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テーマ:辛口映画批評(354)
カテゴリ:マスコミ試写
![]() トウキョウソナタ 映画の話 仕事に没頭する毎日を送っている平凡なサラリーマンの佐々木竜平(香川照之)は、ある日突然、長年勤め上げた会社からリストラを宣告されてしまう。一方、世の中に対して懐疑的な心を持っている長男・貴(小柳友)は家族から距離を置くようになり、一家のまとめ役だったはずの妻・恵(小泉今日子)にも異変が起き始めていた。 映画の感想 これは黒沢清監督ファンは必見の作品です。私も監督のホラー作品のファンであるが、監督が初めてホームドラマを撮ったと聞き、期待と不安でスクリーンを見つめた訳だが、これは正しく黒沢印100%の濃縮映像と語り口である。ホームドラマなのに真っ暗い照明に不安をあおるカメラワークでホラー映画のスタンスのままホームドラマを描いているのが見ていて可笑しくて、深刻なドラマなのにずぅーっとニヤニヤ笑いながら見てしまった。 以下ネタばれあり 映画は主人公宅の開いた窓から暴風が吹き込むシーンで家族の崩壊の予兆を表す上手い導入シーンだ。主人公の佐々木一家の父がリストラされた事で家族の絆も崩れ始める。父は新しい職を求めて職安に行けば長い行列に真っ暗な廊下に照明を当てるので、くっきりと壁に影が浮かび上がって正にホラーの世界である。ホームドラマなのに酷く歪なドラマ展開が逆に楽しい。ホームレスに配給される食事を求めてゾロゾロ歩く列や、ホームレスに紛れて配給食を食べるスーツ姿の男たちを見ると歪んでしまった現代日本の姿のようだ。そこに登場する父の友人・黒須がまた可笑しい。やり手ビジネスマンを装った無職男なのだが演じる津田寛治の好演が光る!携帯電話を上手く操り、やり手ビジネスマンを演じる姿は可笑しく悲しい。父が黒須の家に招かれ、洗面所で黒須の娘に声を掛けられるシーンのアングルはこれまた黒沢ホラーである。 リストラされた事を家族に言えず勤め人を装う父は家の中では高圧的に子供と接している。この手の役を演じる香川照之はいつもながら上手い。そんな中、父親よりはるかにデカイ長男を演じる小柳友がミスキャストのように感じた。小さい両親からあんなに大きい子供が生まれるわけが無いし、母役の小泉今日子と家の中で二人きりになると母に襲い掛かりそうで見ていて冷や冷やしてくる。テイッシュ配りのバイトをしている長男がバイト仲間と、配りきれないティッシュを川に廃棄して「大地震が起こって今の世界がリセットされないかなぁ」と言う台詞が妙にリアルで格差社会に嘆く現代若者の本音のようだ。 次男は学校で教師(アンジャッシュの児嶋が役にはまっている)からつま弾きにされて家庭でも居場所が無いが、ピアノと出会いで次男の才能が開花されるのだが、ピアノとの出会いのシーンも不自然極まりない。ピアノ教室が窓全開でピアノを教えているなんてありえないシーンを平気で入れてしまう監督のセンスが好きだ。次男もピアノを習いたい事を言えず、拾ったキーボードでピアノの練習をするのだが、このキーボードがMIDIコントロール・キーボードの為に音が出ないと言うのも泣かせる。 黒須の死から父は仕事を選んでいられない状況に追い詰められて、職安から与えられたショッピングセンターの掃除の仕事を始めるのだが、これまたありえないシーンが出てくる。私服から掃除人のユニフォームに着替えるのは何故か営業中のショッピングセンターの廊下の影である。もう監督が真剣なのかふざけているのか判らなくなってくる。その頃、妻は家に押し入った強盗にグルグル巻きに縛り上げられている、その強盗は黒沢組常連の役所広司である。いつもながらエキセントリックな演技が楽しい。彼は家から連れ出した妻と海辺の小屋で○○○までしてしまう。短い出演ながら映画の空気を一瞬にして自分のカラーに染めてしまう役所広司の存在感はアッパレだ。 父のリストラ、母の強盗拉致被害、長男の出兵騒ぎ、次男の音楽的才能の開花など様々な困難を乗り越えて、穏やかに迎える次男のピアノ試験曲「月の光」で映画は幕を閉じるが、このピアノを演奏する引きのシーンで次男役の井之脇海の演技で、曲に合わせて鍵盤を叩く手は動いていたがペダルを踏む足が殆んど動いていないのが惜しかった。 かなり映画全体はかなり歪な展開であったが、普通のドラマを見慣れた目には非常に刺激になった。黒沢清監督のまた新しい一面を感じ取れる作品である。 ![]() 映画「トウキョウソナタ」の関連商品はこちら ![]() トウキョウソナタ ![]() 黒沢清の映画術 ![]() 黒沢清の恐怖の映画史 ![]() 黒沢清×椎名誠の摩訶不思議世界 もだえ苦しむ活字中毒者(DVD) ◆20%OFF! ![]() 至極の恐怖!中谷美紀、豊川悦司主演、黒沢清監督最新ホラーがDVD化!ジェネオン エンタテインメント LOFT/ロフト デラックス版 ![]() 黒沢清監督×役所広司の最高傑作!エイベックス・エンタテインメント 叫 プレミアム・エディション
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