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ポンコツ山のタヌキの便り

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2013年08月20日
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カテゴリ:クレパス画
 今日 (8月20日)、みんカルの「初めてのクレパス講座」夏期講座の第4回目が開かれました。

 受講生のクレパス画

 私は、私自身の幼い頃の思い出を書いた「母の靴音」というエッセイを絵画化したクレパス画を描きました。なお、クレパスに描いた木の格子窓のある家は、私が幼い頃に育った奈良市のM町の祖父母の家で、インターネットのgoogle esrthからその家の番地を検索して表示された写真を参考にしたものです。

母の靴音


母の靴音

 私がまだ幼かった頃に母がどんな靴を履いていたのか全く記憶がない。しかし、母の靴音は鮮明に憶えている。それは、靴の踵の部分に力を入れながらアスファルトの道をカッカッカッカッと速い足取りで歩む靴音であった。

 いま考えると、靴の踵に力が入っていたのは、彼女が教師としての矜持を持っていたからであろう。彼女が近所のおばさんたちと笑い興じている姿をかつて見たことがない。彼女は外ではいつも教師として振舞っていた。私が高校3年生のとき、クラス担任が私の内申書の所見に「言葉遣いが丁寧で温厚な性格」と記入してくれたが、その「言葉遣いの丁寧」さは間違いなく母親譲りのものであった。

 しかし、彼女の足取りが速かったのは、教師としての職業意識からだけではなかっただろう。彼女の幼い子どもが、いつも家の薄暗い玄関でじっと彼女の帰宅を待っているからである。おそらく、家で彼女を待ちわびているわが子を少しでも早くその胸にしっかりと抱きしめたいという母親としての思いが、彼女の足取りを自然と速くしたのであろう。幼い私は、晩になるといつも家の玄関の木造りの格子窓から薄暗い外を眺めながら母の帰りをじっと待っていた。

 母が職場から帰宅するまでの間、私の面倒は祖母が見ていた。私は、小学校に就学するまでは祖父母の家で暮らしていたのである。両親が日本の旧植民地からの引揚者で、着の身着のままで祖父母の家に身を寄せていたからである。

 幼い私には、近所の子どもたちがとても羨ましかった。彼らには、白い割烹着を着て家の中で忙しそうに立ち働いているお母さんがいたからである。夕方近くになると、白い割烹着のお母さんたちが外で遊んでいる子どもたちに「もうごはんですよー」とほかほかのご飯のような声をかける。すると子どもたちは潮が引くように家の中に姿を消していった。そして、私だけが独り夕陽の中にぽつんと取り残された。夕食は、薄暗い電球の下で祖父母の皺だらけの顎や喉が上下に動くのを見ながら黙々と食べていた。側に父がいた記憶もない。

 私は、いつも家の薄暗い玄関の木造りの格子窓から外を眺めながら母の靴音をじっと待っていた。カランコロンと下駄の音が家の前を通り過ぎていく。男の人の靴音がゆっくりと家の前をコッコッコッコッと通り過ぎていく。いろんな人の様々な履き物の音が家の前を通り過ぎていく。外はもう真っ暗なのに母の靴音はまだ聞こえてこない。あっ、カッカッカッカッと速い足取りで歩む靴音が遠くから聞こえてきた。胸は期待で高鳴る。しかし、その靴音は家の前をそのまま通り過ぎて遠くに消えていった。幼い私は外の真っ暗な夜道に耳をそばだて、ただひたすら母の靴音を待ち続ける。
                          
                                   1997/10/08 記
           





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最終更新日  2013年08月21日 15時01分03秒
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