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カテゴリ:小説・日本
高校二年生のみのりと、同級生の木島の恋愛小説・・・って言うと趣きが違っちゃうなぁ。
お互いが先ず「こう言う人がいる」と存在を意識して、それが特別な感情に変わっていく様子を丁寧に、瑞々しく描いてます。 作者が大学二年の時に書き、それを十年後に書き直して世に出した短編『黄色い目の魚』を元に、更に十年後に短編連作にしたものです。(あとがきより) 最初の短編は『りんごの顔』、木島は小学校五年生。 七年以上前に両親は離婚していて、それ以来会っていなかった父・テッセイと会うことになる。 私はこの短編が好きなんですが、現代っ子だから「別に良いけど」と思いつつ、でも別れがたい気持ちが細やかに描かれている。 テッセイは絵を描く人、古いアパートは彼の絵で埋まっている。 でもコンクールに出したりせず、ただただ描くんです。 木島とテッセイはりんごの絵を描くことにする。 木島は上手く描けない、テッセイがそれに手を入れる。 その後、木島はテッセイに会わないまま、テッセイは死んでしまうんですが、木島に形見として絵を描く道具を遺す、絵は一枚も遺さない。 テッセイは木島に、自分の過去ではなく、木島の未来を遺したんですね。 これがみのりと木島の物語の始まり。 次の短編は『黄色い目の魚』、みのりは中学生。 思春期の反抗期って個人差が大きいらしいんですが、みのりはそれが激しくでちゃったのね、って感じ。 友人いわく、「何の理由もないのに、何でいつもイライライライラ出来るんだろう。」って位らしいんです。 だから人との関係が上手く行かない。 みのりは“避難所”のようにマンガ家でイラストレターの叔父の家に入り浸る。 ある日、みのりは同級生を心無い言葉で傷つける、同級生は不登校になる。 みのりは迷って、考えて、同級生に手紙を書く。 そして始めてとも言える、自分の事を好きな友達を得る。 そして『からっぽのバスタブ』からみのりと木島の人生が交差します。 みのりは大分角が取れてきましたが、相変わらず。 木島は人の顔のイタズラ描きをしてるものの、自分が絵を好きだという意識もない。 美術の授業でお互いの顔を描くことになって、互いの存在が気になる関係が始まる。 みのり自身は絵を描かない、けれど叔父のお陰で、絵には思い入れがある。 木島の絵を素晴らしいと思い、木島に描いて欲しいと願う。 そんなみのりの絵を木島は描きたいと思う。 最初はただちょっと特別な関係だった二人が、絵を描くことを通して、やがて惹かれている気持ちに気付く。 お互いの気持ちを確かめ合った後に、嫉妬する気持ちも知る。 この辺りの描写が本当に良いのです。 みのりの叔父の通が良い。 飄々としてながら、姪・みのりへの暖かい視線を感じます。 二十年前に描いた少女への、作者の思い入れが強すぎちゃったかな、と思う場面もところどころありますが、読んでて幸せな気持ちになれる小説でした。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2007年09月04日 13時23分11秒
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