テーマ:意外な戦記を語る(748)
カテゴリ:潜水空母・伊401
(カモメ)藤森参謀が大船収容所に出向いて、訊問したところ、その米国の元警備兵は「パナマ運河は、開戦当時は飛行機も配備されて警戒厳重だったが、今ではほとんどがガラ空き同然である」と答えました。
(ウツボ)昭和二十年四月上旬、呉潜水隊基地で、パナマ運河攻撃の図上演習が行われた。有泉司令、第一潜水隊幹部、六三一航空隊幹部、それに第六艦隊首席参謀・井浦大佐、軍令部参謀・藤森中佐らが参加した。 (カモメ)図上計画としては、開戦時の、真珠湾攻撃の機動部隊のハワイ進出コースに準じて、ハワイ北方海面を経由、ハワイと米国本土の中間を経て南下、パナマ沖をいったん通過して、南米コロンビア沿岸ぞいに北上して接敵するというものでした。 (ウツボ)それは、なるべく近い距離から飛行機を発進、攻撃後揚収して避退するという計画だからね。当時のアメリカ本土の情勢から判断して、成功の可能性が高いと確認された訳だ。 (カモメ)晴嵐がパナマ運河を攻撃後帰投するとき、潜水艦が予定地点で浮上することも、晴嵐が潜水艦を発見、着水し、揚収されることも、米国の制圧海域だけに極めて難しい問題でしたね。 (ウツボ)そう、困難な状況だった。だが、潜水空母によるパナマ運河攻撃は、全くの隠密、奇襲攻撃であることを考えたら、たとえ晴嵐の機体を放棄することになったとしても、搭乗員の収容だけは可能であろうとの結論に達した。 (カモメ)けれども、この作戦を実行する伊四〇一の南部艦長は、この作戦は晴嵐十機で魚雷と爆弾併用の体当たり攻撃、つまり特攻隊だ、と思ったのですね。 (ウツボ)それは、当時、上層部と現場の認識のずれがあった。だが、現実の問題として、警戒の厳重な陸地付近の海面で潜水艦が浮上して、飛行機を収揚する可能性はなかった。 (カモメ)そうですね。さらに、命中の確度を一〇〇パーセントにして目的を達成するためには、特攻攻撃よりほかに手段はない。そのように南部艦長は認識していたのですね。 (ウツボ)最大の問題は、運河のどこを攻撃するかだった。結局、攻撃場所はパナマ運河の太平洋に面する閘門に決まった。 (カモメ)パナマ運河には太平洋側に二箇所、カリブ海側に一箇所の閘門があり、船を海面から二十六メートルの高さまで持ち上げ、再び下ろして通行させる構造になっていましたね。 (ウツボ)そこで、爆撃で閘門を破壊すれば、船を持ち上げて下ろす水の水源であるガツーン湖の水が海に流れて出てしまい、パナマ運河は永久に通れなくなると日本海軍は考えた。 (カモメ)軍令部では潜水空母によるパナマ運河爆砕計画が進められていましたが、軍令部がこの構想について古賀峯一連合艦隊司令長官ら司令部に初めて説明したのは、昭和十九年三月二十八日です。 (ウツボ)それはね、軍令部の山本親男第一課長、源田実航空参謀、藤森参謀の三人がパラオを訪れた時、藤森参謀が、潜水空母によるパナマ運河爆砕計画を説明したんだ。 (カモメ)けれども、その三日後の三月三十一日には、古賀長官ら司令部要員が乗った二式大艇がパラオからフィリピンに向う途中、大低気圧に巻き込まれて、墜落、古賀長官らは殉死しました(海軍乙事件)。 (ウツボ)ちなみにパナマ運河攻撃作戦を研究した昭和二十年五月頃における関係指揮官は、連合艦隊司令長官・豊田副武大将、第六艦隊司令長官・三輪茂義中将(五月十日以前)・醍醐忠重中将(五月十日以後)、第一潜水隊司令・有泉龍之助大佐だった。 (カモメ)日本海軍が開戦時までに貯めこんだ燃料は約六百万トンで、燃料を心配することなく作戦ができたのは昭和十七年末までだったと言われています。 (ウツボ)それは、南方の資源航路が米軍に遮断され、補給の途が全くなくなってからは、燃料は急速に減少した。昭和二十年四月の時点で、日本内地の燃料はほぼ底をついていた。 (カモメ)当時、呉軍港には貯蔵燃料は、昭和二十年四月の時点で、二〇〇〇トンしかなかった。伊四〇〇型潜は一隻だけでも、一六〇〇トン以上の重油を必要としました。 (ウツボ)パナマ運河爆砕作戦のため、第一潜水隊四艦全部が必要とする燃料は約五千トンだった。それらの燃料を全部内地でまかなうことは到底できない相談だった。 (カモメ)そこで伊四〇一が四月十一日、呉を出港して、大連まで重油を取りに行くことになったが、宇部沖の姫島灯台付近でB29が投下した磁気機雷に触れたのです。 (ウツボ)艦長の南部少佐は、水深五十メートルくらいのところで、轟音を聞いた瞬間、何が起こったか判断できなかった。艦尾方向に白く盛り上がって泡立つ海面を見て、「機雷だ」と直感した。 (カモメ)南部艦長は「人間の感覚はおかしなもので、機雷と知った瞬間から、吃水がだんだん深くなっていくように思えた」と記していますね。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2015.08.15 09:15:33
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