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カテゴリ:Book Review
「眠れる美女たち」(スティーヴン・キング&オーウェン・キング、文藝春秋)を読む。 ウイルス・パンデミックものとしては「ザ・スタンド」を彷彿とさせ、「女性」がテーマの作品としては「ローズ・マダー」を彷彿とさせ、他にもいろんなキング作品を彷彿とさせる、スティーヴン&オーウェンの親子合作ホラー。かつてジョー・ヒルと合作した短編は正直「全く面白くなかった」が、本作は「スティーヴンの単著の作品」かと思えるほどの面白さだった。 舞台はアメリカの山間の街・ドゥーリングにある女子刑務所。世界のどこかで発生した「女性だけが感染する謎のウイルス禍」にこの街も襲われる。感染した女性は深い眠りに落ちて目覚めず、体から蜘蛛の糸状の物質が出てきて全身が繭のように覆われてしまう。そしてその繭を無理やり破ろうとするとその女性は突如発狂して周りの者に襲い掛かる。そんなウイルス禍の中、ドゥーリングの女子刑務所に収監された女性はただひとりウイルス禍(通称、オーロラ病)を免れており、普通に眠り普通に目覚めることが出来る。この女性がウイルス禍の謎を握っていると思われ、その身柄を巡って街を二分する抗争に発展してしまう。 「女性を失った(男性だけの)世界」と、眠ってしまった女性たちが辿り着く「もうひとつの(女性だけの)世界」を通じて描かれるのは勿論「男と女」という古典的かつ現代的なテーマ。いつだって争いを起こすのは男だし、その男の下着を洗い続けてきたのは女だし、核戦争を起こすとしたらおそらく男だし、かといって女性が絶対に犯罪を犯さないわけではないし…。女は男が争いを起こさないための緩衝材に過ぎないのか、女だけで世界を作ればそれは今よりいい世界なのか、そもそもそんなことができるのか…キング親子が描く「社会派」かつ「哲学的」なホラー。質・量ともにかなり重量感と密度に富む作品だった。 以下、印象的だった台詞の引用。 「踏んばるんだ。道の先の曲がり角を曲がったら、それこそ奇跡が待っているかもしれない。奇跡が起こるかどうかは、そこまで行ってみないとわからないし」
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Last updated
2021.11.22 16:20:17
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