海に咲く花(五) 15
ぼくは、このまま家に帰れない。おじいちゃんにも牧野先生にも、何て言ったらいいのだろう。 今、あった奴らとのことなんか、やっぱり話せない。相談できない。まして、イケと一緒に戦おうとしてるなんてことは! ぼくが、一人で帰って行ったら、おじいちゃんは、きっと訊いてくる。イケはどうしたかって。イケと二人で何をコソコソしてるのかって。今度は、はっきりと訊いてくる。今まで、黙認していたことを、牧野先生の力を借りて。きっと、そうだ。 母さん、ぼく、どうしたらいいと思う?ふっと、母さんを想った。母さんに会いたい。どうしてるんだろう。耕ちゃんも、どうしてるんだろう。きっと、元気いっぱいだよね?大好きな、大好きな母さん。可愛くて生意気な、耕ちゃん。それに、親切な山中さん。どんな風に、暮らしてるんだろう。三人で。 風が、ぼくの髪を吹き上げていった。 母さん、ぼくの母さん。赤ちゃんだったぼくを、懸命に育ててくれていた、その頃の母さんに、ぼくは会ってみたい!ぼくは、母さんを悲しませたり、苦しめたりする赤ちゃんだった?今みたいに。ごめんね、母さん。ぼくは、ひねくれてて、素直じゃなくて。そして、心配ばかりかけちゃってて。 母さん。ぼく、イケと一緒に戦いたい。これは、おじいちゃんにも牧野先生にも言えないんだ。警察にもだよ。イケが一人で戦おうとしてるからだよ。ぼくの親友なんだ、イケは。 母さん、でも心配しないでね。ぼく、とても怖いけど、イケと一緒に戦いたいんだ。それに、ぼくはね。 ぼくは、海に咲く花を見たんだ!あの、伝説の花だよ!イケと二人でだよ。おじいちゃんだって、誰だって、見たことのない花だよ。母さん、信じられる?母さんだって、見たことないよね?ぼく、だから、段々、勇気を出せるような気がしてきたよ。 辛かった父さんのことも、ぼくは自分のこれからの力にできそうな気がする。海に咲く花に出遭えて、ぼくの命もとても大切なんだって思う。ぼくの命の、奥の奥からそう思う。大切な友だちの命。ぼくは、それを守るために、やっぱり戦おうと決めたよ、母さん! つづく