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テーマ:辛口映画批評(354)
カテゴリ:試写会
試写会場の客入りは8割ほど。
![]() 映画の話 現代のニューヨークで、謎の射殺事件が勃発。郵便局で働く定年間近の真面目な男がある日、カウンターに現れた男性客の頭にいきなり銃弾を打ち込んだ。彼の名はヘクター。犯行に使われた銃は、古いドイツ製のルガーだった。さらに彼の部屋からは、行方不明になっていた歴史的に重要なイタリアの彫像も発見される。二人の間にいったい何があったのか? その謎を解く鍵は、1944年のトスカーナにあった――。 映画の感想 スパイク・リー監督初の戦争を舞台にした作品であり、リー監督にとって新境地と言える作品だ。映画の上映時間は2時間43分とかなり長尺な作品であるが、リー監督のストーリーテラーとしての力量が遺憾無く発揮されていて長さはそれほど感じない。 映画は1983年のニューヨークの郵便局で、定年間近の局員が客を拳銃で撃ち殺す衝撃の展開で幕を開ける。衝撃の事件は多くの謎を露呈しマスコミ報道もされる。事件の鍵を握るのは被告が戦争で従軍していた1944年のイタリア、トスカーナにたどり着く。映画はリー監督作品の音楽を多く手がける、ジャズ・ミュージシャンで映画音楽家のテレンス・ブランチャードの流麗なジャズオーケストラに乗せて饒舌に展開していく。 以下ネタばれ注意 まず本作は83年の現在と44年の過去が点と線で繋がる構成がされている。オープニングの現代のシーンは物凄く凝縮されて描かれ、その後の展開に非常に重要になるので被害者とカフェで事件を知る人物の顔を頭に明確に記憶する必要がある。 映画の舞台は第二次世界大戦中の44年イタリアにさかのぼり、黒人歩兵部隊が人種差別者と思われる上官の間違った判断で兵隊達は敵の砲撃と味方の砲撃で全滅してしまう。そんな中、4人の兵隊は隊とはぐれ難を逃れる。この戦闘シーンからしてリー監督のやる気を感じさせる凄まじい戦闘シーンで、さしずめミニ「プライベート・ライアン」状態である。エンドロールで判別したのだが、戦闘シーンでのVFXを担当したのはジョージ・ルーカス率いるILMだ。 それにしても本作の時代設定が44年の戦中でまだ黒人に対しての人種差別が激しい時代である。黒人兵隊達は一番危険な最前線に送り込まれ捨て駒の様な扱いである。正しい情報を黒人兵が白人上官に伝えても「黒人に言った事は信用できない」と言い放ちミスを犯す上官であったり、イタリア人少年の命を助けた黒人兵も「こんなに近くで白人を見たのも触れるのも初めてだ」と言っていたし、黒人兵が食堂でカキ氷を食べるのも命がけであったりで、とにかくリー監督にとって未開拓である戦中当時の黒人への人種差別に対する描写が冴えまくっている。その反対に黒人を見たことが無いイタリア人達には歓迎を受けて、兵士達は楽園の様な好待遇を受ける辺りはリー監督流の人種差別への皮肉が込められている。そして、たぶんリー監督が描きたかった“セントアンナの大虐殺”など卑劣なナチスの悪行も明確な形で描かれ観客に投げかける。 映画は運命と奇跡の力に導かれ壮絶な着地点を迎える。そして現在と過去が点と線で繋がるわけだが充実した過去パートに比べると、締めとなる現代パートが性急過ぎたのは否めない。この辺は編集段階で削られてしまったのかもしれないが、もう少し物語冒頭の殺人事件に対しての答え合わせ的なフォローが欲しかった。まぁ、それを差し引いても近年のリー監督作品の中でも抜きん出るクオリティの力作であることは確かである。 映画「セントアンナの奇跡」の関連商品 ![]() MIRACLE AT ST. ANNA(A):FILM TIE-IN [洋書] ![]()
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