テーマ:戦争反対(1187)
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祈。 『 生ましめんかな 』 こはれたビルデングの地下室の夜であつた。 原子爆彈の負傷者達は 暗いローソク一本ない地下室を埋めていつぱいだつた。 生ぐさい血の匂ひ、死臭、 汗くさい人いきれ、うめき声。 その中から不思議な声が聞こえて來た。 「赤ん坊が生れる」と云ふのだ。 この地獄の底のやうな地下室で、 今、若い女が産氣づいてゐるのだ。 マッチ一本ない暗がりの中でどうしたらいゝのだらう。 人々は自分の痛みを忘れて氣づかつた。 と「私が産婆です。私が生ませませう」と言つたのは、 さつきまでうめいてゐた重傷者だ。 かくて暗がりの地獄の底で新しい生命は生れた。 かくてあかつきを待たず産婆は血まみれのまゝ死んだ。 生ましめんかな生ましめんかな。 己が命捨つとも。 『 生ましめんかな 』/栗原君子 (『中国文化』一九四六年三月) 『栗原貞子詩集』日本現代詩文庫17(土曜美術社) お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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