システムについて考える
最近はコロンビアの音楽グループのSystema Solarの曲が夏にちょうどいい感じで気に入っているのだけれど、そういえばシステムとはなんじゃろうと思ったのでシステムについて考えることにした。●システムとは何かシステムとは相互に影響する複数の複雑な要素からひとつの統一体を構成している組織のことである。例えばコンピューターはハードウェアやソフトウェアや周辺機器とかの複数の違う役割のものを組み合わせて動くシステムになっている。システムエンジニアはクライアントの様々な業務をこなすシステム用のソフトウェアの開発をしている。サウンドシステムは音源にミキサーやアンプやスピーカーとかの様々な機器をつなげてちょうどいい具合の音響を作っている。●思考のシステム心理学の二重過程理論だと、思考には無意識に自動的に直感的に素早く思考をする「システム1」と意識的に論理的にゆっくり思考する「システム2」があると言われている。システム1は感情に結びついていてバイアスがあるのでしばしば間違うけれど、巷の出来事の様々な誤解はシステム1による思考が原因になっているのではないかと思う。例えば日本は1000兆円の国債(地方債を合わせると1200兆円)を発行しているけれど、システム1の思考をする人は膨大な借金で大変だ、借金を返すために増税しないといけないと直感的に考える。しかしシステム2で論理的に考えれば、外貨建てでなくて自国通貨建て国債なうえに通貨発行権があるのでデフォルトすることはないし、1000兆円を税金で徴収して国債を償還したら政府の負債がなくなる代わりに1000兆円分の国民の資産が消えるし、不景気でデフレになっている時に増税してまで国債を償還する必要がないと理解できるはずである。インボイス制度でもシステム1で考えている人は消費税を預かり金と考えて消費者から預かった税金を払わないのは脱税だの猫ババだのと言ってインボイス制度に賛成しているけれど、システム2で論理的に考えれば消費税は預り金でないと地裁で判決が出ているのだからそもそも税を預かっていないので猫ババに当たらないし、免税されている売上1000万円未満の零細事業者や零細事業者と取引している企業に増税する産業抑制策だと理解できるはずである。マイナンバーカードで7312件の入力ミスがあったことで、システム1で考える人はミスがあるから危ないということで導入に反対したりカードを返納したりしている人がいるけれど、衆議院議員の甘利明によると保険証で受診する年間総受付数は約20億件で受診の都度に手入力していて年間500万件の氏名ミスとかの誤入力が発生しているというのだから、システム2で論理的に考えたら毎年500万件の誤入力が出るのに比べたら初回だけ7312件の誤入力が出たマイナンバーカードのほうがミスを少なくできるのは明白である。ヒトラーの大衆扇動術だと「大衆は愚か者である」「敵の悪を拡大して伝え大衆を怒らせろ」「大衆を熱狂させたまま置け。考える間を与えるな」「利口な人の理性ではなく、愚か者の感情に訴えろ」というのがあるけれど、これはシステム1を利用した戦略だといえる。ヒトラーだけでなくて中国や韓国が同様の手法を取って歴史的事実を教えるよりも感情を煽る反日教育しているし、日本の左翼マスコミも同様の手法を取っていて論理でなく感情に訴えて自虐史観で大衆を扇動している。システム1でしか物事を考えられない人は愚か者である。愚か者でないはずの人が愚かな発言をしているならヒトラーと同様に扇動のために意図的にやっていると思われる。例えばデービッド・アトキンソンは儲からない零細企業は政府が保護せずに潰れたほうがいいという新自由主義思想なので、インボイス制度が預り金でないと理解したうえでインボイス制度に反対する人を「脱税をしたい人の集まり」とレッテル貼りをして愚かな大衆の感情を煽りたいのだろうし、経営者なのでさすがに免税と脱税の違いがわからないレベルの馬鹿というわけではないだろう。システム2で物事を考えないと、複雑な社会の構造は読み解けなくなる。ではシステム2で論理的に考えるにはどうすればいいかというと、文章にして思考を整理するとよいと思う。たいていの学問はスピーチやプレゼンでなくて論文を基準にしているように、論拠を提示して論理的に自説を展開すればどこが正しくてどこの論拠が間違っているのか検証可能になる。文章と言ってもTwitterや掲示板のような短文がベースだと論拠を提示するほどの文章量がなくて不完全な切り取りや藁人形論法になりがちでシステム2による論理的思考にはなりにくいので、大学のレポートと同様に原稿用紙10枚分程度の文章量はほしいところである。●社会のシステム生物学では動植物が捕食したり依存したりする生態系のことをエコシステムという。透き通ったきれいな海はシステム1で直感的に見るとインスタ映えする素敵な海に見えても実際は生態系がなくて物質としての海水があるだけの貧しい海で、濁った海はプランクトンがいて海藻が生えて魚がいて多様な生物の生態系がある豊かな海である。ビジネスだと製品が連携して大きなシステムを形成することをエコシステムといって、たとえばGoogleやAppleのプラットフォームができるとそこにアプリ屋がわんさか群がって切磋琢磨して勝手にアプリが改善されてIoTとも連携してスマホの使い勝手がよくなってどんどん商圏が広がっていく。一方でMicrosoftはスマホでは他社を巻き込んだエコシステムを形成できなくて、Windows phoneはスペック自体は他社と比べて劣るものではなかったもののアプリが少なくて電話やメールやブラウジングくらいにしか使えなくてPC版のWindowsとも互換性がなくてどうしてもWindows phoneでなければならないという特徴もなかったのでシェアをとれなくて撤退した。