ショートショート「高所恐怖症」
外壁から幅20センチほど張り出した庇のような場所にオレは立っている。
見おろすと高さは15メートルぐらいだろうか。と言っても正確な話ではない。高いところが苦手なオレは、高いということは認識できても、それが何メートルかなどと判断できるだけの経験を持ち合わせていない。
なぜ、こんなところに立っているのか。ことの発端はわからない。ただ、さっきまでは2メートルほど下にある張り出しの上にいたのだ。下を見ることが怖かったオレはちょっとした気の迷いで上の張り出しに手を掛けて懸垂した。すると思ったより軽くここに上がることができたのだ。
上がることができたのだから、下りることもできそうなものだが、足下の張り出しに手を掛けようと屈んだら尻が壁に押されて空中に飛び出しそうになる。
恐る恐る見まわすとヨーロッパの古いの街のような風情で、こんな状況でなければゆっくり眺めていたいような景色だと思う。
下を人が通っているのが見える。
「おーい、助けてくれ」と声を張り上げる。
人はまったく反応しない。景色の一部であるかのようだ。
いつからオレはこんなことをしているのか。いつまでここにいなければならないのか。