔を見上げます。 「あのね、あの龍ね、あなたのことすっごく好きなんだって」 「それでね、伝えたいことがあるけど、怖がらせるのが嫌で なかなか話せなかったんだって」 「だからね、私、あの龍に教えてあげたの」 得意そうな顔をしてリンから離れて言い放ちます。 「お母さんもお父さんのこと、いっぱいいっぱい好きだよって」 その言葉に驚いて、リンは少女に向かって手をのばします。 少女は金色と穏やかな緑の光の泡に包まれて、 そのままゆっくり姿が薄くなっていきます。 「待って、あなたは…」 またね、おかあさん 光が四方に飛び散って、リンは目を閉じます。 たくさんの光の渦が頭の中にまで入り込んできて、 思考が働きません。 自分がどうなったのかもわからぬまま、そっと目を開けました。 つづく お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2012.01.24 17:12:44
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