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カテゴリ:小説・日本
『風が強く吹いている』三浦しをん著 感想
『やきまん十の生焼け日記』さんが記事で紹介していた本です。 箱根駅伝を扱ったフィクションです。 走と言う高校時代に監督と問題起こして陸上界から遠ざかっているランナーが竹青荘と言う古ーいアパートの住人と一緒に、ギリギリの人数・十人で箱根駅伝に挑戦すると言う話です。 で、最初に書いちゃいますが、とんでもない夢物語です。 走は天才的なランナーでずが、箱根駅伝挑戦を言い出す灰二は足に故障を抱えてる。 メンバーの一人は陸上経験者ですが、今はヘビースモーカー。 他のメンバーは陸上はずぶの素人です。 これで箱根駅伝の予選通過して、ラストの結果はとんでもないですよ。 関東以外にお住まいの方には馴染みが薄いかもですが、箱根駅伝と言うのは関東ではお正月に行われる陸上の大イベントでして、東京⇔芦ノ湖を2日間、10名で襷を繋いで駆け抜けるんですね。 一人の走行距離は20Km以上、ハーフマラソンのリレーみたいなものです。 で、長距離選手には、この箱根駅伝に出るのが夢と言う人までいる大変な大会なのですよ。 それを素人がこれでは、目標を持って日々努力を重ね、それを続けている人たちは何なんだと私は思ってしまう。 でも、これを“夢物語”として納得して読むと、この『風が強く吹いている』は魅力的な小説なんですね。 先ず、私が一番好きなのは、作者が陸上、特に箱根駅伝が好きなのだろうなと感じさせてくれる点。 細かい描写に、駅伝と言う物に対する“尊敬”を感じることもあります。 次に登場人物たちがとても魅力的に描かれていること。 多少、マンガ的な感じが否めませんが、どこか懐かしい昔ながらの貧乏学生を思わせて、面白いです。 圧巻は、1/3を使って描かれた箱根駅伝です。 東京のビル街を出て、川を渡り神奈川へ、そして海岸を左に見ながら進み、五区は箱根を登ります。 復路はこれを逆に進みます。 各区の様子、それを走る登場人物たちをきちんと描いて、読み応えがあります。 十人をここまでにきちんと性格描写してきたので、本番の箱根のシーンで書かれている内容に無理がないです。 ちなみに私が好きなシーンは五区。 熱がある走者が、メンバーは十人ギリギリ、自分が棄権すればそれでお終いと分かっているので必死になって箱根の山を登るシーンには涙が出そうになりました。 決して不満がない小説というわけではないです。 第一に、先にも書いたとおり“夢物語”に過ぎる事。 私はラストをこれにしなくても良かったんじゃないかと思ってます。 第二に、敵キャラをあえて作り、徹底的に悪者にしていること。 話としては悪者がいた方が単純で面白いかも知れませんが、私は余り好きではないです。 第三に、主人公の走に魅力を感じなかった点。 先ず、良い年して万引きが良い事か悪いことか分からないって言うのがどうもダメ。 次に、敵キャラが走を憎み、竹青荘のメンバーにイジワルするのは、走が高校時代に起こした事件に起因してるんですね。 その事件のお陰で、陸上部は大会に出られなくなってしまった。 これを監督を殴ったことは手段として悪かったが、監督に対して思っている事を出したのは悪くなかったと走は思っている。 これはまだ良いです、本人がそう納得としてると言うのなら。 けれど浅はかな手段で、他のメンバーに迷惑をかけたことは謝罪すべきだと思います。 走は謝罪していないし、する気もない。 それを言っても分かってもらえないだろうし・・・とも思っている。 走は確かに自分の思いを上手く相手に伝えられない性格としていますが、それでも拙くても言葉を紡いで何とか相手に分かってもらおうと言う努力をすることなしに、分かってもらえないと思うは甘えだと思うし、言い訳に過ぎないと思います。 人は他人のことは分からないものなのですよ。 だからこそ、人間には言葉というものがあると、私は思ってますので。 諦めるのはその後です、だめだった時はしょうがないですから。 作者が意図的に相手を悪者にしているだけに、とても気になりました。 けれど上記に書いたことがあっても、この小説は魅力的でした。 読んでて楽しかったし、一気に読み、涙したシーンもありました。 それはやっぱり一つの目標を掲げて頑張る登場人物たちの話と言うのはそれだけで胸を熱くしますし、彼らが選んだ箱根駅伝に対する作者の思いが感じられるからだと思います。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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