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カテゴリ:風の詩
 暑い、暑いと、連日ぼやいていた厳しい暑さの夏も、早、思い出の中の出来事のように感じる10月の2日の朝。紀南地方山間部は霧が立ち込めている。常緑樹の多い山肌に紅葉の気配さえない。遅咲きの彼岸花もまだその艶やかさを失ってはいない。そんな靄ッとした風景を眺めながらも、耳はテレビから流れるニュースの声を捉えている。


 中国でスパイ容疑で拘束され、三人だけ解放され一人が残された。解放された三人の記者会見の模様がテレビのニュースだ。三人の謝罪会見という声が流れる。紀南地方山間部の隠者的住人は謝罪会見の声に違和感をもつ。



 謝罪の必要などないのに謝罪する日本的精神を感じながら解放された三人の会見のニュースの声を聞くだけでは気がすまず、テレビの前に立ってニュースを見る。



 4人の拘束(逮捕)の容疑は軍の管理区内撮影のスパイ容疑であるが、多くの日本人は尖閣諸島問題が絡んだ言いがかり的、人質的拘束(逮捕)だと考えただろう。私はスパイ容疑の逮捕に驚いた。スパイ容疑は死刑を連想させた。つい最近の日本人麻薬密輸者犯の死刑執行のニュースも思い出した。早い起訴と早い裁判で死刑まで早い時期に行われる可能性のある中国だ。麻薬密輸などの犯罪と比べられないが、それでも、迅速な死刑執行が可能なスパイ容疑の逮捕は恐怖である。旧日本軍の遺棄化学兵器処理事業関係の調査が、尖閣諸島付近での海上保安庁の巡視船への中国漁船の衝突事件への、中国政府の言いがかり的対応に翻弄された格好だ。


 フジタの4人は犠牲者であり、誰にも謝罪の必要もないが、解放された三人は自らの落ち度を認めて、始末書を書き、誓約書を書き、更に一人を人質にされて開放された。その三人の謝罪には人権意識の低い独裁国家の非常さを感じる。フジタの4人と同じように拘束される可能性を感じるビジネスマンは多いだろう。軍施設も軍の管理区も多いはずだ。車で走る先には、どんな施設があるか分からない。迂闊にカメラを向けることの出来ない社会が中国だ。更に飛躍した表現では、中国観光も迂闊には出来ないと言うことになる。


 しかし、政府の重苦しい制約など超越して民間レベルの交流は進んでいる。政府の対応が滑稽に思える程、多くの民間交流がある事実は否定できない。しかし、文化文明の発展から遅れる政府の横暴に逆らうことも出来ない。北京オリンピックも上海万博も中国の国家力の宣伝となったが、そんなものより遥かに大きな宣伝は民間の交流だ。その民間の交流拠点が上海であり、昨日のNHKでも、上海に夢を掛ける日本の若者達を紹介していた。過ってのアメリカンドリームが今やチャイナドリームになっている。

 そんな時代の、かび臭い政治的な圧力が、民間人の活力も阻害し恐怖感も与える。戦争が残した日本の爪痕の一つ、大量の旧日本軍の遺棄化学兵器処理事業関係の調査は、軍施設付近で行われるのは当然だろう。遺棄化学兵器処理施設建設のための現地調査では、写真撮影も当然だ。それくらいの写真撮影で拘束されるなら、多くの観光客が拘束される可能性もあるなどと、だらだら並べるのは、謝罪の必要ない三人の解放者の沈鬱な表情のせいだ。仲間の一人の解放を中国当局に求める発言が全てを語るが、それにしても、その人たち、フジタの4人に対しては、日本の国、日本の国民が謝罪すべきだと思う。


 フジタの4人が拘束され、人質状態になり、その4人の命と引き換えに中国人船長の釈放がなされたなら、また、その危険性を考えて釈放したなら、譬え日本外交が弱腰だと言われても、譬え日本外交の敗北だと言われても、仕方ないし、良かったと、過疎地紀南地方山間部の隠者的住人は思う。


 あるテレビ討論番組で、現在日本で最も売れていると思われる老評論家は、日本赤軍が日本政府に無謀な要求をしたダッカ事件を思い出したと言った。そして、中国人漁船船長釈放の正不に対しての老評論家の強烈な批判があった。日本中に蔓延する政府批判は国家の威信を傷つけた弱腰外交への怒りだ。ダッカ事件は、世界のテロと戦う国々から強烈な批判があったと言う老評論家は、日本外交の恥だったと言った。


 しかし、と考える。その時の日本政府が逆の対応、強気の対応、日本赤軍の要求を退けた時のことを考えるとおぞましい結果しか見えない。日本外交の、勝利か、それとも汚点か、歴史さえ判断不可能な事件だったと思う。人質を取られて事件では、人質の命が最優先される。そこに全ての真実があるような気がする。それにしても、被害者が謝罪する現実が日中の政治で作り出されるのが現実だから、恐ろしい思いになる。


 4人が別々の部屋に軟禁され、それぞれの部屋に監視人2人が24時間部屋にいる異常な生活は想像できない。むしろ、留置所などの施設の方が精神的には樂だと思う。死刑執行人2人と共に過ごす時間だ。そんな生活から開放されたにしても、同僚がまだ拘束されている現実は、3人の口を閉ざした。開放された喜びは、自分達だけ解放されたというある種の罪悪感によって消される。人間の心の不思議な純情さ純粋さだ。多くの犠牲者が出た事件で、助かった人々の持つ共通の精神性が感じられ記者会見であった。



 遺棄化学兵器処理事業の予定地近くの細い道に入り、進入禁止の看板があるゲート約30メートル前で停車。同行した現地法人の中国人社員がゲートを写真撮影し、引き返そうとした際、拘束された。

 

 拘留状況を作り出すかのような、
 重く苦々しい言葉は、
 中国当局への同僚の釈放の願いへと続く。

 中国が速やかにフジタの一人を解放することを願う。





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最終更新日  2010.10.02 11:07:06
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