企業はしばしば欲張って技術や規格を独占しようとするけれど、安藤百福が「日清食品が特許を独占して野中の一本杉として栄えるよりも、大きな森となって発展した方がいい」と言って即席ラーメンの製法を公開してメーカー各社に使用許諾を与えたら即席ラーメンが国民食といえるほど人気になったように、ファーストパーティーだけで事業をやるよりもサードパーティーにエコシステムを広げていって業界全体での認知度やシェアや製品の多様性を拡大するほうが最終的には儲かる。人間も一人で生きようとしてもたいしたことができないので、大勢が分業してそれぞれ得意なことをやることで作業効率がよくなって文明が発展していって、統治のための法律や宗教とかのシステムができた。イスラム教の国に発展途上国が多いように宗教的システムで厳格に管理して皆が同じ価値観を持って同じことをやる同質的な社会は変化がなくてあまり発展しないので、近年はダイバーシティ&インクルージョンが大事だと言われるようになった。女性や身体障碍者や高齢者や移民の社会進出だけでなく、アスペルガー障害の人が細かい違いに気づきやすくてプログラミングに向いているように発達障害や精神障害などのニューロダイバーシティも社会のシステムに組み込む必要がある。無職や引きこもりやホームレスや定年退職した高齢者のように社会から疎外される人が少なくなって社会参加する人が増えるほど治安もよくなるし福祉費用も少なくて済む。アメリカみたいに役立たずがホームレスになって野垂れ死ぬのは自己責任だという新自由主義の社会は治安が悪くて、2022年は小売店の万引きで14兆円の被害があってモラルが崩壊して大勢が不幸になっているけれど、犯罪が福祉代わりになるくらいなら最初から福祉を充実させて落ちこぼれを切り捨てずにみんなで頑張ろうというソーシャル・インクルージョンのシステムの方が不幸になる人が出なくてよいだろう。●物質のシステム地上の物体は原子からできているので、分子の構成やら運動やらのシステムが化学式や数式で科学的に説明できる。科学文明を維持するうえで科学的に真であることは必須なのだけれど、しばしば人間は真理に基づかずに欲や感情に基づいて判断するがゆえに間違うし、間違った人は相応の報いをうける。物理学を理解していない子供はスーパーヒーローが飛んでいるのを見て自分も空を飛べると思って高い所から飛び降りて骨折する。NASAの幹部はチャレンジャー号のゴム製Oリングが低温で弾性に影響が出ることを指摘されても無視して安全性よりもスケジュールを優先して爆発事故を起こした。ヴィーガンは動物がかわいそうだという感情を優先して人間には動物性のタンパク質が必要だという栄養学的な身体のシステムを無視して体調を崩したり早死にしたりしている。スティーブ・ジョブズのようにがん治療で西洋医学を拒んで非科学的な民間療法に頼る人はそのままがんが進行して亡くなっている。人間の行為の様々な失敗はこのような物質のシステムへの無理解が原因となっている。システム1で直感的に天動説が正しいように見えてもシステム2で論理的に考えないと地動説が正しいと理解できないように、科学的真理を理解するにはシステム2で時間をかけて考えることが必要になる。高等教育をしているはずの先進国でさえ非科学的な陰謀論やスピリチュアルが蔓延しているのは科学文明が壊れかけている兆候かもしれない。Googleが科学的根拠がないスピリチュアル系を検索結果から締め出したせいなのかココナラというスキルを売買できるサイトがスピリチュアル系の巣窟になっていて、レイキヒーリングや波動とかのカウンセリングが数千円から数万円で売られている。サイトは手数料で儲かるし、スキルを売る人も元手なしで儲かるし、客も満足して金を払っていて三方良しなのだろうけれど、感情を満足させることはできても病気が治るわけでもないし、科学的に真実でないことをやっても社会の発展にはつながらない。「波動の塩」という塩が普通の塩の10倍くらいの値段で売られているし、鉱石も運気が上がるパワーストーンと称して高額で売られているし、スピリチュアル系のビジネスは儲かるのだろうけれど、科学的教育を受けた文明人はそういう儲け方をしてはいけない。●芸術のシステム芸術は直感でぐわーっと創作するものに思われがちだけれど、商品づくりと同様に緻密な構成がないと完成度が高い芸術作品にはならないので、画家は色や光や形やシンボルのシステム、音楽家は音や楽器や音響のシステム、小説家は言葉や物語のシステムを理解する必要があるし、さらには鑑賞する人の認知のシステムも理解する必要がある。言語化されたシステムは理論と呼ばれていて、色彩学や図像学や音楽のコードや旋律とかの体系化された理論がある。プロとして活動するには同じクオリティの作品をいくつも作って生計を立てる必要があるので偶然いい作品がひとつできるだけではだめで、創作に再現性を持たせなければならないし、再現性を持たせるためには理論や技術を組み合わせて独自のシステムを確立する必要がある。芸術の才能は無数の要素の組み合わせの中から独自のシステムを組める能力ともいえる。しばしばいきなり創作してうまくいかなくて才能がないと判断して創作をやめる人がいるけれど、それは創作へのアプローチが間違っている。DIYで設計図がないまま材料が不揃いでメジャーでサイズを測らずに行き当たりばったりで作っても失敗して当然なように、創作でも完成像から逆算してどう創作すれば完成に行きつくのかというプランが必須で、作品を構成する要素のシステムを知らないと具体的なプランを組めない。どの理論に基づいてどういう技術を使えばこういう出来栄えになるというプランができればあとは実行するだけになるし、技術力を上げるほど完成度が高くなる。本を買ったり動画を見たりすれば理論は学べるのだから、ちゃんと理論を学んでから創作するほうがよい。そういえば私は文学理論の動画をYouTubeに投稿しているので、小説を創作する人は見ると良いですよ。ファスト&スロー(上) あなたの意思はどのように決まるか? 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