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カテゴリ:思い出を小説に
「映画のようなラブストーリー」は実話に基づいています。 どうしても、思い出せない部分もあって・・・上記の故、この言い訳は通用させて頂きます。つまり、多少文脈が飛ぶ、ということも・・・そういう訳で「雨」のシーンから・・・
< 雨の中を >
きくさんに会えなくなってから、悶々とした日々を過ごす作治さんでした・・・ そんなある雨の降る夜のこと・・・ 作治さんの耳に足音が聞こえてきました。「ばしゃ、ばしゃ!」とその足音は作治さんの家に近づいてきます。 「誰かな?こんな夜に・・・雨じゃというのに・・・」 作治さんは不審に思いながら、土間に下りてゆき引き戸を閉めたまま、外の様子をうかがうため、耳を澄ませた。 足音は急に小さく、しかしながらはっきり聞き取れるようになり、やがて止まった。それは、訪問者が戸口のすぐそばまで来たことを教えている。 「誰かな?」 「作ちゃん!?・わたし、『きく』よ!」 「きくちゃん!?」 作治さんは驚いた。けれどきくさんの名前を呼びながら、同時に引き戸のカンヌキをはずしにかかっている。 引き戸を開けると、そこには雨の中を駆けてきたため、全身をぐっしょりと濡らした『きくさん』が立っていた。 「作ちゃん、・わたし・・」 「話はともかく、早く中へ入れ」(ここ、強い口調ではありません、つまり、訛っているわけですね) 作治さんは、きくさんを抱えるようにして土間に入れ、引き戸を閉めた。振り返るときくさんが・・・ 「わたし、やっぱり作ちゃんじゃないと嫌だ!明日のお見合いには絶対行かないから!」 全身を小刻みに震わせながら、きくさんは大きな声で、涙を浮かべてそう言い切った。作治さんは勿論嬉しかったが、きくさんとのことは諦めていたことであり、突然の予想外な出来事に戸惑った。何しろまだ18歳である。 それでも言うべきことに気づき、それを口にしようとしたその時・・・誰かの声が割って入った。 「まずは、暖かくして濡れたきものを着替えねば、風邪ひくぞ・母さん、手伝ってやれ。作治はちょっと向こうの部屋に居れ」 そう言いながら、囲炉裏の火をおこしてくれたのは作治さんの父親だった。まずはそれが今このとき、順当なことである。誰一人、異論はなかった。 きくさんは、作治さんの父親に頭を下げ、作治さんは、きくさんに優しい笑顔を見せてから土間から上がり、隣の部屋へ入り障子を閉めた。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2009.03.04 01:21:57
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