中国語の敬語
敬語という文化。例えば、手紙の書き方も、今ではほとんど使われなくなりました。「かしこ」懐かしい響き。中国に来たばかりの頃は、メールがない時代なので、主に手紙でやり取りをしていました。「あなかしこ」は恐れ多い、もったいないほど有難い。恐縮。感謝。なども意味を持つことから、大切に、心を込めて、言葉を渡すという意味があったのではないでしょうか。先日、法事の際に住職からも「あなかしこ」の説明があったのも、記憶に新しいです。「いただきます」「ごちそうさま」「ありがたい」「もったいない」などの何気ない言葉も、元をたどれば、敬意という心に行きつきます。言葉は使われなくなっても、その背景にある心は受け継がれていかなければ、日本と言う国が育んできた人の心はすさんでいくように思います。ところで、日本語は敬語や謙譲語があるから、難しいと言われます。中国語には敬語がないから、慣れれば簡単だという方もいます。漢字圏を甘く見てはいけません。私は中国の敬語文化は日本よりも複雑で、難しいと感じます。昨年から日本に戻っているため、僭越ながら中国語を教える機会を頂きました。入門、初級ですら、言葉の使い方を説明するにはかなり文化背景を知っていないと難しいと感じます。一応言語を教える講師として5年間教壇に立っていましたが、今考えると言葉への理解が深まった今の方が教えるのが楽しいと感じます。例えば、中国語の入門で出てくる敬語といえば、まず習うのが「您貴姓?」ですよね。「そなたは何と呼ぶ?」という古風な訳は必要ありません。普通に初対面の方に「お名前は?」という聞き方です。正式には、相手の姓氏を聞いています。聞かれたほうは「我姓王」と気軽に返します。フルネームを伝える必要はありませんので、相手は、「王先生」、「王女士」と呼んできます。堅苦しい感じがあるため、恐らく若者の間であまり使いたくはないかもしれません。きっと、「你叫什么名字?」(君の名は?)が敬語を含まないので、対等な感じで好まれるかもしれません。例:「你叫什么名字? 」「我叫媛媛。王媛媛。」名前を伝えると、距離感が一気に近くなるので、相手は、「小王」とか「媛媛」と呼んできます。なんとなく、親しみを感じます。私がよく使うのは、「您怎么称呼?」(あなたをどうお呼びしたらよいですか?)※ニュアンスです。です。相手は、自分が呼ばれたいように答えればよいので、失礼にもならないし、年下にも使えて便利です。場合によっては、失礼のないように「您貴姓?」も知っておく必要がありますが。ここで、素養が問われるやり取りをご紹介します。いわゆる敬語です。① 姓を尋ねる。→「貴姓 ?」→回答「 免貴姓王。」② 目上の齢を尋ねる。→「貴庚?」→直接年齢を答えても良い。または、「不惑之年」(満40歳)、「花甲之年」(満60歳)、「古稀之年」(満70歳)、「耄耋maodie之年」(80、90歳以上)など。③ 初対面。→「久仰」④ 久しぶりに会う。→「久違」(久违)⑤ 技能を披露。→「献丑」⑥ 途中で立ち去る。→「失陪」などなど。他にもたくさんありますが、これらは敬語の一種です。いまどき、誰がそんな言葉使うの?と思っている若者たち。「你好」「再见」なんて使わないと言っている若者たち。それは、例えば学校の教室と寮の中で生活している学生たちなら、そうかもしれません。しかし、一歩外の世界に出れば、「你好」「再见」を聞かない日はありません。そして、敬語は学識の高さを計るためのものではなく、ビジネスにおいても大変重要なコミュニケーションツールとなることをお忘れなく。たかが挨拶、されど挨拶。中国人の人間観察はしたたかです。自分が使えなくても、聞き取れるようにしておくと、必ず役に立つときが来るはずです。漢字文化は奥深いのです。