熊について考える
最近は秋田で熊を射殺したら役所や猟友会に熊を殺すなと抗議の電話が来て業務に支障が出ているそうである。北海道の大千軒岳では大学生が熊に殺されたし、出没が増えた熊をどうするかが問題になっている。というわけで徒然なるままに熊について考えることにしたくま。●熊とは何か日本にいる熊は本州にはツキノワグマが8400-12600頭いて絶滅危惧II類(VU)で、北海道にはヒグマが2000-3000頭いる(春グマ駆除の廃止とハンター不足で2020年度に推計値で1万1700頭に急増したという情報もある)。九州のツキノワグマは絶滅している。ツキノワグマは100km2程度の範囲で特定の餌場を中心に移動しながら生活していて、雑食で季節によって食べるものを変えていて、春はフキとかの柔らかい植物の若葉やシカの死体を食べて冬眠後の体力を回復して、夏は葉っぱが固くなって食べられないので植物不足を補うためにアリやハチとかの昆虫やミヤマザクラの実を食べて、秋は冬眠に備えてサルナシやヤマブドウとかの果実やミズナラのドングリを食べて、冬は何も食べずに冬眠する。ツキノワグマは野生では20年くらい生きて、4歳ぐらいから繁殖が可能になって数年おきに冬眠中に1-2頭の子供を産んで、1年半子育てしてから子別れする。畑に近い所にいるクマは作物や家畜や養殖している魚を食べたりするし、人家や市街地に出没する熊は危険なので、害獣として駆除される。環境庁の「クマ類の捕獲数(許可捕獲数)について」によると、だいたい年間3000頭くらいが捕殺されているようである。ツキノワグマとヒグマを合わせて10400-15600頭いるうち3000頭が捕殺されていると多いような印象だけれど、大雑把な推計をすると最低でも10400頭いるうちの半分の5200頭が雌だとして、繁殖可能な4歳以上の雌が4/5の3900頭いるとして、それが1年半に1-2頭子供を産むとすると3年で平均3頭、1年で1頭くらい子熊が増えることになって、毎年3900頭の子熊が増えることになる。となると年間3000頭くらい駆除しても、雌や子熊を集中的に駆除しないかぎり熊が絶滅することはなさそうである。ただし正確な頭数は把握できていないし近年熊が増えているという情報もあるので、まずは頭数を把握しないと適正な狩猟数がどれくらいかはわからない。熊は警戒心が強くて人の声を聞くと警戒して逃げていくけれど、子連れの熊にうっかり遭遇すると子熊を守るために攻撃してくるし、登山中に気づかずに突然出会うとびっくりして襲ってくるし、熊のマーキングに気づかずに縄張りに入ると縄張りから排除するために襲ってくるし、好奇心でなんとなく襲ってくることもあるし、いったん人間を襲って食べられるとわかると足が遅くて弱くて狩りやすい餌として人間を認識して何度も人間を襲うようになるので、人を襲った熊は危険視されて駆除される。飢えた熊は危険で、1886年にはカナダのラブラドール地方で飢えたホッキョクグマの群れがイヌイットの集落を壊滅させたそうな(古い事件なので真相は不明で、フェイクニュースという情報もある)。熊は獲物に執着する性質もあって、1915年の三毛別羆事件では最初の犠牲者の遺体を見つけて村で葬儀をしたところをヒグマが襲撃しているし、1970年の福岡大学ワンダーフォーゲル部ヒグマ事件ではヒグマがあさった荷物を取り返したせいかヒグマが延々と追いかけて襲撃している。熊は背中を見せて逃げると追いかけてくる習性もあるので、熊と出くわしたら熊を刺激しないように静かに後ずさりして離れるのがよいと言われている。熊は前足が短くて上り坂を走るのは得意でも下り坂を走るのは苦手なので、熊から逃げるときは下り坂方面に逃げるのがよい。・熊の理想と現実熊はずんぐりしているのでかわいいキャラクターとして描かれがちで、くまのプーさんやテディベアやリラックマとかには爪も牙もついていない。ある程度の知能もあるので、サーカス団で飼われて芸をする熊もいるし、動物園で棒を振り回す熊の動画も話題になった。しかし現実の熊は簡単に人を殺せるほどの身体能力を持っている猛獣である。2022年には長野県で20年飼っていたツキノワグマに全身を噛まれて男性が死亡していて、熊は噛むことで親しみを示すそうだけれど、熊同士なら愛情を確かめ合うことができても人間の体は熊の愛に耐えられない。アメリカの熊愛好家のティモシー・トレッドウェルはアラスカで13年間夏にハイイログマと生活したものの、結局恋人とともに熊に食い殺されている。中国だとパンダが好きな人が動物園に乱入して爪でひっかかれて大けがをしている。熊はぬいぐるみのようなかわいいだけの動物ではないし、人を襲う害獣になりうる。・熊が山から出てくる原因熊が山を出て人家があるところに出没するのには複数の原因がある。