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カテゴリ:【物語】桃剣幻想記
桃剣幻想記 18 ~意志~ 「ああ、思い出した」 リンは記憶の底から目を覚まし、ゆっくりと顔をあげて蒼い龍の瞳を みつめます。 龍はそのまま顔をリンの額にこすりつけて、喉の奥を鳴らしました。 あいたかったです ふわりと届く声に、リンは笑みを浮かべます。 「私は、ずっと記憶を封じられていたからな」 その後、鍛冶師としての生を終えたリンは、多くの 魂の道筋を辿りました。 その繰り返す転生の中で、通鷹とは何度も出会い、 共に学んできました。 「お前が過保護なのは、私を殺めたことを悔いているからか?」 静かに龍のあごを撫でて、頬をくっつけます。 折れた剣を打ち直した後、意識を取り戻した蒼い剣は、 混濁した意識の中で鍛冶師の命を奪ってしまったのです。 信頼していた者に手折られた悲しみが暴走し、 我に返った時は物言わぬ鍛冶師を前に、たたずんでいました。 唯一心許していた鍛冶師を葬って、そのまま自分も転生の道を 辿ることを願い出ました。 「もっと、人の心を学びたいと思います」 人と共に生き、人と共に暮らし、人の世で学んでいきたい。 それが、最期に聞いた鍛冶師の願いでもありました。 鍛冶師が息を引き取る寸前に、剣に伝えます。 「通鷹、お前の名は通鷹だ」 剣じゃない、お前の意志で自身の道を歩め。 どうだ、前より男前になったと思うぞ。 微笑んでこときれた鍛冶師の遺体を抱いて、 蒼き剣、いえ、通鷹は声をあげて泣きました。 つづく お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2012.01.24 08:39:54
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