カテゴリ:童謡・唱歌 桃源郷
林古渓(はやし・こけい)
浜辺の歌 あした浜辺を さまよえば 昔のことぞ しのばるる 風の音よ 雲のさまよ 寄する波も 貝の色も ゆうべ浜辺を もとおれば 昔の人ぞ しのばるる 寄する波よ かえす波よ 月の色も 星の光も 疾風たちまち 波を吹き 赤裳のすそぞ ぬれひじし 病みしわれは すでに癒えて 浜辺の真砂 まなごいまは 作曲:成田為三 大正7年10月、冊子「浜辺の歌」として出版、発表。 〔大意〕 1 朝、浜辺をさまようと、昔のことが偲ばれるなあ。 2 夕べ、浜辺をぶらつくと、昔の人が偲ばれるなあ。 3 疾風(はやて)が突然波を吹いて 赤い着物の裾がずぶ濡れになった。 病(やまい)を患っていた私もすでに癒えて 浜辺の真砂(のようにきらきら光る) 愛すべき子(愛子・まなご)になったのだなあ、今は。 註 ワルツ(三拍子)のリズムに乗せた旋律がまことに流麗優美な不朽の名曲。 「(昔のこと)ぞ・・・しのばるる」は係り結びで、強調、整調。「(赤裳のすそ)ぞ・・・ぬれひじし」も同様。 「もとおる」:ぶらぶらする。ぶらつく。 原歌詞は第3節まであったが、作詞者(著作権者)は第3節が趣きを失っているものとして削除を希望したため、昭和22年7月刊「中等音楽」で削除。以後、ほぼ全てのテキストで第2節までとなっている。 第3節は、万葉調の上古語を用いているせいもあり難解・晦渋で、正直言って意味が今一つよく分からない。「不出来」という作者本人の評価は妥当とも思う。 なお、平成14年(2006)7月16日付の読売新聞文化面の記事によると、この歌詞は、作曲者の成田為三氏(1893-1945)が、ラブレターの中で同窓の女性に捧げた恋歌が元になっているという。贈られた矢田部正子さん(1900-1989、旧姓・倉辻)は、「私には決まった人がいます。」と返信し、成田氏はあえなくフラれ、撃沈した。昔は、洋の東西を問わず名家の子女には親などが決めた許嫁(いいなずけ、フィアンセ)がいることが多かった。 矢田部正子さんは、この事実を夫で声楽家の矢田部剄吉氏に最後まで話さなかったが、夫の死後、養子で声楽家の鈴木義弘さん(記事掲載当時70)に明かし、鈴木さんがコンサートで公にしたという。 ・・・ただし、この記事の逸話と、林古渓作詞とクレジットされていることの詳細な事情は不明。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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