(令和5年10月18日)中日春秋丸写し 黄泉の国輝く昴秋高し♪
中日春秋 (書写) 黄泉の国輝く昴秋高し 谷村新司さんが音楽のプロになる決意をしたのは22歳になる年の 旅が契機という▼アリス結成前、アマチュアバンドの一員として誘 われるまま参加した北中米演奏旅行。バンド数組が無計画で海を渡 る無謀な試みで、安いモーテルや日系人の家に泊まり各地の大学な どで歌った▼メキシコでできた友は、1日1㌦相当しか使えぬ貧乏 旅行に同情してかパーティーに招いてくれ、歌うと参加者を回り帽 子にお金を集めてくれた。友情のために歌ったのだと受け取りを辞 退しようとしたが「歌への感謝」と先方は言い張る。言葉は違えど 歌は伝わる―。帰国し「助けてくれた人たちに応えられるような歌 を歌いたい」と思ったという▼訃報に接した。代表作『昴』などは 中国などアジア各国で愛された。若き日の旅で受けた恩は返したと 言うべきだろう▼ 1981年のアリスの北京公演では客は人民服姿。 後に上海音楽学院で教え、2010 年の上海万博の開会式で『昴』を 熱唱した。逝去の報に中国の交流サイト(SNS)に追悼の書き込 みがあふれた。長きにわたって国境を越える旅を重ね、歌い続けた 尊さを思う▼訃報には国内の音楽仲間もコメントを発表した。さだ まさしさんのそれが心にしみた。「いやいや、俺は信じない。何度 か電話しても出ないから、どっか旅にでも出たに決まってる」。あ るいは、そうなのかもしれない。