基本的に山に餌がたくさんあればわざわざ山から出てこないので、餌が不足しているのが主な原因になる。自然の原因としては、天候不順などで果実の実りが悪かったりして餌が不足すると、強い熊が餌場を縄張りにして弱い熊は山のふもとまで追い出されてしまって、餌を探して人家まで来てゴミをあさったりする。熊が増えすぎる事でも相対的に餌が不足することになる。人間が原因の部分としては、過疎化で里山が維持できなくなって草刈りがされなくなって民家の近くまで藪が茂って熊が接近しやすくなったり、空き家の庭の柿や栗の木が放置されて熊が引き寄せられたり、猟師が高齢化して害獣駆除が追い付かなくなって鹿が増えてミズナラが食害で剥皮して枯れてドングリが不足するのも原因になる。あと体温が高くて冬眠し損ねた熊は穴持たずと呼ばれて、冬は山に食べ物がないので徘徊して山を出てくる。あとマナーが悪い登山者やキャンパーが山に食べ残しとかを捨てると、人間の食べ物の味を覚えた熊が人間を怖がらなくなって食べ物を奪おうとして人間を襲うようになってしまって、危険な個体として駆除対象になる。熊が多いアメリカやカナダのキャンプ場では熊が食料をあされないように金属製の頑丈な食料保管庫やゴミ箱があったり、食料の匂いが漏れないように密閉容器に入れて持ち運んだり、テント内に食料や匂いがする化粧品や洗面用具を持ち込まずにロープで木の上に食料が入ったリュックをつるしたり車の中に入れたりしていて熊対策が徹底しているけれど、日本だとキャンプブームに乗っかっただけのにわかキャンパーが多くてゴミを持ち帰る程度のことさえ徹底していない。知床でソロキャンパーが残飯を出したまま寝てカラスに荒らされて周りのキャンパーに罵詈雑言を浴びせられた話をXで見かけたけれど、そういう人は自分や周りの人が熊に襲われるかもしれないという危機感や想像力がないし、自然の生態系を乱しているという自覚もないのだろう。●熊の射殺の是非熊の射殺に対して抗議の電話をする人はたいてい熊が出た自治体に住んでいない人で、かわいそうだからというのが抗議する理由のようである。私は熊よりも地域住民の生命や財産の保護が最優先されるべきだと思うし、役所は地域住民でない人の意見に取り合う必要はないと思う。デヴィ夫人がアメリカでは熊を麻酔銃で捕獲して山に返していると言って批判されていたけれど、熊を殺すなという人は麻酔銃で簡単に安全に熊を生け捕りにできると誤解しているようである。環境省の「住居集合地域等における麻酔銃の取扱いについて」によると日本では猟として麻酔銃を使っていいのは原則ニホンザルだけが対象で、熊には効果が表れるまでに時間がかかるし、撃たれたことで熊が興奮して周囲に被害を出す恐れがあるので原則としては許可されていない。環境省の「クマ類の出没対応マニュアル」によると、屋内等の熊が逃走できない場所や、逃走する姿を継続して視認できる場合は麻酔銃による捕獲をするようで、例えば10月29日に岩手県奥州市の住宅の倉庫に入り込んで閉じ込めた熊に対しては麻酔銃を使って捕獲している。麻酔銃の理想と現実の違いを解説した漫画がSNSでバズっているけれど、もし熊相手に麻酔銃を使うとしても銃だからといってスナイパーみたいに遠くから安全に撃てるものでなくて10-15メートル程度しか射程がないので時速40-60キロで走る熊に対してかなり接近して襲われるリスクを負って撃たないといけないし、連射できないし、名探偵コナンみたいに麻酔針が刺さったらすぐに意識をなくすような即効性もないし、誰でも麻酔銃を撃てるわけではなくて麻薬の知識がある獣医師しか麻酔銃を撃てないけれど銃の扱いに長けた獣医師がいないという麻酔を扱う上での法的な問題がある。麻酔を打てば安全というものでもなくて、熊の大きさと麻酔の量が合わないと麻酔が効かない場合もあるし、捕獲した熊を放獣するときにも熊に襲われる危険が伴う。YouTubeの「マタギが山で体験した不思議な話」というマタギへのインタビューで熊が飛ぶように早く走って弾が当たらないという話をしているように、マタギでさえ動いている熊に当てるのが難しくて命がけで猟をしているのだから、普段銃を使っていない獣医師が連射出来ない単発の麻酔銃を使って動いている熊に接近して命中させて捕獲するのは捕獲する側のリスクが大きすぎて現実的でない。アメリカの熊の捕獲のやり方を調べてみたら、アラスカの「Wildlife Capture and Chemical Restraint Manual」によると、熊に対してドラム式箱罠を併用しつつ、ヘリからチレタミン・ゾラゼパム混合液の麻酔やケタミン・キシラジン混合液の麻酔を撃って捕獲しているようで、ケタミンの効き目が出るまで20分程度かかって2時間の鎮静作用があるようである。