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テーマ:ミステリはお好き?(1430)
カテゴリ:小説・海外
『ロスト・ファミリー』 ローラ・リップマン著 吉澤康子訳。
私立探偵テスのシリーズの第八作。 アメリカ探偵作家クラプ賞最優秀長編賞ノミネート作です。 ネタバレはしていませんが、内容に触れてます。 未読の方は、ご注意下さい。 テスの元に、裕福な毛皮商ルービンが妻と子供を捜して欲しいと依頼に来る。 ルービンに言わせれば、妻のナタリーは何不自由ない暮らしをし、結婚生活に不満を見せていたこともないと言う。 しかしテスが調べて行くうちに、ナタリーの隠された秘密が明らかに。 最初に描かれるのはナタリーの子供のアイザックの話。 なのでナタリーは子供三人を連れて、ズィークと言う男と共に車であちこち移動していると言うのが分かっている上で、話が進む。 このナタリー達のサイドと、テスのサイドが交互に描かれてます。 冒頭のシーンなんですが、アイザックが車のトランクに入れられてしまうのですね。 家を出て二週間、アイザックはパパっ子だし、今の旅が何となく変だと気付いている。 家に帰りたいので、銀行の警備員に話しかけているところを見つかり、それでズィークにトランクに入れられてしまう。 母親のナタリーは止めない。 そして本気で思っている、愛するズィークは子供達を好きになり、“親子”五人で幸せな家族になると。 自分の子供を車のトランクに入れちゃう男ですよ。 どれだけバカな女なの?、と思いましたよ。 ナンシーは非常に美しい女で、その顔と身体で、男は思い通りになってきた。 だからズィークも自分の希望通りに動いてくれると信じきっているんですね。 ナタリーは夢見る夢子さん、恋する男と幸せになりたいと家を出た。 ルービンはテスに「ナタリーに何の不満もなかったという。」 しかしそれなら妻が家を出るわけがない。 案の定、ユダヤ教正統派のしきたりに厳格なルービンは、ナタリーに対してもそうであった。 ナタリーも改宗してたとはいえ、信者でないテスは家出も無理はないと思う。 しかし子供を連れているとあっては、放っておくわけにもいかない。 ルービンの前で、ナタリーはユダヤ教の教えに忠実な良い妻だった。 しかしテスが調べて行くうちに、ナタリーの別の面が見えてくる。 そしてルービンとの結婚自体も仕組まれたものだった。 それを企てたのはズィーク。 彼は更にナタリーにも内緒で企てている事があった。 で、このズィーク。 とてもカッコ良い男、自分を聡明だと思っている。 確かに人を見る目はあるようで、それを上手く使って操れると思っている。 ナタリーの事も自分の魅力で支配下においていると。 でも自分が思っているほど、他人は上手く動かせない。 それが分かってないって時点で底が浅い男ですよ。 その男と夢子さんの恋の物語。 読んでて、イヤになっちゃったわ。 ↑面白くないと言う意味ではありません。 アイザックが良いです。 影の主役はこの子じゃないのかと思うくらい。 頑固で諦めず、そして小さいながらも聡明。 テスは事実を突き止めていきますが、結局のところ、この子がいなかったら解決出来ない話になっている。 ナタリーが最後にとった行動は、“母”を感じさせますが、これ位やってもらわなくっちゃ困っちゃうわと思っちゃいました。 アイザックの性質は父から受け継がれて、父が育んだもの。 最初の頃は、ルービンはイヤな男に感じられたのが、ラストではなかなか魅力ある男に変わっている。 少なくとも彼の厳格さを理解する同じコミュニティーの中では、良いと夫になり得るだろう、と。 テスはユダヤ人だけど信者ではない。 ユダヤ教のガチガチのしきたりには否定的、なのにユダヤ人でない者からその辺りを言われると、つい反発してかばってしまう。 そう言うテスが面白いです。 同じ事柄に対してでも、人によって解釈は全然違う、人は結局自分の信じたいことを信じる。 あるいはそう脚本して信じ込むって言うのが良く出てる話でした。 第八作ですが、シリーズを私は未読でして、これで暫く読みたい本は確保出来たと、嬉しい。 シリーズの何作かは、ミステリー賞を受賞しているようです。 安定して面白いシリーズなんでしょうね。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2007年09月25日 22時04分22秒
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