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カテゴリ:思い出の宝箱
毎日のように訪れていたきくさんが、急に姿を見せなくなってから4、5日過ぎた。
ある日、作治さんの耳にうわさ話が聞こえてきた。
「地主さまのお嬢様がお見合いをされたらしい」
作治さんは愕然となった。 そこへもう一人の声が・・・
「だが、お嬢様はその話を断ったそうな・・・」
作治さんは軽くため息をもらして中断していた農作業を再び始めた。
翌日から、作治さんは父親よりも早く田んぼに出るようになった。
彼は、稲穂の実り具合を確かめながらも、ちらちらと きくさんの屋敷を 見ている。
地主さまのお屋敷は、作治さんの家から 約200メートルのところにあるが、
田んぼを挟んでほぼ真向いに建っている。
そして立派な構えの門は、作治さんの家が預かる田んぼの端の延長線
にある。
門からまっすぐ県道に出るこの道は,
他の農道とは違い、幅は広く路面もしっかりと整地されている。
この道を、きくさんは毎日女学校に通うために往復しているのだ。
今、屋敷の門の前に人力車が一台やってきた。
やがて きくさんと女中頭が姿を現すはずだ。
そして二人を乗せた人力車が田んぼの前を通る・・・
作治さんの早起きの訳は・・・
早朝、登校する 「きくさんの顔を見たいから」 だったのである。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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