カナダではWildlife Care Committeeの「Capture, Handling and Release of Bears Standard Operating Procedure」によると、ドラム式箱罠とTelazol(チレタミン・ゾラゼパム混合液)やMZT(メデトミジン・チレタミン・ゾラゼパム混合液)の麻酔を使って捕獲して襟や耳にタグをつけていて、ヘリのパイロットは獲物を追跡するスキルがある熟練者でなければならないと定めていて、妊娠中の熊と子育て中の熊は捕獲してはだめで、麻酔で動けなくした状態での大口径の銃による安楽死や出血による安楽死や塩化カリウムの静脈注射による安楽死は人道的方法として認められているようである。日本でもヘリを使えるなら地上から麻酔銃を撃つよりも安全に麻酔銃を撃てるだろうけれど、ヘリから麻酔銃を撃つ訓練をしている獣医師はたぶん日本にはあまりいないだろうし、アメリカの山よりも日本の山のほうが地形が複雑で風が強いので山岳ヘリの操縦が難しくてヘリの墜落のリスクを冒してまでヘリで熊を追跡して麻酔銃を撃つ必要があるのか疑問である。経験豊富な猟友会の猟師に頼んで熊を射殺してもらうのが予算的には安上がりで、熊の被害の予防という点では確実な手段である。そもそもアメリカは熊にやさしい国ではない。カリフォルニアハイイログマは家畜を襲うので害獣として駆除されて1920年代に絶滅させているし、メキシコハイイログマも同様に害獣として駆除されて1960年代に絶滅したようである。アメリカクロクマやアメリカヒグマは何十万頭も生息しているけれど、かつて北アメリカに広範囲に生息していたのを駆除してきたので現在の生息域はほとんどカナダ側である。広大な国土にいたクマのうちの2種を絶滅させるほど数を減らしたから熊と共存できているという歴史を無視して、アメリカには広大な土地があって熊の餌が十分にあることも無視して、アメリカよりも国土が狭くて平野が少なくて山と人家の距離が近い日本の地形も無視して、アメリカで熊を殺さずに捕獲しているのだから日本でも同じようにやれというのは都合のいい部分しか見ていなくて現実的でない。熊を殺すなという批判も、環境保護のための科学的な理由での批判と不殺のイデオロギーが理由での批判を分けて考える必要がある。熊が絶滅しないように生息数の維持のためになるべく殺さないようにするほうがよいという環境保護団体の主張ならわかるし一時的な凶作の時に保護するのはよいけれど、熊が増えすぎた分を駆除するのは問題ないだろう。ヴィーガン系の動物を殺すのがかわいそうというナイーブな人の意見を聞いたところで熊だけでなくて狩猟自体に反対なのだろうし、「かわいそうだから」という個人的な主観的な理由で抗議する人は無視してよいと思う。熊を保護したい人は自分で金を出して麻酔銃を撃てる獣医を訓練してヘリをチャーターして保護活動をやればいいし、金も労働力も出さずに役所への苦情の電話だけで自分の理想の世界の実現を要求するのは横着である。電話で脅迫したりして役所や猟友会の業務を妨害するやり方も主張を発信する方法として間違っているし、市民の支持を得られないだろう。猟師は命がけで熊を駆除しても6千円から1万円程度しかもらえないのに熊用ライフル弾は20発で1万円以上するそうでリスクが大きいのに儲けがなくて割に合わない仕事だし、環境保護団体が代わりに命がけで麻酔銃で熊を捕獲してくれるならそのほうがよいだろう。それに飢えて市街地に出没する熊を殺さずに生け捕りにして山に返しても結局飢えて死ぬし、人間が自然のすべてをコントロールすることはできないのだから、人間が殺しても殺さなくても餌場の縄張り争いに負けた熊はある程度死ぬものだと受け入れるべきで、絶滅の恐れがないのであれば個体数を把握しながらある程度の頭数を狩猟の対象にするのも問題ないだろう。すべての生き物はいずれ死ぬかわいそうな存在である。熊を射殺せずに保護する具体的な対策としては、戦後に植林された杉を伐採してブナやミズナラを植樹するなり凶作を予測して熊に餌を与えるなりして熊が飢えないようにすればいいけれど、ミズナラを食べて枯死させる鹿の駆除もしないとドングリは増えないので猟師が鹿を駆除する必要がある。しかし鹿を駆除しても死体をちゃんと処分しないと、熊が鹿の肉を食べて体温が高くなって冬眠しなくなったり、肉の味を覚えて人を襲うようになってしまうそうで、人間の都合で野生動物の行動をコントロールをするのは難しい。人を害する可能性がある熊が射殺されるのは仕方がないにしても、山奥のソーラーパネル建設とかの動物の生息域や行動パターンを変えるような大規模な開発はむやみにやらないように改善するべきである。あと射殺よりもドラム式箱罠で無傷で捕獲するのを優先するように駆除の手順を決めるとか、比較的危険性が低い子熊は山に返すとか狩猟の対象にするのも禁止するとかの対応でよいのじゃなかろうか。