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耕ちゃんが、たあちゃんの家に遊びに行くのだろう。門の中へ入って行くところだった。
ぼくは咄嗟に、生垣にぴたっと身を寄せた。 耕ちゃんが、ぼくを見つけたら、もしかして家に戻って来ちゃうかもしれないと、思ったから だ。見つかったら、まずい。 帰ると、おじいちゃんが新聞を読んでいた。 「塁か。お帰り」 メガネをずらして、おじいちゃんはぼくを見た。 「学校、楽しいか。大丈夫か」 おじいちゃんは、そう訊いてきた。いつも、そうやって、ぼくを心配していてくれるんだ。 「うん。まあまあだよ」 「そうか。まあまあか。それなら良かった」 そう言って、おじいちゃんはまた新聞を読みはじめた。 部屋に入るとすぐ、ぼくは手紙を開けた。 野島さん、からだった。 『私は、塁くんが好きです。塁くん、迷惑ですか。迷惑だったら、教えてください。そした ら、もう手紙は出しません。』 短い手紙だった。 コクられたのは、はじめてだ。 ぼくは、野島さんのこと、好きでも嫌いでもない。 不意に、ぼくの意思とは関係なくドアが開けられた気がした。 どうして、こんな手紙をくれるんだろう。 イケには見せたくない。イケはどんなふうに思うだろう。 このまま友だちでいられるだろうか。ぼくは、ずっとイケと友だちでいたい。こんなことで、 友だちを失いたくない! ぼくは、どうすればいいのか分からない。 「塁―ッ。飯だぞー」 ぼくは、はっとした。 おじいちゃんに呼ばれるまで、部屋にいた。手伝わなかった。 「おじいちゃん、ごめん」 ぼくは、もごっと謝った。 「たまには、いいさ」 おじいちゃんは、あっさり言った。ぼくは何だか嬉しくて、おじいちゃんを見てにこっと笑 った。 『たまには、いいさ』って、いい言葉だなと、思った。 耕ちゃんが、まだ帰っていなかった。 「おじいちゃん。耕ちゃんは?」 「たあちゃんちで、ご馳走になってるよ。二人で騒いでたよ。友だちって、いいもんだな。じ いちゃんも、マサルとは一生の友だちだ。耕ちゃんも、たあちゃんとは、一生の友だちになる かな。塁は、友だちできたか」 「できたけど。でも、隠したいことがあって、友だちでなくなるかも。ずっと友だちでいたい んだけど・・・」 「そうか。でもな、塁。友だちとは腹を割って話した方がいいぞ」 おじいちゃんは、ぼくの隠したいこと、きっと分かってる。貰ったこともない手紙がきたり したから。 ぼくは、布団に入ってからも、暗闇の中で考えていた。 耕ちゃんは、さっきまでずっとしゃべり続けていたけど、ことんと、眠りに落ちていった。 ぼくが、しなければならないことは、二つあると思った。 一つは、野島さんに断ること。 二つ目は、イケに正直になること。 例えどんなことになっても、ぼくは正直でいようと、決心した。 つづく お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
Jan 23, 2008 12:45:21 AM
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