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カテゴリ:日替わり日記
左幸子さんは、常に個性ある役柄を演じつづけた女優さんでした。 「女中ッ子」、「荷車の歌」(高遠・杖突街道でロケ)、「飢餓海峡」、 「五瓣の椿」、「幕末太陽伝」、そして「にっぽん昆虫記」。 ぼくの少年時代に活躍していたので、観た映画は僅かでしたが、役柄に共通しているのは、 雪を割って大地よ湧き咲く福寿草のようにエネルギーを感じさせるバイタリティーある存在感。 汚れ役でもけがれを感じさせないない、これが彼女の持ち味でしたね。 母との映画 ぼくが中学生だったころの話 母とふたりだけの日曜の朝 新聞に目を通していた母が 「映画を観に連れてってあげようか」 と声をかけた 出かけた映画館は五キロほど隣町にある 「高遠文化会館」という映画館 ふたりで入ろうとしたそのとき 母はひどく慌てたそぶりで 唐突に 「おなか空いたね、中華そば食べよう」と ぼくの肩をつかみ後ろを向かせた 映画館の看板には大きく 「にっぽん昆虫記」と大書きされていた 若い女の胸にむしゃぶ付く男が描かれていた 新聞告知にある「昆虫記」という題名で 子ども向けの映画と勘違いをしたようだ 落ち着いたのは 映画館通りの小さな食堂 中華そばを啜ると ひと息ついた母が言った 「やっぱり中華そばはおいしいね」 母のドンブリをみると スープが残されている 食べものを残すと叱るのに、と じっと見ていると 黙って ぼくの空のドンブリと交換した 家に帰ってからも 母は 映画のことはひと言も 口にすることはなかった 高遠の映画館は閉館し いつの間にか無くなってしまった ※『にっぽん昆虫記』は、一九六三年公開の日本映画。今村昌平監督、左幸子主演。 家族から足入れ婚を強要され、やがては働きに出た都会でコールガール組織のマダムとなる一人の女性と、その母と娘、三代にわたる女たちと身勝手な男との性をとおして、昆虫のように本能本位で生きてゆく、生命力に満ちた半生をエネルギッシュに描いた作品。 公開当時、映画倫理管理委員会より成人映画の指定を受けた。 長門裕之の青年時代、ぼくの青年時代。そして、老境の姿…。 嗚呼! お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
やさしいお母様とのなつかしい思い出ですね。
今村監督は、ケン・ローチ・監督が尊敬する人。 その彼を師と仰ぐのが是枝監督。 カンヌつながりでもあります。 カメラは姫田さんでしたか。 成人映画とは知りませんでした。 (2020.02.18 12:09:45)
maki5417さんへ
古い映画なのに詳しいですね。 性がテーマですから「成人映画」の指定は受けましたが、「芸術祭参加」作品らしい、時代背景や習俗など綿密に描写されていて、なかなか深い作品です。 実は、これを書いたことをきっかけにネットで観ることができました。 (2020.02.18 23:58:11) |