カテゴリ:近代短歌の沃野
窪田空穂(くぼた・うつぼ) 関東大震災連作 抜萃〔3〕
夜は月さやかにいとゞわびし 電燈のつかざる店にはだか火の蝋燭ともり通りに月照る 屋根がはら落ち残りては 軒先にかかれる見せて月さやかに照る 大き荷を背負へる母の袖とらへもの食ひつつも童小走る 遠望して 大東京もゆるけむりの雲と凝り 空にはびこりて三日をくずれず 大東京もゆるけむりの日の三日を くづれずあれど鳴る鐘のなき 神田区の家毎にゐる南京虫一つ残らじと笑ひてかなしき あやしくも凝りてかがやくましら雲木に蝉なけど人の音はなき 震災のあとを見にと出づ 人間のなるらむ相眼にし見む悲しみ聞けど見ずはあり難き * 「人間の、こうなってしまうのだという真実の諸相をこの目で見に行こう。悲しみを聞いているのに、見ないでいることなどあり得ない。」 歌集『鏡葉』(大正15年・1926) お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2023.09.03 08:29:41
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