カテゴリ:近代短歌の沃野
佐佐木信綱(ささき・のぶつな)
夏は来ぬ 卯の花の匂ふ垣根に 時鳥はやも来鳴きて 忍音もらす 夏は来ぬ さみだれのそそぐ山田に 早乙女が裳裾濡らして 玉苗植うる 夏は来ぬ 橘の香る軒端の 窓近く蛍飛び交ひ 怠り諌むる 夏は来ぬ 楝散る川べの宿の 門遠く水鶏声して 夕月涼しき 夏は来ぬ さつきやみ蛍飛び交ひ 水鶏鳴き卯の花咲きて 早苗植ゑわたす 夏は来ぬ 作曲:小山作之助 明治29年(1896)5月刊『新編教育唱歌集』所収 註 最後の「夏は来ぬ」の5音を除けば、それぞれが短歌の形になっている、さすが近代短歌の巨匠にふさわしい名歌詞。 忍音:春に鳴きはじめてまだ日が浅いホトトギスやウグイスが、自信がなさそうに声をひそめて鳴く声。初音。雄鳥の求愛行動。 さみだれ:五月雨。梅雨。旧暦五月(現行暦のほぼ6月)頃に降る長雨。「さ」は「さつき(五月)」の「さ」と同源の接頭語。「みだれ」は「乱れ」ではなく、雨が降る意味の「水垂」といわれる。 玉苗:美しく瑞々しい稲の苗、早苗の美称。 蛍飛び交ひ怠り諌む:「蛍の光、窓の雪」の故事にちなんで、怠け心をいさめる。 楝(おうち):栴檀(せんだん)。香り高いことで知られる。 さつきやみ:五月闇。旧暦五月、梅雨どきの闇。昼ですら小暗く、照明のほとんどない時代の、月も見えない夕方以降は、本当に真っ暗に感じられのだろう。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2024.05.22 06:51:45
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